9/23 シュツットガルト・バレエ「椿姫」Die Kameliendame (Lady of the Camelias) Stuttgarter Ballett
Ballet in Drei Akten von John Neumeier
nach dem Roman von Alexandre Dumas d. J
Operunhaus Freitag, 23. September 2011
Armand Duval: Marijn Rademaker
Monsieur Duval : Nikolay Godunov
Nanina :Anjelika Bulfinsky
Herzog : Dimitri Magitov
Prudence Duvernoy: Oihane Herrero
Olympia : Anna Osadcenko
Graf N : Arman Zazyan
Marguerite Gautier : Sue Jin Kang
Manon Lescaut : Katja Wunsche
Des Grieux : Evan McKie
Gaston Rieux : Jason Reilly
シュツットガルト・バレエのシーズンオープニング作品は「椿姫」。もちろん、キャストは現在のシュツットガルトの「椿姫」のファーストキャストであるスージン・カンとマライン・ラドマーカー。実はスージンとマラインで全幕観るのは四回目で、もう十分観たでしょと言われながらも、実際観ると毎回違うのでやめられない。しかし困ったコトにこのペアがデフォルトになってしまうと他の人で観られなくなっちゃう。
今、シュツットガルト・バレエのサイトがまだリニューアル中でキャストが全然見られない不便な状態になっているのだが、今後はウィリアム・ムーアやアレクサンダー・ジョーンズなど若手(&見目麗しい)プリンシパルに主役を演じさせる予定のようだ。果たして彼らがどう演じるかは興味があるものの、さすがにそこまではるばるシュツットガルトまで飛んでいけない。
原作のアルマンがそのまま舞台に現れたような、若く純粋で情熱が迸り駆け抜けていくようなひたむきなマラインももちろん素晴らしいんだけ、スージンが凄すぎるんだと思う。身体を楽器のように使い、弦を奏でるように細やかに心情を紡いでいく。時には激しく、時には繊細に。(ハンブルク・バレエの)ジョエル・ブーローニュが引退した今、世界最高のマルグリットは彼女であることは間違いない。裏社交界の名花であることについて誇り高く矜持を持って生きているけれども、一方でマルグリットはそんな自分を後ろめたく思っているところがあって、それを容赦なくマノンに暴かれて心が引き裂かれる。そんな苦しみと病み衰えていく中でもひたむきに世界と立ち向かって散っていったマルグリットの姿には、思わず抱きしめてあげたくなるような愛おしさを感じる。
今回一番泣けたのは白のパドドゥで、この愛が近い未来に終わりを迎えることを解りながらこの儚い一瞬を慈しむ様に噛みしめるマルグリットが切なくて。そんな日が来るとは思っていないけど、未来のことを考えず今のかけがえのない甘美な瞬間を夢見るように生きているアルマン、同じ瞬間を生きる二人の違いがまた悲しい。なんという美しさ、終わりが来ることがわかっているからこその、ガラス細工のようなこわれやすい幸福。
マラインは観る度にどんどん演技が激情的になっている。明日という日は来ないのではないかという位情熱をたぎらせているけど、直情的ですごく怒りん坊で時には冷酷に、だけどナイーブでほの暗さを湛えていて。まぶしいほどに光輝く時があるだけに陰影もまた濃く、ラストに向かってマルグリットの遺した日記のページを手繰り寄せる様子にも、どんどん翳りが現れて行って、日記を開いて俯き立っているだけなのにアルマンの心情の変化が自然と浮かび上がってくる。マルグリットの別れの手紙に対して怒りを炸裂させ、激しい愛憎を炸裂させながら身体を捻じ曲げるような強引な超絶技巧を挟み込んで駆け抜けるソロは圧巻だ。真っ白い炎のようなアルマン役は彼の真骨頂である。アルマンって舞台の上で何回もぶっ倒れる役柄なのだけど、この倒れ方がすごく上手くてさぞかし痛いだろうな、と余計な心配もしてしまうくらいである。3幕でマルグリットを侮辱してしまうところの、アルマンの冷酷な表情の下に隠した傷ついた心、押し殺した感情からにじみ出る後悔と悔恨・・・。
デ・グリュー役がエヴァンで、この演目でのエヴァンとマラインの共演は初めてとのこと。実はアルマンとデ・グリューが一緒に踊る場面は一つしかなく視線を交わすのは一度だけなのだけどその一瞬に電流が走ったみたいで。ユニゾンで踊るところで踊りのタイプが全然違っていて面白かった。エヴァンはこの世のものではないくらい、怖い位に美しい、耽美的なほど。エヴァンは何が美しいって脚ももちろん美しいんだけど、手が大きくて手先の動きが優雅でものすごくきれい。故ペストフ先生の弟子だけあってすごくしなやかでロシアンな踊り。マラインは身体能力の高さとアクセントのきかせ方が独特で、もっと直線的というか踊りにシャープさがある。
マノンのカーチャはほとんど初役だったとのことだけどハマり役。彼女の持つ強さ、特に大きな瞳の力には吸い寄せられそうになるし、最後の弱った姿の中にも輝く生命力が感じられていて良かった。マノン役を演じるのはこのシーズンではこれっきりだそうでちょっともったいないけれども、したたかなプリュデンス役もとても似合う彼女なので、残りの公演はプリュデンス役で活躍するのだろうか。
ジェイソン・レイリーのガストンは相変わらずセクシーな中に茶目っ気があり、頼りがいがあってかっこいい。こんな彼がアルマン役もこなせるというのだから、驚くべき芸達者さだ。おそらく「椿姫」全公演でN伯爵を演じているアルマン・ザジャンもNの持つ哀しさと優しさが感じられて、なんともいえないペーソスを作品の中に加えている。オランピアのアンナ・オサチェンコの軽薄さもすごく合っている。彼女の素晴らしいカーヴを描く美しい足の甲と膝下のラインは、どんな男でも夢中になってしまうことだろうし、自分の魅力を十分知り尽くした小悪魔加減がこの役にぴったりだ。
6人ものプリンシパルを投入し、今のシュツットガルト・バレエの最強メンバーをそろえたこの舞台、本当に多くの人に見てもらいたい。できればDVDなどの発売を望みたいところではあるのだが。。。
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