8/15 オールニッポンバレエガラコンサート 2011 All Nippon Ballet Gala Concert/追記あり
所属を超えた日本のダンサーたちが、東北地方を中心とした被災地域のバレエ界に直接役立つ寄付を目指して開催されたのがこのガラ公演。バレエダンサーで構成される実行委員が主催者となり、その他、出演ダンサーと事務局で構成されるダンサーが主役のボランティア団体で運営されたとのこと。
運営にプロフェッショナルがいないために、スムーズではないところもあったけれども、出演者、関係者の熱い想いが伝わってくる良い公演だった。休憩時間には、吉田都さんのほか、東京バレエ団の高岸直樹さんも募金箱を持って募金を呼びかけていた。また終演後には、衣装のままのダンサーたちも募金箱を持っていた。オフィシャルサイトに、集まった募金は479,768円だったとの報告があった。
1部
くるみ割り人形
音楽:チャイコフスキー 振付:石井清子
志賀育恵&春野雅彦(東京シティ・バレエ団)
開演時間が6時と早く、交通の便の悪いメルパルクが会場だったので残念ながら間に合わず・・・。開幕前には吉田都さんの挨拶もあったらしいのに見られなくて残念。お盆期間とはいえ、せめて6時半開演だったらなあ。
Spiel
音楽:frifot 振付:樋口晋策
白椛祐子&吉瀬智弘(スターダンサーズ・バレエ団)
明るい光の中で戯れるような、軽やかで可愛らしい小品。
ディアナとアクティオン
音楽:プーニ 振付:アグリッピナ・ワガノワ
河野舞衣(ミュンヘン・バレエ)&荒井英之
4月末にミュンヘン・バレエの「幻想 白鳥の湖のように」では4羽の白鳥の一人を踊っていた河野さん。アンドゥオールがきれいでしっかりとしたテクニックの持ち主。荒井さんは元K-Balletでアメリカン・エクスプレスのCMでおなじみ。すごい超絶技巧の持ち主ではないけれども、クラシックの技術がきれいでダイナミックな跳躍で場内を盛り上げていた。
Vertigo Maze
音楽:Johann Sebastian Bach 振付:Stijn Celis
浅見紘子(キール州立劇場)
長身の浅見さんは、キリアン作品を思わせるベージュ色のビスチェを着用していて、長い手脚を生かしてのびのびと、空間を切り裂くように力強くしなやかに踊っていた。
Little happiness
音楽:ドビュッシー 振付:キミホ・ハルバート
キミホ・ハルバート&上野天志
音楽は「牧神の午後への前奏曲」。この音楽でこんな振り付けを考えることができるんだ~と驚かされた。キミホさんの振付作品は今までもいくつか観てきたけれども、女性らしい優しく穏やかな感情が流れている。背面から跳んだキミホさんを上野さんが背後から受け止めてリフトするという難しいパートナーリングもなめらかだった。
Song of Innocence and of ExperienceよりO Solitude
音楽:ヘンリー・パーセル 振付:中村恩恵
大嶋正樹
中村恩恵さんが踊る予定の演目で、しかも2部に予定されていており、照明も暗かったので最初誰が踊っているのかわからなかった。踊り終えた後で、今の作品は中村さんに代わって大嶋さんが踊りました、とアナウンスがあったのだけど、アナウンスをするんだったら上演前に行ってほしかった・・。「Song of Innocence and of Experience」は、先月アーキタンツで行われたプレ・ビューイングを観ていて、このときも大嶋さんが参加していたのだ。大嶋さんのしなやかで力強い動きを、中村さんが踊っていたらまた違ったものになっていただろう。バーゼルの神秘的な音楽に乗せた美しい作品だったけれども、コンテンポラリー作品が連続しているところに敢えて(当初の順番と替えて)踊られてしまったのは残念。
Bitterroot
音楽:M.Feldman H.Gorecki 振付:松崎えり 増田真也
松崎えり&増田真也
というわけで、この作品もコンテンポラリー。もう少し上演順を考えたほうが良かったのではないか。松崎えりさんの作品もけっこう観る機会が多いのだけど、彼女はもっと良い作品を創ることができる人だと思う。この並び順では埋もれてしまって残念。
ジゼル
音楽:アドルフ・アダン 振付:谷桃子
永橋あゆみ&三木雄馬(谷桃子バレエ団)
というわけで、古典が入ると思わずほっとしてしまうのであった。永橋さんのジゼルは、人間の少女であった頃の温かみも残しながら、浮遊感があってとても軽やかできれいだった。三木雄馬さんは、3月に観た佐多達枝さん振付の「カルミナ・ブラーナ」でとてもよかったのだけど、このアルブレヒトは力が入りすぎで、ピルエットを回るときに無理やり回転数を増やそうとしていてちょっとあかんかった。
Lillyより抜粋
音楽:Pink Martini 振付:+81
青木尚哉&柳本雅寛
これは面白かった!こんな作品を観る機会は滅多にないのではないだろうか。スーツ姿の二人。一人がだらりと横たわり、もう一人がその彼の腕や脚を持ち上げると、死体のように落ちてそのときにボコって音がする。やがて二人とも立ち上がり、お互いのロンドゥジャンブの振りの真似をしあっては「ちっち、違う、こうやるの」って言ったり、片方が「熊川哲也~」「三木雄馬は2回!」と叫びながらバットゥリーを見せたり、バレエによるコントというか掛け合い漫才のようなものだった。会場でも盛大にうけていた。バレエの枠を破るような、こんな作品があってもいいと思う。(そして「Lillyより抜粋」ってことは、フル・ヴァージョンもあるのか?)
瀕死の白鳥
音楽:C.サン=サーンス 振付:フォーキン(改訂:畑佐俊明)
酒井はな(新国立劇場バレエ団)
先ほどのコントからいきなり「瀕死の白鳥」という展開が意外で面白かったのだけど、すぐに作品の世界に引き込まれた。酒井はなさんの腕の動きの滑らかでしなやかで美しいこと。表現は控えめだったけれども、これくらいの抑制の効いた動きのほうがこの作品にはふさわしい気がする。
2部
海賊
音楽:アダン 振付:プティパ
長田佳世&芳賀望&厚地康雄(新国立劇場バレエ団)
長田さんのメドーラはキラキラしていて、正確で美しく踊っていたのだけど、コーダのグランフェッテでダブルを入れたところちょっとくずれてポアントがついてしまった。でもそこからすぐに立て直して何事もなかったかのように踊ることができたのはさすが。芳賀さんのアリは踊りが雑。彼はもっと踊れる人だと思っていたのに。厚地さんは上背もあり堂々としたコンラッドで跳躍も高かった。
ブエノスアイレスの冬
音楽:アストル・ピアソラ 振付:日原永美子
伊藤範子&小林洋壱
ピアソラの「ブエノスアイレスの冬」に合わせたタンゴで、踊りもバレエというよりは思いっきりタンゴ。でもこのペアはとても息が良く合っていたし、大人のセクシーな雰囲気を作り上げることができていて酔えた。
White Destiny
音楽:ジャコモ・プッチーニ
橘るみ
音楽はプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」から「私のお父さん」。白い、チュチュを少しアレンジしたような可愛い衣装の橘さんが軽やかに音楽と戯れるように踊っていたと思ったら最後は倒れこんでいた。
エスメラルダ
音楽:プーニ
田中ルリ
一緒に踊る予定だった岡田兼宣さんが怪我をしたために演目変更をしたというアナウンスあり。(当初の予定は「眠れる森の美女」)。おなじみのタンバリンを脚で叩くヴァリエーション。田中ルリさんは背中がやわらかくしっかりとしたテクニックで踊っていて、タンバリンを連続して脚で叩くのもきちんと音に合っていたけど、短くてちょっともったいない。
タマ
音楽:佐藤健作 振付:島地保武
酒井はな&小尻健太&東海林靖志&佐藤健作(和太鼓演奏)
サッカー、ワールドカップフランス大会の閉会式で和太鼓演奏をしたという佐藤健作さんの和太鼓が圧倒的な迫力でお腹に響く音。酒井はなさんの、さっき「瀕死の白鳥」を踊っていたとは思えないほどのちょっと素っ頓狂な衣装がポップで可愛い。小柄な東海林靖志さんと、大きな小尻さんの対比が面白くて、ダイナミックな作品。一度観ただけではなんとも表現しようがないのだけど、和太鼓の実演あってこその作品で、いい演奏で観られたのが良かった。
白の組曲
音楽:エドゥワール・ラロ 振付:リファール
藤井美帆
藤井さんはきっちりとした正統派でアカデミックなパリ・オペラ座の踊りで、白いチュチュも映え、実に目に爽やかで美しかった。オペラ座のバレリーナなら、カドリーユでもこれだけ魅せることができるのだということを実感。
Bolero
音楽:モーリス・ラヴェル 振付:西島千博
西島千博
ラヴェルの「ボレロ」に途中で「アヴェ・マリア」を重ねる暴挙に出ていて、しかもベジャールの作品のパクリっぽいところもあり、なんともトホホな作品。出口で募金箱を持っていた西島さんはかっこよかったんだけど・・・。
二羽の鳩
音楽:andre messager 振付:アシュトン
佐久間奈緒&厚地康雄
本日の白眉。佐久間さんはこの日の出演者の中でも別格の豊かな表現力とプリマオーラがあって、「二羽の鳩」の抜粋の短い踊りだったのに、まるで全編観てしまったかのように心に響くものがあった。長身で容姿に恵まれた厚地さんとのバランスも良かった。さすがに本物の鳩は登場しなかったけど。
Mayday, Mayday, Mayday, This is...
音楽:鼓童 振付:遠藤康行
平山素子&浅見紘子&加藤野乃花(マルセイユ・バレエ)&金田あゆ子
木下佳子&佐藤美紀&青木尚哉&大柴拓磨
大嶋正樹&柳本雅寛&八幡顕光(新国立劇場バレエ団)&遠藤康行(マルセイユ・バレエ)
震災チャリティガラコンサートのために振付けられ、マルセイユバレエ団のダンサーたちとともに遠藤さんが創った作品。フランス国立劇場でもすでに再演されているという。「Mayday」とはSOSのこと。舞台奥に一人佇んでいた平山素子さんが、「上を向いて歩こう」をアカペラで歌い始めると、カラフルな衣装に身を包んだダンサーたちが現れエネルギーを爆発させて乱舞する。小柄なのにものすごい跳躍力の八幡さん、しなやかな長身で空間を切り裂く浅見さん、そして何より存在感も強烈で踊りも強靭な平山さんが印象に残った。やがてダンサーたちは力尽きていくけれども、狂言回しの役を果たしている遠藤さんが、女神のような平山さんに導かれていく。立ち上がろうという力と祈りを感じる作品だった。
フィナーレでは、まずは佐藤健作さんの和太鼓のソロ。このソロがやはり素晴らしくて、会場に足を運んで良かったと思ったことのひとつ。そして出演者たちが自分の踊った作品の抜粋だったり、思い思いに踊りながら登場。とても暖かい雰囲気に包まれたガラ・コンサートで、日本でもこのようにカンパニーの枠を超えたガラがもっと行われればいいのに、って思った。舞台監督に森岡肇さん、照明に足立恒さん、音響に松山典弘さんと一流スタッフがボランティアで参加していて、舞台自体もとてもしっかりと作られていた。
トップバッターで残念ながら踊りは観られなかったけど、志賀育恵さんのブログにガラの舞台裏が紹介されている。志賀さんは5月にベルリンで行われたマラーホフ主催のチャリティコンサートにも出演していた。
http://www.ikue-garden.net/blog/2011/08/2011_1.html
三木雄馬さんのブログにも舞台裏の様子が。
http://ameblo.jp/yuma-miki/
また、公演はUStreamで生中継されており、会場に足を運べなかった人も舞台の様子を観ることができた。せっかくなら、アーカイヴ化して後日見られるようにして、協賛しているチャコットが採用しているJust Givingのチャリティに公式サイトからリンクを張って、映像を観た人も寄付できるようにすればもっと良かったのではないだろうか。特に今回、ここでしか観られないような作品も上演され、普段の活動拠点が海外のダンサーも多く踊ったことだし。
Dance Aid for Japan 東日本大震災被災地支援
http://justgiving.jp/c/5214
追記:オールニッポンバレエガラコンサートのオフィシャルYTチャンネルに、グランドフィナーレの動画がアップされていました。
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