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2011/06/14

タマラ・ロホの「ブラック・スワン」批判

遅ればせながらタマラ・ロホが主演したバーミンガム・ロイヤル・バレエの「眠れる森の美女」の感想を書いたら、コメント欄でも教えていただきましたがGuardian紙に彼女のインタビューが掲載されていました。

長いインタビューなので全文は翻訳しませんが、興味深いと思った部分について訳してみました。特に映画「ブラック・スワン」への批判と、ロイヤル・バレエの芸術監督候補として取りざたされている部分は興味深かったです。

Tamara Rojo: 'Ballet dancers don't enjoy the pain. We're not masochists'
http://www.guardian.co.uk/stage/2011/jun/13/tamara-rojo-ballet-dancers-not-masochists

今週末、ロンドンの1万人収容のO2アリーナで行われるロイヤル・バレエの「ロミオとジュリエット」に出演する予定のタマラ。演技力に定評のある彼女に、その演技の秘密を聞くと、次のように答えてくれたそうです。

「私はメソッド演技(せりふを抑揚で意味づけしたり、外見の動きで演技を説明したりせず、 内面的な精神を大切にする演技技法)を行っているの。観客の心に触れるためには自分自身の本当の感情を使わなくてはならないわ。感情を偽ることはできない。人々は私をすごいアーティストだと褒めてくれることもあるけど、自分ではそう思っていないの。私はただ本当の感情を求めているだけであって、人間とはそうすることを知っている生き物なの。私は自分の想い、私生活、記憶や感情を使って人物を肉付けていく。もし自分が観客に対して正直であれば、彼らはそれを感じてくれるわ。良くない演技をしたときには、そうだとわかるの、自分に正直ではなかった時だから」

O2アリーナという巨大なアリーナで実験的に公演を行う理由をタマラは説明しました。「私たちは、観客層を広げ、バレエを好きになることなんかないと思っていた人々にもその魅力を伝えるように絶えず挑戦をしており、今回は大きなチャンスなのです。ロイヤル・オペラハウスでの公演では難しい、人々の思い込みを変えることをやってみたいのです。多くの人々はバレエは古臭い芸術だと思い込んでいるけど、その枠組みから取り去ってしまってどこか他の場所においてみれば、オープンな心を持った人々が来てくれるかもしれません」 でも、実際バレエは古臭い芸術なんじゃないのかと記者が尋ねると、「いいえ、バレエはとても若い人々によって満たされた芸術なのです。とても生き生きとしていて、常に動いていて進化しています」とタマラは反論しました。

記者は、さらに尋ねました。バレリーナを演じたナタリー・ポートマンが主演してアカデミー賞主演女優賞を受賞した映画「ブラック・スワン」は、バレエを広めることに貢献しましたか、と。

「『ブラック・スワン』はあらゆるひどい常套句的な思い込みに満ちた最悪の映画です。台詞はばかげており、シチュエーションは信じがたいものであり、キャラクターはパロディ的で、映画全体が観ることも耐え難くうんざりさせられました。そして、子供にバレエを習わせようとしていた母親の中には、この映画のおかげでそれをやめさせようとしている人がいることも知っています。だから、この映画をきっかけとしてロイヤル・オペラハウスに200人の観客が増えたとしても、長い目で見ればバレエ界は代償を払うことになります」

この映画の中に見られる誇張された表現-精神を病んだバレリーナ、敵意をむき出しにしたライバル、厳格な母親、怪物的な芸術監督ーに対してタマラはどのように反論したでしょうか。

「バレエ界はこんなものじゃないし、もしあの映画のようにあなたを扱うバレエ関係者がいたら、その場をすぐに立ち去るべきだわ。あんな風に行動することは成功への道ではなく"自分自身を見失う"(映画の中で偏執狂的な芸術監督がナタリー・ポートマンが演じたニナへ与えたアドバイスの台詞)ことになるから!」本物のダンサーが主演していればよかったのに、と彼女は願っていました。「12ヶ月の訓練でプリマバレリーナになれると偽ることはバレエ界に対する侮辱です。こんなことは到底無理なのです」

でも、いくつかのクリッシェは本当のことじゃないの、たとえば干渉的な母親などは、と訊ねるとタマラはこう切り返しました。「モデル業界や美少女コンテストの世界ではあんな母親もいるかもしれないけれども、劇場のリハーサル室に押しかけてきて自分の娘を指導する母親なんか聞いたこともないわ。そんなことは認められていません」。拒食症は?ナタリー・ポートマンは映画の中で、何度も嘔吐していました。「確かに摂食障害の人はいましたが、バレエ界だけではなく一般の世界の中でも、同じくらいの割合の人が同じ症状に苦しんでいるはずです」

1943年の名画「赤い靴」のなかで、モイラ・シアラーが演じたプリマ志願のバレリーナも抑圧に苦しんでいました。これもまた偶然ではないのか、と記者が訊ねました。「あの映画は大昔のものでしたし、社会は大きく変化しています。あの時代においては、芸術監督があのようにバレエに身を捧げる人生を強いることもあったでしょう。しかし現代においては、芸術監督はダンサーの私生活に介入する権利などありません」

映画監督や一般の人々は、バレリーナは生きることよりも踊ることを重視していると信じなければならないでしょうか?「それはロマンティックな考えであり、人々が外側の世界から、私たちバレリーナが芸術に身を捧げて生きていると思い込むのは素敵なことだけどね。実際には私たちはごく普通の、地に足のついた、規律正しい人たちですが」

確かにプリンシパル・ダンサー間の競争と嫉妬は実際にありうることであり、同じプロダクションに複数のダンサーがキャストされ、批評家やバレエファンがキャストを比較していることからもそれはわかることですが。「確かに競争は存在しますが、少なくとも私の場合においては、それはとても健全なものです」

タマラ・ロホは彼女と同時期にプリンシパルとなったアリーナ・コジョカルとの激しい競争にさらされていると言われています。実際には?「私もアリーナもお互いのことが大好きよ。私は本当にアリーナを尊敬しているし、彼女から学ぶことはとても多いわ。ファンが勝手に私たちが仲が悪いことにしたがっているだけなのよ」

現在37歳のタマラはキャリアの終盤に近づいており、40歳を過ぎてまで踊ろうとは思わないと彼女は語ります。踊り始めた頃から短いダンサー生命と、そのはかなさを意識してきたそうです。「初めて怪我をしたときには12歳くらいだったりして、その頃から、バレリーナとして果たして成功できるか不確かだということ、そして成功したとしても怪我によりあと2年でキャリアが終わってしまうかもしれないことを意識していました。しかも、バレリーナとしてのキャリアは普通の仕事より自分にとって大きな意味があります。「いいわ、新しい仕事を探すから、ってわけにはいかなくて、人生を捧げるもので、恋愛関係にも似ています。生涯の恋人と別れるようなもので、とても悲しいことです」

「引退はどんなアーティストにとっても大きな問題であり、他のバレリーナもそれを乗り越えるのに苦労しています。絶対に引退したくないと思うか、単に空虚さを感じるか。私は最終的には芸術監督になりたいと考えていて、その夢に向かって準備を進めています」タマラはマドリッドで舞台芸術の学位を最近取得し、2009年にはナショナル・バレエ・オブ・カナダの芸術監督カレン・ケインの助手として一ヶ月を過ごしました。

唯一タマラがはにかんで見せたのは、ロイヤル・バレエの次期芸術監督の募集に応募したかどうかについて記者が訊ねたときでした。ちょうどこの仕事に就くための面接が行われているところなのです。「それにはお答えできません。ごめんなさい」とタマラは笑いながら答えました。「今はまだちょっと早いかもしれないけれど」。彼女はロイヤルの芸術監督職への意欲を見せており、今回は応募していなかったとしても、その次の機会には最有力候補になるに違いないと記者は予想しています。

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バレエ(情報)」カテゴリの記事

コメント

いつも情報ありがとうございます。
タマラのBlackSwan映画についての意見に私も同感です。
確かにこれからバレエを習わせたいっいう親御さんにとっては、イメージが悪くなりますよね。。。。フムフムって思いました。勿論、競争は色々あるかもしれないけど、なんかあまりにも極端すぎる内容ですよね。だから映画なのかもしれないですけど。。。。 昔の少女マンガ?って映画を見たとき思いました(笑)。

今年のABTのSwanLakeTKTかなり売れてますよー
NYCBのSwanLakeのときは、丁度映画上映が終わったばかりだったので、SoldOutだったけど・・・・・引き続きABTでもSoldOutに近いくらい売れてる感じです。(もともと白鳥は人気ある演目なのに、更に売れてる気がする)

お忙しい中、翻訳ありがとうございました。
「ブラック・スワン」についてはバレエ関係者、とくに核心で活躍する人物の評として興味深く読みましたが、個人的に最も関心の高かったのはRBの芸術監督についてでした。
以前ロホは母国スペインでの将来について言及していたことがあったとも記憶していますが、
すぐにではないにせよRBの芸術監督候補の一人として注目していかなればと思いました。
それにしてもマラーホフ、ニーナ、ルグリ、フィーリン、ぜレンスキーと、かつてのスターが指導的立場に就いていくことは、その踊りに感銘を受けた一ファンとして感慨深いものです。

インタビュー、わざわざ翻訳してくださったんですね。
確かにブラックスワンの世界はほとんどパロディというか、滑稽すぎますが、バレエ団のダンサーたちのライバル意識に関しては、ロホが言うほど健全じゃない気もしますね(笑)
数年前、オブザーバー誌がギエムにインタビューした記事では「私のことを絞め殺したがってるダンサーは周りにたくさんいた」と、これもギエムらしく正直に答えてました。「名前は言えないけれど」って。
その記事でギエムは将来、芸術監督になることはまったく興味がないと言い切っていました。ロホとの方向性や芸術性の違いがはっきり分かりますねー。私は踊りも、垣間見える人間性も、圧倒的にギエムのほうが好きなんですけど。

こんにちは。
いつも情報をどうもありがとうございます。この記事は面白そうなので、後で時間を取ってゆっくり読んでみようと思っています。
タマラの全てが好きと言うわけじゃないですけれど、結構歯に衣着せぬ発言が、興味深く面白くもあり、好きなところです。ダンサー人生の後半戦に、踊り続けることも、芸術監督を目指す事も、或いはキッパリ引退する事もありだと思います。まあ、ファンだと見え続けるところにいて欲しいなーと言う気持ちは、たぶんありますけれど。タマラは、強い意思や決断力がハッキリあるし、そのための努力もしている様なので、いつかどこかでその希望は実現しそうですね。

takakoさん、こんにちは。

今仕事が超絶忙しくてお返事がおそくなってしまってごめんなさい!

私もこの映画を観たとき、昔の少女漫画って思いました!(山岸涼子さんにそのものずばり「ブラック・スワン」って漫画があるんですけど、そっちのほうが正統派というか芸術性が高い作品です)まあ、バレエを描くと言うより、バレエをモチーフに別のことを描きたい映画だったと思うんだけど、それにしてももう少しバレエに敬意をもって描いてほしいって思いましたね。

でもこの映画の中にリンカーンセンターも登場するし、ブラック・スワン効果でやっぱりチケットは売れたんですね。ロイヤル・バレエで白鳥が上演されたとき、嘘かまことか「ナタリー・ポートマンは出演するのか?」って問い合わせがあったらしいですけど(笑)そのナタリーとミルピエの間にも無事に男の子が生まれたそうで・・・

Fさん、こんばんは。

今回のロイヤルの芸術監督候補として一番有力だったのは下馬評ではブルース・サンソムだったそうですが、まずは無難な線に落ち着いたって感じですね。タマラ・ロホはスペイン国立ダンスカンパニーの芸術監督候補でも名前が挙がったり、芸術監督業には並々ならぬ意欲を持って、いろいろと勉強しているのも伺えて彼女の今後の動向には注目しなくちゃって思います。

芸術監督業は大変なのでダンサーとの両立をしている人もいますがやはり踊る機会は減ってしまうでしょうし、ロイヤルのような大カンパニーともなれば両立は無理でしょうからね。私がバレエを再び観始めた2000年前後に中心だったダンサーたちが、次々と芸術監督になって行きますね。時の流れを感じます

ポチさん、こんばんは。

そのシルヴィ・ギエムのインタビューは私もどこかで読んだ記憶があります。ギエムはギエムで、フランス人らしさというのがよく出ている人だなって思います(私はイギリスに住んでいたので、イギリス人がフランス人に対して持っている複雑な感情がわかる気がするんで)。その彼女の率直さというのも、とてもかっこいいというか素敵だなって思います。芸術監督業はしていないけれども、サドラーズ・ウェルズのアソシエイト・アーティストとして毎年新作を上演しているし、、ダンサーとクリエイターのバランスが良く取れていて魅力的な成熟の仕方をしているって思いますよね。

YUIOTOさん、こんにちは。

タマラのインタビューは、けっこうはっきりと歯に衣着せぬところがあって面白いですよね。以前も「マノン」の解釈などについて面白いことを言っていました。マノンは結局男たちの欲望の犠牲者だったんじゃないかって。
好きなダンサーだったら、やっぱり踊る姿を長い期間見たいと思うのはファン心理からして当然ですが、マラーホフや熊川哲也のように芸術監督業を続けながらもダンサーとして自分のカンパニーにもたくさん出演する人もいれば、ルグリのように、ダンサーとして引退したわけではないけれども踊る機会は最小限に減らして人を育てていこうとする人もいますよね。いろいろな考え方がありますが、きっとタマラはいい芸術監督になる気がします。

初めまして、40過ぎからバレエ鑑賞にはまったシニアです。いつも楽しく読ませていただいております。
私もブラックスワンを観ましたが、バレエ映画というより、サイコな映画だと感じました。観ている時はどうなるんだろう?と引き込まれましたが、見終わった後はもう一度観ようとは思わない、後味の悪い映画でした。
バレエという視点で見れば、タマラロホの言うように、リスペクトに欠けていたように思いました。
ただ、世界有数のバレエ団で白鳥の湖、プリンシバルで初演とくれば、映画の中のプレッシャーくらいかかるのだろうなと感じました。

それはともかく、タマラロホも後、3年くらいで引退しそうですか?これからの公演はできるだけ観ないといけないと意を強くしました。

TAKASHIさん、初めまして。

「ブラック・スワン」の監督のアロノフスキーは、「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」ってとっても後味の悪い映画を撮っていてそれは観てすごく鬱な気分になったので、共通点があるのかな、と思ったら案の定でした。確かに、飛行機の中でも思わず集中してみてしまうなど画面には力がありましたが、おっしゃるとおりバレエへのリスペクトには欠けていましたね。あれくらいのプレッシャーをはねのけられるくらいじゃないとプリンシパルにはなれないという気がします。

タマラ・ロホも気がつけば37歳なんですね。まだまだ踊れるとは思いますが、本人が40歳くらいで引退したいと言っている以上、これからはできるだけ観なくちゃって思いました!

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