「吉田 都 一瞬の永遠 英国ロイヤルバレエ・プリンシパルのすべて」
バーミンガム・ロイヤル・バレエのチャリティ公演で販売されているのは見たけど、人がたくさんいたのでその時はよく見ることもしなかったこの本。書店でどんな本なのか見てみようと思って手にとってみたら、掲載されている吉田都さんの写真があまりにも素敵だったので思わず買ってしまった。
篠山紀信さんの撮影した都さんの姿は、今まで自分が知っていたはずの都さんとはまったく違っていて、少女の面影を残しながらも大人っぽくて、ほのかな色香を漂わせていた。巻頭には、白いレオタードにチュチュボンを身につけていたり、ジュリエットの衣装を着た都さん。特にジュリエットに扮した都さんは、とても魅惑的で儚げで、肉体をもちながらもするりとすり抜けていきそうな透明感の両方を併せ持っていて思わずひきつけられてしまう。
「オンディーヌ」のリハーサルと舞台の写真。スタジオでのリハーサルの段階から、すっかり都さんは水の精オンディーヌになりきっていて、作品の世界に入り込んでいるのがわかる。美しい舞台美術の切り取り方は、バレエ写真家の見方とは全然違っていて、陰影がはっきりしていてドラマティックだ。
そして私も観たロイヤル・バレエ団での最後の舞台「ロミオとジュリエット」。あの時観たパフォーマンスの心の動きを再び思い起こさせる写真もあれば、こんな風に篠山さんは見ていたんだ、と新鮮な視点で見られるカットも。都さんのジュリエットからは言葉にならない思いがあふれて、代わりに台詞を物語っているかのようだ。あの時感じられたのと同じくらいに、都さんのジュリエットを捉えた写真からは強い情熱、叫び、そして決意が伝わってくる。「一瞬の永遠」というタイトルが物語っているように、ほんの一瞬のきらめきを永遠のものへと封じ込めることができているのは、都さんの演技力もさることながら、写真家の力量もあるのだと実感した。
巻末には、都さん自身の言葉によるエッセイが掲載されている。バレエにあこがれて踊り始めた少女時代の時から、バレエ学校へ入り、プロのバレリーナになり、そしてプリンシパルへ。とても読みやすくて素直な語り口からは、都さんの謙虚で飾らない、だけどとても真摯な姿勢が伝わってくる。特にプロになってからはじめての怪我を乗り越えるまでのエピソード、そしてロイヤル引退の「ロミオとジュリエット」の舞台を迎えるまでの心情を語る言葉には、なぜ彼女が頂点へと上り詰めることができたのか、その秘密の一端がみえたように思えた。都さんには野心があったわけではなく、無欲に、ただやりたいことの実現に向けて、こつこつと地道にやるべきことをきちんと行った結果もたらされた成功だったのだ。一見簡単そうなそれが、どんなに血の滲むようなことなのかはバレエを少しでも習ったことがある人ならわかると思う。
アレッサンドラ・フェリ、ゲルシー・カークランドという対照的な二人のバレリーナのジュリエット像にどのように影響を受けたかという話も興味深い。
「何かを信じている自分」がいたから今までダンサーを続けることができた、それは、好きなことを続けること。どんなことがあっても長い時間をかけて体得したものから生まれる「自分を信じる力」なのだという都さんの言葉には、思わず自分も励まされる思いがした。
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