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« イーサン・スティーフェル、ABT日本公演含む全公演を降板 | トップページ | 続21・震災とパフォーミングアーツ界関連の動き »

2011/04/25

4/17東京バレエ団 「ラ・バヤデール」 The Tokyo Ballet"La Bayadere"

東京バレエ団 
「ラ・バヤデール」


振付・演出:ナタリア・マカロワ(マリウス・プティパ版による)
振付指導:オルガ・エヴレイノフ
装置:ピエール・ルイジ・サマリターニ
衣裳:ヨランダ・ソナベント


◆主な配役◆

ニキヤ(神殿の舞姫):小出領子
ソロル(戦士):イーゴリ・ゼレンスキー
ガムザッティ(ラジャの娘): 田中結子
ハイ・ブラーミン(大僧正): 木村和夫
ラジャ(国王):柄本武尊
マグダヴェーヤ(苦行僧の長):松下裕次
アヤ(ガムザッティの召使):松浦真理絵
ソロルの友人:森川茉央
ブロンズ像:宮本祐宜


【第1幕】

侍女たちの踊り(ジャンベの踊り):西村真由美、乾友子
パ・ダクシオン:
佐伯知香、森志織、村上美香、河合眞里
高木綾、吉川留衣、矢島まい、川島麻実子
長瀬直義、宮本祐宜


【第2幕】

影の王国(ヴァリエーション1):岸本夏未
影の王国(ヴァリエーション2):佐伯知香
影の王国(ヴァリエーション3):乾友子


指揮: ワレリー・オブジャニコフ
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


発売当初買っていたのはこちらの公演。当初出演予定のサラファーノフが怪我で降板(しかし4月20日のミハイロフスキー劇場の「ドン・キホーテ」には出演しているのよね)、代役にイーゴリ・ゼレンスキーという大物が登場した。ロシアは日本への渡航自粛勧告を出しているというのに、彼は急遽来て下さって本当に有難かった。しかも、予想を上回る素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたのだ。

前日の公演も良かったのだが、主役二人の演技の呼吸の合い方、ドラマの歌い上げ方はこの日が素晴らしく、ソロルとニキヤの心の通じあうようすが手に取るように伝わってきたのだ。特に1幕最初の二人の逢瀬のシーンはドラマティックで、響きあう胸の高鳴りも聞こえてくるようだった。

ゼレンスキーのソロルは、戦士としての勇ましさと、大人の男性としての落ち着いた魅力もありつつ、しかしハートは静かに情熱で燃えているという人物像がくっきりと浮かび上がってきた。ニキヤに神聖な火の前で愛を誓った時には、よもや彼女を裏切ることになるとは思っていなかっただろう。ガムザッティを紹介されたときには、彼女の美しさにくらっと来たというよりは、彼女が象徴する富と権力に一瞬目が眩んでしまったように見受けられた。だから、もう婚約式の始まった時点で彼は浮かぬ顔をしており、ニキヤが舞を披露する時には罪悪感の塊となって、とても彼女の姿を正視できない。ソロル自身が針のむしろの上にいるような気持ちで、しかしガムザッティの正体はまだ見抜けていないものだから、なんとかその場を取り繕おうとしている。ガムザッティの顔も立てつつも、恋人の苦しみも受け止めて、苦悩を深めていくソロルの姿が、ニキヤの悲しみと同じくらい強く伝わってきた。

最終幕の結婚式で、ニキヤの霊に気づき、そしてガムザッティのたくらみに気がついたソロルは、一転して激しい憎悪をガムザッティに向ける。嫌だ、この人殺しの女とは結婚できない、と全身で彼女を拒む。その想いがニキヤに通じて、最終的にソロルの魂は救われたのだと納得できる演技を、ゼレンスキーは見せてくれた。

そしてゼレンスキーは踊りも素晴らしかった。なんといっても、跳躍が美しい。つま先が高くぴーんと伸びて、ふわっと浮かび上がるマネージュは、重力の存在を忘れさせてくれ、あれだけの長身なのに着地の音は静かだ。美しいロシアの踊りとはこういうものを言うのだと思った。数年前にマリインスキーの来日公演で踊ったときには、怪我から復帰して間もないこともあって絶好調ではなかったのだが、今回彼のコンディションはとても良かったのではないだろうか。あのときよりもずっと魅せる踊りだった。影の王国のコーダでは、高々として美しい軌跡を描く連続クペ・ジュッテを見せてくれて、健在ぶりを発揮した。ニキヤ役の小出さんが小柄で身長差が大きかったので、リフトの時には少々腰が辛そうではあったが、サポートも万全だった。


さて、今回初めてニキヤ役を踊った小出さんだが、好演していた。上野さんのような長くて美しいラインはないけれども、動きが滑らかで音楽性にあふれているので、見ていてとても気持ちよい。控えめな中に強い意思と情熱を秘めた神の舞姫らしさがあった。恋心を切々と歌い上げながらも、けっして感情過多になることはなくて自然に思いがあふれていて情感が豊かだ。ゼレンスキーとのコミュニケーションもよく取れており、ふたりの逢瀬はひそやかな中にも愛情があふれていて心を揺さぶられた。ガムザッティとの諍いの中でも、私はあなたと違って身分は低いけれども、本当にソロルが愛しているのは私なのよ、という揺るがない信念を貫き通す強さが感じられた。ガムザッティと同じ土俵に立とうなんて思っていない、その信念の強さにガムザッティはたじろぎ慄き、この女を消さなければならないと確信したのだった。婚約式で舞を捧げるニキヤは、身を引き裂かれるような悲痛な苦しみの中でも、まるで自分の死すべき運命を悟っているかのような殉教者のように見えた。花篭を渡されたときには、一瞬その哀しいさだめを忘れたかのように微笑むけれども、ソロルが立ち去った後には絶望のあまり、毒蛇に噛まれていなかったとしても絶命したのではないかと思われたほど。

影の王国での小出さんは、テクニックを誇示するようなところはなかったけれども、非常に安定していて、難しい転もスムーズにこなし、叙情性もあったけれども、少し生身の女性のぬくもりを残していた。踊りの中には、ソロルへの赦しの気持ちが現れていた。サポートつきのピルエットでは驚くばかりの回転を見せていて、ソロルへの強い思いがこもっていた。幻想の世界の中でもふたりの思いが高まり合うのが感じられ、それが結婚式でのソロルの行動へと結びついていき、最後に彼岸でふたりは結ばれるという結末に説得力がある、そんな「影の王国」だった。


「ラ・バヤデール」といえば、ソロルをめぐってニキヤとガムザッティという二人の女性が登場する物語ではあるのだけど、この日の公演では、ガムザッティの田中さんより、大僧正の木村さんの方がずっと強烈な存在感があって、ニキヤをめぐってソロルと大僧正が火花を散らすストーリーのように思えたのが興味深かった。木村さんが舞台に登場しているときには、主役よりも大僧正のほうに気をとられてしまうくらい。彼が演じたハイ・ブラーミンは、ニキヤに邪な感情を抱く破戒僧やエロ坊主ではない。高潔で非常に位が高く禁欲的な高僧が、ニキヤの美しさに魂を奪われ、純潔の誓いを破って禁断の愛に身を捧げてしまうという姿を木村さんは見せていて、悩ましかった。あなたのためならこの位も捨てよう、と被り物を脱いで差し出す姿には、狂おしいまでの想いがこめられていた。ニキヤへの一途な想いで頭はいっぱいで、ニキヤとソロルが逢瀬をするところを覗き見ては、叶わぬ思いに身を焦がしている様子が手に取るように伝わってきた。

ラジャに実はソロルはニキヤと関係していてと伝えたところ、ラジャがニキヤを亡き者にすると言ったものだから、大僧正は「しまった、こんなはずではなかった」と大いにうろたえ、ソロルへの憎しみを激しくたぎらせる。純情暴走系の大僧正なんて初めて観た。婚約式のシーンでニキヤが毒蛇に噛まれたときに解毒剤を差し出したとき、木村さんは「頼む、お願いだから私の愛を受け取ってくれ」とまっすぐな瞳で訴えかける。ガムザッティの手をとってソロルが去っていく姿に絶望してニキヤが解毒剤を落とし、絶命するときの嘆きようの激しさと言ったら!これはどう考えても、薄情で権力に目が眩んでガムザッティとの結婚を了承したソロルより、愛のために高い地位を捨てようとした大僧正の方がニキヤを愛していたとしか思えない。そう、「ジゼル」のヒラリオンのように、木村さんの大僧正はせつなく純粋な存在なのだ。演じる人によって、こうも物語の解釈が異なってくるというのがバレエの面白さである。その喜びを感じさせてくれた木村さんは、本当に凄い役者だ。彼の大僧正を、ニキヤを他のバレリーナが演じているときにもぜひ観てみたいものだと思った。


この日のジャンベの踊りは西村さんと乾さん。乾さんも良かったけれども、西村さんの柔らかくしなやかな踊りがとても美しかった。ブロンズ・アイドルの宮本さんは、緊張しているのが伝わってきてしまって、案の定着地で滑ってしまったのが残念。影の王国のコール・ドはとても揃っていて美しかったけれども、もう少し足音が静かだともっといいと思った。


まだ余震が続く中で、ゲストのキャンセルに見舞われながらも立派な上演にこぎつけてくれた東京バレエ団、NBSのみなさん、ゲストダンサーたちには大感謝。バレエを観られる幸せを噛み締めた二日間だった。マカロワ版「ラ・バヤデール」は東京バレエ団にとてもよく合っている演目だと思うし、またの再演も期待したい。

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