続・震災とパフォーミングアーツ界関連の動き
先週の金曜日に巨大な地震が起きてから、それまでの世界とはまったく違った、別の世界へと変わってしまった、そんな気がしてしまいます。大した被害に遭わなかった首都圏在住の私でさえ、停電や交通の混乱などもあって今週はほとんど仕事にならず、毎日自宅待機となりました。毎日のように起きる余震に怯え、停電がいつ来るかと心配しながらの毎日はストレスがたまり、夜もよく眠れません。私の住んでいるところは、今のところ一度も停電にはなっていません(電力の使用量を抑えるためには、停電くらい我慢してもいいと思うのですが)。また、確かにスーパーから米やパン、水やトイレットペーパーが消えていますが、だからといって生活にはほとんど困っていませんし買いだめする必要性も感じません。被災されて避難されている皆さんの苦労はこの何百倍なのだろうと考えると、胸がつぶれる思いがし、一日も早く皆さんに平穏な日々が訪れる事を祈らずにはいられません。
災害の映像や不自由な生活を強いられている方々の様子は見ていてあまりにも辛いので、ニュース映像は最低限の速報だけにしようとしていますが、今の現状ではなかなか娯楽を楽しむ気持ちにならないのも正直なところです。実際ほとんどの公演が中止されているということもあります。バレエ教室やピラティスは再開しているので、体を動かしているときだけ、現実を忘れることができています。気分転換のために、できるだけテレビを消して音楽を聴くようにしています。この緊張状態をほぐす何かが欲しい、という切実な願いがあります。節電や寄付など自分たちにできることを粛々とやって、経済をまわすためにできる限り消費を行い、人と交流し日常を取り戻しながら生きることが、今自分がやるべきことなのだと思うのですが、実際に今までと同じ生活を行うことの難しさといったら。
今の現状、電力不足や未だ続く余震などを考えると、舞台公演を行うこと自体困難なことだと感じられます。その中で、敢えて公演を行ったNODA MAPの「南へ」公演の上演再開にあたり、野田秀樹が劇場にて挨拶した文章がサイトに掲載されていますが、舞台人としての決意が述べられていて一読に値するものです。
「劇場の灯を消してはいけない」
http://www.nodamap.com/site/news/206
この自分の首をしめる自主規制のような事態は、のちのちの社会や文化に窮屈で不自由な爪痕を残します。つまり「こういう事態が起こっている時に、音楽や美術や演劇などをやり続けるなどもっての外だ!」という考えが蔓延することです。そういう強弁を発する人は、いつも守られたところにいます。
だが、音楽や美術や演劇が不自由になった時代がどれだけ人間にとって不幸な時代であったか、それは誰もが知っていることです。
もう一つ、こちらもぜひ読んでいただければと思います。
「有事の文化事業。中止と自粛に思うこと」
http://www.art-it.asia/u/hashimon/Tax6cOUepkVFsy9imJlq/
中止と自粛は違う、つまり明確な理由があったり、物理的に公演を開催することが不可能なときには、公演は開催されるべきではないと考えられます。ただ、この大変なときに文化や芸術に現を抜かすとは何事か、という「自粛」のムードが蔓延することは、全力で阻止しなければならないと私も思います。
私の通っているバレエ教室でも、4月上旬に発表会が予定されているのですが、開催の是非を苦悶しながら検討しているとのことです。どんな公演でも、公演の準備には大きな手間だけでなく、相当の経費もかかっているので、中止となれば大きな負債を負うことになるということが、主催者にとっては大きな悩みところです。プロの公演ともなれば、出演者やスタッフの生活がかかっているということもあります。しかしながら、万が一のことがあってもいけない、ということで結論を出すのは本当に難しいところです。
でも、少しは娯楽もないと、私たちは精神的に参ってしまいます。
さらに問題を大きくしているのが原発事故の問題で、原子力発電所の事故が海外でも大きく報道されていることから、各国が自国民を脱出させる事態にまで発展しています。原発事故についての情報開示不足ということもあります。おそらく、放射能汚染を恐れてさらに多くの来日公演がキャンセルされることになり、今後数年間の公演にも影響することになりかねないと考えられます。東京が実際には原発事故のあった場所から200キロ以上離れていて、実質的な放射能汚染の恐れが少ないということを国を挙げて広報していかなければならない時だと思います。命を賭けて私たち日本に住む人々を守ろうとしている現場の方々に強く感謝し思いを馳せつつ。
必要以上に便利な生活を享受するために原子力発電所を受け入れ、しかもそれを僻地へと押し付けてきた代償を今私たちは払わされているのだと思います。そうした中でも今回、原発が立地している地域が大きな被害を受けているという重い事実が私たちにのしかかっています。これからは、不便でありながらも安全な生活を送ることを優先にして生きていくことを選ぶべきなのではないかと感じられてなりません。
*****
昨日に引き続き、日本を支援しようとするパフォーミングアーツ界の動きを少しご紹介します。
昨日ご紹介した台湾のInternational Ballet Star Gala in Taipei 國際芭蕾舞星在台北のFacebookサイトで、韓国のユニバーサル・バレエが、今月末に行われる「ドン・キホーテ」の公演で、日本に寄付を行うためのチャリティバザーを開催すると紹介されていました。
ヨーロッパと日本の両方で活躍するダンサー/振付家の小尻健太さんのブログから。
http://www.kojiri.jp/blog/?p=4772
プラハで小尻さんが出演する公演で、募金を募るとのことです。
Dance Project Company 『420PEOPLE』
March 22. & 23. 2011 @ New Stage of the National Theater, Prague
April 12th, 2011 @ Ponec Theater, Prague
May 23rd @ Shell Amphitheater, Lublin, Poland
ドレスデン・バレエのプリンシパル、竹島由美子さんがデザインしているレオタードブランド、YUMIKO。世界中のダンサーに愛用されており、映画「ブラック・スワン」の衣装にも採用されていることで知られています。YUMIKOでは、災害の一週間後の今週金曜日(2011年3月18日)、世界中からのすべてのYUMIKOのインターネットでの売り上げの50%を日本の震災で犠牲になった方たちへ赤十字を通して寄付するとのことです。
http://global.yumiko-online.com/jp/
http://twitter.com/#!/YumikoWorld/status/48471403787333632
フィンランド国立バレエのプリンシパル、中川真樹さんもヘルシンキでチャリティコンサートを開催しようと動かれているとのことです。
中川さんのブログ
http://maki0602.exblog.jp/12273103/
なお、TwitterやFacebook等を通じて、世界中の多くのダンサーやバレエ関係者が今回の震災に心を痛め、日本へのメッセージを送っていることは先日もお知らせしたとおりです。
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コメント
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大変興味深い記事、どうもありがとうございます。
私も中止、延期はやむおえないが自粛は出来る限り避けるべき、と思います。さもなければ自分達がやっていることの意味を否定することになりかねません。
とはいえ、遠くの安全な地にいて惨状を映像で見ているだけの私でも消耗し、チケットを買っている公演もなかなか観に行く気力さえ起きないのが現状ですが…
投稿: amica | 2011/03/18 10:17
naomiさん、お久しぶりです。
地震から1週間がたちましたね。naomiさんのおっしゃるとおり、11日を境に、済んでいる世界が変わってしまったような気になりますね。目に映る風景も違って見えてきます。
いま私たちに出来ることは、出来るだけ平常心でいることだと思います。 原発事故や、続く余震などの状況の中では、普通でいることは大変な意志の力がいることですが、ほんのちょっとした心の持ち方で出来ることだと思います。 被災地で私たちの想像を超える思いをしている人達のためにも。
音楽はいいですね。私も通勤途中に音楽を聞いて、心を落ち着けることが多くなりました。音楽の力がこれほど大きいとは思ってもいませんでした。
芸術は人間が人間らしあるために不可欠なものです。決して贅沢や、「女子供」の暇つぶしではありません。野田秀樹さんのコメント、感動的です。その通りと思います。
また、バレエ公演の会場でお目にかかれる時を楽しみにしています。
投稿: maddie | 2011/03/18 12:36
amicaさん、こんばんは。
そうなんですよね、苦しんでいる人々が多くいるのは事実だとしても、魂を救うためにも芸術は存在するものだと思うし、芸術すらなくなってしまった世界にはとても生きられないと思ってしまいます。
とはいえ、私も被害がほとんどなく停電もないところに住んでいて申し訳ないと思ってしまい、純粋に芸術を楽しめるかどうか不安なところがあります。あまりにも強烈で悲惨な現実についての報道を目にしてしまったからだと思いますが・・・。たまにお笑い動画やバレエの動画を観ると、一時はそれを忘れることができるんですけど、PTSD状態になっているんじゃないかと思うほどです。
投稿: naomi | 2011/03/19 02:49
maddieさん、お久しぶりです。
できるだけ平常心を保つことが必要だということには、同意します。ほんのちょっとの心の持ちようで、普通でいることができるということも。世界は変わってしまったけれども、今まで通りに笑って美味しいものを食べて買い物をして人と会って、ということをしなくちゃいけないって思います。
本当に音楽の力って偉大ですよね。音楽は心を包み込んでくれますから・・・。きっと生の舞台に触れたときにも、感情の洪水の中に自分をおくことができて、平常心を取り戻させてくれるのではないかと思います。そのためにも、早く今まで通りに生の舞台に多く接することができるようになってほしいと心から思います。魂を救うのが芸術なのではないかと思います。また公演会場でお会いできますように!
投稿: naomi | 2011/03/19 02:54