シュツットガルト・バレエ50周年記念ガラ(その2)Stuttgart Ballet 50th Anniversary Gala Part2
ドイツ語の記事ですが、ガラの素敵な写真が載っているのでご紹介。
http://www.tanznetz.de/en/kritiken.phtml?page=showthread&aid=196&tid=19495
フォトギャラリーはこの記事にも。
http://www.stuttgarter-nachrichten.de/inhalt.50-jahre-ballett-das-grosse-ganze-im-liebesrausch.f3cb61b0-6ca7-4bee-b9ae-d041ba2f693a.html
FANFARE LX 「ファンファーレ LX」
Ch: Douglas Lee
Muzik: Michael Nyman 「The Queen of the Night」
Anna Osadcenko, Evan McKie
シュツットガルト・バレエの現役プリンシパルであるダグラス・リーの振付作品で、2009年のリード・アンダーソン60歳誕生日ガラで初演された。日本でも、去年の「マラーホフの贈り物」でエリッサ・カリッロ・カブレラとミハイル・カニスキンが踊っている。音楽はマイケル・ナイマン作曲、ピーター・グリーナウェイの映画「英国式庭園殺人事件」のオープニングテーマで、印象的なモチーフのフレーズが繰り返し使用されている。真っ赤なレオタードのアンナ・オサチェンコとエヴァン・マッキーは二人ともとっても長くしなる美しい脚を持っており、絡みつきそうなほどのねっとりと挑発的でアクセントの効いたスタイリッシュな踊りを見せた。特にアンナ・オサチェンコの良く出た足の甲、きれいに開いた股関節はすごい。「マラーホフの贈り物」で観た作品とはまるで別物で、ぞくぞくするほどスリリングでカッコいい。ここの後半の映像がこの作品の一部だ。
AWAKING FROM THE DREAM「遊園驚夢牡丹亭」
(Pas de deux aus PEONY PAVILLION)
Wang Qimin, Li Jun
(Chinesisches Nationalballett)
中国国立バレエの二人が踊ったのは、2008年に初演された作品。「遊園驚夢牡丹亭」という16世紀の中国の有名なオペラ昆劇をモチーフにしている。ワダエミのデザインした白いたっぷりした衣装に身を包んだ二人は、ガラにエキゾチックな風を運んできたけれども、それ以上の作品ではなかったような。ワン・チーミンとリー・チュンは、草刈民代の「エスプリ」公演などで日本でも知られており、ローラン・プティのガラにもよく出演しているのだけど、いっそのことプティでも踊ってくれた方が良かったと思ったりして。
AU'LEEN
Gesang: Philip Ens
Bridget Breiner
シュツットガルト・バレエのプリンシパルで、最近はどちからといえば振付活動が中心となっているブリジット・ブライナーの自作自演作品。前半はラジオから流れてくる演説のようなものに合わせてのソロ、後半はピアノと歌に合わせての踊り。グリーンのホルターネックのドレスに身を包んだ彼女は美しいし、振付にはオリジナリティを感じるけど、うまく表現する言葉が見つからない。
IN PERIL(世界初演作品)
(Uraufführung)
Ch: Sabrina Matthews
Muzik: Kevin Volans,「White Man Sleeps V」 eingspielt von Kronos Quartet und Aphex Twin
Heather Ogden, Guillaume Côté
(The National Ballet of Canada)
ナショナル・バレエ・オブ・カナダのギョーム・コテとヘザー・オグデンという美男美女のカップルが踊ったのは、カナダの新進女性振付家サブリナ・マシューズの世界初演作品。シュツットガルト・バレエにも作品を振付けている人だとのことだけど、今回の作品はあまり独自性を感じさせず、よくあるネオクラシック・コンテというパターンに陥っていた。ヘザー・オグデンが6回転ピルエットを見せるなど、このペアの実力の片鱗は見えてくるだけに、もったいなかったというのが正直なところ。
Pas de deux aus KAZIMIR'S COLOURS「カジミールの色」
Ch: Mauro Bigonzetti
Muzik: Dmitri Schostakowitsch
Katja Wünsche, Alexander Zaitsev
やっと知っている演目になって、ホッとしたところ。ショスタコーヴィッチのピアノコンチェルトが生演奏なのがとても嬉しい。ビゴンゼッティ振付によるこの作品は、過去にいろいろなダンサーで観たことがあるのだけど、踊る人によって全然違うのが面白い。いつもは明るくキュートな印象のサーシャことアレクサンドル・ザイツェフが、音楽的な中に大人の官能的な表現を見せていたのがとても新鮮だった。カーチャもしなやかで強靭。ミステリアスでひそやかな音の響きの間を縫って、男女のささやきが交わされ、変幻自在に力関係が変わっていく。ビゴンゼッティの振付には、情感とぬくもりがあるのが好ましく、凡百の若手振付家たちとは実力が全然違うのがよくわかった。今まで観た「カジミールの色」の中でも、このペアが一番気に入った。
FANCY GOODS
Ch: Marco Goecke
Muzik: Sarah Voughan, Hi-fly und Wave
Friedemann Vogel
David Moore, Brent Parolin, Özkan Ayik, Matteo Crockard-Villa, Demis Volpi
これも2009年のリード・アンダーソン60歳記念ガラで初演された作品。マルコ・ゲッケの作品は、フォーゲルが「ルグリの新しき世界」で去年踊った「モペイ」、マライン・ラドマーカーが踊った「エッフィー(Affi)」などを観ているけど、今回の作品も同じようなパターン。上半身裸で黒いパンツに身を包んだフォーゲルが、背中を客席に見せたり、痙攣するような動きを見せたり、なんだか飽きたって感じ。途中、黒子のダンサーたちがピンクのカーニバルのような羽飾りを派手にはためかせて、フォーゲルもその中に入っていったりするのが華やかで、お祭り向きの演目ではある。サラ・ヴォーンのジャズ・ヴォーカルを使っていて、音楽の使い方は洒落ていたけど、だからどうってことのない作品。
Pas de Deux aus OTHELLO「オテロ」
Ch: John Neumeier
Muzik: Arvo Part, Mirror in a mirror
Elizabeth Mason, Jason Reilly
主賓の一人であるノイマイヤーの作品もなくっちゃね、と思っていたらこの作品が来た。前回の世界バレエフェスティバルでもハンブルク・バレエのダンサーによって上演された「オテロ」。褐色の肌のジェイソン・レイリー、ふわふわの金髪が美しいエリザベス・メイソンがオテロとデスデモーナ役にぴったり。アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」に合わせてのゆっくりとして情感のこもった動き。エリザベスの繊細なポール・ド・ブラ。イノセントな空気。ジェイソンのストイックで聖性を感じさせる存在感。初めて、このガラで時が止まったような錯覚にとらわれた。ハンブルク・バレエのエレーヌ・ブシェとティアゴ・ボァディンが踊ったときとはまた全然違った感情に襲われた。
Pas de deux aus MAYERLING「マイヤリング(うたかたの恋)」
Ch: Sir Kenneth MacMillan
Muzik: Franz Liszt, arrangiert und orchestriert von John Lanchberry
Irina Tsymbal (Wiener Staatsballett), Robert Tewsley
マクミランも、シュツットガルト・バレエとは縁の深い振付家であり、クランコと親しかっただけでなく、ロイヤル・バレエで振付けることを却下されてしまった「大地の歌」や「レクイエム」をシュツットガルト・バレエのために振付けている。
「マイヤリング」の中の2幕終わりのパ・ド・ドゥで、マリー・ヴェッツェラがルドルフ皇太子の部屋にやってきてコートの下は下着一枚で挑発するシーン。そんなに派手な見せ場ではないのだが、一番ドラマティックなラストシーンは心中でお祝いの場には相応しくないという配慮が働いたものと思われる。ウィーン国立バレエのイリーナ・ツィンバルはとても顔が小さい小柄なバレリーナで、魔性の少女マリーの役によく合っていた。ロバート・テューズリーのルドルフは、この間観たロイヤルのエドワード・ワトソンのような神経質そうで腺病質の男ではなく、皇太子に相応しい風格、堂々とした姿の中にふと狂気や熱情が横切るという風情。少女の大胆な挑発に惑わされるとともに、彼女が放つ銃弾、死の香りにも惹きつけられているのが伝わってくる。珍しくセットがきちんと置いてあったということもあるが、一瞬のうちに「マイヤリング」の世界へと引きずりこまれた。テューズリーはやはり役者だということを実感させられた。マクミランの作品でも、たとえば「マノン」の沼地のパ・ド・ドゥなどを踊った方が、観客ウケも良いだろうに、あえて「マイヤリング」の地味だけど演技力を試されるシーンを選んだとことが渋い。テューズリーがルドルフ皇太子を踊る「マイヤリング」の全幕を観る機会があれば良かったのに、としみじみと思った。
第二部の終わりまで観て、やはり、ノイマイヤー、マクミランのドラマティックなバレエには力があることよ、と感じた。とともに、若手の振付家ではやはりビゴンゼッティが優れていること、キリアンには他の振付家が束になってもかなわないことをしみじみ実感。また、以前ベルリンのダンサーで観たダグラス・リーの作品も、魅力的なダンサーが踊ればしびれるほどのかっこよさがあることを発見した。
一方、ゲストダンサーの踊る作品は今まではことごとく外している(テューズリーは元シュツットガルト・バレエというOB枠なので別格)っていうのが残念だった。大体、シュツットガルト・バレエのガラだというのに、クランコの作品が今までひとつもないことに対しては、疑問を抱かざるを得なかった。
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はじめまして。
横ヤリをいれて、すみません。
Wang Qimin(王啓敏),とLi Jun(李俊)夫妻が踊ったAWAKING FROM THE DREAM「遊園驚夢」
(Pas de deux aus PEONY PAVILLION)について、なんですが・・・
たぶん、現地で配布のパンフレットか何かから直訳したんだとは思いますが、
あれは昆劇の「牡丹亭」(これがPEONY PAVILLION)をもとにした全幕バレエ「牡丹亭」のパ・ド・ドゥです。振り付けは費波(Fei Bo)です。(振り付け者の名前はhttp://www.tanznetz.de/en/kritiken.phtml?page=showthread&aid=196&tid=19495このなかにも書いてあります)
中国語でもバレエの「牡丹亭」は「牡丹亭」です。
昆劇の「牡丹亭」は坂東玉三郎さんによって、日本にも紹介されました。
たぶん、パンフには昆劇とは書いてなくて、「チャイニーズ・オペラ」にあたる言葉だけが書いてあったのだと思います。英語では京劇も昆劇も川劇も「チャイニーズ・オペラ」で済まされてしまうことがほとんどです。京劇や昆劇に詳しくない日本人の一般大衆の誰が、「チャイニーズ・オペラ」と書かれているそれが昆劇だとわかるでしょう。もしかしたら「牡丹亭」のキーワードが漢字で明確に紹介されていれば、あるいはPEONY PAVILLIONから「牡丹亭」を想像できたら、もしかしたら「昆劇」にたどり着けたかもしれませんね。
でもAWAKING FROM THE DREAMから「遊園驚夢」が出たとは、さすが映画にお詳しい方ですね、中国人から見ても驚きです。
「昆劇」、「牡丹亭」については、自分のつたない日本語では上手く説明できないので、ウィキペディアをご覧になってください。
王啓敏と李俊が草刈民代の「エスプリ」で踊った作品の振り付け者については、他の振り付け者・・・例えばクランコとかマクミランとか、シュツットガルト・バレエ出身のノイマイヤーやキリアンなどの振付家と仲がよかったという話を聞いたことありますか?(シュツットガルトの系統のダンサーが「その人」の作品を踊ったという例も数えるほどでしょう。)たしかに「その人」の作品を踊った王啓敏も李俊も素晴らしかったです。しかし、シュツットガルトの記念ガラで踊るのが適切なのかどうか。
ながくなって、すみません。
投稿: 張科 | 2011/02/23 02:00
張科さん、こんばんは。
「Peony Pavillion」の詳しい説明をありがとうございました。適当な説明を書いてしまって申し訳ありません。現地のパンフレットには、演目の詳しい説明はなく、振付家と作曲家の名前があっただけです。大変勉強になりました。
確かに、プティの作品はシュツットガルトではおそらくは上演されたことはなかったし、今回のガラで上演されるという可能性は0%だったでしょうね。このガラでのゲストダンサーが踊った演目がそろいもそろって退屈な作品だったので、もう少しバラエティに富んだ演目が観たかったというのが正直なところだったので、プティ、って書いてみたのです。ノイマイヤー、キリアン、フォーサイスの作品を踊ったのがいずれもシュツットガルトのダンサーで、ゲストが踊ったのは、ロイヤルのアシュトン以外は、新進の、あまりぱっとしない作品ばかりだったんですよね。
投稿: naomi | 2011/02/24 00:55
「このガラでのゲストダンサーが踊った演目がそろいもそろって退屈な作品だった」ってのが、スゴイっすね!
自分はフォーサイスの初期の作品「ウルリヒト」だけは見たかったです。
投稿: 張科 | 2011/02/24 04:15
張科さん、こんばんは。
お返事が遅くなってしまってすみません。
そうなんですよ。シュツットガルトのダンサーを相対的に良く見せるために、わざとつまらない作品を踊らせたんじゃないかという陰謀まで感じてしまいました(苦笑)。唯一、ロイヤル組は良かったです。ゲストってわけではないですが、OBのテューズリーとマラーホフもね。
「ウルリヒト」は作品自体は良いと思うのですが、バランキエヴィッチには合っていなかったと思います。YouTubeにジェイソン・レイリーが踊った映像がありますが、これを観て、この作品ってこんなに素敵だったんだ、と思ってしまう始末。フォーサイスの最初の作品だったんですね。
投稿: naomi | 2011/02/26 01:05