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2010/12/19

「ダンス・バイブル コンテンポラリー・ダンス誕生の秘密を探る」 乗越 たかお

コンテンポラリー・ダンスの伝道師といえばこの人、ヤサぐれ舞踊評論家の乗越たかお氏。彼の「コンテンポラリーダンス徹底ガイド」「どうせダンスなんか観ないんだろ!?」の2冊を読んで、あまりの語り口の面白さと熱さに、あまりコンテンポラリーダンスを観ない私も、余裕があるときにはイソイソと、たまにだけど観に行くようになった。

その乗越たかお氏の最新刊がこの「ダンス・バイブル コンテンポラリー・ダンス誕生の秘密を探る」。「コンテンポラリーダンス誕生の秘密を探る」という副題がついているけれど、これは現在までのおよそ100年間の、ダンスを中心にしたポップカルチャーの歴史を恐るべき速さと密度で語り下ろした、刺激的で楽しい一冊だ。極端に言えば、ダンスに興味を持っていなかった人にでも楽しめる本となっている。

それにしても、バレエの歴史を扱った本は今まで何冊も出ているのに、広い意味でのダンスの歴史を扱った本が殆ど出ていなかったのが不思議だ。そもそも「コンテンポラリーダンス」って何?って話に行き着くのだけど、本書を読むと「今踊られているダンス」ということで、何でもありということがよくわかる。そのコンテンポラリーダンスとやらがどうやって生まれたのか、そのあっと驚くような魅惑的な秘密がここで解き明かされる。


この本は、何しろ語り口がユニークだ。第一章では、まずはわずか10分間でダンス100年間の歴史を語り、次に100分間で100年間の歴史を語っている。1年は1分という猛スピードぶりなのだが、大まかなダンスの発展の流れが分かるとともに、時代の徒花とも言える奇抜で楽しいダンスムーヴメントが次から次へと、豊富で雄弁な図版を交えて多面的に紹介されていく。仏像ダンス、ボディビル、ストリップ、造形バレエ、ドイツ表現主義的ダンス。そして中でも今でも面白いな~と思えるのがショウダンスで、バレエを脱構築したハイキックやトウダンス、アクロバティックを紹介する写真の数々がキテレツながらも楽しい。ダンスって本当に楽しい~ってニコニコしながらページを繰ってしまうことだろう。

モダンダンス、中でも名前だけはよく聞くものの何が凄いのかよく分からなかったマーサ・グレアムとマース・カニンガムがどういう風に画期的で凄かったのかがわかりやすく解説されているのが良い。特にマース・カニンガムが徹底的に意味を排除して、病的なまでに偶然性にこだわって新しいダンスを創造したというエピソードがすごく興味深かった。


第二章「ニッポンの身体、ニッポンのダンス」では日本のダンスの歴史100年を語っている。日本のダンスの歴史なんて、バレエに関連するところと、「コンテンポラリーダンス徹底ガイド」に書かれている過去20年のことしか知らなかったので、この本に書かれていることの何もかもが新鮮な驚きに満ちていた。1866年にアメリカのリズリー・サーカス一座が日本の曲芸に惚れ込んで「帝国日本芸人一座」を組織、アメリカでも大成功を収めたというのは凄い事実。戦前のお金持ちはダンサーを引き連れてパリに修業に行かせていていたりと、実は戦前にもかなりの数の日本人が海外に渡ってダンスを学んでは持って帰ったという話にはワクワクした。中でも、放蕩児としても知られていた伊藤道郎の鮮烈な活躍ぶりが面白くて、彼についてはもっと知りたいと思った。「河合ダンス」「モダン芸者」「サムライ呉服店」といった固有名詞のキャッチーなこと!それを生み出した戦前~戦後の日本人たちのバイタリティには圧倒された。

この章の結びは、日本人にとっての身体性の考察。日本舞踊という「芸術の不具」とまで言われた独特の動きから始まった日本人のダンスが、舞踏やヒップホップ、果てはパラパラに至るまでどのように進化しつつもオリジナリティを持ち続けたのか、その秘密が見えてきた気がする。


そして第三章「新しくダンスが生まれいずるために」では、現在日本のダンスを取り巻く状況と危機について語られ、観客である私たちには何ができるのかを、乗越さん独特の熱く鼓舞するような語り口で一気に語り下ろしている。思わず読む側も手に力が入って、いつまでもパソコンの前にいたり、家の中にこもっていないで劇場へと出かけなくちゃならない、今を生きなくてはって気持ちになる。

オレはいま生きているリアル、生きるほかはないリアルを真摯に見つめ、踊ろうというダンサーを、全力で支えていきたい。なぜならそういうダンスによってオレが生かされているからである」。ダンスに魅せられている私たちの思いをこれほどまでに的確に表現した言葉もないだろう。

すべてのダンスファンに、そしてコンテンポラリーダンスなんて小難しくてよく分からないけどパフォーミングアーツに関心があるというすべての人に、手にとってほしい一冊である。新鮮な驚きと発見に満ちていることは保証しよう。ダンスを愛する人にとっての文字通りバイブルとなる本だ。

そして、これを読んでコンテンポラリーダンスに興味を持った人は、この本を読んだ後に「コンテンポラリーダンス徹底ガイド」を読めばさらに楽しめるはず。正直コンテンポラリーダンスはスカをつかんでしまうこともあるけれども、当たりを引いたときの喜びの大きさは、生きる喜びにも匹敵するものなのだ。


今、英米で話題となり、 New York Timesの今年の10冊のうちの一冊として選ばれた本に、「Apollo's Angels」という、元バレリーナのJennifer Homansがバレエの歴史について書いた作品がある。バランシンの下でバレエを学んだ彼女は、バレエの歴史を語リ終えた後で「バレエは今や死なんとしている」と結び、その一節が大論争を引き起こした。だが、観客としてさまざまなダンスを体験し、バレエの中でも、ウェイン・マクレガー、クリストファー・ウィールダン、アレクセイ・ラトマンスキーなどの若い才能を見ている私たちは、「バレエも、ダンスも今を生きている」って自信を持って言い切れる。ただ、乗越さんが行っているように「ダンスを育て、作り続けられる環境」への道筋をつけていかないと、素晴らしいものでも埋もれてしまう危険性があることを、私たちは自覚しなければならない。

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