シュツットガルト・バレエ エヴァン・マッキーのオフィシャルサイトとインタビュー Stuttgart Ballet Evan McKie's Official Site & Interview
シュツットガルト・バレエのプリンシパル、エヴァン・マッキーのオフィシャルサイトがこのほどオープンしました。インタビュー、写真、出演作品のダイジェスト映像など充実したコンテンツです。また、写真家としても活動する彼の撮影作品も掲載されています。
このオフィシャルサイトのコンテンツのうち、インタビューのひとつについては私が協力しました。エヴァンの許可を得て、そのインタビューの日本語訳をこちらに掲載します。インタビュー掲載にあたり、エヴァン・マッキー本人より写真を提供していただきました。
エヴァンは日本では2008年の来日公演「眠れる森の美女」の岩国公演でデジレ王子、東京と兵庫公演で北の王子を踊っただけで、十分知られているとは言えません。が、今年1月には26歳という異例の若さで「オネーギン」のタイトルロールを踊り絶賛を浴びております。私も幸運にも彼の「オネーギン」デビューを観ることができ、役柄にこめられた複雑な感情の襞、情熱、そして夢見心地へと誘ってくれる鮮やかで端正な踊りに魅かれました。古典から「ハムレット」などのドラマティックな作品、フォーサイスやマクレガーなどコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを持つ、長身でラインが美しくエレガントなダンサーです。オフィシャルサイト開設を機会に、彼のことを知ってもらえればと思います。
ウィリアム・フォーサイス振付「精密の不安定なスリル」 The Vertiginous Thrill of Exactitude Stuttgart Ballet Archive© (写真はクリックで拡大します)
また、エヴァンはtwitterを通して積極的に情報発信を行い、ソーシャルメディアについても先進的な考えを持っています。バレエのソーシャルメディア化ではリーダー的な存在である英国のサイト、The Ballet Bagでも同時にエヴァンのインタビューを掲載しているので、こちらも併せてお読みいただければ。
Stages On Life’s Way: An Interview With Evan McKie
http://www.theballetbag.com/2010/10/30/interview-with-evan-mckie/
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Q.あなたにとって踊るのが楽しい役、そして今後踊りたい役は何ですか?
エヴァン:「オネーギン」は、魔法のような役だから、ずっと演じ続けたい役だ。(ケヴィン・オデイ振付の)「ハムレット」は気迫を持つことを必要とする役で、このような、人間性を表現しているコンテンポラリーな振付のある役を演じるのはとても面白いよ。「オネーギン」のレンスキーは、今までも何回も演じてきた素晴らしい役だ。僕が一番好きなのはドラマティックな役だ。もちろん、今後踊りたいと思っている役のリストはあるよ。「椿姫」のアルマン、マリシア・ハイデ版「眠れる森の美女」のカラボス、「マイヤリング(うたかたの恋)」のルドルフ皇太子、デヴィッド・ビントレー振付の「エドワード2世」など。でも、実際には、期待していなかった役に一番インスピレーションを与えられることもあるんだ。
Q.あなたのダンサーとしての長所はどこにあって、どの部分をより強化したいと思いますか?
エヴァン:僕はダンスは芸術だと思っているので、そのように分解しては考えたくない。時にはそのようなことを話すのは難しい。自分が何が得意であるかを決めるのは、僕の役割ではないと思う。僕が愛しているのは、僕と踊る人や観客の反応だからね。いつも僕ができる限りリスキーなことを好むことを、彼らはわかってくれている。僕自身、どのような役柄においても、あたりまえのところから外れることを楽しんでいるよ。
ジョン・クランコ振付「オネーギン」Onegin オネーギン:エヴァン・マッキー、タチヤーナ:ミリアム・サイモン Stuttgart Ballet Archive©
Q.「オネーギン」役を踊るダンサーには、どのような資質が必要と思いますか?
エヴァン:オネーギン役を演じるにあたって、ダンサーは物語を良く知り、愛し、そしてクランコが作品の一つ一つの部分から何を求めていたのかを本当に理解しなければならない。(芸術監督の)リード・アンダーソンと(バレエミストレスの)ジョルジェット・ツィングリーデス(Georgette Tsinguirides)がこのことについて、本当にたくさんのことを教えてくれた。
この役を演じる人は、観客が同じように感じることができるためにはふたりの「パートナーシップ」が本物であり、また情熱的なあまり傷つきやすいものであるということを理解しなければならない。この役を最高のものとして演じるために、そしてバレエ全体を自身の肩に背負うという責任を負うためには、実際よりも堂々としたキャラクターでなければならないと思う。カンパニーのエネルギー、そして舞台上で起きる全てを感じ、それを観客へと伝える役割を担っているのがオネーギン役なんだ。僕は、この責任の重さを、キャラクターの重さに反映させたいと思った。とても重い責任だけど、魅力的なことだったよ。今までこの役は2度しか演じていないけれども、フルコースのディナーのようにゆっくりと観客の食欲を満たすのは楽しいと感じたんだ。「オネーギン」を10皿のコースのディナーに分けてみるのがね。僕のお気に入りのかつてのオネーギン・ダンサーたちは、みなこのようにこの役を演じてきたんだ。
Q.レンスキー役を演じてきたことが、オネーギンを演じるに当たってどのように影響を与えてきましたか?
エヴァン:レンスキーというのは、文字通りにとらえれば引き立て役だけど、二人のキャラクターの違いはお互いをうまく補完している。両方の役を演じるということは(そして、友人と、決闘相手の両方を演じるということは)、僕がそれぞれのキャラクターをよりはっきりと理解できるということだ。オネーギンのどんなところが、レンスキーにとってとがめるものがあって、それがレンスキーの激しい怒りへと結びつくのか。そしてレンスキーの何が、オネーギンが彼を危険なやり方で嘲るようなことに結びつき、すべての物事が行き過ぎた後に激しく後悔するようなことにさせてしまったのだろうか。二つの役を演じたことで、僕は二人の複雑な感情を両方理解できるのだと思う。
Q.あなたが仕事をしたい振付家やアーティストは誰ですか?
エヴァン:僕のところに来て僕をよく理解できて、そして僕が彼を理解できる、そんな人。僕はサプライズが好きなんだ。
ケネス・マクミラン振付「レクイエム」リハーサルよりRequiem rehearsal Photo: Ulrich Beuttenmüller/ The Stuttgart Ballet©
Q.自分の振付作品を創ってみていかがでしたか?再び振付をやりたいと思いましたか?(エヴァンはアリシア・アマトリアンとジェイソン・レイリーに「Vapour Plains」という作品を振り付けた。同作品は2009年7月にシュツットガルトにて初演、そして今年4月の韓国でのスージン・カン・ガラではスージン・カンとジェイソン・レイリーにより踊られた)
エヴァン: 正直に言えば、僕は写真を撮っているときのほうが楽しい。その瞬間のファンタジーとともに駆けていくことができるから。それは僕がとても惹かれていることだ。振り付けは別の意味で楽しいのだけど、フラストレーションを感じることもたくさんあったよ。今では、僕は素晴らしい振付家たちをどんどん知っているからね。作品は観るたびに違ったものになっていく。常に生きていて呼吸をしているかのように。プロセスはとても楽しいんだ。コンセプトを作って観客に場の雰囲気を提示することはとても楽しかった。また、他では見ることのできないダンサーの側面を見ることができた。彼らは作品のコンセプトを信じてくれたから、どんなことにでも挑戦しようとしてくれて、とても素晴らしかった。アンソニーとジョンソンズによる音楽を使ったこともとても素晴らしいことだった。彼の声は、ピュアでシンプルだけど難しい動きに対して、とても多くのインスピレーションを与えてくれた。この作品「Vapour Plains」は、リフトと身体のねじれが多用されており、強靭さとバランスを必要としている、そのこと自体がこの作品の本質なんだ。間違いなく、僕は振り付けすることに再挑戦すると思う。僕は関係性の親密さが好きなので、またパ・ド・ドゥとなるだろう。自分のことを「振付家」と呼ぶのは実際にはちょっと違うと思っている。でも、機会があればまた振付はしたいよ。
Q.では、あなたの好きなダンサーは誰ですか?
エヴァン:僕が思わず震えを起こしてしまうような人なら誰でも。リスクを好んで冒す人。「僕はここにいて、そのことが大好きで、君もそれが大好きなことを知っているよ」と愛を分かち合ってくれる人。多くのものを与えてくれて、どうやってそれが与えられるかをわかっている人。僕は、特に物語バレエにおいて自分たちが何をしているのかどうでもいいという人のファンにはならない。もし、その人が本当に心をこめて演じているならば、どのように物語を語るか、どうやって人々の琴線に触れるか、そして最終的にインスピレーションを与えることができるのか、そのことに没頭しているはずだから。
Q.アーティストとしてのあなたにインスピレーションを与えるものは何ですか?
エヴァン:文字通り、どんなものでも僕にインスピレーションを与えることはできる。全てのものからインスピレーションを受けるという姿勢でいなければならない。日本にいる多くの人たちはそれを判っていると思う。僕は本をたくさん読んでいるし、単なる一観客として劇場に通うのも大好きなんだ。本当だよ。
エヴァン・マッキーの出演作品動画
「オネーギン」1幕 鏡のパ・ド・ドゥ
「オネーギン」3幕 手紙のパ・ド・ドゥ
「椿姫」1幕 デ・グリュー役
「椿姫」3幕 デ・グリュー役
「眠れる森の美女」3幕 パ・ド・ドゥ
ジョン・クランコ版「白鳥の湖」2幕パ・ド・ドゥ
モスクワ音楽劇場 ペストフ・ガラより「HOLBERG SUITE(ジョン・クランコ振付)/FANFARE LX(ダグラス・リー振付)」
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naomi 様
Evan君のサイトの紹介とインタビュー、ありがとうございます!
彼のオネーギンを動画で初めて見ましたが、想像していたのと違ってかなり驚きました。
特に「鏡のパ・ド・ドゥ」なんか、何というか人間味というか温かみのあるオネーギンなんですねえ・・・その場で見ることが出来たnaomi様がうらやましい。
イリはイリで素晴らしいですけど、Evan君のも是非みたいな~っていう気になりました。
レンスキーがはまり役なのはすごく納得なのですが。
秋も深まってきたし、すぐにでも『オネーギン』が見たい気分なのですが、
なかなか機会がないですね。今度の来日は確か『白鳥』と『じゃじゃ馬』でしたし…
投稿: sandy | 2010/11/12 15:49
sandyさん、こんばんは。
そうなんですよ、彼のオネーギンは本人の性格の良さというか優しさが出ていて本当に素敵でした!まだオネーギン役は2回しか踊っていないんですけどね。イリのオネーギンは間違いなく世界一のオネーギンだと思うし、すごくセクシーでカッコよかったから、また観られるといいんですが。エヴァンのレンスキーは観ていないんですが、今後もレンスキー役も踊りたいって言っていたから。
「オネーギン」は今年の秋は世界中で上演されていましたが(ロイヤル、スカラ座、ミュンヘン、ウィーン)、日本ではしばらくは観る機会はなさそうですよね。シュツットガルト本拠地でも今シーズンは上演予定がないのですが、3月の韓国公演は「オネーギン」なんですよ。多分エヴァンは踊らないと思いますが。
投稿: naomi | 2010/11/13 01:00
こんにちは。
オフィシャルサイトとインタビューのご紹介ありがとうございます。
彼の舞台は、北の王子とパリスしかみたことありません。殆ど踊らないパリス役ですが、優雅でやさしそうな雰囲気が素敵でした。次回はちゃんと踊るエヴァンが観られたらと思います。
ダンサー自身が情報を発信してくれるのってとても有難いですね。
投稿: yunyu | 2010/11/13 08:49
yunyuさん、こんばんは。
エヴァンは日本では実際、コール・ド以外ではパリス、北の王子と岩国のデジレくらいしか踊っていませんものね。パリスは踊らない役だけど、その役の存在意義があるように意味を込めて踊ってみたって言っていました。来年にはロミオ役も踊るそうです。多分次の来日の「白鳥の湖」では王子を踊るんじゃないかしら?じゃじゃ馬もルーセンシオ役がレパートリーに入っているけど。
最近は、自分から情報発信してくれるダンサーも増えて、時代は変わったものですよね。
投稿: naomi | 2010/11/13 22:53
naomiさま、お久しぶりですね。
エヴァンのインタビュー、特に~オネーギンダンサーに必要な資質~はとても興味深かったです。
そうですよね、来年3月のソウルは「オネーギン」なんですよね。私は行く予定をしています。
オネーギンはエヴァンではないみたいですか?!タチアナは2日間連続公演であっても2回とも
スージンが踊ると思うのですが、彼女のオネーギン、イリが去ってしまっているのでオネーギンが
誰になるのか?!読めないのですが・・・案外エヴァンでは・・・?!等と考えていたのですが。。。
ソウルに続いてのマカオの「じゃじゃ馬ならし」も魅力的だし、シュツットガルト・バレエがアジア
に来てくれるのは本当に嬉しいです。
投稿: ゆいーちか | 2010/11/17 00:47
ゆいーちかさん、こんばんは。お久しぶりです!
このインタビュー記事をもらったのが今年の春で、オフィシャルサイトの立ち上げまで待っていたらこんなに遅くなってしまいました。(その間、インタビューのアップデートもありましたが)オネーギンを見てバレエダンサーになりたいと思った作品なので、思い入れは人一倍あるようです。
ソウルのオネーギン、私も行きたいな~って思っています。スージンのタチアーナが観たいですからね。私が今年の10月に聞いた話では、スージンのパートナーは2回ともジェイソンになるんじゃないかってことです。エヴァンはスージンとは全幕でパートナーとなったことがないそうで。そしてジェイソンがオネーギンだと身長の関係もあってレンスキーにもキャストされないんじゃないかと言っていました。(レンスキー役は多分マライン)ただ、2日連続オネーギンというのは相当ハードなので、もしかして1日は違うパートナーになるかもしれませんよね。エヴァンがスージンと踊る可能性もゼロではないと思います。
マカオのじゃじゃ馬ならしも良いですよね。香港には何回か行ったことがあるんですが、マカオは未経験なので行って見たい気がします。(ソウル、マカオまで来るならなんで日本には来ないの、と思っちゃいますけどね)
投稿: naomi | 2010/11/17 01:56