10/28 新国立劇場バレエ団「ビントレーのペンギン・カフェ」「火の鳥」「シンフォニー・イン・C」 New National Ballet Tokyo "Bintley's 'Still Life' at the Penguin Cafe""Firebird""Symphony in C"
デヴィッド・ビントレーを新芸術監督に迎えての新国立劇場バレエ団の2010/2011シーズンオープニングは、20世紀の作品3つのトリプルビル。
火の鳥 Firebird
振付:M.フォーキン Choreography:Mikhail Fokine
音楽:I. ストラヴィンスキー Music:Igor Stravinsky
装置:ディック・バード
衣裳:ナターリヤ・ゴンチャローヴァ
〈上演100周年記念/新国立劇場バレエ団初演(新制作)〉
火の鳥 エリーシャ・ウィリス(バーミンガム・ロイヤルバレエ団プリンシパル)
イワン王子 イアン・マッケイ (バーミンガム・ロイヤルバレエ団プリンシパル)
王女ツァレヴナ 湯川麻美子
魔王カスチェイ 冨川祐樹
今年2010年は、フォーキンの振付けた「火の鳥」が初演されて100周年という記念すべき年である。パンフレットの解説によると、「火の鳥」はバレエ・リュス初のオリジナルバレエ作品だったとのことだ。壮大なスケールを持つこの作品はシーズンのオープニングにふさわしいものだと感じられた。
火の鳥役はバーミンガム・ロイヤル・バレエのエリーシャ・ウィリス。鳥の羽ばたきを思わせる腕の使い方が巧みであり、また目の力も強くて適役。イワン王子のイアン・マッケイは「カルミナ・ブラーナ」以来の新国立への客演。イワン王子役はサポート中心で踊る場面はほとんどないけど、長身でハンサムなマッケイはおとぎ話のヒーローにふさわしいルックス。王女ツァレヴナ役の湯川さんは、王女らしい威厳と気品があって良かった。なんといっても美味しい役は魔王カスチェイで、冨川さんはカリカチャライズの効いた、妖気たっぷりの魔王を好演。でも初日キャストのマイレンが凄かったらしいので、マイレンでも観たかった!(新国立劇場は主役以外のキャストを出すのが遅すぎ)
この作品は前半は火の鳥とイワンのパ・ド・ドゥ中心でわりとまったりと進行するのだが、カスチャイとその手下どもが登場してからは大活劇になり、舞台の上に色とりどりの衣装に身を包んだダンサーたちが大勢登場するので楽しい。ラストには、ナタリヤ・ゴンチャローヴァがデザインした1926年版の背景幕が登場して作品のスケール感を実感させ、感慨があった。東京フィルハーモニー管弦楽団によるストラヴィンスキーの演奏も、世界観を表現していて良かった。
シンフォニー・イン・ C Symphony in C
振付:G.バランシン Choreography:George Balanchine
音楽:ビゼー Music:Georges Bizet
振付指導:コリーン・ニアリー
照明 :沢田祐二
第1楽章 プリンシパル 米沢 唯 菅野英男 コリフェ 西山裕子 大和雅美 福田圭吾 小柴富久修
第2楽章 プリンシパル 川村真樹 貝川鐵夫 コリフェ 細田千晶 川口 藍 澤田展生 田中俊太朗
第3楽章 プリンシパル 厚木三杏 輪島拓也 コリフェ 寺島まゆみ 寺田亜沙子 グリゴリー・バリノフ 野崎哲也
第4楽章 プリンシパル 丸尾孝子 古川和則 コリフェ さいとう美帆 高橋有里 アンダーシュ・ハンマル 原 健太
新国立劇場では、2003年のガラ「The Chic」以来の「シンフォニー・イン・C」の上演。7年間の間にコール・ドの顔ぶれもずいぶんと変わったことだろう。7年前に観たときの方が全体的に揃っていた気もするけれども、新国立劇場ならではの美しい群舞、統一感は健在。コリフェに実力派を揃えていて、中でも第1楽章の西山さんと大和さんが素晴らしく、この二人は新国立劇場の宝だわと実感。
第1楽章のプリンシパルは、米沢さんと菅野さんという新加入の二人。米沢さんは音楽性に優れていて確実なテクニック、良いデビューを飾れたのではないかと思う。今後どんな役にキャスティングされるか楽しみだ。菅野さんは胸のすくようなテクニックを見せてくれたけど、一瞬お手つきをしてしまったのが惜しい。第2楽章、エキゾチックで美しいアダージオに合わせて、川村さんはたおやかに踊っていて素敵だった。貝川さんはサポートをもう少しがんばってほしい。第3楽章の厚木さんは脚がとても内股な上、音に全然合っておらず、途中からバテているのがわかって正直ひどかった。第4楽章の丸尾さん、古川さんは健闘。4組のプリンシパルが並んで踊ると実力の差が明瞭にわかり、米沢さんと川村さんの素晴らしさを再認識。フィナーレに向けての高揚感が素敵なこの作品は、もっと新国立劇場で上演される機会があるべきだと思う。
ペンギン・カフェ "Bintley's 'Still Life' at the Penguin Cafe"
振付:D.ビントレー Choreography:David Bintley
音楽:サイモン・ジェフス Simon Jeffes
装置・衣裳:ヘイデン・グリフィン
照明 :ジョン・B・リード
ペンギン 井倉真未
ユタのオオツノヒツジ 遠藤睦子、マイレン・トレウバエフ
テキサスのカンガルーネズミ 福田圭吾
豚鼻スカンクにつくノミ 西山裕子
ケープヤマシマウマ 古川和則
ブラジルのウーリーモンキー 吉本泰久
熱帯雨林の家族 小野絢子、山本隆之
DVDを観ていないので、この作品を観るのは初めて。独特の耳に残るサウンドに乗せて(オーケストラは大健闘)軽妙にペンギンのウェイターたちが登場。この洒脱な雰囲気を出せるとは、新国立劇場バレエ団もよくやるものだ。ユタのオオツノヒツジのかぶりものをかぶったドレス姿のエレガントな遠藤さんが、タキシード姿のマイレンと優雅に踊る。テキサスのカンガルーネズミは元気いっぱいでキュートだし、いたずらっ子豚鼻スカンクにつくノミの細かな動きにも愛嬌があった。モデルのようにスタイリッシュにポーズを決めるケープヤマシマウマの古川さん。このシマウマが迎える運命に、野生動物保護のメッセージが伝わってくる。ファンキーでノリノリなブラジルのウーリーモンキーのダンスで大盛り上がり。だけど、熱帯雨林の家族が住む場所をなくしていくのはとても切ない。そして最後に遠景に動物たちが、まるでノアの方舟に乗ったかのように集まっている姿・・・。ここに登場する動物たちは、絶滅の危機に瀕している種なのだ。洒落ていて楽しい作品だけど、ふと動物たちと人間との共存を考えさせられるテーマがあって、良い作品だと思う。新国立劇場バレエ団というカンパニーも、古典から20世紀の作品、コンテンポラリーまで、多様なレパートリーを持つべきであるということを伝えるメッセージが秘められた上演だったと感じられた。
「シンフォニー・イン・C」の一部のプリンシパルに不満があったものの、全体としてはとても良い公演だったと思うし、プログラムとしても良くできていた。このカンパニーに一番考えてほしいのは、ちゃんと実力に応じたキャスティングをしてほしいということだ。音についていけないバランシンなんてありえないし、アンドゥオールができていないチュチュ姿のダンサーなんて観たくない。
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