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2010年10月

2010/10/31

10/28 新国立劇場バレエ団「ビントレーのペンギン・カフェ」「火の鳥」「シンフォニー・イン・C」 New National Ballet Tokyo "Bintley's 'Still Life' at the Penguin Cafe""Firebird""Symphony in C"

デヴィッド・ビントレーを新芸術監督に迎えての新国立劇場バレエ団の2010/2011シーズンオープニングは、20世紀の作品3つのトリプルビル。

火の鳥 Firebird
振付:M.フォーキン Choreography:Mikhail Fokine
音楽:I. ストラヴィンスキー Music:Igor Stravinsky
装置:ディック・バード
衣裳:ナターリヤ・ゴンチャローヴァ
 〈上演100周年記念/新国立劇場バレエ団初演(新制作)〉
火の鳥 エリーシャ・ウィリス(バーミンガム・ロイヤルバレエ団プリンシパル)
イワン王子 イアン・マッケイ (バーミンガム・ロイヤルバレエ団プリンシパル)
王女ツァレヴナ 湯川麻美子
魔王カスチェイ 冨川祐樹

今年2010年は、フォーキンの振付けた「火の鳥」が初演されて100周年という記念すべき年である。パンフレットの解説によると、「火の鳥」はバレエ・リュス初のオリジナルバレエ作品だったとのことだ。壮大なスケールを持つこの作品はシーズンのオープニングにふさわしいものだと感じられた。

火の鳥役はバーミンガム・ロイヤル・バレエのエリーシャ・ウィリス。鳥の羽ばたきを思わせる腕の使い方が巧みであり、また目の力も強くて適役。イワン王子のイアン・マッケイは「カルミナ・ブラーナ」以来の新国立への客演。イワン王子役はサポート中心で踊る場面はほとんどないけど、長身でハンサムなマッケイはおとぎ話のヒーローにふさわしいルックス。王女ツァレヴナ役の湯川さんは、王女らしい威厳と気品があって良かった。なんといっても美味しい役は魔王カスチェイで、冨川さんはカリカチャライズの効いた、妖気たっぷりの魔王を好演。でも初日キャストのマイレンが凄かったらしいので、マイレンでも観たかった!(新国立劇場は主役以外のキャストを出すのが遅すぎ)

この作品は前半は火の鳥とイワンのパ・ド・ドゥ中心でわりとまったりと進行するのだが、カスチャイとその手下どもが登場してからは大活劇になり、舞台の上に色とりどりの衣装に身を包んだダンサーたちが大勢登場するので楽しい。ラストには、ナタリヤ・ゴンチャローヴァがデザインした1926年版の背景幕が登場して作品のスケール感を実感させ、感慨があった。東京フィルハーモニー管弦楽団によるストラヴィンスキーの演奏も、世界観を表現していて良かった。


シンフォニー・イン・ C Symphony in C
振付:G.バランシン Choreography:George Balanchine
音楽:ビゼー Music:Georges Bizet
振付指導:コリーン・ニアリー
照明  :沢田祐二
第1楽章 プリンシパル 米沢 唯 菅野英男 コリフェ 西山裕子 大和雅美 福田圭吾 小柴富久修
第2楽章 プリンシパル 川村真樹 貝川鐵夫 コリフェ 細田千晶 川口 藍 澤田展生 田中俊太朗
第3楽章 プリンシパル 厚木三杏 輪島拓也 コリフェ 寺島まゆみ 寺田亜沙子 グリゴリー・バリノフ 野崎哲也
第4楽章 プリンシパル 丸尾孝子 古川和則 コリフェ さいとう美帆 高橋有里 アンダーシュ・ハンマル 原 健太

新国立劇場では、2003年のガラ「The Chic」以来の「シンフォニー・イン・C」の上演。7年間の間にコール・ドの顔ぶれもずいぶんと変わったことだろう。7年前に観たときの方が全体的に揃っていた気もするけれども、新国立劇場ならではの美しい群舞、統一感は健在。コリフェに実力派を揃えていて、中でも第1楽章の西山さんと大和さんが素晴らしく、この二人は新国立劇場の宝だわと実感。

第1楽章のプリンシパルは、米沢さんと菅野さんという新加入の二人。米沢さんは音楽性に優れていて確実なテクニック、良いデビューを飾れたのではないかと思う。今後どんな役にキャスティングされるか楽しみだ。菅野さんは胸のすくようなテクニックを見せてくれたけど、一瞬お手つきをしてしまったのが惜しい。第2楽章、エキゾチックで美しいアダージオに合わせて、川村さんはたおやかに踊っていて素敵だった。貝川さんはサポートをもう少しがんばってほしい。第3楽章の厚木さんは脚がとても内股な上、音に全然合っておらず、途中からバテているのがわかって正直ひどかった。第4楽章の丸尾さん、古川さんは健闘。4組のプリンシパルが並んで踊ると実力の差が明瞭にわかり、米沢さんと川村さんの素晴らしさを再認識。フィナーレに向けての高揚感が素敵なこの作品は、もっと新国立劇場で上演される機会があるべきだと思う。


ペンギン・カフェ "Bintley's 'Still Life' at the Penguin Cafe"
振付:D.ビントレー Choreography:David Bintley
音楽:サイモン・ジェフス   Simon Jeffes
装置・衣裳:ヘイデン・グリフィン
照明   :ジョン・B・リード
ペンギン 井倉真未
ユタのオオツノヒツジ 遠藤睦子、マイレン・トレウバエフ
テキサスのカンガルーネズミ 福田圭吾
豚鼻スカンクにつくノミ 西山裕子
ケープヤマシマウマ 古川和則
ブラジルのウーリーモンキー 吉本泰久
熱帯雨林の家族 小野絢子、山本隆之

DVDを観ていないので、この作品を観るのは初めて。独特の耳に残るサウンドに乗せて(オーケストラは大健闘)軽妙にペンギンのウェイターたちが登場。この洒脱な雰囲気を出せるとは、新国立劇場バレエ団もよくやるものだ。ユタのオオツノヒツジのかぶりものをかぶったドレス姿のエレガントな遠藤さんが、タキシード姿のマイレンと優雅に踊る。テキサスのカンガルーネズミは元気いっぱいでキュートだし、いたずらっ子豚鼻スカンクにつくノミの細かな動きにも愛嬌があった。モデルのようにスタイリッシュにポーズを決めるケープヤマシマウマの古川さん。このシマウマが迎える運命に、野生動物保護のメッセージが伝わってくる。ファンキーでノリノリなブラジルのウーリーモンキーのダンスで大盛り上がり。だけど、熱帯雨林の家族が住む場所をなくしていくのはとても切ない。そして最後に遠景に動物たちが、まるでノアの方舟に乗ったかのように集まっている姿・・・。ここに登場する動物たちは、絶滅の危機に瀕している種なのだ。洒落ていて楽しい作品だけど、ふと動物たちと人間との共存を考えさせられるテーマがあって、良い作品だと思う。新国立劇場バレエ団というカンパニーも、古典から20世紀の作品、コンテンポラリーまで、多様なレパートリーを持つべきであるということを伝えるメッセージが秘められた上演だったと感じられた。

「シンフォニー・イン・C」の一部のプリンシパルに不満があったものの、全体としてはとても良い公演だったと思うし、プログラムとしても良くできていた。このカンパニーに一番考えてほしいのは、ちゃんと実力に応じたキャスティングをしてほしいということだ。音についていけないバランシンなんてありえないし、アンドゥオールができていないチュチュ姿のダンサーなんて観たくない。


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2010/10/30

本日(10/30)17時「所さんの目がテン!」はバレエ特集/追記

本日(10/30)17時からの日本テレビ「所さんの目がテン!」はバレエ特集だそうです。

“バレエ特集 姿勢良い訳"として、東京シティ・バレエ団に協力してもらい、バレリーナはつま先立ちでどのくらい立っていられるのか実験!さらに、つま先立ちで東京タワーの600段の階段を登れるかも実験!そもそも、バレリーナがなぜつま先立ちで踊るのかといった疑問も調査。
今週の目がテン!バレエを知らない人でも、その魅力や凄さが分かっちゃう「バレエ」を科学します!

とのことです。なかなか興味深いですよね。

*****
追記:そういうわけで、録画でこの番組を見ました。

東京シティ・バレエ団が協力していろいろな実験を行っていて面白かったです。ポアントでどれほど長いこと立っていられるかの実験では、ほとんどのバレリーナが1時間以上余裕でした。東京タワーの600段の階段を上ったのは
中森理恵さん。本当に600段上って凄いな~って思いました。フェッテをするときになぜ目が回らないかということを解明するために、フェッテのときの顔の動きをカメラで捉えて分析。バレエを習っている人ならわかると思いますが、顔の付け方で解決するわけですよね。同じ高さを跳んでいても、普通のジュッテと脚を大きく開いたグランジュッテでは全然違って見えるということも実証されます。

また、バランスの良さを証明するため、同じく姿勢が良いとされる職業の人-ホテルマン、応援団員、バーテンダーとともに起震車に乗って震度7まで揺らしますが、バレリーナだけがまっすぐ立っていることができました。バレリーナがバランスが優れているのは、インナーマッスルが発達していることが大きいというわけで、MRIで身体の断面を撮影。バレリーナは普通の人と比較して実際インナーマッスルが大幅に発達していることが証明されました。

なお、バレエのイメージ映像としては、ニーナ・アナニアシヴィリが出演しているペルミ・バレエの「白鳥の湖」のほか、発売されたばかりの「エフセーエワ&シヴァコフ「ド ン・キホーテ」」、そして「グラン・ガラ  ロシア・バレエの輝けるスターたち 」の映像が使われていました。

バレエダンサーの秘密に迫った番組としてなかなか面白く観ることができました。


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イーサン・スティーフェルがロイヤル・ニュージーランド・バレエの芸術監督に就任/追記あり

ABTのプリンシパルであるイーサン・スティーフェルがロイヤル・ニュージーランド・バレエの芸術監督に就任するという大ニュースが飛び込んできました。

Ballet.coのフォーラムより、プレスリリース(イーサン自身のコメント入り)
Ethan Stiefel appointed Director of Royal New Zealand Ballet"
http://www.ballet.co.uk/dcforum/news/4842.html

現地紙のニュース記事
NZ Ballet secures 'rock star' pair
http://www.stuff.co.nz/entertainment/arts/4288734/NZ-Ballet-secures-rock-star-pair

イーサンは2011年9月にロイヤル・ニュージーランド・バレエの芸術監督に就任するとのことです。また、彼のパートナーであるジリアン・マーフィも同バレエ団と関わりを持つことになるそうです。具体的には、ジリアンはABTのプリンシパルとしての活動と平行して、ロイヤル・ニュージーランド・バレエにも継続的に出演するとのこと。

気になるのはイーサンのダンサーとしての今後の活動、特にABTとの契約はどうなるかということです。2011年METシーズンでは、イーサンは多くの作品に出演する予定となっています。また、ボリショイ・マリインスキー合同ガラで配られたABTの2011年7月の来日公演にも、イーサンが出演予定となっています。まだこの点については公式の発表はないので何とも言えません。ABTからの公式発表を待ちたいと思います。9月からの芸術監督就任なので、来日公演には来てくれることを祈りたいですね。

なお、イーサンの祖母はニュージーランド出身ということであるとのことです。

また、イーサン・スティーフェルとジリアン・マーフィは、米人気ドラマ「ゴシップガール」の11月8日放映のエピソードに出演するとのことです。こちらはABTのオフィシャルサイトにリリースが掲載されています。
http://www.abt.org/insideabt/news_display.asp?News_ID=326

追記:ロイヤル・ニュージーランド・バレエのサイトにもリリースが載りました。
http://www.nzballet.org.nz/node/703

追記その2
ロサンゼルスタイムズの記事です。
http://latimesblogs.latimes.com/culturemonster/2010/10/ethan-stiefel-named-artistic-director-of-royal-new-zealand-ballet.html
この記事によれば、イーサンは引き続きABTのプリンシパルとして活動を続けるとありますので、少し安心しました。

2010/10/29

10/24 ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ 合同公演 2010 Bプロ Bolshoi Ballet & Mariinsky Ballet joint Gala Program B

<ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ 合同公演 Bプログラム> 
10月24日(日)14:00

≪第1部≫
フローラの目覚め》よりパ・ド・カトル
(振付:プティパ / レガート / ブルラーカ、音楽:ドリゴ)
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ(ディアナ) /
アリーナ・ソーモワ(オーロラ) /
ナターリヤ・オーシポワ(ヘーベ) /
スヴェトラーナ・ルンキナ(フローラ)
Le Reveil de Flore (Pas de quatre) (Chor. Petipa/Legato, Reconstructed by Burlaka)
Yevgenia Obraztsova / Alina Somova / Natalia Osipova / Svetlana Lunkina

フローラと妖精たちが眠っているところを、月の女神ディアナが見守っているところ、寒さのために妖精たちが目覚め、暁の女神オーロラに助けを求めるというシーンとのこと。ふわふわとした衣装に身を包んだ妖精や女神たちが目を覚まし踊りだすところはひたすら美しい。オブラスツォーワが滑ってしまったようで一瞬バランスを崩してしまったけどすぐに立ち直って良かった。オーシポワも意外なほどのたおやかさを見せてくれた。


ライモンダ》よりパ・ド・ドゥ 
(振付:プティパ / グリゴローヴィチ、音楽:グラズノーフ)
アンナ・ニクーリナ / ミハイル・ロブーヒン
Raymonda (Chor. Petipa/Grigorovich)
Anna Nikulina– Mikhail Lobukhin

Aプロと違ってこちらの「ライモンダ」はライモンダのヴァリエーションが3幕ではなく1幕のもの。マッチョなロブーヒンは長い白いマントや衣装があまり似合わないけど、踊りはきっちりと決めてくれた。ニクーリナは押し出しが弱いけど、お姫様らしい愛らしいライモンダ。


タンゴ》 (振付:ミロシニチェンコ、音楽:ピアソラ)
ヴィクトリア・テリョーシキナ / アレクサンドル・セルゲーエフ
Tango (pas de deux) (chor.Miroshnichenko)
Viktoria Tereshkina – Alexander Sergeyev

アイスダンスかソシアルダンスのような振付。7センチのハイヒールを履いたテリョーシキナの長い美脚に目を奪われる。スピーディに自由自在に、彼女の脚がまるでひとつの生き物のように奔放に動き回るさまが官能的でクールだ。彼女のスピード感について行って、的確にサポートしながら時にはしなやかなにリードするセルゲイエフも良い。


Fragments of a Biography》より
(振付:V・ワシーリエフ、音楽:アルゼンチンの作曲家による)
ガリーナ・ステパネンコ / アンドレイ・メルクーリエフ

こちらも音楽がタンゴだったので一瞬前の作品とかぶってしまったかと思ったけど内容はまるで違っていた。スーツ姿に帽子をかぶったメルクーリエフがスタイリッシュなソロを踊った後、白い長いドレスのステパネンコのソロ。ステパネンコはトウシューズを履いているものの、踊りそのものはフラメンコで、ポアントで6番で立ったまま膝を曲げたり伸ばしたりしてステップを踏んでいた。ちょっと変わっていて面白いのだけど少々長かった。


ロミオとジュリエット》よりパ・ド・ドゥ
(振付:ラヴロフスキー、音楽:プロコフィエフ)
アリーナ・ソーモワ / ウラジーミル・シクリャローフ
Romeo and Juliet (pas de deux) (chor.L.Lavrovsky)
Alina Somova – Vladimir Shklyarov

髪をくるくるにカールさせたジュリエットのソーモワは可愛いし、シクリャローフもビジュアル的にはロミオにぴったり。少年少女の戯れ合いという感じのパ・ド・ドゥになっていた。シクリャローフはソロになるとスイッチが入るタイプみたいで、人一倍張り切ってがんばっているぞーって感じられるのが微笑ましい。彼はリフトが苦手そうだからマクミラン版だと手こずりそう。


≪第2部≫
ゼンツァーノの花祭り》よりパ・ド・ドゥ 
(振付:ブルノンヴィル、音楽:ヘルステッド)
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ / レオニード・サラファーノフ
The Flower Festival in Genzano (pas de deux) (chor. Bournonville)
Yevgenia Obraztsova – Leonid Sarafanov

素晴らしいものを見せてもらった。サラファーノフのブルノンヴィルステップの見事なこと!羽のように軽やかで飛距離が大きくて、細かい脚捌きもくっきりとクリアだ。サラファーノフが良いダンサーであることはもちろんわかっていたけど、これほどまでの至芸を見せてくれるとは思わなかった。オブラスツォーワはとにかくとろけてしまいそうなくらいキュート。この二人は見た目のバランスもぴったりなのに、サラファーノフの移籍でそういう機会も少なくなりそうかと思うと残念。


パ・ド・ドゥ》( 振付:ヤコブソン、音楽:ロッシーニ)
ナターリヤ・オーシポワ / イワン・ワシーリエフ
Natalia Osipova – Ivan Vasiliev

初めて観る作品だったけど面白かった!音楽は「ラ・フィユ・マル・ガルデ(リーズの結婚)」の中から、リーズが結婚を夢見るシーン、それからシモーヌの木靴の踊りなどの曲を使用。衣装もこの作品をイメージした素朴で可愛いもの。でもスーパーテクニックを誇る二人だからただのパ・ド・ドゥではなくて。オーシポワがワシーリエフの脚の上を駆け上ってジャンプするなんて奇想天外な振付もあったり。毎回新しい驚きを見せてくれるこの二人は面白い。


パピヨン》よりパ・ド・ドゥ
(振付:M・タリオーニ / ラコット、音楽:オッフェンバック)
アリーナ・ソーモワ / ウラジーミル・シクリャローフ
Le Papillon (pas de deux) (chor.M.Taglioni ,revival P.Lacotte)
Alina Somova – Vladimir Shklyarov

蝶々の触角を頭につけているソーモワがとても愛らしい。彼女はBプロの演目の方が魅力的だったと思う。作品については、「やっぱりラコットの作品に面白いものは無し」の法則が当たってしまったけど。


グラン・パ・クラシック》(振付:グゾフスキー、音楽:オーベール)
スヴェトラーナ・ルンキナ / アレクサンドル・ヴォルチコフ
Grand Pas Classique (Chor.Gzovsky)
Svetlana Lunkina – Alexander Volchkov

妖精系の印象が強いルンキナが技巧系の「グラン・パ・クラシック」を踊るのが意外だったけど、これが正しいクラシック・バレエ、という典雅さがあって素敵だった。バランスやバロネもきっちりと見せてくれていた。ヴォルチコフも綺麗なつま先、きちんと五番に入った着地を見せていて正統派ロシアバレエを印象付けた。


ロシアの踊り
(振付:ゴールスキー / ゴレイゾフスキー、音楽:チャイコフスキー)
ウリヤーナ・ロパートキナ
The Russian dance (chor. Goleyzovsky )
Ulyana Lopatkina

「白鳥の湖」のルースカヤを、華麗な民族衣装に身を包んだロパートキナが踊ってくれるという、少々もったいないけれども贅沢な趣向。普通ならあまり面白くないキャラクターダンスとして流してしまうような踊りだけど、ロパートキナが踊れば、腕の繊細な軌跡、隅々まで行き届いた美意識、そしてドラマティックさに思わず身を乗り出してしまいそうになる。特にクライマックスのピケターンのアクセントの付け方が絶妙で、その濃密さに観ている方も息も絶え絶えになったほど。一瞬でも見逃せないほどだった。


海賊》よりパ・ド・ドゥ 
(振付:チェクルィギン / チャブキアーニ、音楽:ドリゴ)
アンナ・ニクーリナ / ミハイル・ロブーヒン
Le Corsaire (pas de deux) (Chor. Petipa/CHEKRYGIN)
Anna Nikulina– Mikhail Lobukhin

ロブーヒンは「海賊」のアリはワイルドなキャラクターによく合っている。540を連続で決めてみたり、ダイナミックな踊りが映えた。ニクーリナはフェッテが得意のようで、腕をアロンジェにしてのダブルをたくさん入れてとってもよく回っていた。


≪第3部≫
パリの炎》よりパ・ド・ドゥ
(振付:ワイノーネン / ラトマンスキー、音楽:アサーフィエフ)
ナターリヤ・オーシポワ / イワン・ワシーリエフ
Natalia Osipova – Ivan Vasiliev

アダージオではまず、ワシーリエフと同じ高さで跳躍しているオーシポワのグランジュッテにびっくり。ワシーリエフは開脚したままの回転、身体を斜めというよりほとんど地面と平行に倒してきりもみ状態のトゥールザンレールを見せたかと思うと、連続2回の後3回転のトゥールザンレールを見せたり、またまた観たことが無いような凄い超絶技巧を開発して披露していた。いやはや凄すぎる。オーシポワはグランフェッテは前半は全部ダブルで、トリプルをはさんで後半はシングルシングルダブル、最後は4回転。音楽にあっていないところはあるけれども軸はまっすぐで独楽のように速いスピードでクルクル。場内は大盛り上がり。


ジゼル》よりパ・ド・ドゥ (振付:プティパ、音楽:アダン)
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ / アレクサンドル・セルゲーエフ
Gizelle (pas de deux) (chor.Petipa)
Yevgenia Obraztsova Alexandre Sergeiev

オブラスツォーワのジゼルはとても柔らかくて、生気に溢れていて情感があって、精霊ではなくて生身の少女という印象。ジゼルとしてはもう少し透明感があるのが正しいのだと思うけど、こんな愛らしく少女らしいジゼルはそれはそれで魅力的だ。彼女が全幕でジゼルを踊ったらどんな感じになるのだろうか。セルゲーエフは上半身がしなやかで、貴公子的で、ちょっと冷たそうなところが萌える。


プルースト~失われた時を求めて》より 囚われの女
(振付:プティ、音楽:サン=サーンス)
スヴェトラーナ・ルンキナ / アレクサンドル・ヴォルチコフ
Proust (duet) (Chor.Petit)
Svetlana Lunkina – Alexander Volchkov

「スペードの女王」のDVDでリーザ役を演じているなど、ルンキナはローラン・プティのお気に入りのバレリーナの一人のようだ。ゆるくウェーブした長い黒髪、華奢なルンキナは、眠れるアルベチーヌの儚さとたゆたう感じを体現していて、ぞっとするほど美しかった。パリ・オペラ座のダンサーで観る「囚われの女」とは全く違った印象なのが面白かった。ヴォルチコフのプルーストは薄味だったけど、ルンキナの美しさと表現力に目を瞠らされた。古典作品の多いガラにあって、プティ作品が入ると新鮮味があるし、改めてこの作品の素晴らしさを実感することになった。


ファニー・パ・ド・ドゥ(ザ・グラン・パ・ド・ドゥ)
(振付:シュプック、音楽:ロッシーニ)
ウリヤーナ・ロパートキナ / イーゴリ・コールプ
Funny Pas de Deux (chor. Shpuk)
Ulyana Lopatkina – Igor Kolb

ロパートキナのもったいないお化けが出るシリーズ第2弾。マリインスキー・バレエのオールスターガラでも彼女はコールプとこの作品を踊ったから、別の作品で観たかった。しかもコールプはBプロではこの作品しか踊らないし。原題の「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」ではなく「ファニー・パ・ド・ドゥ」という題名なのは、本来の振付からかなり変えてあるためではないだろうか。アクセントとなる牛さんのオブジェも置いていないし。がに股で腰を振り振りするロパートキナは可愛らしいし、目の周り真っ黒メイクでイライラしっぱなしのコールプも可笑しいんだけど。この作品、踊っている人自身に華がないとクスリとも笑えないけど、この二人がやるとさすがに面白い。「白鳥の湖」のパロディとなっているところのロパートキナの腕の使い方が美しく優雅なだけに、別の作品で観たかったと改めて思ってしまう。一番面白かったのはカーテンコールで、ロパートキナのことを無視して前に出ちゃうコールプが笑えた。


ドン・キホーテ》よりパ・ド・ドゥ
(振付:プティパ / ゴールスキー、音楽:ミンクス)
ガリーナ・ステパネンコ / アンドレイ・メルクーリエフ


2003年の世界バレエフェスティバル全幕プロ「ドン・キホーテ」でステパネンコとウヴァーロフを観て、バレエってこんなに楽しいんだ!と改めてバレエにハマったことを思い出した。あれから7年経ってもステパネンコはほとんど変わらず、超一流のテクニックと華やかさで魅せてくれる。メルクーリエフは今までエスパーダのイメージが強かったけど、バジル役もしっかりと軽妙に、しかし端正に踊ってくれて魅力的だった。コーダのピルエット・ア・ラ・スゴンドではずっと90度に上げた脚を保ちつま先までピンと伸びていて美しかった。Aプロの曲芸ペアとは打って変わって正統派の二人。


白鳥の湖》より黒鳥のパ・ド・ドゥ 
(振付:プティパ、音楽:チャイコフスキー)
ヴィクトリア・テリョーシキナ / レオニード・サラファーノフ
Swan Lake (pas de deux) (chor.Petipa)
Viktoria Tereshkina – Leonid Sarafanov

テリョーシキナの黒鳥が素晴らしいのは、すでに全幕でも観ているのでよーくわかっている。改めて彼女の持つラインの美しさ、テクニックの強さを実感した上で、さらにオーラと華やかさを身に着けてきたことがひしひしと感じられた。強い意志がすみずみから感じられて光を放っている。普段はそれほど高い位置まで脚を上げないのに、ここぞという決めポイントでは、驚異的なほど高いところまでアラベスクの脚を上げて強烈な残像を焼き付ける。邪悪さを感じさせるオディールで、ヴァリエーションもグリゴローヴィチ版が似合いそうだ。通常のオディールのヴァリエーションってさらりとした振付で、あまり印象に残らないことが多いのだけど、テリョーシキナが踊ると、エレガンスの中に潜む鋭い爪を感じさせて、この踊りの中に秘められた感情が見えてきて面白かった。グランフェッテは、両腕アロンジェでダブルを入れて音楽にもぴったり合っていて完璧。
サラファーノフの古典の技術はもちろん素晴らしい。ヴァリエーションで連続トゥールザンレールを入れるところが彼らしい。オディールに操られる気弱な王子というよりは、たくさん踊れて嬉しいな~僕って感じではあるけど、ガラの締めの一番だからそれもありかと。


Bプロはロパートキナの使い方がもったいなかったのとコールプが一演目しか出なかったのが残念だったけど、全体的には満足度は高い。『ロシアの踊り」のロパートキナ、「プルースト」のルンキナ、「タンゴ」のテリョーシキナ、「ゼンツァーノの花祭り」のサラファーノフ、「ドン・キホーテ」のステパネンコが特に素晴らしかったと思う。


休憩も含めると4時間もあるガラだけど、出演していたのは各バレエ団から男女4組ずつと意外と少ない。その人数を感じさせないほどボリューム感があり、ロシアバレエのクオリティの高さを改めて感じさせた。ただ、もう少し男性ダンサーに華がほしいなと思う。今回の出演者の中ではサラファーノフ(ワシーリエフは別枠って感じなんで)なんだろうけどサラファーノフはミハイロフスキーに行ってしまうし。男性スターダンサー不足は世界的な傾向のようだ。

演目について言えば、もう少し現代作品があったほうがよかったのではないだろうか。当初出演予定のザハロワがナチョ・ドゥアトを踊る予定になっていたのにキャンセルになったのが非常に残念だ。メルクリーエフが現代作品が得意なダンサーであるだけに、ナチョを踊る彼が見られなかったのが惜しい。

2010/10/28

新国立劇場バレエ団2011/2012シーズンオープニングはビントレーの新作「パゴダの王子」David Bintley's New Work "Prince of the Pagodas" World Premiere for New National Theatre Tokyo

新国立劇場バレエ団の2010/2011シーズンが本日の「ペンギン・カフェ/火の鳥/シンフォニー・インC」で明けました。私は明日10/28と11/2に観に行く予定です。

その新国立劇場バレエ団の来シーズンのオープニング作品が早くも決定しました。デヴィッド・ビントレー芸術監督振付で世界初演となる「パゴダの王子」とのことです。本日「ペンギン・カフェ/火の鳥/シンフォニー・インC」が上演されているオペラパレスで告知されていたとのことですが、プレスリリースもオフィシャルサイトに掲載されていました。

http://www.nntt.jac.go.jp/release/updata/20001219.html

このプレスリリースにも書いてある通り、「パゴダの王子」といえばケネス・マクミランが振付けて英国ロイヤルバレエ団で上演された作品が有名です。が、今回、ビントレー監督がストーリーを練り直し、全く新たな振付で新国立劇場バレエ団が世界初演するとのことです。とても楽しみですね!

前回ビントレー監督が新国立劇場バレエ団に振り付け世界初演された「アラジン」は海外からの注目を集め、海外バレエ団での上演も計画中とのことだそうです。バーミンガム・ロイヤル・バレエでも一部が上演されましたね。

日本から世界に向けて新しい作品を発信することは素晴らしいことだと思います。まだ2010/2011シーズンが始まったばかりですが、新国立劇場バレエ団の2011/2012シーズンのラインアップがとても楽しみですね。

2010/10/26

10/23 ボリショイ×マリインスキー合同バレエ2010 AプロBolshoi Ballet & Mariinsky Ballet joint Gala Program A

休憩2回を挟んでカーテンコールまで入れると4時間の長丁場。豪華なメンバーによる平均点の高いパフォーマンスは素晴らしく贅沢なものだったけど、頭の容量がオーバーしそうになってしまった。これを2日連続でこなしたダンサーの皆様もきっと大変だったことでしょう。

【Aプログラム】

パ・ド・カトル》( 振付:ドーリン、音楽:プーニ)
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ(ルシール・グラーン) /
アンナ・ニクーリナ(カルロッタ・グリジ) /
ガリーナ・ステパネンコ(ファニー・チェリート) /
ウリヤーナ・ロパートキナ(マリー・タリオーニ)
Pas de quatre (Chor. Dolin)
Anna Nikulina / Svetlana Lunkina / Yevgenia Obraztsova / Ulyana Lopatkina

幕が上がると、4人のバレリーナがポーズをしているシルエットが浮かび上がり、その典雅な美しさに思わずうっとり。4人とも素晴らしかったけど、ロパートキナのポール・ド・ブラの美しさといったらたとえようもないほどだ。ニクリーナの長くしなる脚には目を惹きつけられた。4人の実在のバレリーナがプライドにかけて美を競うこの演目において、一番対抗心を表に出していたのがオブラスツォーワ。久しぶりに見たステパネンコが全く衰えを見せずに貫禄と優雅さを両立させているのも凄かった。


眠れる森の美女》 第3幕のパ・ド・ドゥ 
(振付:プティパ、音楽:チャイコフスキー)
アリーナ・ソーモワ / レオニード・サラファーノフ
The Sleeping Beauty (Pas de deux 3 act)  (chor.Petipa)
Alina Somova - Leonid Sarafanov

ソーモワはガラではなぜいつもオーロラを踊るんでしょう。見るたびに良くなっているとは思うのだけど、ブンと顔より上に高く振り上げるデヴロッペの足先や硬さの取れない腕の運び方などはやはりどうしても気になってしまう。前よりあごを突き出し過ぎなくなったのは良いし、進歩をしているのはわかるんだけど・・・お姫様らしい慎ましやかさや優雅さがまだ足りない。サラファーノフは以前の華奢で少年のようなイメージから、大人のダンサーへと脱皮した。こんなに素晴らしいクラシックダンサーなのだから、マールイに移籍しても、古典も踊ってね。


海賊》よりパ・ド・ドゥ 
(振付:チェクルィギン / チャブキアーニ、音楽:ドリゴ)
ナターリヤ・オーシポワ / イワン・ワシーリエフ
Le Corsaire (pas de deux) (Chor. Petipa/CHEKRYGIN)
Natalia Osipova – Ivan Vasiliev

見たこともないような超絶技巧の跳躍を繰り出すワシーリエフには、思わず口もポカーン。彼は自分の役割を良く心得ているな、と。カンフーキックのような回転ジュッテは、まるでアクション映画というかワイヤーアクションを見ているみたい。自分の身長以上の高さで跳んでいたように見えたくらい。オーシポワのテクニックも当然凄いわけだけど、以前より女らしさが出てきたように見えた。


愛の伝説》よりモノローグとアダージョ 
(振付:グリゴローヴィチ、音楽:メーリコフ)
ヴィクトリア・テリョーシキナ / イーゴリ・コールプ
Legend of Love (monologue and adagio) (chor.Y.Grigorovich)
Viktoria Tereshkina- Igor Kolb

美貌を手放した女王メフメネ・バヌーに扮したテリョーシキナの、気高さの中にある苦悩と煩悶の表現が凄まじかった。テリョーシキナはしなやかな肉体が雄弁に語り、テクニックだけでなく表現力も見事なもので心を打たれた。途中から登場したフェルハド役のコールプの衣装(青のボディスーツに赤いマント、王冠)が凄すぎて笑いをこらえるのに大変だったけど、「愛の伝説」は全幕を観てみたい作品である。


ジゼル》よりパ・ド・ドゥ
(振付:ペロー / プティパ、音楽:アダン)
スヴェトラーナ・ルンキナ / アレクサンドル・ヴォルチコフ
Giselle (pas de deux) (chor.Petipa)
Svetlana Lunkina – Alexander Volchkov

今回のガラは、舞台装置を一切置かず、舞台奥のスクリーンに舞台美術の映像を映すという演出になっている。場面転換の時間が不要となり、おそらく経費も節減されて良いアイディアだと思ったが、「ジゼル」の場合にはこの演出が逆効果であった。「ジゼル」の2幕は暗い森の中にウィリの白い衣装が浮かび上がるのが幻想的で美しいのに、背景の森の映像が明るくて興ざめだったのである。そんなハンディがあったものの、ルンキナのジゼルは足音が全くせず、たおやかで美しい精霊だった。以前彼女のジゼルを観た時にはあまりの冷ややかさに驚いたものだったけど、今回はそれよりは少しだけ体温を感じ、柔らかかった。ヴォルチコフのアルブレヒトは普通。


ナルシスへのレクイエム》 
(振付:スメカーロフ、音楽:マンセル)
ウラジーミル・シクリャローフ
Requiem for Narcissus (chor. Smekalov)
Vladimir Shklyarov

音楽は映画「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」のサウンドトラックから。舞台には鏡があり、さらにシクリャローフが鏡に見立てた、顔に当てると顔に合わせて変形するほどの薄い反射する板を両手で持って踊る。自分の鏡像に取り憑かれた男という設定のようだ。いつもの甘い王子様ではなくシリアスなシクリャローフを観ることができたのは良かった。


ライモンダ》よりパ・ド・ドゥ
(振付:プティパ / グリゴローヴィチ、音楽:グラズノーフ)
ガリーナ・ステパネンコ / アレクサンドル・ヴォルチコフ
Raymonda (Chor. Petipa/Grigorovich)
Galina Stepanenko – Alexander Volchkov

ステパネンコの堂々たる姫君っぷりと、貫禄の中にも淑やかさを感じさせてくる輝きはこれぞボリショイのプリマバレリーナの風格。アダージオだけでなく、3幕のヴァリエーションも踊ってくれた。手は軽く打ち鳴らすパターンだった。ヴォルチコフは、ボリショイ独特のジャン・ド・ブリエンヌの長い白いマントが良く似合う。パリ・オペラ座の「ライモンダ」にアレクサンドロワと客演したときの彼はダメダメだったけど、今回はちゃんと騎士らしく決めるところはきっちりとキメて素敵だった。


別れ》( 振付:スメカーロフ、音楽:パウエル)
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ / アレクサンドル・セルゲーエフ
Parting (chor. Smekalov)
Yevgenia Obraztsova –Alexander Sergeyev

深いスリットが両脇に入った赤いドレスで小悪魔風のオブラスツォーワが腰掛けていて、タンゴの曲に合わせて彼女が立ち上がりずっとソロで踊るのかと思いきや、椅子がくるっと回転して反対側に座っていたセルゲーエフが現れるという趣向が面白い作品。男女が別れる、別れないということで諍いをするようすを描いているのだけど、ちょっと笑えるところもあったりして。いつもはロマンティックな雰囲気のオブラスツォーワが妖艶でしたたかなところを見せてくれていた。バレリーナにしては肉感的な肢体がまた色っぽくて新しい彼女の魅力を発見。セルゲイエフは身体がしなやかで雄弁、なかなかセクシーで魅力的だった。


タリスマン》よりパ・ド・ドゥ
(振付:プティパ / グーセフ、音楽:ドリゴ)
アンナ・ニクーリナ / ミハイル・ロブーヒン
Talisman (pas de deux) (Chor. Petipa)
Anna Nikulina– Mikhail Lobukhin

ロブーヒンは以前にもガラでこの作品を踊っているけど、よほどお気に入りなのかな。確かに、マッチョな彼によく似合う振付だけど少々長く感じられてしまった。大柄な彼が跳躍するとまるで風神雷神のようで(実際風神の役なんだけど)すごい迫力。薄い水色ワンショルダーの衣装のセンスは良くないというか、これをかっこよく着こなせるダンサーは世界中に一人もいないと思うけど。ニクーリナは華奢で脚が長い上、なんとまあ可愛いこと。


タランテラ》 (振付:バランシン、音楽:ガチョーク / ケイ)
ヴィクトリア・テリョーシキナ / レオニード・サラファーノフ

本日の白眉のひとつ。テリョーシキナもサラファーノフもノリノリで、細かく素早いステップを楽しげに踏んでいった。サラファーノフのアントルシャ・シスの高いこと!テリョーシキナのお茶目な表情は可愛かったし、長い脚をエシャッペするところはケレンミたっぷり。途中からサラファーノフは客席に手拍子をするように煽って場内は大盛り上がり。楽しかった!
Tarantella (chor. G.Balanchine)
Viktoria Tereshkina – Leonid Sarafanov


黄昏のヴェニス
(振付:ヴィスクベンコ、音楽:ニンファ、フレーム、ヘーフェルフィンガー)
スヴェトラーナ・ルンキナ / アンドレイ・メルクーリエフ
Svetlana Lunkina - Andrei Merkuriev

9月にパリで開催された「21世紀のスターたちガラ」の舞台写真で、メルクーリエフが長髪になっているのは予想はついていたのだけど実際目にすると少々びっくり。ゆるくウェーブした金髪でビジュアル系王子になっていた。後でプログラムを読むと、昨年亡くなったエカテリーナ・マキシーモワを追悼するために振付けられて昨年初演されたばかりの作品だという。上演前にプログラムを読めなかったので予備知識なしで観たのだが、憂いを秘めたメルクーリエフ、美しい想い出のように清楚で儚げに佇むルンキナと、まるで亡き恋人を思い出しているような雰囲気があった。情感溢れたふたりの踊りにうっとりさせられた。


チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ》 
(振付:バランシン、音楽:チャイコフスキー)
アリーナ・ソーモワ / ウラジーミル・シクリャローフ
Tchaikovsky Pas de deux (chor.Balanchine)
Alina Somova – Vladimir Shklyarov

「眠れる森の美女」と同様、ソーモワにとって「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」は鬼門だと思う。何回も彼女のこのパ・ド・ドゥを観ていて、観るたびに改善されているのはわかるのだけど、音楽性の無さだけは良くならない。したがってこの作品に必要な軽やかさが出ない。シクリャーロフはソロになると生き生きするのだけど、サポートがあまり得意ではない模様。


スパルタクス》よりデュエット 
(振付:グリゴローヴィチ、音楽:ハチャトゥリャン)
アンナ・ニクーリナ / ミハイル・ロブーヒン
Spartacus (chor. Y.Grigorovich)
Anna Nikulina – Mikhail Lobukhin

ロブーヒンはスパルタクス要員としてボリショイに移籍したと聞いていたけど、プログラムによれば「今後挑戦したい役は『スパルタクス』」と語っているので、まだ全幕では踊ったことがないのかしら。男らしい彼にはワイルドなスパルタクス役はとてもよく似合う。ニクーリナも華奢な身体、短い衣装から伸びた長い脚、幸薄そうなフリーギア役がぴったり。フリーギアを逆さにして片手でサポートする難しいリフトをロブーヒンはばっちりと決め、ニクーリナは逆さの状態で片足をルティレまで移動させて美しくポーズ。見応えたっぷりだった。ボリショイ・バレエの次の来日公演ではこの「スパルタクス」が上演予定(他に「ライモンダ」と「白鳥の湖」)とのことで、今からとても楽しみである。


シンデレラ》よりデュエット 
(振付:ラトマンスキー、音楽:プロコフィエフ)
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ / アレクサンドル・セルゲーエフ
Cinderella (chor.Ratmansky)
Yevgenia Obraztsova – Alexander Sergeyev

シンデレラに扮したオブラスツォーワがすごく可憐で、時間を気にして周囲の人たちに時間を尋ねるマイムをする時の心配そうなところも愛らしくも表情豊かだった。ラトマンスキー版の「シンデレラ」は全幕通して観たことがないので観てみたい。


カルメン組曲》より
(振付:アロンソ、音楽:ビゼー / シチェドリン)
ガリーナ・ステパネンコ / アンドレイ・メルクーリエフ
Carmen Suite
Galina Stepanenko - Andrei Merkuriev

2006年の世界バレエフェスティバルでも、ステパネンコとメルクーリエフでアロンソ版「カルメン」を踊っていたことを思い出した。あの時もショッキングピンクに黒い水玉のてんとう虫のようなメルクーリエフの衣装に仰天したものだった。ステパネンコのカルメンはド迫力で、脚捌きも鮮やかで粋でかっこ良い。メルクーリエフはロングヘアもあいまって妖しさを醸し出しつつも、カルメンにからめとられていくホセを好演。


ジュエルズ》より〈ダイヤモンド〉のパ・ド・ドゥ
(振付:バランシン、音楽:チャイコフスキー)
ウリヤーナ・ロパートキナ / イーゴリ・コールプ
Pas de Deux from «Diamonds» (chor.G.Balanchine)
Ulyana Lopatkina – Igor Kolb

この日もっとも楽しみにしていた演目のひとつ。そしてその期待は裏切られず、ロパートキナの至高の輝きをたっぷりと味わうことができた。「ダイヤモンド」という作品、踊り手によっては退屈に感じられてしまうのだけど、ロパートキナが踊ると瞬きをすることすら惜しくなる。チャイコフスキーの郷愁を誘う音楽とともに、どこまでも澄み渡りきらめく光を感じているような気持ちになる。優雅で高貴なのだけど、宝石店や美術館に飾られているダイヤモンドではなく、家族に受け継がれて長年愛用されてきたジュエリーのように温かみがある。ロパートキナのきらめきは、彼女を見事にサポートしているコールプの功績があってのことであるのは言うまでもない。


ドン・キホーテ》よりパ・ド・ドゥ 
(振付:プティパ / ゴールスキー、音楽:ミンクス)
ナターリヤ・オーシポワ / イワン・ワシーリエフ
Don Quixote (pas de deux) (Chor. Petipa/Gorsky)
Natalia Osipova – Ivan Vasiliev

トリに相応しく、また超絶技巧合戦が繰り広げられた。ワシーリエフは後方へのバットゥリーをする際に両脚を広げたり、ソ・ド・バスクも普通のソ・ド・バスクではなく変形版をしたりとまたまた新しい技を披露していた。ピルエットではスピードを自在にコントロールし、減速しながらピタッとフィニッシュ。バレエとして正しいかどうかは置いておいて、これだけ凄いものを見せてもらうと得した気分になる。オーシポワの方は以前よりも正統派バレリーナに近づいているようで、とにかく安定感が尋常じゃない。グラン・フェッテも、ダブルをたくさん入れながらも余裕がたっぷりあった。キトリ以外の役で、彼女がどのような踊りを見せてくれるのか観てみたくなった。


4時間にわたる上演時間で17演目と、通常のガラの倍ほどのボリュームたっぷりの豪華ガラ。これは外れという演目がほとんど無くてロシアバレエの底力を感じた。その中でも、「タランテラ」「愛の伝説」のテリョーシキナ、「ダイヤモンド」のロパートキナは飛びぬけて素晴らしかったと思うし、ステパネンコの健在振りも嬉しかった。全体的に見て、バレリーナは非常にレベルが高いのと比較すると男性ダンサーがやや弱い印象があった。ロシアバレエで大スターと呼べる男性ダンサーがどれほどいるのか、と思うと実はいないのだ。今回、男性は若手ダンサーが多く出演しているので、この中から大スターに育つ人が出てきて欲しいと切実に思う。

2010/10/24

10/16 オーストラリア・バレエ団「くるみ割り人形-クララの物語」 The Australian Ballet Graeme Murphy's Nutcracker

グレアム・マーフィ振付によるオーストラリア・バレエの「くるみ割り人形」は、バレエ・リュスとオーストラリアにバレエをもたらした過去の名バレエダンサーたちに捧げられた、美しく切なさを感じさせる逸品。普通の「くるみ割り人形」と違って、まるで一本の映画、それも大河ロマンを観たような気持ちになった。

南半球にあるオーストラリアのクリスマスは真夏にある。ささやかな暮らしを営む元バレリーナのクララは、バレエ・リュス時代の同僚たちだったロシア人元ダンサーたちを招いてクリスマス・パーティを開く。ラジオから流れてくる「くるみ割り人形」のメロディがいつの間にかオーケストラの演奏になっているところが巧い。小さなツリーにはバレリーナ時代のアクセサリー、そしてリボンのついたメダルを飾って。今では老人となった元ダンサーたちは、マトリョーシカを並べて踊りだす。若いダンサーが老人に扮しているのではなくて、実際のお年寄りたちが踊っており、さすがに皆元ダンサーだけあって、背筋もピンと伸びて美しい。中でも、クララ役のマリリン・ジョーンズはつま先も美しいし、脚捌きもきれい。このお年寄りたちの踊りがなんともほのぼのして、ほんのりと心が温まる。

クリスマスの宴には、若い医師も訪ねてくる。クリスマスというのにおばあちゃんとなったクララのところに来るとはなんと面倒見の良いことか。医師は、メガネをかけたケヴィン・ジャクソンで、本当は二枚目なのにメガネをかけるとどこか純情そうで晩生な感じに見えるのが可愛い。医師は映写機を持ってきており、シーツを広げた急造のスクリーンに映し出されるのはクララが活躍していた昔のロシア帝室バレエの映像。古ぼけてぼんやりとした映像だけど、クララの舞台上での輝きは伝わってくる。つられて踊りだすクララだけど、すぐに疲れてしまって寝室で寝込んでしまう。仲間たちもクララの様子を見て辞去し、医師だけが彼女を見守る。きっと元ダンサーたちもクララに会うのはこれで最後かもしれないと思いながら去っていったのだろうと思うと、寂しさが胸を去来する。

大きなネズミやバレエ学校時代の自分などの幻覚を見るクララ。ネズミたちはボルシェビキ軍の扮装をしており、最愛の恋人だった将校がロシア革命のさなか彼らに倒される悪夢を見る。通常クリスマスツリーが巨大化するところで代わりに登場するのは大きなマトリョーシカ。一つ一つマトリョーシカを開けていくと、しまいには少女時代のクララが現れるという仕掛けが面白い。クララがベッドから起き上がると、いつのまにかバレリーナとしての若い姿に変身しており、医師の服を脱がせてメガネをはずすと、将校の姿が現れる。愛する人の姿を確認すると、クララは夏のオーストラリアから雪のロシアへと舞い戻り、粉雪が降る中、将校と愛を確かめ合うように踊る。この時に現れる雪の精たちのフワフワの綿帽子のようなかぶりものが可愛い~!クララと将校のパ・ド・ドゥはやっぱりフィギュアスケートのペアのような、リフトを多用したものだけどケヴィン・ジャクソンもリフトはすごくうまい。


2幕は、少女時代のクララが帝室バレエ学校で稽古に励む日々から始まる。客席に背を向けてレッスンに励む少年少女たち。少女クララ役の柴平くるみさんが素晴らしいグランフェッテを見せてくれた。優れた生徒の証としてクララはメダルを与えられる。このメダルをクララは引退後も大切に取っておいて、クリスマスツリーにかけたというわけだ。

晴れてマリインスキー劇場の帝室バレエ団の一員となったクララは、若い将校と愛し合うようになる。仲間のカップルたちと連れ立ってのピクニックのシーンが、葦笛の踊りの曲に合わせて軽妙に踊られる。昨年の世界バレエフェスティバルでルシンダ・ダンとロバート・カランが踊ったパ・ド・ドゥだ。振り回すようなリフトがここでも多用されているけど、非常に軽やかで爽やかな踊り。踊り終わるとともに急に雨が降り出して二人で走り去っていくところが印象的。

帝室舞踏会で「くるみ割り人形」が踊られる。まずはライオン丸のような大きく広がったヘアスタイルのかつらをかぶってゴテゴテと派手な衣装をまとった女性たちと、ちょうちんブルマのようなレトロな衣装を着たキャバリエたちによる群舞が時代を物語る花のワルツ。金平糖の精のグラン・パ・ド・ドゥは、クララと王子役のダンサーが華やかに踊る。終演後、着飾ったクララに、パトロンたちが次々と贈り物を持ってくる。最初は突き返そうとするクララだけど、結局受け取って衣装係にそれらプレゼントをあげてしまうのが可笑しい。最後に恋人の将校がやってきて二人は情熱的なパ・ド・ドゥを踊る。

幸せな日々は長く続かないのが切ない。将校は戦争へ赴く。紗幕の向こうで、トレパックの曲に合わせてボルシェビキ軍との戦いが繰り広げられる。紗幕には戦争の映像が映し出されて砲弾の爆発する音もする。ついに将校が銃弾に当たって斃れると、恋人の死を知ったクララも紗幕の前で崩れ落ちるように倒れる。そのとき、彼の肖像写真を持った年老いたクララが、そっとクララを抱きしめる。

紗幕への映像の使い方が巧みなこの作品、映像の中にはエイゼンシュタインの映画「十月」からのレーニンの演説する映像も引用されているとのこと。革命の嵐がロシアを襲い、クララはロシアを離れる決心をしてディアギレフのバレエ・リュスに加わる過程を映像が代弁している。世界中のオペラハウス、旅立つ船、そしてバレエ・リュスの映像も映し出されている。

クララとバレエ・リュスの巡業先を象徴させるものとして、ディベルティスマンが使われている。スペインではジプシーの踊り、スエズ運河で働く労働者たちの姿に重ね合わせてアラビアの踊り。中国では、しばしの無音の後、ゆっくりと太極拳をする人々の間を、クララを乗せた人力車がすり抜ける。このディベルティスマンのシーンは工夫されているのはわかるのだが、既成概念の踊りにとらわれまいとしたばかりに、冗長なものになってしまったのが残念である。この作品の数少ない欠点のひとつだ。

クララと彼女が所属するバジル大佐のバレエ・リュスはオーストラリアの港に到着。港で迎えるのは元気いっぱいの水兵たち。ちょっと「ファンシー・フリー」のような雰囲気。水兵の一人に、「小さな村の小さなダンサー」で主人公リー・ツンシンのバレエ学校時代を演じていたチェンウ・グォを発見。彼は帝室バレエ学校のシーンで生徒役としても出演していた。この水兵たちは歓声まで上げちゃって、本当に楽しげ。現地の新聞カメラマン向けに、ちょっと気取ってポーズを取ってみせるクララはハリウッド女優のようにゴージャスだ。

再び世界大戦が勃発し、オーストラリアに残る決心をしたクララはボロヴァンスキー・バレエ団に加入。そしてついに彼女が舞台を去る日のパフォーマンスに。バレエ・リュスを髣髴させる、小さめのチュチュと赤、オレンジ、茶色をあしらったモダンで美しい衣装に身を包んだ群舞とクララは、私たち客席に背中を向けて踊っている。舞台奥が客席という設定になっており、観客はバレエが上演されている舞台の裏からダンサーたちを見ている感じになる。まるで舞台に自分たちもスタッフとして立っているような気持ちになる。スポットライトと喝采を浴びるクララ。花が舞台に投げ入れられる。カーテンコールを終えてこちらを振り向いたクララは、レイチェル・ローリンズが演じるクララではなく、年老いた姿のクララだった。ここで、思わず涙・・・。マリリン・ジョーンズがチュチュを着用していても、脚のラインが現役のバレリーナのように美しいことに驚かされたが、それよりも万感の思いがこみ上げてきた。

華やかな舞台はいつしか老クララのアパートのベッドとなり、少女時代のクララ、大人のクララが横たわっている。そこにチュチュ姿の老クララも横たわる。医師が老クララの脈を取ると、クララがバレリーナとしての夢を生きたまま旅立っていたことが伝わってきた。

一人のバレリーナの波乱の生涯をたどることによって、オーストラリアへバレエがもたらされた歴史を語ったこの作品。舞台を生きることの幸せと哀しみを同時に物語っていて、鮮やかな記憶として心へとしみ入った。中でも、老いても美しく凛としているマリリン・ジョーンズの名演は、舞台人としての矜持を見せつつ、素敵な夢を見せてくれた。


オーストラリア・バレエ団
「くるみ割り人形-クララの物語」(全2幕)


振付:グレアム・マーフィー
共同製作:ジャネット・ヴァーノン
構成:グレアム・マーフィー、クリスティアン・フレドリクソン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
装置・衣裳:クリスティアン・フレドリクソン
照明:ジョン・ドゥルモンド・モンゴメリー
映像コラージュ:フィリップ・シャールエット

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年老いたクララ:マリリン・ジョーンズ
クララ、バレリーナ:レイチェル・ローリンズ
子ども時代のクララ:柴平くるみ

第1幕

ロシア人たち:オードリー・ニコルズ、キャスリーン・ゲルダード、シェーン・キャロル、
コリン・ピーズリー、ロバート・オルプ、フランク・レオ、アンドリス・トッペ
医師/恋人の将校: ケヴィン・ジャクソン


第2幕

バレエ教師:コリン・ピーズリー
バレエ学校校長:アンドリス・トッペ
将校:ダニエル・ゴーディエロ、ティ・キング=ウォール
クララの友人:リアーン・ストイメノフ、ジーナ・ブレッシャニーニ
ニコライ皇帝、アレクサンドラ皇后:ベン・デイヴィス、ローラ・トン
大公妃たち:ジュリエット・バーネット、エイミー・ハリス、キスメット・ボーン、ヴィヴィアン・ウォン
皇帝の護衛隊:ブレット・サイモン、アンドリュー・ライト、ジャリド・マッデン、ギャリー・ストックス
"くるみ割り人形"-王子、クララ:アンドリュー・キリアン、レイチェル・ローリンズ
スペイン:ローラ・トン、ジュリエット・バーネット、久保田美和子、マシュー・ドネリー、ベン・デイヴィス
エジプト:ジャリド・マッデン、ジョン=ポール・イダジャク、ミッチェル・レイナー、
ジェイコブ・ソーファー、アンドリュー・ライト、ノア・ガンバート、ジャ・イン・ドゥ
オーストラリアの水兵たち:ツ・チャオ・チョウ、ダニエル・ゴーディエロ、チェンウ・グオ、
ジャ・イン・ドゥ、ジェイコブ・ソーファー、マシュー・ドネリー

指揮:ニコレット・フレイヨン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
合唱:江東少年少女合唱団
協力:東京バレエ学校

2010/10/22

オハッド・ナハリンのGAGAワークショップ/パリ・オペラ座のiPhoneアプリ

一昨日は彩の国さいたま芸術劇場の地下スペースで、バットシェバダンスカンパニーのオハッド・ナハリン自らの指導によるGAGAメソッドのワークショップ「GAGAピープル」を受けてきました。
http://www.gaga-japan.org/index.html

GAGAはバットシェバダンスカンパニーのダンサーたちも毎日行っているトレーニングのひとつです。

誰でも参加できるGAGAピープルと、ダンス経験者向けのGAGAダンサーズの二つがあり、今回は初めてだったのでGAGAピープルに参加しました。本当にダンスの経験が一切ない人でも、難しいことは何もしないので、すぐに入っていけて、非常に楽しいワークショップでした。自分の体に対する意識、骨や肉に対する意識、体の中を流れているものに対する意識を向けていきながら、さまざまな動きをオハッド・ナハリンに指示されながら行います。自分自身の肉体を感じ、肉体に限定されない広がり、自由な可能性を感じることができました。何よりも体を動かすことの楽しさに目覚めることができ、とても爽快な気分になりました。今度はぜひダンサーズの方も受けてみたいなって思います。

オハッド・ナハリンは高名な振付家であるのに、本当に親しみやすくて、魅力的な雰囲気の方でした。バッドシェ場ダンスカンパニーは直前にNYで公演を行ったようですが、また近いうちに日本でも公演を行ってほしいなって思います。

*********
全然話は変わりますが、パリ・オペラ座からメールが来ていて、iPhone/iPodTouch/iPad対応のアプリがiTunesのAppストアに登録されたとのことで、早速ダウンロードしてみました。

Opéra national de Paris
http://itunes.apple.com/fr/app/opera-national-de-paris/id392606246?mt=8

ガルニエの重厚な緞帳がトップのイメージとなっています。機能としては、スケジュール(カレンダーからチケットを購入することも可能です。ただし、アプリ内では完結せず、サファリを起動することになります)、ニュース、動画(Quick Timeでの再生、「パキータ」などの動画が見られます)、そしてガルニエを訪問する際の一般的な情報などです。

バーミンガム・ロイヤル・バレエもウィジットをはじめており、このような取り組みを行うカンパニーは増えていくものと思われますね。
http://www.brb.org.uk/Widget.html

2010/10/20

レオニード・サラファーノフがミハイロフスキー・バレエに入団

ミハイロフスキー・バレエ(レニングラード国立バレエ)のオフィシャルサイトに、マリインスキー・バレエのレオニード・サラファーノフが来年1月に移籍する加入という驚きのニュースのリリースが掲載されていました。

Leonid Sarafanov is coming to the Mikhailovsky Ballet
http://www.mikhailovsky.ru/en/events/leonid-sarafanov-is-coming-to-the-mikhailovsky-ballet/

それによると、2011年1月22日に彼はミハイロフスキーに移籍する加入するとのこと。伝統的なレパートリーだけでは物足りない可能性を自分は秘めていると考えており、ナチョ・ドゥアトが芸術監督を務めることになったミハイロフスキーで、新しい芸術的なクオリティを高めることができるのではないかと思って移籍を決めたとのことだそうです。

1月の移籍ということでミハイロフスキー(レニングラード国立バレエ)の日本での公演には間に合いませんが、今後来日公演があったときには彼の姿を見ることができる可能性がありますね。

なお、ジャパンアーツのブログによれば本日、ボリショイ&マリインスキー合同公演に出演する両バレエ団が元気に来日したとのことなので、サラファーノフももちろん来日していると思われます。きっとインタビューでは移籍のことについて語るのでしょうね。

サラファーノフの妻で最近産休から復帰したオレシア・ノーヴィコワがミハイロフスキーに移籍するのかどうかも気になります。

追記:よく考えてみると「moving」というのは、移籍というより参加するということであり、マリインスキーとの契約がどうなっているのかは不明なので、「入団」という表現に変更してみました。

2010/10/18

東京バレエ団「ラ・バヤデール」2011年4月再演/「ダンス・イン・ザ・ミラー」Tokyo Ballet "La Bayadere" 2011/4

2009年9月に初演された東京バレエ団「ラ・バヤデール」が、シュツットガルト・バレエのフリーデマン・フォーゲルとマリインスキー・バレエのレオニード・サラファーノフをソロル役に迎えて2011年4月に再演されます。ニキヤは上野水香さんに、初ニキヤ役の小出領子さん。

初演の時はゲストなしだったのですが、今回は木村さんのソロルが観られなくて残念です・・・。(多分フォーゲルもソロル役は初めてなんじゃないかしら)

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/20114.html

東京バレエ団
「ラ・バヤデール」

会場 : 東京文化会館

公演日程、キャスト :
4月13日(水)18:30
4月16日(土)15:00
ニキヤ 上野水香
ソロル フリーデマン・フォーゲル Friedemann Vogel
ガムザッティ 奈良春夏
ブロンズ像 松下裕次
ラジャ 木村和夫
大僧正 後藤晴雄
第1ヴァリエーション 田中結子
第2ヴァリエーション 佐伯知香
第3ヴァリエーション 高木 綾

4月14日(木)18:30
4月17日(日)15:00
ニキヤ 小出領子
ソロル レオニード・サラファーノフ Leonide Sarafanov
ガムザッティ 田中結子
ブロンズ像 井上良太
ラジャ 木村和夫
大僧正 柄本武尊
第1ヴァリエーション 岸本夏未
第2ヴァリエーション 奈良春夏
第3ヴァリエーション 乾 友子

なお、東京バレエ団は、2月に「ダンス・イン・ザ・ミラー」という新作を上演します。同時上演は「ボレロ」

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/post-258.html

モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマンが、ベジャールの遺した「現代のためのミサ」「未来のためのミサ」「バロッコ・ベルカント」「ヘリオガバル」「M」「舞楽」「火の鳥」からの抜粋を、一晩のプログラムとして編み直した新演出プログラム「ダンス・イン・ザ・ミラー」の公演概要が決定しました。今回の公演では、この新作とともにベジャールの代表作である「ボレロ」を併演いたします。


「ダンス・イン・ザ・ミラー」 東京バレエ団初演
振付:モーリス・ベジャール 演出:ジル・ロマン

  ●「現在のためのミサ」 ―ソロ、アンサンブル
  ●「舞楽」 より
  ●「未来のためのミサ」 -アンサンブル
  ●「ヘリオガバル」 -パ・ド・ドゥ
  ●「バロッコ・ベルカント」 ─パ・ド・シス
  ●「バロッコ・ベルカント」 ─パ・ド・トロワ
  ●「M」 ─アンサンブル
  ●「火の鳥」 より
  ●フィナーレ ~「未来のためのミサ」 全員

【公演日程】
2011年2月4日(金)7:00p.m.
2011年2月5日(土)3:00p.m.
2011年2月6日(日)3:00p.m.

【会場】ゆうぽうとホール
【予定される主なキャスト】
「ダンス・イン・ザ・ミラー」東京バレエ団
「ボレロ」メロディ:後藤晴雄(2/4)、高岸直樹(2/5)、上野水香(2/6)

2010/10/17

ABTの2011年METシーズンラインアップ

ABTの2011年METシーズンラインアップが発表されています。METシーズンは5月16日から7月9日までの8週間開催されます。

http://www.abt.org/insideabt/news_display.asp?News_ID=322

新作として、アレクセイ・ラトマンスキーとクリストファー・ウィールダンによる世界初演作品があるほか、アレクセイ・ラトマンスキーの傑作コメディ「明るい小川」のMET初演とベンジャミン・ミルピエによる新作が予定されています。

プリンシパルは、ロベルト・ボッレがカンパニーの一員として出演するほか、ゲスト・プリンシパルとしてナタリア・オシポワとアリーナ・コジョカルが出演する予定となっています。

6月30日には、ホセ・カレーニョのフェアウェル公演「白鳥の湖」が行われ、オデットをジュリー・ケント、オディールをジリアン・マーフィが踊ります。

「明るい小川」The Bright Stream 6月9日初日 パロマ・ヘレーラ、マルセロ・ゴメス、ジリアン・マーフィ、デヴィッド・ホールバーグ (ABTでの初演は、2011年1月21日ケネディセンターで予定)

ミックスプロ 5月24日~26日 ラトマンスキーの世界初演作品、ウィールダンの世界初演作品、Shadowplay(アンソニー・チューダー振付作品)、ベンジャミン・ミルピエの新作(世界初演は、2011年3月のABTモスクワ公演で行われる予定)

「ドン・キホーテ」 Don Quixote 5月17日初日 パロマ・ヘレーラ、ホセ・カレーニョ
「ジゼル」Giselle 5月27日初日、ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス 新ソリストのヒー・セオがデヴィッド・ホールバーグを相手にジゼル役デビューを飾ります
「椿姫」Lady of the Camellias、6月3日初日、ジュリー・ケント、ロベルト・ボッレ
「コッペリア」Coppelia 6月16日、シオマラ・レイエス、エルマン・コルネホ
「シンデレラ」Cinderella(ジェームズ・クデルカ振付) 6月21日初日、ジリアン・マーフィ、デヴィッド・ホールバーグ
「白鳥の湖」Swan Lake イリーナ・ドヴォロヴェンコ、マキシム・ベロツェルコフスキー
「眠れる森の美女」Sleeping Beauty 7月5日初日、ヴェロニカ・パールト、マルセロ・ゴメス

なお、各日のキャストはカレンダーの該当月を見ると判明します。
http://www.abt.org/performances/calendar_index1.asp

「ドン・キホーテ」で5月18日に加治屋百合子さんとダニール・シムキンが主演するほか、5月20日にはアリーナ・コジョカルがキトリ役でホセ・カレーニョと踊ります。
5月28日の「ジゼル」では、アリーナ・コジョカルがイーサン・スティーフェルと主演。「眠れる森の美女」7月6日がナタリア・オシポワ主演(パートナーはデヴィッド・ホールバーグ)、7月8日がアリーナ・コジョカル主演(パートナーはエルマン・コルネホ)
また、6月18日のマチネ公演のフランツはダニール・シムキンが踊ります。

注目の「明るい小川」は、初日キャストのほかは、6月10日、15日昼ジュリー・ケント、ホセ・カレーニョ、ヒー・セオ、未定、6月11日昼、14日未定、エルマン・コルネホ、ナタリア・オシポワ、ダニール・シムキン、6月11日夜、15日夜ヴェロニカ・パールト、アレクサンダー・ハムジ、ステラ・アブレラ、コリー・スターンズとなっています。順番で行くと4番目になっているのがおそらくは、女装してポアントで踊るクラシック・ダンサーの役なので、デヴィッド・ホールバーグ、ダニール・シムキン、コリー・スターンズの妙技を見ることができそうですね。

*********
というわけで、METシーズン最大の楽しみが「明るい小川」にあることは間違いありません。ボリショイの来日公演で観ましたが、これは本当に爆笑の大傑作ですよね。ボリショイのNY公演でも上演されていますし、きっとMETでも大ウケすることでしょう。「椿姫」の再演も楽しみですね。そしてアリーナ・コジョカルが3演目に出演するのが驚きです。

一方で、あまり評判の良くないマッケンジー版の「眠れる森の美女」やクデルカ版の「シンデレラ」が上演され、マクミラン作品の上演がないのが残念なところです。

それからアンヘル・コレーラの出演が現在のところひとつもないのが残念ですし、ロベルト・ボッレも「椿姫」のみの出演の予定のようですね。まだ「ドン・キホーテ」「ジゼル」「白鳥の湖」で出演者が未定の日があるので、それを誰が踊るのか注目されると思います。スターシステムで動いているABTはゲストが主役を占める日が増えてしまって、生え抜きのダンサーがなかなか育たないのが問題です。その中でも、コリー・スターンズ、ヒー・セオの二人をはじめ、アレクサンダー・ハムジ、そして加治屋百合子さんはプッシュされているという感じでしょうか。

2010/10/15

SWAN MAGAZINE 2010 秋号 Vol.21

ロシア・バレエの永遠のライバル、マリインスキー・バレエとボリショイ・バレエがこの秋、合同ガラ公演を行う。現地観劇ルポやスター6人のインタビューなどを通して、ロシア・バレエの最前線に迫る。

ちょっと遅くなってしまいましたが、SWAN MAGAZINEの最新号が出ています。巻頭の「エトワールに夢中」6回目はマチュー・ガニオで、パリ革命記念日の7月14日に楽屋で行われたインタビューが掲載されています。怪我を経ての心境の変化や4人のオペラ座バレエ学校生徒のプティ・ペールとしての心構えなどについて語っています。「エトワール・ガラ」での舞台写真や「ドガの踊り子」の口ひげを生やした写真など、素敵な写真も掲載されています。

特集はマリインスキー・バレエ&ボリショイ・バレエ。サンクトペテルブルグとモスクワへの現地取材ありで、マリインスキー・バレエはヤコブソン版「スパルタクス」、ボリショイ・バレエは「ペトルーシュカ」「ロシアン・シーズン」「パキータ」のトリプル・ビル。インタビューは、「スパルタクス」でフリーギヤ役を演じたヴィクトリア・テリョーシキナ、「ペトルーシュカ」のタイトルロールを演じたアンドレイ・メルクーリエフをはじめ、マリインスキーのウリヤーナ・ロパートキナ、ボリショイのアレクサンドル・ヴォロチコフ、イワン・ワシーリエフのインタビューが載っていて大変豪華です。メルクーリエフが、ペトルーシュカのことを「永遠に続く無理解との戦いを表現しているもの」と語っていたのが印象的でした。

また、エトワール・ガラに出演したエフゲーニャ・オブラスツォーワ、アレクサンドル・リアブコのインタビューも載っています。リアブコは奥様のシルヴィア・アッツオーニと映画「アバター」を一緒に見に行ったんですね。

今月から新国立劇場の新しいシーズンが始まるということで、デヴィッド・ビントレー新芸術監督と、ソリストの小野絢子さん、福岡雄大さんのインタビューが掲載されています。デヴィッド・ビントレーは、「バレエはエンターテインメントとはバランシンの言葉だけど、私の持論でもある」と語っています。見て感じて存分に楽しめる新しいシーズンを期待したいですね。

連載の「SWAN モスクワ編」では、セルゲイエフ先生が振り付ける「春の祭典」の生贄の乙女役に選ばれた真澄が、先生への想いに戸惑いつつ、レオンが彼女に急接近するところが描かれています。こちらも次号が楽しみでなりません。


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2010/10/13

10/10 オーストラリア・バレエ団「白鳥の湖」 The Australian Ballet Swan Lake by Graeme Murphy

すっかりブログの更新を休んでしまって申し訳ありません。一度ブログの更新をしないことの楽さを覚えてしまうと、ついつい怠けがちになってしまいます。文章を書く勘のようなものまで鈍ってしまっていけません。

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3年前の来日公演で観て、その大胆でユニークな舞台に舌を巻いたグレアム・マーフィ振り付けによるオーストラリア・バレエの「白鳥の湖」。3年前にぜひ再見したいと思ったこのプロダクションを再び観られる幸運に感謝。前回の来日ではルシンダ・ダンの女の情念溢れる男爵夫人を堪能したので、今回は別キャストで観ようとこの日を選んだ。

プロローグの音楽の使い方から、作品の世界への導入の仕方が巧いって改めて思う。あの激しさを感じさせるプロローグの音楽は寝室で愛を交わす場面に実はぴったりだったってことに気がつく。幸せいっぱいの美しい結婚式になるはずだったロイヤル・ウェディングでの出来事は、どのような成り行きになるのかわかっていても、改めて実演の舞台に接すると新鮮だ。展開の妙と生々しい駆け引きや感情の揺れがダイレクトに伝わってきて衝撃的である。

あからさまに王子と男爵夫人が視線を絡ませ合っているのを目の当たりにしたオデットの心乱れる姿が痛々しい。主役であるはずの晴れの日なのに女王はじめ誰一人としてオデットの味方になってくれず、王子の不貞行為も見てみぬふりをしている。オデットはジゼルのように精神に混乱をきたし、マノンのように次々と男性たちの腕に身を任せては、グランフェッテで大旋回。オデットが王子に蹴りを入れたかと思ったら湖に身を投げようとするまでの嵐のような一連の流れの中においても、彼女のどうしようもなく痛ましい心情が表現されていて心が痛くなる。オデットの白いドレスの下にはグレーのペチコートが隠されていて、彼女が混乱して踊りが激しくなるにつれてそれが現れ、彼女の猜疑心を象徴させているのが巧妙な仕掛けだ。一方で男爵夫人のドレスのレースからは、黒い裏地が透けて見えて彼女の狡猾な企みが浮かび上がる。

サナトリウムに送られたオデットを見舞う王子、だが窓の外には男爵夫人の影があり、傷心のオデットは小さな子供のように怯える。彼女の心を癒すのは、夢の世界での白鳥たちと過ごす世界だけ。2幕の湖畔のシーン、凍てつく湖の上で白鳥たちが一羽一羽と上体を起こしていく時の、めくるめくような幻想的な世界の美しさは、実際の舞台で観ると心が震えるほど。コール・ドは16人プラス小さい4羽と大きな2羽。人数が少なめで衣装も小さなロマンティックチュチュなので、古典の「白鳥の湖」の透徹した古典的な美の世界とは異なっているけど、新しいバレエの美しさを作り上げることに成功していると感じられた。

黒いデコラティブな内装で彩られた退廃的なサロンが3幕の舞台。ここで繰り広げられる男爵夫人主催の秘密の宴に、白いヴェールをかぶって純白の衣装に身を包んだオデットが乗り込んでくる。宴の参加者もみな黒一色のところへ、真っ白で自信に満ちた姿のオデットは、どこか不穏な恐ろしさすら感じさせる。その純白の美しさに魅入られる王子。チャイコフスキー・パ・ド・ドゥでも使われる音楽で王子とオデットの愛は高らかに奏でられ、一方男爵夫人は王子にすがり付いて愛を乞うも見向きもされない。ルースカヤの曲に合わせて切々と恨み節のこもったソロを踊るもオデットに太刀打ちできないと悟った男爵夫人は、最後の手段としてオデットをサナトリウムへと引き戻す医師たちまでも呼んで来るが間一髪で失敗。追いすがる情けない姿を見せてしまった男爵夫人だが、最後は正面を見据えてきりっと決意を込めた表情を見せる。

再び湖畔を舞台にした4幕では、長い裾のウェディングドレス姿のオデットが、王子の腕からするりとすり抜ける。するとドレスも脱げてその下は黒い衣装。白鳥たちも同じ黒い衣装を着ていて、結局王子の愛を信じられなかったオデットの心情を映すよう。そこへ現れてなおも追いすがる男爵夫人は、ロットバルトを退治する音楽によってまたもや王子に振り切られてしまって、哀れさを感じさせる。王子とオデットは最後のパ・ド・ドゥを踊るが、オデットは王子のもとを離れ、愛を誓いながら黒い湖へと飲み込まれるように沈んでいく。すると黒い湖が真っ白に変わっていき、一人オデットへの永遠の愛を誓う王子の姿が残されるのであった。オデットは心の中の黒い疑念に勝てず、愛の永続性を信じられずに深い湖の底へと沈んでしまう。

"愛の不毛"を演劇的な手法で巧みにドラマティックに見せてくれたマーフィ版「白鳥の湖」はわかりやすい構造の作品であるが、一度見るとその魅力に取り付かれてしまう魔術的な魅力がある。

オデット役のアンバー・スコットは清楚な美人で腕の使い方がしなやかで柔らかく、グランフェッテで方向を変えながら回転するときも軸がしっかりしていて確かなテクニックの持ち主。精神のバランスを崩してしまう儚さがありながらも、3幕で鮮やかな逆転劇を演じたオデットの芯の強さを感じさせる存在感がある。

ロットバルト男爵夫人のダニエル・ロウは若々しく、不敵な笑みを浮かべる唇が魅力的な艶やかな美女。前回観たルシンダ・ダンの情念やギラギラした強さがあまりないが、その分等身大の女性像を見せてくれていた。一方的にロットバルト男爵夫人が悪役なのではなく、彼女も愛を強く欲しがり、愛に翻弄される一人の女なのだと感じられた。

王子役のアダム・ブルは身長193cmと長身だけど、大柄のダンサーにありがちな重たい感じは微塵もなく、隅々までコントロールの効いた美しい踊りを見せてくれた。マーフィ版の「白鳥の湖」の王子は二人の女性のどちらを愛しているのかはっきりせず、結婚式で新妻を裏切ってしまうどうしようもない男性。だが、金髪の巻き毛で若くハンサムなアダム・ブルが演じると、王子は女性に強く求められればその求愛に応えてしまう素直さの持ち主なのだと同情的に思ってしまうのだからずるい配役だ。アクロバティックなリフトが多いこの作品で、彼はサポートもスムーズにこなしていた。

オーストラリア・バレエは全体的にみても若々しく勢いを感じられるカンパニーである。前回の来日公演からもかなりメンバーが入れ替わってるようだ。生きの良さは、1幕のロイヤル・ウェディングのシーンで遺憾なく発揮されており、特に伯爵とその侍従のダニエル・ゴーディエロとツ・チャオ・チョウのダイナミックな踊りは目を引いた。公爵の若い婚約者役の本坊怜子さんも、セクシーでスパイスの効いた魅力的な存在感に思わず引き寄せられた。

颯爽とした指揮姿が美しい女性指揮者ニコレット・フレイヨンが音楽をテンポよく進めてくれるのも気持ちが良かった。今週末のマーフィ版「くるみ割り人形」への期待も高まる。

オデット、王子、ロットバルト男爵夫人を誰が演じるかによっても、解釈の仕方が大幅に違ってくるのがマーフィ版の「白鳥の湖」であることを今回認識できた。今回の来日公演でも、できればキャスト違いでも観たかったと思う。まずはDVDを再見しなければならない。


オーストラリア・バレエ団
「白鳥の湖」(全4幕)


振付:グレアム・マーフィー
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
台本:グレアム・マーフィー、ジャネット・ヴァーノン、クリスティアン・フレドリクソン
装置・衣裳:クリスティアン・フレドリクソン
照明:ダミアン・クーパー
------------------------------------------------------------------------
オデット:アンバー・スコット
ジークフリート王子:アダム・ブル
ロットバルト男爵夫人:ダニエル・ロウ

女王:シェーン・キャロル
女王の夫:ロバート・オルプ
第一王女:久保田美和子
第一王女の夫:マシュー・ドネリー
公爵:アンドリュー・キリアン
公爵の若い婚約者:本坊怜子
伯爵:ダニエル・ゴーディエロ
伯爵の侍従:ツ・チャオ・チョウ
提督:コリン・ピーズリー
侯爵:マーク・ケイ
男爵夫人の夫:フランク・レオ
ハンガリー人の踊り:ローラ・トン、ジェイコブ・ソーファー
宮廷医:ルーク・インガム
大きい白鳥:ラナ・ジョーンズ、ダナ・スティーヴンソン
小さい白鳥:リアーン・ストイメノフ、ハイディ・マーティン、エロイーズ・フライヤー、ジーナ・ブレッシャニーニ
招待客、ハンガリー人、召使い、尼僧、従者、白鳥たち:オーストラリア・バレエ団

指揮:ニコレット・フレイヨン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
協力:東京バレエ学校


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