BlogPeople


2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

ブログパーツ

  • HMV検索
    検索する
無料ブログはココログ

« オハッド・ナハリンのGAGAワークショップ/パリ・オペラ座のiPhoneアプリ | トップページ | 10/23 ボリショイ×マリインスキー合同バレエ2010 AプロBolshoi Ballet & Mariinsky Ballet joint Gala Program A »

2010/10/24

10/16 オーストラリア・バレエ団「くるみ割り人形-クララの物語」 The Australian Ballet Graeme Murphy's Nutcracker

グレアム・マーフィ振付によるオーストラリア・バレエの「くるみ割り人形」は、バレエ・リュスとオーストラリアにバレエをもたらした過去の名バレエダンサーたちに捧げられた、美しく切なさを感じさせる逸品。普通の「くるみ割り人形」と違って、まるで一本の映画、それも大河ロマンを観たような気持ちになった。

南半球にあるオーストラリアのクリスマスは真夏にある。ささやかな暮らしを営む元バレリーナのクララは、バレエ・リュス時代の同僚たちだったロシア人元ダンサーたちを招いてクリスマス・パーティを開く。ラジオから流れてくる「くるみ割り人形」のメロディがいつの間にかオーケストラの演奏になっているところが巧い。小さなツリーにはバレリーナ時代のアクセサリー、そしてリボンのついたメダルを飾って。今では老人となった元ダンサーたちは、マトリョーシカを並べて踊りだす。若いダンサーが老人に扮しているのではなくて、実際のお年寄りたちが踊っており、さすがに皆元ダンサーだけあって、背筋もピンと伸びて美しい。中でも、クララ役のマリリン・ジョーンズはつま先も美しいし、脚捌きもきれい。このお年寄りたちの踊りがなんともほのぼのして、ほんのりと心が温まる。

クリスマスの宴には、若い医師も訪ねてくる。クリスマスというのにおばあちゃんとなったクララのところに来るとはなんと面倒見の良いことか。医師は、メガネをかけたケヴィン・ジャクソンで、本当は二枚目なのにメガネをかけるとどこか純情そうで晩生な感じに見えるのが可愛い。医師は映写機を持ってきており、シーツを広げた急造のスクリーンに映し出されるのはクララが活躍していた昔のロシア帝室バレエの映像。古ぼけてぼんやりとした映像だけど、クララの舞台上での輝きは伝わってくる。つられて踊りだすクララだけど、すぐに疲れてしまって寝室で寝込んでしまう。仲間たちもクララの様子を見て辞去し、医師だけが彼女を見守る。きっと元ダンサーたちもクララに会うのはこれで最後かもしれないと思いながら去っていったのだろうと思うと、寂しさが胸を去来する。

大きなネズミやバレエ学校時代の自分などの幻覚を見るクララ。ネズミたちはボルシェビキ軍の扮装をしており、最愛の恋人だった将校がロシア革命のさなか彼らに倒される悪夢を見る。通常クリスマスツリーが巨大化するところで代わりに登場するのは大きなマトリョーシカ。一つ一つマトリョーシカを開けていくと、しまいには少女時代のクララが現れるという仕掛けが面白い。クララがベッドから起き上がると、いつのまにかバレリーナとしての若い姿に変身しており、医師の服を脱がせてメガネをはずすと、将校の姿が現れる。愛する人の姿を確認すると、クララは夏のオーストラリアから雪のロシアへと舞い戻り、粉雪が降る中、将校と愛を確かめ合うように踊る。この時に現れる雪の精たちのフワフワの綿帽子のようなかぶりものが可愛い~!クララと将校のパ・ド・ドゥはやっぱりフィギュアスケートのペアのような、リフトを多用したものだけどケヴィン・ジャクソンもリフトはすごくうまい。


2幕は、少女時代のクララが帝室バレエ学校で稽古に励む日々から始まる。客席に背を向けてレッスンに励む少年少女たち。少女クララ役の柴平くるみさんが素晴らしいグランフェッテを見せてくれた。優れた生徒の証としてクララはメダルを与えられる。このメダルをクララは引退後も大切に取っておいて、クリスマスツリーにかけたというわけだ。

晴れてマリインスキー劇場の帝室バレエ団の一員となったクララは、若い将校と愛し合うようになる。仲間のカップルたちと連れ立ってのピクニックのシーンが、葦笛の踊りの曲に合わせて軽妙に踊られる。昨年の世界バレエフェスティバルでルシンダ・ダンとロバート・カランが踊ったパ・ド・ドゥだ。振り回すようなリフトがここでも多用されているけど、非常に軽やかで爽やかな踊り。踊り終わるとともに急に雨が降り出して二人で走り去っていくところが印象的。

帝室舞踏会で「くるみ割り人形」が踊られる。まずはライオン丸のような大きく広がったヘアスタイルのかつらをかぶってゴテゴテと派手な衣装をまとった女性たちと、ちょうちんブルマのようなレトロな衣装を着たキャバリエたちによる群舞が時代を物語る花のワルツ。金平糖の精のグラン・パ・ド・ドゥは、クララと王子役のダンサーが華やかに踊る。終演後、着飾ったクララに、パトロンたちが次々と贈り物を持ってくる。最初は突き返そうとするクララだけど、結局受け取って衣装係にそれらプレゼントをあげてしまうのが可笑しい。最後に恋人の将校がやってきて二人は情熱的なパ・ド・ドゥを踊る。

幸せな日々は長く続かないのが切ない。将校は戦争へ赴く。紗幕の向こうで、トレパックの曲に合わせてボルシェビキ軍との戦いが繰り広げられる。紗幕には戦争の映像が映し出されて砲弾の爆発する音もする。ついに将校が銃弾に当たって斃れると、恋人の死を知ったクララも紗幕の前で崩れ落ちるように倒れる。そのとき、彼の肖像写真を持った年老いたクララが、そっとクララを抱きしめる。

紗幕への映像の使い方が巧みなこの作品、映像の中にはエイゼンシュタインの映画「十月」からのレーニンの演説する映像も引用されているとのこと。革命の嵐がロシアを襲い、クララはロシアを離れる決心をしてディアギレフのバレエ・リュスに加わる過程を映像が代弁している。世界中のオペラハウス、旅立つ船、そしてバレエ・リュスの映像も映し出されている。

クララとバレエ・リュスの巡業先を象徴させるものとして、ディベルティスマンが使われている。スペインではジプシーの踊り、スエズ運河で働く労働者たちの姿に重ね合わせてアラビアの踊り。中国では、しばしの無音の後、ゆっくりと太極拳をする人々の間を、クララを乗せた人力車がすり抜ける。このディベルティスマンのシーンは工夫されているのはわかるのだが、既成概念の踊りにとらわれまいとしたばかりに、冗長なものになってしまったのが残念である。この作品の数少ない欠点のひとつだ。

クララと彼女が所属するバジル大佐のバレエ・リュスはオーストラリアの港に到着。港で迎えるのは元気いっぱいの水兵たち。ちょっと「ファンシー・フリー」のような雰囲気。水兵の一人に、「小さな村の小さなダンサー」で主人公リー・ツンシンのバレエ学校時代を演じていたチェンウ・グォを発見。彼は帝室バレエ学校のシーンで生徒役としても出演していた。この水兵たちは歓声まで上げちゃって、本当に楽しげ。現地の新聞カメラマン向けに、ちょっと気取ってポーズを取ってみせるクララはハリウッド女優のようにゴージャスだ。

再び世界大戦が勃発し、オーストラリアに残る決心をしたクララはボロヴァンスキー・バレエ団に加入。そしてついに彼女が舞台を去る日のパフォーマンスに。バレエ・リュスを髣髴させる、小さめのチュチュと赤、オレンジ、茶色をあしらったモダンで美しい衣装に身を包んだ群舞とクララは、私たち客席に背中を向けて踊っている。舞台奥が客席という設定になっており、観客はバレエが上演されている舞台の裏からダンサーたちを見ている感じになる。まるで舞台に自分たちもスタッフとして立っているような気持ちになる。スポットライトと喝采を浴びるクララ。花が舞台に投げ入れられる。カーテンコールを終えてこちらを振り向いたクララは、レイチェル・ローリンズが演じるクララではなく、年老いた姿のクララだった。ここで、思わず涙・・・。マリリン・ジョーンズがチュチュを着用していても、脚のラインが現役のバレリーナのように美しいことに驚かされたが、それよりも万感の思いがこみ上げてきた。

華やかな舞台はいつしか老クララのアパートのベッドとなり、少女時代のクララ、大人のクララが横たわっている。そこにチュチュ姿の老クララも横たわる。医師が老クララの脈を取ると、クララがバレリーナとしての夢を生きたまま旅立っていたことが伝わってきた。

一人のバレリーナの波乱の生涯をたどることによって、オーストラリアへバレエがもたらされた歴史を語ったこの作品。舞台を生きることの幸せと哀しみを同時に物語っていて、鮮やかな記憶として心へとしみ入った。中でも、老いても美しく凛としているマリリン・ジョーンズの名演は、舞台人としての矜持を見せつつ、素敵な夢を見せてくれた。


オーストラリア・バレエ団
「くるみ割り人形-クララの物語」(全2幕)


振付:グレアム・マーフィー
共同製作:ジャネット・ヴァーノン
構成:グレアム・マーフィー、クリスティアン・フレドリクソン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
装置・衣裳:クリスティアン・フレドリクソン
照明:ジョン・ドゥルモンド・モンゴメリー
映像コラージュ:フィリップ・シャールエット

------------------------------------------------------------------------

年老いたクララ:マリリン・ジョーンズ
クララ、バレリーナ:レイチェル・ローリンズ
子ども時代のクララ:柴平くるみ

第1幕

ロシア人たち:オードリー・ニコルズ、キャスリーン・ゲルダード、シェーン・キャロル、
コリン・ピーズリー、ロバート・オルプ、フランク・レオ、アンドリス・トッペ
医師/恋人の将校: ケヴィン・ジャクソン


第2幕

バレエ教師:コリン・ピーズリー
バレエ学校校長:アンドリス・トッペ
将校:ダニエル・ゴーディエロ、ティ・キング=ウォール
クララの友人:リアーン・ストイメノフ、ジーナ・ブレッシャニーニ
ニコライ皇帝、アレクサンドラ皇后:ベン・デイヴィス、ローラ・トン
大公妃たち:ジュリエット・バーネット、エイミー・ハリス、キスメット・ボーン、ヴィヴィアン・ウォン
皇帝の護衛隊:ブレット・サイモン、アンドリュー・ライト、ジャリド・マッデン、ギャリー・ストックス
"くるみ割り人形"-王子、クララ:アンドリュー・キリアン、レイチェル・ローリンズ
スペイン:ローラ・トン、ジュリエット・バーネット、久保田美和子、マシュー・ドネリー、ベン・デイヴィス
エジプト:ジャリド・マッデン、ジョン=ポール・イダジャク、ミッチェル・レイナー、
ジェイコブ・ソーファー、アンドリュー・ライト、ノア・ガンバート、ジャ・イン・ドゥ
オーストラリアの水兵たち:ツ・チャオ・チョウ、ダニエル・ゴーディエロ、チェンウ・グオ、
ジャ・イン・ドゥ、ジェイコブ・ソーファー、マシュー・ドネリー

指揮:ニコレット・フレイヨン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
合唱:江東少年少女合唱団
協力:東京バレエ学校

« オハッド・ナハリンのGAGAワークショップ/パリ・オペラ座のiPhoneアプリ | トップページ | 10/23 ボリショイ×マリインスキー合同バレエ2010 AプロBolshoi Ballet & Mariinsky Ballet joint Gala Program A »

バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« オハッド・ナハリンのGAGAワークショップ/パリ・オペラ座のiPhoneアプリ | トップページ | 10/23 ボリショイ×マリインスキー合同バレエ2010 AプロBolshoi Ballet & Mariinsky Ballet joint Gala Program A »