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2010/10/13

10/10 オーストラリア・バレエ団「白鳥の湖」 The Australian Ballet Swan Lake by Graeme Murphy

すっかりブログの更新を休んでしまって申し訳ありません。一度ブログの更新をしないことの楽さを覚えてしまうと、ついつい怠けがちになってしまいます。文章を書く勘のようなものまで鈍ってしまっていけません。

****
3年前の来日公演で観て、その大胆でユニークな舞台に舌を巻いたグレアム・マーフィ振り付けによるオーストラリア・バレエの「白鳥の湖」。3年前にぜひ再見したいと思ったこのプロダクションを再び観られる幸運に感謝。前回の来日ではルシンダ・ダンの女の情念溢れる男爵夫人を堪能したので、今回は別キャストで観ようとこの日を選んだ。

プロローグの音楽の使い方から、作品の世界への導入の仕方が巧いって改めて思う。あの激しさを感じさせるプロローグの音楽は寝室で愛を交わす場面に実はぴったりだったってことに気がつく。幸せいっぱいの美しい結婚式になるはずだったロイヤル・ウェディングでの出来事は、どのような成り行きになるのかわかっていても、改めて実演の舞台に接すると新鮮だ。展開の妙と生々しい駆け引きや感情の揺れがダイレクトに伝わってきて衝撃的である。

あからさまに王子と男爵夫人が視線を絡ませ合っているのを目の当たりにしたオデットの心乱れる姿が痛々しい。主役であるはずの晴れの日なのに女王はじめ誰一人としてオデットの味方になってくれず、王子の不貞行為も見てみぬふりをしている。オデットはジゼルのように精神に混乱をきたし、マノンのように次々と男性たちの腕に身を任せては、グランフェッテで大旋回。オデットが王子に蹴りを入れたかと思ったら湖に身を投げようとするまでの嵐のような一連の流れの中においても、彼女のどうしようもなく痛ましい心情が表現されていて心が痛くなる。オデットの白いドレスの下にはグレーのペチコートが隠されていて、彼女が混乱して踊りが激しくなるにつれてそれが現れ、彼女の猜疑心を象徴させているのが巧妙な仕掛けだ。一方で男爵夫人のドレスのレースからは、黒い裏地が透けて見えて彼女の狡猾な企みが浮かび上がる。

サナトリウムに送られたオデットを見舞う王子、だが窓の外には男爵夫人の影があり、傷心のオデットは小さな子供のように怯える。彼女の心を癒すのは、夢の世界での白鳥たちと過ごす世界だけ。2幕の湖畔のシーン、凍てつく湖の上で白鳥たちが一羽一羽と上体を起こしていく時の、めくるめくような幻想的な世界の美しさは、実際の舞台で観ると心が震えるほど。コール・ドは16人プラス小さい4羽と大きな2羽。人数が少なめで衣装も小さなロマンティックチュチュなので、古典の「白鳥の湖」の透徹した古典的な美の世界とは異なっているけど、新しいバレエの美しさを作り上げることに成功していると感じられた。

黒いデコラティブな内装で彩られた退廃的なサロンが3幕の舞台。ここで繰り広げられる男爵夫人主催の秘密の宴に、白いヴェールをかぶって純白の衣装に身を包んだオデットが乗り込んでくる。宴の参加者もみな黒一色のところへ、真っ白で自信に満ちた姿のオデットは、どこか不穏な恐ろしさすら感じさせる。その純白の美しさに魅入られる王子。チャイコフスキー・パ・ド・ドゥでも使われる音楽で王子とオデットの愛は高らかに奏でられ、一方男爵夫人は王子にすがり付いて愛を乞うも見向きもされない。ルースカヤの曲に合わせて切々と恨み節のこもったソロを踊るもオデットに太刀打ちできないと悟った男爵夫人は、最後の手段としてオデットをサナトリウムへと引き戻す医師たちまでも呼んで来るが間一髪で失敗。追いすがる情けない姿を見せてしまった男爵夫人だが、最後は正面を見据えてきりっと決意を込めた表情を見せる。

再び湖畔を舞台にした4幕では、長い裾のウェディングドレス姿のオデットが、王子の腕からするりとすり抜ける。するとドレスも脱げてその下は黒い衣装。白鳥たちも同じ黒い衣装を着ていて、結局王子の愛を信じられなかったオデットの心情を映すよう。そこへ現れてなおも追いすがる男爵夫人は、ロットバルトを退治する音楽によってまたもや王子に振り切られてしまって、哀れさを感じさせる。王子とオデットは最後のパ・ド・ドゥを踊るが、オデットは王子のもとを離れ、愛を誓いながら黒い湖へと飲み込まれるように沈んでいく。すると黒い湖が真っ白に変わっていき、一人オデットへの永遠の愛を誓う王子の姿が残されるのであった。オデットは心の中の黒い疑念に勝てず、愛の永続性を信じられずに深い湖の底へと沈んでしまう。

"愛の不毛"を演劇的な手法で巧みにドラマティックに見せてくれたマーフィ版「白鳥の湖」はわかりやすい構造の作品であるが、一度見るとその魅力に取り付かれてしまう魔術的な魅力がある。

オデット役のアンバー・スコットは清楚な美人で腕の使い方がしなやかで柔らかく、グランフェッテで方向を変えながら回転するときも軸がしっかりしていて確かなテクニックの持ち主。精神のバランスを崩してしまう儚さがありながらも、3幕で鮮やかな逆転劇を演じたオデットの芯の強さを感じさせる存在感がある。

ロットバルト男爵夫人のダニエル・ロウは若々しく、不敵な笑みを浮かべる唇が魅力的な艶やかな美女。前回観たルシンダ・ダンの情念やギラギラした強さがあまりないが、その分等身大の女性像を見せてくれていた。一方的にロットバルト男爵夫人が悪役なのではなく、彼女も愛を強く欲しがり、愛に翻弄される一人の女なのだと感じられた。

王子役のアダム・ブルは身長193cmと長身だけど、大柄のダンサーにありがちな重たい感じは微塵もなく、隅々までコントロールの効いた美しい踊りを見せてくれた。マーフィ版の「白鳥の湖」の王子は二人の女性のどちらを愛しているのかはっきりせず、結婚式で新妻を裏切ってしまうどうしようもない男性。だが、金髪の巻き毛で若くハンサムなアダム・ブルが演じると、王子は女性に強く求められればその求愛に応えてしまう素直さの持ち主なのだと同情的に思ってしまうのだからずるい配役だ。アクロバティックなリフトが多いこの作品で、彼はサポートもスムーズにこなしていた。

オーストラリア・バレエは全体的にみても若々しく勢いを感じられるカンパニーである。前回の来日公演からもかなりメンバーが入れ替わってるようだ。生きの良さは、1幕のロイヤル・ウェディングのシーンで遺憾なく発揮されており、特に伯爵とその侍従のダニエル・ゴーディエロとツ・チャオ・チョウのダイナミックな踊りは目を引いた。公爵の若い婚約者役の本坊怜子さんも、セクシーでスパイスの効いた魅力的な存在感に思わず引き寄せられた。

颯爽とした指揮姿が美しい女性指揮者ニコレット・フレイヨンが音楽をテンポよく進めてくれるのも気持ちが良かった。今週末のマーフィ版「くるみ割り人形」への期待も高まる。

オデット、王子、ロットバルト男爵夫人を誰が演じるかによっても、解釈の仕方が大幅に違ってくるのがマーフィ版の「白鳥の湖」であることを今回認識できた。今回の来日公演でも、できればキャスト違いでも観たかったと思う。まずはDVDを再見しなければならない。


オーストラリア・バレエ団
「白鳥の湖」(全4幕)


振付:グレアム・マーフィー
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
台本:グレアム・マーフィー、ジャネット・ヴァーノン、クリスティアン・フレドリクソン
装置・衣裳:クリスティアン・フレドリクソン
照明:ダミアン・クーパー
------------------------------------------------------------------------
オデット:アンバー・スコット
ジークフリート王子:アダム・ブル
ロットバルト男爵夫人:ダニエル・ロウ

女王:シェーン・キャロル
女王の夫:ロバート・オルプ
第一王女:久保田美和子
第一王女の夫:マシュー・ドネリー
公爵:アンドリュー・キリアン
公爵の若い婚約者:本坊怜子
伯爵:ダニエル・ゴーディエロ
伯爵の侍従:ツ・チャオ・チョウ
提督:コリン・ピーズリー
侯爵:マーク・ケイ
男爵夫人の夫:フランク・レオ
ハンガリー人の踊り:ローラ・トン、ジェイコブ・ソーファー
宮廷医:ルーク・インガム
大きい白鳥:ラナ・ジョーンズ、ダナ・スティーヴンソン
小さい白鳥:リアーン・ストイメノフ、ハイディ・マーティン、エロイーズ・フライヤー、ジーナ・ブレッシャニーニ
招待客、ハンガリー人、召使い、尼僧、従者、白鳥たち:オーストラリア・バレエ団

指揮:ニコレット・フレイヨン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
協力:東京バレエ学校


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バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

naomiさん

おかえりなさい♪

「愛の不毛」 本当に三人のうち誰かが何かを諦めれば丸く収まりそうなのに・・・
ロイヤル云々との宣伝文句でしたが、どこかにありそうな話で、お伽話「白鳥の湖」とはまた違った趣き作品。
たいてい観終わった後の感想はかけ離れない我が家・・・今回は真っ二つに割れました。
私はこのマーフィー版、かなり好きです。

naomiさんが仰るようにペチコートが饒舌ですよね。
スタイルがよく見える効果もありつつ、絶対の悪・絶対の善の存在のない世界観とピッタリでした。

キャストによって解釈の違いが楽しめるマーフィー版とのこと・・・
あ~DVDをポチしそう・・・ルシンダ・ダンのロッドバルト公爵婦人も一度観たかったわ・・・。

くるみレポも楽しみにしています。(我が家は行けないのです)

お久しぶりです。
私はオーストラリアはパスしました。
やはりロシアバレエが好きみたいで。。。。
合同・・・楽しみです。

DVDは買ったのですが、カメラワークがいまいちで、すぐ、マケプレで売ってしまいました。

F嫁さん、こんばんは。
当日お会いできて良かったです!ご夫妻の鑑賞後の意見の割れ方を聞いてみたかったですね~。御伽噺ではなくてけっこう生々しいお話、生身の人間の物語だわ~というのは同感です。
そうそう、絶対の悪はいないんですよね。ロットバルトをやっつけるテーマで追い払われる男爵夫人は気の毒だし。
ルシンダ・ダンの男爵夫人も前回素晴らしかったので余裕があれば観たかったです。

くるみもがんばって感想が書ければって思います♪

buminekoさん、こんばんは。

合同ガラも楽しみですね。チケットが高いので今回はお安いチケットにしてしまいましたが、これだけの豪華なメンバーを一度に見られることはまずありませんものね。ロパートキナのダイヤモンドが楽しみです。

オーストラリア白鳥のDVDのカメラワークは、私はそれほどは気にならなかったのですが、若干クローズアップは多いかもしれませんね。最近の市販DVDは、けっこうそういう傾向が顕著なので(「カラヴァッジオ」などは特にそう)、もう少し全体を捉えてほしいというのは同感です、

naomiさん、お久しぶりです。
私はオーストラリアバレエは初見だったので、9日のファーストキャストを選びました。白鳥にジゼルとバヤデールを加えたような普遍性のあるテーマで、一部パリオペのシンデレラのような演出もあり、期待以上に面白いプロダクションでした。特に一幕のオデット姫ご乱心の場面は、スピード感にユーモアと皮肉を織り交ぜ、高度なテクニックを駆使しながら彼女の痛々しさを浮かび上がらせていて、後半への期待が一気に膨らみました。指揮者の健闘もあると思いますが、聞きなれたいつもの音楽も、振付が変わると随分違った印象を受けるものですね。
くるみが楽しみです。

ところで、10日のHNKの日曜美術館はご覧になりましたか?横浜で行われているドガ展の特集で、少しだけパリオペの内部も紹介されていました。バレエファンには楽しめる内容だと思います。17日に再放送がありますので、見逃した方は是非。

peluさん、こんばんは。

このマーフィ版「白鳥の湖」がジゼル+バヤデールってわかる気がします。衣装などはわりと現代に近い感じで、なるほどヌレエフ版シンデレラにも通じるものがありますよね。私も特にオデットご乱心のシーンはすごく巧いな~って思いました!くるみもとても楽しみです!

10日の日曜美術館は見なかったので、17日の再放送を見たいと思います。情報ありがとうございます!横浜美術館のドガ展もぜひ見に行きたいんですよね!

こんにちは

昨日の「くるみ割り人形」でノックアウトを喰らいました。素晴らしい。こんなに素晴らしいとは思わなかったです。
自分は土曜日曜が休めないので、「白鳥の湖」はパスしましたが本当に観たかった。
それと
二日続けて「アラベッラ」新国立劇場
「くるみ」と観たのですが、あの女性の指揮者ゆえか、すごくきれいな音楽でした。これほとんどのところで書いていないのですが、オペラとバレエ、東京フィルとシティフィルと聞くと違いがわかります。まあオペラがシュトラウスで難しいんでしょうが、関係ない。やるからには感動させないと。
指揮者の近くでしたが指揮者のすぐ後ろ、指揮ぶりが大きいので観にくかったと思います。
しかし第二幕でのオーケストラピットでの調律、当然指揮はないのですが、目からうろこでした。
どうぞご意見お聞かせください。楽しみにしております。

Zuikouさん、こんばんは。
お返事遅くなりました。

昨日くるみ割り人形を見に行きましたが、おっしゃる通り素晴らしかったですね。感想も後でゆっくり書きます。

シュトラウスは前にバルセロナのリセウでエレクトラを聴きましたが確かにチャイコフスキーと違って難しいだろうなって思います。くるみ割り人形の音楽の素晴らしさは、チャイコフスキーの中でも一番かな、って思うほどで美しいだけでなく心の 奥底に訴えかけて来るものがありますよね。
指揮者のニコレットさんの指揮ぶりも素晴らしかったし、自然に涙がにじんできました。曲の素晴らしさは言うまでもありませんが、場面に相応しいテンポで、スピーディーだったり、歌い上げるようにゆっくりだったり。シティフィルの演奏も良かったです。できればもう一回くらい観たかったです!

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