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2010/08/25

「ぼくのエリ 200歳の少女」 Let the Right One In

ぼくのエリ 200歳の少女  Let the Right One In
監督 トーマス・アルフレッドソン
出演 カーレ・ヘーデブラント/リーナ・レアンデション/ペール・ラグナル

http://www.bokueli.com/
http://www.imdb.com/title/tt1139797/

ストックホルム郊外に住む12歳のオスカーは、金髪の美しい少年だが、学校では執拗ないじめを受けている。両親は離婚し母親と暮らす。陰鬱な日々に息が詰まり木にナイフを向けることでしか鬱憤を晴らすことができない。そんな彼が、アパートの隣の部屋に父親らしき中年男と引っ越してきた少女エリと知り合う。夜にしか姿を現さない青ざめた顔のエリは、いじめっ子たちに反撃することをオスカーに教え、二人の間には友情が芽生える。一方、町では吊るされて血を抜かれた死体が発見されたり、噛み付かれて殺される奇怪な事件が起きる。やがてオスカーは、エリの正体は12歳のまま200年以上も生きているヴァンパイアであることを知る…。


(ネタばれがあります)


今ちょうど「ミレニアム」シリーズを読んでいることもあって、高福祉国家として知られているスウェーデンのダークサイドに触れたところ。閉塞感が漂う郊外の町では、中高年たちが店に集まっては酒を飲み肩を寄せ合っている。昼間の時間が極端に短くて夜が長く、雪に閉ざされていて空気がひんやりとしているのが伝わってくる。そんな環境の中で、友達が一人もいなくて学校では3人組の同級生にひどくいじめられ、家でも母親とのコミュニケーションもほとんどないオスカーの日々は果てしなく孤独で痛ましい。たまに会う父親にも受け入れられない彼の孤独な魂にまるで寄り添うように、エリが現れる。二人が隣の部屋同士のやり取りのためにモールス信号を使うところがなんとも痛切である。

「私のこと好き?」「私のことを受け入れてくれる?」「私が女の子じゃなくても好きになってくれる?」と何度も繰り返し聞くエリ。夜の闇の中でしか現れず、がらんとして何もない暗い部屋に住んでいて、血に飢えると匂いを放ち、時には老女のように疲れた表情を見せるエリ。エキゾチックで美しいけど見るからに異様なエリを好きになって、「血の契りをしよう」とオスカーが手をナイフで切って血を流す。すると、エリは地面に落ちた血に獣のようにむしゃぶりつく。少しずつ、エリが吸血鬼であることに気がつくオスカーだけど、彼のエリを想う気持ちは幾多の試練も乗り越えていく。

彼女の正体に気がついて部屋に光を入れようとした男を、エリはオスカーの目の前で噛み殺す。血にまみれたエリとオスカーとのファーストキス。プールでオスカーを待ち伏せしたいじめっ子軍団を待ち受ける残酷な結末。いくつもの血の洗礼をくぐり抜けて、オスカーとエリとの絆は堅いものとなる。エリとともに生きていくことを決意したオスカーの、無邪気な微笑みが忘れがたい。まだ幼い彼の未来は、エリのために人を殺して血を集め続け、エリのために死んだあの中年男の姿なのか、それともエリと同じく12歳のままで永遠に年をとらないままヴァンパイアとなる運命なのか。町を出て行く電車の中で太陽の光を浴びながら、隠れているエリにモールス信号を送るオスカー。幸せそうな微笑を浮かべた輝くばかりの美しい少年。ラストシーンでのオスカーを見るにつけ、実は第3のハッピーエンドがあるんじゃないかとひそかな希望を抱いてしまう。

凄惨で荒っぽい殺しの場面の数々や、エリに噛み付かれた被害者が光を浴びて炎に包まれるシーン、血の涙を流す血まみれのエリ、そしていじめっ子たちの最期と衝撃的な絵柄が続出する。だが、全体としては静謐で抑制されたトーンになっているため、北欧の冷たく澄んだ空気の中での残酷な悲劇が一層美しい寓話として輝き、心の中に刻み付けられた。吸血鬼を必要以上に美化することなく、耽美に流れすぎないところも良い。オスカー役カーレ・ヘーデブラントの痛ましいほど無垢で繊細な美少年ぶり、エリを演じるリーナ・レアンデショの演技の達者さも特筆もの。


ところで、何度も繰り返される「私は女の子じゃないから」「私が女の子じゃなくても好きになってくれる?」というエリのせりふ。一瞬だけエリが陰部を見せるシーンがあるが、国内公開版ではぼかしによってそこに何があるのかを見ることはできない。実は本当にエリは女の子ではなく、性器を切り取られた男の子であるとのこと(原作「モールス」でもそのような設定になっているとのことである)。オスカーにとって、エリが女の子じゃなくても、ヴァンパイアであっても、そんなことは彼には踏み絵にすらならなかったいうことを示す象徴的なせりふであり、場面であったのだ。

だから邦題の「200歳の少女」は実は間違いなのである。原題の「Let the Right One In」とは、吸血鬼は招かれない限り人の部屋に入ってはいけないという法則のことを示しており、「血を吸って永遠を生きるヴァンパイアであり、しかも女の子ではない私を受け入れて」というエリの想いと、それに応えたオスカーのことも表している。なお、本作はハリウッドでのリメイクが決定しているとのこと。


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