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« 6/29 ロイヤル・バレエ「ロミオとジュリエット」 The Royal Ballet Romeo and Juliet Miyako's Farewell | トップページ | 『オックスフォード バレエ ダンス事典』 »

2010/07/05

6/24 英国ロイヤル・バレエ団「うたかたの恋」 The Royal Ballet Mayerling

最近発売されたDVDでこの日の上演と同じ主演の組み合わせで観ており、エドワード・ワトソンが演じたルドルフのキャラクター造形に強烈なインパクトを受けてチケットを買い足したのであった。DVDを観た後ではしばらく彼のルドルフ像が悪夢のようにまとわりついて、しばし鬱になってしまったほどだったのだ。

色白で華奢なエドワードのルドルフは、最初からプレッシャーに押しつぶされそうになっていて痛々しい、繊細で気弱な貴公子。結婚相手ステファニーの妹ルイーズと遊んでみたり、愛人の一人ラリッシュ伯爵夫人と意味ありげなやり取りをしてみたりするんだけど、それも軽薄さゆえにそんなことをしているのではなく、王室内での居場所のなさをまぎらわすための行為なのだ。母エリザベート皇后に甘えようとしてはクールに拒否されてどーんと落ち込むその姿の寄る辺なさ。一方ではハンガリー高官たちにストーカーのようにつきまとわれてじりじりと精神的に追い詰められていく様子も真に迫っていた。

1幕で強烈なのがステファニーとの初夜のパ・ド・ドゥ。カルロス・アコスタが演じるルドルフは銃と髑髏を持つ姿がかっこいいし、ヨハン・コボーは恍惚としていてナルシスティックかつ嬉しそうだったけど、エドワードの場合には神経をすり減らした結果どうしようもなく死に魅せられていて、その歪んだ思いをつい新妻にぶつけてしまったという痛ましさが感じられた。ステファニーを脅し怖がらせた挙句に暴力的に彼女を押し倒す、そうすることで彼は自分自身もひどく傷つけているように見えた。エドワードは手脚が長く、すばらしく柔軟な関節をしていて脚も高く上がってきれい。だけど惜しいことに、テクニック的には若干安定を欠いていて、サポートも必ずしもスムーズにはいかないところがあった。

2幕でルドルフは愛人の一人ミッツィ・カスパーと戯れるも、ここで唐突に銃を持ち出して心中を持ちかけては軽く一蹴される。その後のフランツ・ヨーゼフ皇帝の誕生会では、皇帝の愛人の歌手カタリーナ・シュラットの歌を聴かされ、その間にエドワードはもともとの色白に加えてさらに顔面が蒼白になっていく。一同が歌に聞き入っている間特に動きがないのに顔色を変化させる彼の演技力には思わず舌を巻いてしまう。舞台奥で花火が上がる中、今度はエリザベートが愛人ベイミードルトンとお戯れ。その様子にますますルドルフが虚無的な思いを募らせ苦しみが増していくのが伝わってきて見ているほうの胸も痛くなってくる。

やり手婆(というには若く美しい)のラリッシュ伯爵夫人が少女マリー・ヴェッツェラを彼に押し付けてきたのは、苦悩にさいなまれた彼にとってはあまりにも絶妙のタイミング。待ち望んだ死への片道切符を手に入れたも等しいこと。マリーとの最初のパ・ド・ドゥは、非常にエロティックなものであるはずなのだが、ルドルフの内面で死と欲望がせめぎ合う様子はステファニーとの1幕のパ・ド・ドゥ同様にとても歪んでおり、陶酔しきったマリーの姿とは裏腹に、彼にはエクスタシーがもたらすはずの解放感は無縁のものだった。彼の顔に浮かび上がっている絶望はもはや死相になって現れていた。

3幕冒頭の狩りでいきなり誤射事件を起こしてさらに窮地に追い込まれるルドルフ。彼を救おうとするラリッシュ伯爵夫人がエリザベートに追い出された後、またしても絶妙なタイミングでマリーが部屋に入ってくる。ルドルフが阿片を打つ姿はジャンキーそのもので憔悴しきっている。そして正直ここまでマリー・ヴェッツェラの印象があまり強くなかったのだが、ここから最後に二人が死を遂げるまでの、火花を散らしながら気持ちを一つにして突っ走っていく凄惨なパ・ド・ドゥは鮮烈だった。本当に運命的なものに導かれ、出会うべくして会ってしまったんだなと。最後にルドルフがマリーへ「行くよ」と目配せをすると、マリーが「行くわ」と答え、そして舞台奥の衝立へと消えていくと銃声が。二人の死が完全な合意の下でもたらされたということが良く伝わってくる幕切れだった。

生の舞台で接したエドワードのルドルフは予想を超えてさらに凄まじいものだった。4階席という離れた位置にも伝わってくる彼の苦しみ、そして心が壊れていく様子には胸がつぶれそうになった。だけど、最後にマリーとひとつになって命を燃やし尽くしたことが伝わってきていたので、後味は思ったほど重くなかった。そのエドワードと一体になっていくマーラ・ガレアッツィの演技も素晴らしかった。正直言って、DVDで観た時は、ヴィヴィアナ・デュランテが以前演じたたファム・ファタル的な美少女マリーの印象が強くてガレアッツィはヴィジュアル面で不利でどうしたものかと思っていたのだけど。実演の舞台を観ると彼女の実力のほどがよくわかった。サラ・ラムのラリッシュ伯爵夫人は、トランプ占いの時の正面を射抜くような目力の強さが忘れがたく、気高い美しさだけではなくしたたかさの中の哀しさを伝えて演技者として優れていた。ハンガリー高官の中心を踊ったセルゲイ・ポルーニンが鮮やかな連続トゥールザンレールを決めたところは会場も大いに沸き、華のあるところを魅せてくれた。ギャリー・エイヴィスが老けメイクを施して演じたフランツ・ヨーゼフは色っぽかった。

それから「マイヤリング」(「うたかたの恋」の原題)は、ニコラス・ジョージアディスによる舞台装置と美術が重厚でダークで素晴らしい。そのまま「怖い絵」に出てきそうな、ハプスブルグ家の歴代の皇帝の肖像画が下がっている様子が圧巻。エリザベートの寝室で、彼女の贅沢で倦んだ生活を象徴するようにドレスをまとったトルソーが並んでいる様子は異様ながら美しい。また、緞帳の陰にハンガリー高官が一人ずつ隠れては現われ、かぶりつきそうな勢いでルドルフに囁きかける演出には興奮させられた。心中事件の表現、二人が実際に死ぬシーンは衝立の向こうで行われて観客には見せず、想像力を働かせる表現も巧みだ。二度目の銃声の後に衝立が倒れてばったりとルドルフが崩れ落ち、マリーが横たわっているという立体的で映画を見ているようなドラマティックな演出手法にはぞくぞくした。

3日連続でこんな濃厚な舞台をたっぷりと見せられて、ひどく疲れたけれども満足感でいっぱい、舞台を観る幸せに満たされた。この興奮を追体験するために、DVDを再見したいと思いつつも、舞台の感動が上書きされないかちょっと心配でまだ見られないでいる。


ルドルフ:エドワード・ワトソン Edward Watson
(オーストリア=ハンガリー帝国皇太子)

男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ:マーラ・ガレアッツィ Mara Galeazzi
(ルドルフの愛人)

ステファニー王女:イオーナ・ルーツ Iohna Loots
(ルドルフの妻)

オーストリア=ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ:ギャリー・エイヴィス Gary Avis
(ルドルフの父)

エリザベート皇后:タラ=ブリギット・バフナニ
(ルドルフの母)

伯爵夫人マリー・ラリッシュ:サラ・ラム Sarah Lamb
(皇后付きの女官、ルドルフの元愛人)

男爵夫人ヘレナ・ヴェッツェラ:エリザベス・マクゴリアン Elisabeth MacGorian
(マリー・ヴェッツェラの母)

ブラットフィッシュ:ブライアン・マロニー Brian Maloney
(ルドルフの個人付き御者、人気者の芸人)

ゾフィー大公妃:ウルスラ・ハジェリ
(フランツ・ヨーゼフの母)

ミッツィ・カスパー:ラウラ・モレーラ Laura Morerra
(ルドルフの馴染みの高級娼婦)

ベイミードルトン大佐:平野亮一 Ryoichi Hirano
(エリザベートの愛人)

四人のハンガリー高官:セルゲイ・ポルーニン、蔵健太、アンドレイ・ウスペンスキー、トーマス・ホワイトヘッド
(ルドルフの友人)

カタリーナ・シュラット:フィオナ・キム
(独唱)

アルフレート・グリュンフェルト:ポール・ストバート
(ピアノ独奏)

エドゥアルド・ターフェ伯爵:アラステア・マリオット
(オーストリア=ハンガリー帝国の首相)

ホイオス伯爵:ヨハネス・ステパネク
(ルドルフの友人)

ルイーズ公女:ロマニー・パジャク
(ステファニーの妹)

コーブルグ公フィリップ:デヴィッド・ピカリング
(ルイーズの夫、ルドルフの友人)

ギーゼラ公女:サイアン・マーフィー
(ルドルフの姉)

ヴァレリー公女:フランチェスカ・フィルピ
(ルドルフの妹)

ヴァレリー公女の子供時代:リャーン・コープ

マリー・ヴェッツェラの子供時代:マーラ・ガレアッツィ

ロシュック:ミハイル・ストイコ
(ルドルフの従者)

ラリッシュ伯爵:ベネット・ガートサイド

その他、来客、メイド、娼婦、紳士、使用人、侍女など:英国ロイヤル・バレエ団


指揮:バリー・ワーズワース

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団


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エドワード・ワトソン マーラ・ガレアッツィ イオーナ・ルーツ ケネス・マクミラン(振付) バリー・ワーズワース(指揮) コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団

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