すっかり感想が遅くなってしまいました。四日間観たのですが、連日の劇場通いですっかり疲れ切ってしまい、その間にも私事に忙殺されていて。観劇の感想ってすぐに書かないと本当に忘れてしまって困ったものです。
ボリショイ組が直前に出演キャンセルとなって、ガラならではのお祭り感やアクセントが薄れてしまったのはちょっと残念。その分、現在のドイツ・バレエを見せるというコンセプトで統一されたガラになっていました。この出演メンバーでプログラム組んだ以上、そして急なキャンセルがあったので致し方ないのですが、やはり打ち上げ花火のような演目があった方がより楽しかったと思います。
マラーホフの贈り物[プログラムA]
2010年05月18日(火)6:30p.m.-
東京文化会館大ホール
ウラジーミル・マラーホフ,ポリーナ・セミオノワ Vladimir Malakhov Polina Semionova
ヤーナ・サレンコ,ディヌ・タマズラカル Iana Salenko Dinu Tamazlacaru
エリサ・カリッロ・カブレラ,ミハイル・カニスキン Elisa Carrillo Cabrera Mikhail Kaniskin
ベアトリス・クノップ,レオナルド・ヤコヴィーナ(ベルリン国立バレエ)Beatrice Knop Leonard Jakovina
マリア・アイシュヴァルト,マライン・ラドメイカー(シュツットガルトバレエ)Maria Eichwald Marijn Rademaker
‐第1部‐
「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」 The Grand Pas de Deux
振付:クリスティアン・シュプック、音楽:ジョアッキーノ・ロッシーニ
エリサ・カリッロ・カブレラ ミハイル・カニスキン
初めて観た時には笑えてすごく面白かった演目だったのですが、最近観たガラでの上演頻度が非常に高いため、さすがに少々食傷気味になってきました。今回のガラで、ミハイル・カニスキンは唯一の白タイツの演目がこれ。ポールドブラがとても優雅で美しく、つま先もきれいで王子役もさぞかし似合うのではないかと思いました。エリサ・カリッロ・カブレラはすらりとしていながら筋肉質を感じさせる身体で、超絶技巧がふんだんに盛り込まれた振付も軽々とこなしています。おきゃんな表情も可愛らしい。ただ、このペアは若干華やかさが足りないのかしら、同じエリサ・カリッロ・カブレラがイーゴリ・コールプと踊った時の方が楽しかったと思ってしまいました。振り回されながらキャーってエリサが叫ぶのは、この演目では初めて経験するもので、ノッて踊ってくれているのはよく伝わってきました。
「ジュエルズ」より"ダイヤモンド" Diamonds from Jewels
振付:ジョージ・バランシン、音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ポリーナ・セミオノワ ウラジーミル・マラーホフ
マリインカのクリーム色がかったチュチュではなく、純白のチュチュに身を包んだポリーナ。貫禄が増したというか、ちょっとヴィシニョーワを思わせる肉食系というか強さ、意志を感じさせて、マラーホフを食ってしまっているような気がしました。クリスタルのように透明で輝くダイヤモンドというよりは、情念というかドラマを感じさせる彼女ですが、やはりドラマ性のあるマラーホフとの組み合わせは必ずしも成功していない気がします。「ダイヤモンド」のこのパートは男性はほぼサポートに徹していて、見せ場は少ないのです。その数少ないソロパートでのマラーホフの着地は相変わらず猫のようにしなやかで無音で、さすがにマラーホフの着地は美しい、と思いました。
「ボリショイに捧ぐ」 Homage a Bolshoi
振付:ジョン・クランコ、音楽:アレクサンドル・グラズノフ
マリア・アイシュヴァルト マライン・ラドメイカー
昔の世界バレエフェスティバルでマリシア・ハイデとリチャード・クラガンが踊った映像を観たはずなんだけど、こんなに短い作品だったんですね。アクロバティックな凄いリフトをいくつか見せてもらって、これからもっと凄いのが待っているのかしら、わくわく、と思っていたら終わっていました。ボリショイ・バレエの公演を観て感動したクランコが振付けたという少し古めかしいこの作品ですが、「スパルタクス」でのリフトを思わせるような片手で高々と女性をサポートするシーンもあります。今回イワン・ワシリエフの「スパルタクス」が観られなくて残念、と思ってしまいました。
一瞬空中に女性を浮かび上がらせるように回転させて持ち上げたり、さまざまなリフトを変幻自在に見せてくれるマライン・ラドメイカーもがんばっていたけど(もう少しスムーズだったら、と思うところもあり)、空中で美しいポーズをキープし続けるマリア・アイシュヴァルトの身体能力の高さを改めて実感しました。彼女は本当に背中が柔らかくて強靭なバレリーナです。
「アレクサンダー大王」 Alexander The Great
振付:ロナルド・ザコヴィッチ、音楽:ハンス・ジマー
エリサ・カリッロ・カブレラ レオナルド・ヤコヴィーナ
昨年の世界バレエフェスティバルでポリーナがフリーデマン・フォーゲルと踊ったパ・ド・ドゥ。振付のロナルド・ザコヴィッチはベルリンのプリンシパルですね。(ベルリンのオフィシャルサイトを見たら、ゲストプリンシパルになっていました)最初は暗い中、男性が一人佇んでいる姿から始まります。レオナルド・ヤコヴィーナは長身の堂々たる体躯でかっこいいし、そこへ大胆に飛び込んでくるのはエリサ・カリッロ・カブレラ。褐色の肌に伸びやかな肢体で、すごく色っぽい彼女です。こういう現代作品の方が似合っています。アレクサンドル大王と、愛妾の一人ロクサネとのシーンなのだそうですが、古代的なスケールの大きさを感じさせる二人でした。
「コッペリア」よりパ・ド・ドゥ Coppelia
振付:アルチュール・サン=レオン、音楽:レオ・ドリーブ
ヤーナ・サレンコ ディヌ・タマズラカル
ヤーナ・サレンコも昨年の世界バレエフェスティバルと同じ演目で登場。どうせなら、別の作品で観たかった気がします。バレエフェスの時ほど、ヤーナが必要以上に長く伸ばしたバランスを見せ付けるというところはないのは好印です。だけど、長いバランスをアダージオで取るのは全体の踊りの流れを阻害していて、せっかく高いテクニックを持っているのにもったいない気がします。サポートつきピルエットは6,7回回っているし、コーダのグランフェってではトリプルも余裕で入れていて、しっかりした踊りをしているだけに、見せる工夫がほしいところです。ディヌ・タマズラカルは、マラーホフ譲りなのか、着地が非常に柔らかくて音もさせずに美しく、気持ちよく五番に入ります。そして明るくて人懐っこい笑顔がとっても魅力的。良いダンサーですね。
‐第2部‐
「仮面舞踏会」より"四季"
振付:ウラジーミル・マラーホフ 音楽:ジュゼッペ・ヴェルディ
冬:上野水香
長瀬直義、宮本祐宜、梅澤紘貴、柄本弾
春:吉岡美佳、柄本武尊
夏:ポリーナ・セミオノワ、ウラジーミル・マラーホフ
秋:田中結子、松下裕次 ほか東京バレエ団
上演時間が3時間に及んだガラは、平日に観るには正直言って少々長くて疲れてしまいました。特に真ん中に挿入されたこの作品は30分余にわたるもので、こんなに長いものを入れなくていいから早く帰りたい、と思ったのが正直なところでした。ロマンティックバレエ風味のクラシックな作品でしたが、振付には魅力が乏しかったです。上野さんは相変わらず音楽性に欠けるカクカクした踊りで機械仕掛けの人形のよう。大きな花冠をつけた吉岡さんが、妖精のようで軽やかで素敵でした。さすがにポリーナ&マラーホフペアが出てくると、存在感の大きさやスケールが別格という感じがしました。でも、ポリーナの出番がこの作品で終わりということはもったいなかったと思います。「オネーギン」の初演の直後に新作であるこの作品を上演するのは、東京バレエ団にとってちょっと負担が大きくて大変だったのではないかと思わされてしまいました。
‐第3部‐
「カラヴァッジオ」よりパ・ド・ドゥ(第2幕より)
振付:マウロ・ビゴンゼッティ、音楽:ブルーノ・モレッティ(クラウディオ・モンテヴェルディより)
ウラジーミル・マラーホフ レオナルド・ヤコヴィーナ
もうガラから3週間近く経過してしまって細かいことを忘れてしまいましたが、「カラヴァッジオ」から今回のガラで上演された3つのパ・ド・ドゥの中でも一番インパクトがありました。ただ思うのは、DVDを観た時の「カラヴァッジオ」という作品は1つの全幕作品として観るのがとても刺激的で面白くて、パ・ド・ドゥをばらばらに上演しても作品としての面白さが十分伝わらずにもったいないということです。レオナルッド・ヤコヴィーナは魅力的なダンサーで、長身でしっかりと男らしい体つきをしており、色白で華奢なマラーホフと対比すると力強い悪魔のような存在感がありました。大スターであるマラーホフに決して食われていないといいますか。一人佇むマラーホフの背後に闇から浮かび上がって、最後にはまた暗闇の中に消えていく。取り残されたマラーホフの寂寥感が苦い後味を残します。
「ゼンツァーノの花祭り」 The Flower Festival in Genzano
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル、音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
ヤーナ・サレンコ ディヌ・タマズラカル
ディヌ・タマズラカルはとっても良いダンサーですね。温かく明るい笑顔ときれいなつま先、柔らかい着地で、観る者をすうーっと癒してくれます。ブルノンヴィル特有の飛距離がある跳躍も気持ち良くて。ヤーナ・サレンコは「コッペリア」よりこちらの方が好印象だったけど、ちょっと印象に残っていません。彼女は「ラ・バヤデール」の影の第一ヴァリエーションでは圧倒的に良かったんですよね。
「椿姫」より第3幕のパ・ド・ドゥ Lady of the Camellias Act3
振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:フレデリック・ショパン
マリア・アイシュヴァルト マライン・ラドメイカー
舞台の上手前方に俯き加減で佇むマラインのアルマン。マリア・アイシュヴァルト扮するマルグリットが入ってきてゆっくりと顔にかかるヴェールを外すと彼は立ち上がるけど、顔はそむけたまま。彼は年上の恋人に対して最初は怒りを隠せないでいて、白く立ち上る怒りをぶつけるかのように、マルグリットのコートを床に叩きつける。アルマンも深く傷ついていていて、その傷ついた思いをマルグリットに思わずぶつけているのだ。これ以上私を苦しめないで、と決意をこめたように最後の気力を振り絞って彼の部屋にやってきた彼女。去っていこうとするマルグリットの手を強引に取って、帰らせまいとするアルマン。やがて二人の情熱は再び燃え上がる・・。
マリアはマルグリットを演じるには持ち味が少々強すぎるかな、と観る前には思っていた。実際、芯の強さを感じさせるところが彼女にはある。だけど、芯が強いだけに脆さもあって、折れそうになって揺らぐ様とアルマンへの強い想いが彼女の上半身を大きく震わせる様子から伝わってくる。アルマンの若さゆえの未熟さ、向こう見ずさ、疾走感を湛えたマラインは生き急ぐように、先の短いマルグリットの命を留まらせようとするがごとく、気を失いそうになっている彼女に猛スピードで駆け寄ったかと思ったら、その先はいとおしむようにゆっくりと抱きしめる。一つ一つの動きに絶妙な緩急をつけていることで、あまりにも激しい感情が迸るのが彼の持ち味。マリアを高く掲げて腕の中で転がすようにリフトする。自在に、まるで魔術のように彼女を操っている様子にクラクラする。アルマンははやる気持ちを抑えられずにマルグリットの服を剥ぎ取り、魂をぶつけ合うように愛し合う二人は床の上を抱き合ったままごろごろと転がる。はあはあという荒い息遣いが聞こえてくる。座った姿勢で互いの顔を見つめあって、アルマンは手を差し出し、マルグリットはそこに顔を埋め頬を寄せて、もう傷つけないと約束を交わす。立ち上がりマルグリットを引き寄せたアルマンは燃えるような瞳でマルグリットを見つめ熱いキスをして、そして最後に高々とリフトをして回したかと思うと、二人は最後の感傷をかみ締めるように倒れこむ・・
今回が初めての「椿姫」での共演とは思えないほどのパートナーシップだった。ずっとペアを組んでいたスージン・カンとマラインとの「椿姫」ほどの一体感や儚さが呼び覚ましてくれた粟立つ感情は出てこなかったけれども、観客の誰もが思わず息を止めて舞台上の世界に見入ってしまったことだろう。
「トランスパレンテ」
振付:ロナルド・ザコヴィッチ、音楽:アルシャク・ガルミヤン、マリーザ
ベアトリス・クノップ ミハイル・カニスキン
「瀕死の白鳥」
振付:マウロ・デ・キャンディア、音楽:カミーユ・サン=サーンス
ウラジーミル・マラーホフ
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