オランダ国立バレエ「ジゼル」DVD Giselle - Dutch National Ballet
買っておいたけどまだ観ていないDVDが山のようにたまっていくこの頃、連休もあるし少しずつ観なくちゃ、ということで。
オランダ国立バレエ「ジゼル」 Het Nationale Ballet "Giselle"
振付:ジャン・コラリ、ジュール・ペロー、改訂マリウス・プティパ
プロダクション・追加振付:Rachael Beaujeau, Ricardo Bustamente
音楽:アドルフ・アダン
セット、衣装:Toer van Schayk
ジゼル:アンナ・ツィガンコワ Anna Tsygankova
アルブレヒト:ヨゼフ・ヴァルガ Jozef Varga
ミルタ:Igone de Jongh
ヒラリオン:Jan Zerer
パ・ド・カトル:Michele Jimenez, Maia Makhateli, Mathieu Gremillet, Arther Shesterikov
ドゥ・ウィリ:Anu Viheriäranta, Emanouela Merdjanova
収録:2009年2月10日、アムステルダム・ミュージックシアター
まずこの舞台はプロダクション・デザインが非常に美しい。衣装は「ジゼル」で一般的な暖色系パステルトーンなのだけど背景が冷たく暗い山々で対照的であり、まるでフランドル派の絵画を見ているかのよう。「ジゼル」の物語の悲劇性を象徴しているようだ。母親ベルタが、踊りだそうとするジゼルに対して、心臓が弱いあなたが踊ると死んでしまってウィリになってしまうわと諭すところの演技が長く、空も真っ暗くなって一瞬にして不穏な空気が支配する。このベルタの説諭は、バチルド一行の前でまたもや踊ろうとするジゼルにも繰り返され、「そんなことをしたら死んでしまうわ」とくどいほど語っている。
ジゼルを演じるのはアンナ・ツィガンコワ。ノヴォシビルスクバレエ学校からボリショイ・バレエ、ウィーン国立バレエを経ているバレリーナで、色白で黒髪、とても繊細な雰囲気の持ち主。ジゼルは絶対農作業とかさせられていないだろうな、貴族の落胤なのかなと想像させてしまう、純真さとともに姫っぽさが感じられる。狂乱のシーンでもとても落ち着いていて、静かに壊れていくようだった。踊りもとてもこまやかで、長い腕の使い方がとてもきれいだ。
この演出の特徴なのかもしれないのだけど、2幕のジゼルが精霊というより、人間らしい温かみや感情を残しているようだった。ジゼルは死んでいなくて、アルブレヒトへの愛がウィリの形となりながらも、少女の姿をこの世にとどめて彼を守り抜くという演出意図が感じられた。ジゼルに限らずウィリたちも亡霊っぽくなくて、一人一人がかつて女の子として人を愛して死に、その悲劇ゆえに今の精霊姿になっているという人間性を感じさせる。花を編みこんだ髪型が可愛らしいということもあるのだが。
2幕のプロダクションデザインは見事の一言。2幕の最初の方で、ミルタを取り囲んだウィリたちが、円を描くように並んでいるというフォーメーションがとても美しい。ウィリたちが花嫁のようなヴェールを被って暗闇に浮かび上がる姿もぞっとするほど怖い美しさ。ここでも、ダークなプロダクションデザインが生きている。ウィリたちが舞台上に集まった最初の一曲は全員がヴェールを被ったまま踊るのが珍しいのだが、とても幽玄な効果をあげている。集団になると恐ろしいのに、姿かたちは愛らしいのがますますウィリたちの哀しさを浮かぶ上がらせる。ミルタ役のIgone de Jonghは目力が強くて美しく、威厳があるけど、後半少し踊りが弱くなってきているのが惜しい。ドゥ・ウィリの二人はそれぞれ素晴らしい。(そのうちのズルマ役のAnu Viheriärantaは今年のブノワ賞に別の作品でノミネートされている)群舞ではウィリたちの統制が取れているし、良く揃っていて古典バレエの美しさを感じることができる。
アルブレヒト役のヨゼフ・ヴァルガは、登場シーンからエレガントで高貴な人なのがとてもよくわかる。登場するところでは短いマントをつけていて、それをはずしてウィルフリードに手渡す。1幕から誠実なイメージのアルブレヒトで、ジゼルが腰掛けている長いすに強引に割り込むなど情熱的なところも少しあるけど、プレイボーイという描き方ではない。ジゼルの狂乱のシーンでも、ジゼルを何とかしてこちらの世界に取り戻そうと必死になっているし、ジゼルが息絶えた後もずっと彼女を抱きしめていて、真剣に彼女を愛していたのだというのが伝わってくる。
この版の「ジゼル」では、1幕のジゼルのヴァリエーションの前にアルブレヒトのソロがあって、このソロでの彼も素晴らしい。また2幕のヴァリエーションも柔らかい背中と美しい足先で貴公子を熱演してくれた。ミルタに操られるところはブリゼで最後にアントルシャ・シスを10回。この後の、ジゼルを低くリフトしながら進んでいくところ、二人の息が見事に合っていてため息モノだった。
ヒラリオン役のJan Zererはかなり若そうで、長身で金髪でルックス良く、ヒラリオン役には少々かっこよすぎるくらい。でも、やはりアルブレヒトと並ぶと、アルブレヒトが貴公子だから庶民の男の子だな、っていうのがわかる。2幕でウィリたちに取り殺されるところはすごくボロボロになっていて気の毒!
それからペザントの通常パ・ド・ドゥになっているところがここではパ・ド・カトル。そのうちの一人が、デヴィッド・マッカテリの妹で世界バレエフェスティバルにも出演したマイア・マッカテリ。相変わらずとても可愛い。派手さは無いけどソリストのテクニックは着実だ。オランダ国立バレエは個人的にはコンテンポラリーを上演しているイメージが強かったのだが、このパ・ド・カトル一つ観ても、カンパニーの水準が高いのがよくわかる。ボーナスとして、主演3人のインタビュー付。お勧めできる映像だ。
製作会社のYouTubeオフィシャルチャンネルで、2幕の一部とインタビュー動画が見られる。
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