ロシア文化フェスティバルのオープニングセレモニーの後にガラは始まった。
≪第一部≫
『パキータ』
音楽:ミンクス/振付プティパ
改訂振付:ミハイル・ラヴロフスキー/演出:S・フィーリン
マリーヤ・セメニャチェンコ セミョーン・チュージン
ドミトリー・ハムジン セルゲイ・クジミン
マリヤ・クラマレンコ アンナ・ヴォロンコーワ
アンナ・ハムジナ エリカ・ミキルチチェワ
モスクワ音楽劇場バレエ団コールドバレエ
指揮:アントン・グリシャニン
ロシア・バレエならではの演目ではあるけれども、せっかくならこのバレエ団ならではのレパートリーを観たかった気がするので、「パキータ」じゃなくても良かったのではないかしら。演奏が始まると、これが「パキータ」なのか、と思うくらいオーケストラが鳴っていたのにちょっとうけてしまった。
コール・ドは足音はあまりさせていなかったけど、マリインスキーの優雅さとはちょっと違っていて、元気が良い感じ。ものすごく揃っているわけではないけれども、きれいにまとまっており、さすがにみなさんプロポーションはきれい。
ヴァリエーションは、「ラ・バヤデール」のガムザッティのヴァリエーションや「ドン・キホーテ」のキューピッドのヴァリエーションの曲など。「パキータ」の中では気に入っている、エトワールが踊るハープの美しい曲をつかったものがないのがちょっと残念。ちょっとだけ顔がザハロワに似ている2番目のエリカ・ミキルチチェワ、そして3番目のヴァリエーションが良かったと思う。
男性ダンサーが3人キャスト表になっているのでどういうことなのかな、と思ったら、エトワールのほかに男性二人で踊るところがあって、二人ともすごく達者だった。
エトワールのマリーヤ・セメニャチェンコは長身で脚の長い美女。プロフィール写真も美しいけど、舞台姿も本当に美しい。この作品の真ん中を踊るにはもう少し求心力があったほうがいいかなとも思うけど、でも真ん中を踊るのにふさわしい華がある。男性エトワールのセミョーン・チュージンも背が高く、ふわふわの金髪がちょっとウヴァーロフのようなノーブルな若いダンサー。白いタイツが良く似合い、サポートも上手。他の作品でも見てみたいな、と思ったら翌日の「エスメラルダ」のファビュス役で見ることができた。
(休憩20分)
≪第二部≫
『石の花』より
音楽:S.プロコフィエフ/振付:ユーリー・グリゴローヴィチ
モスクワ音楽劇場バレエ団コールドバレエ
指揮:フェリックス:コロボフ
いかにもロシア的な、民族色豊かでカラフルな衣装を着けている群舞が舞台を埋め尽くすほど大勢登場して、踊りまくりで観る側としても血が騒ぐ。とっても楽しかった。こんなに大勢のダンサーをガラに投入してくれると思っていなかったので、嬉しい驚き。
『グラン・パ・クラシック』
音楽:ダニール・オベール/振付:ヴィクトル・グゾフスキー
金子扶生 ゲオルギー・スミレフスキー
指揮:アントン・グリシャニン
モスクワ国際コンクールジュニア部門で銀賞を受賞した、地主薫バレエ団の金子扶生さんが客演。まだ18歳だというのに、正確な技術はいうまでもなく、堂々とした演技で華もしっかりあって素晴らしかった。そしてスミレフスキー!今回奥様のクラピーヴィナがおめでたで降板し、それに伴うキャスト変更が玉突きとなってしまって「白鳥の湖」で観られなくなってしまったのが本当に残念。前回の来日公演での「白鳥の湖」の王子が素晴らしくて、もう一回観たいと思っていたのだけど。ダンスール・ノーブルのお手本のようなエレガントな踊りと優しさの感じられるサポート。土曜日にさいたまに行く予定がなければ「白鳥~」」は追加したかった。
『ジゼル』
音楽アダン/振付:プティパ
ナタリヤ・レドフスカヤ セミョーン・チュージン
指揮:アントン・グリシャニン
レドフスカヤは上半身の動きが美しく儚げで精霊らしかったのだけど、跳躍を繰り返すところではウィリにしては脚が元気が良すぎるというか、力が入っているように思えてしまった。チュージンはとても柔軟な肢体の持ち主で特に背中が柔らかくてアラベスクがすごく美しいし、ジゼルに体重がないように持ち上げるサポートも上手だった。
『ロマンス』
音楽:ゲオルギー・スヴィリードフ/振付:ドミトリー・ブリャンツェフ
イリーナ・ベラビナ/ロマン・マレンコ
指揮:フェリックス:コロボフ
もの悲しげな音楽(フィギュアスケートなどにもよく使われている音楽とのことで、確かに聴き覚えがある)の中、シンデレラの灰かぶり姫のような灰色の衣装の女性と、少し破れた服を着ている男性の恋人同士のパ・ド・ドゥ。最初は愛にあふれていた二人だったのだけど、男性が途中で何者かに連れ去られたかのように闇の中に消えてしまい、激しく嘆き悲しむ女性。プログラムの解説によれば、ロシア革命の中で愛する者が突然連れ去られてしまったという現実を見ることができるとある。短い作品だけども、ダンサーたちの演技力もあり、胸をかきむしられるような哀しみが鮮烈な印象として残った。
『ゼンツァーノの花祭り』
音楽:エドゥアード・ヘルステッド/振付オーギュスト・ブルノンヴィル
ガリーナ・イスマカーエワ 奥村康祐
指揮:アントン・グリシャニン
もう一人の日本人ゲスト、やはりモスクワ国際コンクールのシニア部門銀賞の奥村康祐さんも優れたダンサーで、ブルノンヴィル独特の脚捌きも鮮やかだった。ちょっと小柄なのがもったいない。ガリーナ・イスマカーエワは小気味の良い踊り。
『悲しみの鳥』
音楽:モーリス・ラヴェル/振付:カシヤン・ゴレイゾフスキー
マリーヤ・セメニャチェンコ
ピアノ:アンナ・マリシェワ
美しいセメニャチェンコが、長くて綺麗な肢体が際立つようなエメラルド・ブルーのユニタードのような衣装を着けてしなやかに踊る。本当に彼女は美しい~。
オペラ『ファウスト』より『ワルプルギスの夜』抜粋
音楽:シャルル・グノー/振付・演出:ミハイル・ラヴロフスキー
ナターリヤ・レドフスカヤ ミハイル・プーホフ
ドミトリー・ハムジン
モスクワ音楽劇場バレエ団コールドバレエ
指揮:フェリックス:コロボフ
これも群舞が多数登場して盛り上がること盛り上がること!大勢のバッカスたちやニンフたち、そして牧神などが勇壮に舞い踊る。ソリストの男性二人もダイナミックでたっぷりと見せてくれるし、先ほどのジゼルとは一転して、レドフスカヤがメリハリの効いたスパイシーな踊りで、視線を釘付けにさせてくれた。この手の役のほうが彼女には似合っているのかもしれないけど、本当に可愛らしくて魅惑的だった。オーケストラも、特にシンバルやティンパニがノリノリで鳴らしてくれた。音響の良くないオーチャードホールでこれほど響かせてくれたのはたいしたもの。
『ドン・キホーテ』
音楽:ミンクス/振付・演出:アレクサンドル・ゴルスキー
ナタリヤ・ソーモワ ゲオルギー・スミレフスキ
セミョーン・チュージン セルゲイ・クジミン
指揮:フェリックス:コロボフ
ガラならではのお遊びで、バジル役は3人のダンサーがパートを分担。スミレフスキーがアダージオ、セルゲイ・クジミンがヴァリエーション、チュージンがコーダ前半を踊ってくれた。チュージンだけが純白の結婚式仕様の衣装。この3人だとやはりスミレフスキーが圧倒的に素晴らしく、片手リフトも余裕で決まり、アダージオの最後にはキトリのソーモワを空中に放り投げてキャッチしてくれるという技も見せてくれた。コーダ後半のピルエット・ア・ラ・スゴンド合戦でも、スミレフスキーのつま先の伸び方がひときわ美しい。キトリのソーモワは派手さはないものの、しっかりとした安定した踊りで、グランフェッテは余裕たっぷりにきれいに回っていた。ヴァリエーションの二人が誰だったのか、キャスト表に出ていなかったけど、途中で滑って転んでしまったけど笑顔で続けた第一ヴァリエーション、そして第二ヴァリエーションとも非常に良かった。
終わってみれば、本当に盛りだくさんでサービス精神も旺盛、楽しいガラだった。当初「ドン・キホーテ」のバジルの一人に予定されていた芸術監督セルゲイ・フィーリンが直前に出演キャンセルとなってしまったのは残念だったけど、フィーリンのバジルは今までたくさん見せてもらったので。これからは、彼はこの素敵なカンパニーをますます活性化させるのに手腕を振るってくれればいいなって思った(でも、たまには踊ってくれると嬉しいけど!)
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