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2010/04/20

4/14 国立モスクワ音楽劇場バレエ「エスメラルダ」Stanislavski & Nemirovich-Danchenko Moscow Academic Music Theatre "Esmeralda"

ブルメイステル版「エスメラルダ」(全3幕)

音楽:チェーザレ・プーニ/レイゴリト・グリエール/セルゲイ・ワシレンコ
台本:ワシリー・チホミーロフ/ウラジーミル・ブルメイステル
原作:ヴィクトル・ユゴー「ノートルダム・ド・パリ」
振付・演出:ウラジーミル・ブルメイステル(1950年)
美術:アレクサンダー・ルーシン
リバイバル版演出:セルゲイ・フィーリン(2009年)

日本では初演となるブルメイステル版「エスメラルダ」。初めて全幕を観る作品で観る前は果たしてどうなのかな、と思っていたのだが、一人一人の出演者が作品の世界を生きており、中でもタイトルロールを演じたナターリヤ・レドフスカヤが素晴らしくてすぐに舞台の中に引き込まれた。

バレエ団の正式名称が「スタニフスラスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ記念モスクワ音楽劇場バレエ団」と、かのスタニフスラスキー・システムの名前を戴いていることからも、非常に演劇性を重視した舞台となっている。群舞にいたるまで、出演者一人一人がその役を生きるように演技していて、バレエと演劇がダンスを通じて(ここが大事)融合し、作品の世界を表現していた。

この群舞=民衆が、この作品のもうひとつの主役と言っていい。醜いせむし男のカジモドを自分たちの王として選ぶ祭りの熱気。ファビュスとフルール・ド・リスの婚約の宴への招かざる客としての魅惑的なジプシーたち。そして無実の罪を着せられたエスメラルダが処刑台へと送られようとしていることに抵抗する、虐げられてきた民。貴族たちが支配しどんなに理不尽なことも通ってしまう世界に反旗を翻し、エスメラルダを受難者として崇拝し守ろうとする彼らの悲しさが、これらの場面を単なるモブシーンとしてではなく、一人一人の息遣いを感じさせ、作品の生命線を担うものとして深みを与えていた。道化の姿をした男性ダンサーたちのダイナミックな踊りもとても楽しかった。

この「エスメラルダ」は1幕が民衆のエネルギッシュで躍動感ある踊りが中心、2幕が貴族たちのクラシックなバレエ中心、そして3幕がドラマ中心と3つの幕が明確に分けられている。その中で、貴族世界を描いた2幕が作品の中で一番弱いのも無理はないかな、と思った。

一人一人の登場人物が魅力的な中、やはり際立っていたのがレドフスカヤだった。登場したところから、視線を一気に吸い寄せる鮮烈さ。実際のレドフスカヤの年齢からは想像もできないほど初々しく愛らしく魅力的な上、くっきりとした輪郭の鮮やかな踊り、軽やかなジュッテ、柔軟さ、絶妙のアクセント。まさにテクニックと演技力が融合していて、踊りを通して生き生きと役を生きているのが伝わってくる。本当に彼女のエスメラルダは可愛くて、ファビュスに対する愛情表現も、はにかみながらで初々しくて。ファビュスが不実な男だというのがわかっているのだから、もう切なくて。

そんな可愛いエスメラルダが、破戒僧フロロの陰謀によって無実の罪を着せられて死刑に処せられることになるとはなんと過酷な運命だろう。フロロの強引な求愛をはねつけた彼女が、ついに処刑台に送られる時には、髪を下ろして粗末なガウン姿になっている。このときのエスメラルダはとてもさっきまでの初々しく一途な少女とは思えない、絶望した姿ではあるのだけど崇高さを感じさせて美しい。こんなにも美しく純真な女性が、自分には何一つ落ち度がないのに、こんな悲しい運命に翻弄されてしまうなんて・・・(それは、理不尽にもスターリンに粛清されていったロシアの民衆の姿とだぶるものがある)

罪を着せられて死刑になるだけではなく、愛した男ファビュスが婚約者フルールを連れ、表情ひとつ変えずに彼女の前を通り過ぎていってしまうとはなんという悲劇だろう。さらには生き別れた母が狂女と成り果てながらも死の直前に再会を果たし、そのまま永遠の別れまでくるとは、ここまで残酷な運命を背負わされたヒロインもほかにいないのではと思うほど。愛する男に裏切られた絶望と、母との再会の喜びが死別の悲しみへと変わり行く心情の襞を、決して大袈裟ではなく細やかに表現したレドフスカヤの演技力は心を打った。ひどく悲しく救いのかけらもない場面だというのに、悲しみに打ちひしがれ生きる希望を失っていくエスメラルダは、生の儚さとともに、輝きを感じさせたのだった。

カジモド役のアントン・ドマショーフの演技も光っていた。あまり踊りがある役ではないけれども、身体にたくさん詰め物をして顔もかなりメイクで作りこんでいてぞっとするような醜さのせむし男になりきっていた。(アントン・ドマショーフは18日の「白鳥の湖」ではロットバルト役を踊ったのだった)恩義のあるフロロには逆らえず卑屈になってしまう一方、美しいエスメラルダには恋心を抱き、物陰からそっと彼女のことを見つめている。意を決して不器用に愛を告白しても、その醜い姿に驚いたエスメラルダには拒絶されてしまう。己の醜さを嘆く彼の姿は悲しく、思わず胸を締め付けられてしまった。
エスメラルダの復讐を果たすべくノートルダム寺院の塔からフロロを突き落とすカジモド。エスメラルダを守りきれなかったことを悔やみながらさまざまな葛藤と戦い、支配的な存在を倒したカジモドの、最後の万感迫る表情にも心を揺り動かされた。

カジモドに対して圧倒的な支配力を持ちながらも、エスメラルダへの欲望も抑えられない怪僧フロロ。エスメラルダに拒絶されてからは、彼女を許すことができずに処刑台へと送ってしまう。フロロは憎むべき絶対悪の存在ではあるのだけど、自分の色欲に勝てない憐れな人物、人間の弱さを感じさせていたのは、名キャラクテールとして知られたウラジーミル・キリーロフの演技があってこそ。また、エスメラルダと生き別れ、狂女としてさすらうグドゥラを演じたインナ・ギシケーヴィチの、圧倒的な存在感も凄まじかった。

それにしても、このブルメイステル版「エスメラルダ」のファビュスって本当にひどい男。バレエの男性主人公は、アルブレヒトやソロルのように不実な男がたくさん登場するけれども、ひどい男ランキングでファビュスはナンバーワンになるかも。婚約者がいるのに純真なエスメラルダをだまし、そのことが婚約者にばれても平然としているし、何よりもエスメラルダが処刑台へと送られてしまうというのに、彼女の助命嘆願も無視して歩き去るとは・・・(したがって、カーテンコールではチュージンへの拍手が心なしか少なかったような)また、チュージンがこの卑劣な二枚目を巧みに演じていたのが素晴らしい。

そんなわけで、「エスメラルダ」の物語は圧倒的な悲劇で救いがほとんどないにもかかわらず、素晴らしい舞台を観た満足感一杯で終演を迎えることができた。


そして忘れてはならないのが、見事な舞台装置と美術。舞台の両脇の高い位置に、一対のガーゴイルが配置されていて、赤い照明を浴びて舞台を見下ろしている。このガーゴイルたちは人々の営みを見つめ続けているのだ。場面転換の際には、ノートルダム寺院の薔薇窓を模した幕が下がるのだが、このステンドグラスの絵柄が一つ一つ細かく美しく描かれていて、本物のステンドグラスを見ているようだし、ここに照らされた照明もとても美しくて効果的だった。

圧巻だったのが、ラストのノートルダム寺院のセット。まずは幕にノートルダムの塔屋からセーヌ川を見下ろした風景、そして欄干の両端にはやはりガーゴイルが描かれている。この幕が上がると、幕に描かれている様子がそのまま精巧なセットで再現されているのだ。醜い姿をしたガーゴイル像だが、長年にわたってパリの街と人々を見守ってきたのだということを感じさせる。恋しいエスメラルダの姿を物陰からじっと見つめていたカジモドを象徴する存在でもあった。塔から見下ろした教会までもが装置で再現されていて、思わず息を呑んだ。細部までこだわりぬかれた舞台であったということを改めて実感させられ、劇場つきのオーケストラも帯同して一流の舞台を見せてくれたバレエ団の心意気を堪能した。

またプログラムには、あらすじだけでなく登場人物の詳細な説明が載っており、予習できたことも幸いした。プログラムでは、ダンサーのプロフィールも、ソリストたちまで載せてくれてありがたい限りだった。


【キャスト】
エスメラルダ:ナターリヤ・レドフスカヤ
フェビュス:セミョーン・チュージン
クロード・フロロ:ウラジーミル・キリーロフ
カジモト:アントン・ドマショーフ
グドゥラ:インナ・ギンケーヴィチ
フルール・ド・リス:マリーヤ・セメニャチェンコ
ジプシー・イリーナ・ベラヴィナ
将校:セルゲイ・クジミン、ロマン・マレンコ
道化:デニス・アキンフェーエフ、デニス・ペルコフスキー、アレクセイ・ポポーフ
王:ドミトリー・ロマネンコ、セルゲイ・マヌイロフ、イリーヤ・ウルーソフ
シェンシェリ:アンナ・ヴォロンコーワ
ヴァリエーション:マリア・クラマレンコ、エリカ・ミキルチチェワ、アンナ・アルナウートワ

指揮:アントン・グリシャン
管弦楽:国立モスクワ音楽劇場管弦楽団

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バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

お久しぶりです。
私はマチネの「エスメラルダ」を観ました。ダンサー達は勿論ですが、演出、舞台美術、オケのすべてが素晴らしく、良い舞台を観たという満足感に浸りながら岐路につきました。
naomiさんの感想を拝見して、エスメラルダに罪を着せた張本人フロロよりもファビュスの方がひどい男と感じたのは、人間の弱さをみせたフロロに対してファビュスはいつも自信に溢れていて弱さを微塵も感じさせなかったからなのだと気がつきました。
ちょっと気が早いですが、次回に来日公演が待遠しいです。


見たかったのですよ〜〜

でも見られなかったわたしの為に書いて下さったかのようで、堪能しました。

ありがとうございましたheart

yunyuさん、こんにちは。

木曜日のマチネをご覧になったのですね!ホント、ダンサーはもちろんのこと、演出、舞台美術、オーケストラともとてもよくて、総合芸術として素晴らしかったですよね~。

フロロとファビュスの話、言われてみれば確かにそうですよね。フロロは人間としての弱さがあるけど、ファビュスは欲望に忠実で図々しいというか開き直っているところが、同情を得られにくいって感じですね。

ホント、次回の来日が待ち遠しいです。セメニャチェンコやチュージンなど若手のダンサーの成長も楽しみですよね!

ずずさん、こんばんは。

きっとずずさんなら気に入った公演だったと思うから、今回ご覧になれなくて残念。でも、また観る機会があるといいなと思わせてくれた公演だったし、観た人たちにはとても好評だったから、近いうちにまた来てくれることでしょう!

はじめまして。naomiさん

 今回の「エスメラルダ」を観てナターリア・レドフスカヤさんについて改めてチェックしていたら、naomiさんの鋭い観察と深い知識に基ずく感想を見出し、楽しくまた感心しながら読ませていただきました。
 更に2007年12月の同バレエ団の来日公演の記事を見て大変感激致しました。

 と言いますのは、私が初めてバレエを観たのが、将にその2年半前のレドフスカヤ主演「くるみ割り人形」及び、チェルノブロフキナ主演「白鳥の湖」だったからです。
 この時は、”これらのバレエ音楽の全曲を本場の管弦楽団で聞きたい”という単純な動機で出かけたのですが、音楽以上にバレエ自体に嵌まり込んでしまい今日に至っております。(もちろん楽曲自体の演奏も十分に満足しましたが、、)
 naomiさんの記事を読んで、当時の舞台の記憶が蘇り”あれは本当に良かったなあー”と今、改めて思っています。
 
 今回、私は都合がつかず、残念ながら後の公演には行けませんでしたので、ナターリヤ・ソーモワ主演「白鳥の湖」の感想をとても楽しみにしていますし、それを基に想像したいと思っております。
 
 ところで他のバックナンバーも一部読ませていただきましたが、昨年年末に取り上げられていた”オクサーナ・スコーリク”について。
 今回配られた今年10月のボリショイ&マリインスキー合同ガラ公演のチラシに、事前のアリーナ・ソーモワに変わって名前が載っていました。
 ロパートキナ、ヴィシニョーワ、テリョーシキナの間でどんな踊りを見せてくれるか楽しみです。ただ「ラ・バヤデール」の時の様に変更にならねばよいのですが、、、。
 
(今年2月ワシントンD.C.で、”リラの精、フロリナ王女”を踊る彼女を偶々見ました。コンダウーロワに比べると線が細い印象でしたが、切れのあるまたポーズも美しい、とてもCorps de Balletとは思えない堂々としたものでした。)

 では、よろしくお願いします。        uzume

uzumeさん、はじめまして。ようこそいらっしゃいました。
拙ブログの記事をお褒め頂きありがとうございます&恐縮です・・最近ちょっと更新のペースが鈍ってしまっていますが、白鳥の方もいずれ感想を書く予定です。

そういえば、このダンチェンコ公演のときに合同ガラの微妙に新しくなったチラシが配られていて、オクサーナ・スコーリクの名前が追加されていましたね。大スターに囲まれてプレッシャーがあるかもしれませんが、最近も順調に抜擢されているようなので、楽しみですね。

そして、ワシントン公演の「眠れる森の美女」をご覧になったのですね!最近の活躍の様子を教えていただいて、嬉しい限りです。合同ガラがまた楽しみになってきました。今後ともよろしくお願いいたします♪

naomiさん、お久しぶりです。
私も3月はパリオペとグルジア、新国の公演だけでもどうしようと思っていたところに休日出勤&深夜残業が重なってしまって、帰宅してご飯を食べたらバタンの日々が続いていました。未だに後遺症が残ってるかも。。。
モスクワ音楽劇場の白鳥は遠い昔に2度観たことがあるので、今回はガラとエスメラルダだけにしたのですが、あの内容でS席12600円は本当にお得ですね。また近いうちに来日して欲しいものです。エスメラルダ役のレドフスカヤの高速パ・ド・ブレには鳥肌が立ちました。チュージンとキリーロフの二人も素晴らしかったのですが、naomiさんのおっしゃるとおり、役が役だけに拍手する手に力が入りませんでした(笑)。ホント、ファビュスはバレエの物語史上最悪な男です。

次のバレエの祭典、ビックリですね。演目はとても魅力的ですが、支払いも2年越しにしてもらわないと。。。

peluさん、こんばんは。

3月は年度末だしやっぱり仕事が忙しいところが多いですよね。私は3月はそれほどでもなかったのですが、4月になったとたんにバタバタしちゃってブログどころではなくなってしまいました。

モスクワ音楽劇場、本当におっしゃるとおり、オーケストラをつれてきて、あの素晴らしい装置でこのお値段はめちゃめちゃお得でしたよね。いまいち宣伝が浸透していない感じだったのが惜しかったのですが、内容は本当に素晴らしかったです。特にエスメラルダは観られて良かった!そうそう、チュージンもキリーロフも演技がとても良かったです。(キリーロフはオーケストラからお約束のブーイングまで浴びていましたね)

祭典、ホント資金繰りをどうしようかなって感じです。分割払いがあるみたいなので、それを使わなくっちゃ。

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