BlogPeople


2019年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

ブログパーツ

  • HMV検索
    検索する
無料ブログはココログ

« ローザンヌ国際コンクールの入賞者 | トップページ | 《マニュエル・ルグリの新しき世界》Aプロ 超短評 New Universe of Manuel Legris Program A »

2010/02/02

「シャネル&ストラヴィンスキー」 Coco Chanel & Igor Stravinsky

原題「Coco & Igor」
http://chanel-movie.com/
http://www.chanelstravinsky.com/

監督:ヤン・クーネン
原作:クリス・グリーンハルジュ著『COCO&IGOR』
音楽:ガブリエル・ヤレド
出演:マッツ・ミケルセン アナ・ムグラリス エレーナ・モロゾヴァ

2009年/フランス/119分
配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ

61567985

ココ・シャネルとバレエ・リュスの関係はとても有名で、彼女は主宰者セルゲイ・ディアギレフのパトロンとして多額の資金を提供しただけでなく、「青列車」やストラヴィンスキー作曲の「アポロ」の衣装のデザインも行なった。ディアギレフがヴェネチアで客死したとき、その最後を看取った4人の一人がシャネルである。もう一人は、この映画にも登場する、やはり美しきパトロネスのミシアだった。ディアギレフの葬儀を出したのも、1920年の「春の祭典」の再演の資金を出したのも、シャネルであった。

本当のところ、ストラヴィンスキーとシャネルの間に恋愛関係があったかどうかはわからない。ただ、シャネルが、ロシア革命で財産を失った彼と彼の家族に、2年間物間パリ郊外の別荘を提供したことは事実とのこと。

この映画は、実際のシャネルとストラヴィンスキーの関係はどうだったのか、その真実を描くことを目的としたものではない。伝記映画ではないのだ。旧来のファッションに反旗を翻し、まったく新しいデザイン、新しい女の生き方をしたシャネルが、同じくバレエに革命を起こしたバレエ・リュス、そしてストラヴィンスキーの音楽に惚れ込み、愛し、旧来のモラルにとらわれずに強く生きた姿を描いたものだと思う。

だから、シャネルがどのようにストラヴィンスキーを愛したのか、二人はなぜ惹かれあったのかということが具体的に描かれていなくても何ら問題はないのだ。オープニングのタイトルバックのアラベスク模様から、徹底的な美意識で貫かれたアール・デコ形式のシャネルの別荘、左右対称を多用した画面構図まで、スタイリッシュな様式美で象徴的に切り取った画面ルックはぞくぞくするほど美しい。

冒頭、のちに事故死する恋人"ボーイ"と愛し合う時にコルセットの紐を鋏で切り取るシャネル。そのシーンを描くことで、彼女がコルセットから女性たちを解放したことを象徴させる。そしてドレスに着替えた彼女は、エスコートなしで一人でシャトレ座に馬車で乗り付け、伝説的なバレエ・リュス「春の祭典」の初演舞台を目撃する。新しいクリエイション、芸術とファッションの革新が起きたことを、一連のシークエンスで描いてしまう鮮やかな演出手腕。あの「ドーベルマン」を監督したヤン・クーネンの手によるものであるとはにわかには信じがたいほどだ。

シャネルがモードの新しい世界を切り開いていることを声高に主張している映画でもなければ、熱い恋愛を描いているわけでもない。シャネルはデザイナーであると共に、有能なビジネスウーマンであり、ブティックのマヌカンの身だしなみを細かくチェックしたり、賃上げ交渉を巧みにかわしたり、夜遅くまで売り上げの勘定を行なって一人で店に残ったりといった描写で、そのことを効果的に表現している。彼女の圧倒的な美意識は、眩暈がするほどシックでアーティスティックな別荘のインテリア、シャネルが実際に着用したというクチュール、そして香水に対するこだわりで表現している。何よりも、シャネルを演じているのが、シャネルのイメージモデルであるアンナ・ムラグリスであるということが効果的。ほっそりと長い首、優雅でモダンな美しさの彼女を中心にすえたことで、映画全体のルックが、シャネルのエレガンスそのものを体現できているのだ。

ココ・シャネルが新しい時代の強く自立した女として描かれているのに対し、ストラヴィンスキーの妻カーチャも実に強い女性として登場。シャネルの別荘に住まわせてもらっているけれど、明らかに夫とシャネルの間に男女の関係があるのに気がつき、そのことに耐えられなくなっている。肺を病んでベッドの中にいることが多いが、病床にあっても夫の楽譜を清書し、彼女なしではストラヴィンスキーは作曲もできない。夫を問い詰めて情事を白状させ、シャネルに面と向かってモラルのない女だと厳しく批判し、ついには子供たちを連れて出て行く。顔色が悪く病弱そうな中にも、鋼のような強い意志を秘めたエレーナ・モロゾヴァの大きな青い瞳が印象的である。

ココとカーチャという強烈な、ほとんどモンスターのような強烈な女たちの間に挟まれて、天才的で革新的な音楽家のストラヴィンスキーもたじたじとなってしまっていた。自分を支えてくれる幼馴染の妻がすぐそばにいるのに、シャネルの魅力の虜となって愛欲に溺れていく弱さが、人間味となって現れている。芸術家としてのエキセントリックさと繊細さを、「カジノ・ロワイヤル」のル・シフル役が印象的だったマッツ・ミケルセンが好演。能弁ではないが、雷鳴のような情熱のほとばしりを、彼がピアノで弾く「春の祭典」の激しいリズムで表現。ストラヴィンスキーがシャネルにピアノを教えるシーンは、その後に繰り広げられる淫蕩な、だけどスタイリッシュな情事よりもよほどエロティックである。だけど、「君は単なる洋服屋で、芸術家ではない」と切り捨てるところが、彼の限界でもあり、またアーティストとしての矜持でもあったのだろう。そんな男のもとを、誇り高いシャネルは走り去る。それでも、彼女は「春の祭典」の再演に際して匿名で寄付をするところがなんともカッコいい。新しい芸術は、芸術家だけでなく、彼女のようなパトロンの存在によって誕生したということがよくわかる。


***

さて、バレエファンとして嬉しいのは、冒頭、"ボーイ"のもとからシャネルが向かった先、シャンゼリゼ劇場での1913年の「春の祭典」の歴史的初演の様子が30分近くにわたって繰り広げられていることである。「春の虐殺」とも異名をとった、ブーイングとブラボーが飛び交い、観客が暴れだして警察まで出動した大騒動の一部始終。いよいよ舞台の幕が開く前の緊張したストラヴィンスキーの姿、衣装とメイクをつけて舞台へと向かうダンサーたち、本人そっくりのディアギレフ、怒号の中舞台袖で必死にカウントを取るニジンスキー。ニジンスキーが振付けた、バレエの歴史を塗り替えた作品「春の祭典」は、振付家ドミニク・ブランがニジンスキーの原振付を元に再現していて、音楽が聞こえなくなるほどの大騒動の中、死に至るまで跳び続ける選ばれし乙女の踊りなど、ダンスシーンもふんだんに登場している。(ハーバート・ロス監督の映画「ニジンスキー」と比較して観るのも興味深いかと)

シャネルの別荘での食事の場面では、本人によく似た俳優を起用してレオニード・マシーンも登場している。一番笑ったのは、ディアギレフが秘書の面接と称して、応募者にズボンを脱がせているシーンがちらりと出てくることだけど・・。シャネルの別荘でストラヴィンスキーの子供たちに用意された部屋の一つが中国(シノワ)風、もう一つがムーア風とエキゾチックなインテリアになっていることも、バレエ・リュスの影響を感じさせて面白い。

シャネルがモードの世界を一変させ、現代の女性のための服を発明したことと、ディアギレフのバレエ・リュスが踊りと同様に音楽や美術、衣装を重視しそれらを統合させて、総合芸術へと昇華しバレエの革命をもたらしたことが同列に語られている。この部分もまた、この映画の重要なポイントでもある。したがって、ぜひともバレエファンにはこの映画を観て欲しいと思った次第。

映画はBunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座他で公開中

※こちらのDVDは、映画にも登場する「春の祭典」のニジンスキー復元版を、マリインスキー・バレエが踊ったもの。同時収録は「火の鳥」(フォーキン振付)

Stravinsky & The Ballets Russes (Ws Sub Ac3 Dol) [DVD] [Import]Stravinsky & The Ballets Russes (Ws Sub Ac3 Dol) [DVD] [Import]

Bel Air Classiques 2009-10-27
売り上げランキング : 103761

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

« ローザンヌ国際コンクールの入賞者 | トップページ | 《マニュエル・ルグリの新しき世界》Aプロ 超短評 New Universe of Manuel Legris Program A »

映画」カテゴリの記事

コメント

Naomiさま
私も先週みました。感動は映画「二ジンスキー」でも少なかったブーイングの嵐だったという「春の祭典」の舞台風景でしたね。あああの舞台はそうだったんだ!と推測できましたし、あの衣装とあの踊りで皆を驚かせ呆れさせて様子もわかりました。今と違い当時は大変な反響だったことでしょう!あとニジンスキー役とディアギレフ、マシーン役も楽しめました。皆、結構俗っぽかったりして。そうそうあのズボンを下ろさせる面接も笑えましたよね。ディアギレフご本人は真剣に選んだ事でしょう!シャネルには共感できる部分とできない部分がありますが、あの時代に才能多い彼女がかなりマイペースに自由に生きれた事には羨ましいですね。自分が確立している強さには見習うべきところが沢山ありますね。頑張らなくちゃ!

こんばんは。
この映画、予告編をみたときに、面白そうと思っていましたが、DVDになったということは、もう上映期間は終わったのですね。

ストラヴィンスキーとシャネルという取り合わせに興味があったのですが、リュスの偉業とシャネルの偉業を並べて描いているとなると、それは、ますます、みてみたいです。それに、春の祭典の初演の様子を再現しているなんて、監督はバレエ愛好家なんでしょうか。

今年はマリインスキーの白夜祭の映像、NBAバレエの牝鹿の上演、マリインスキーの東京公演のシェヘラザード全幕と、楽しんで、これから、ニコラの牧神を楽しみにしてましたが、この映画も今年にはぴったりですね。DVD買おうかどうしようか(笑) 

それから、ちょっと前のエントリーですが、エヴァンは、ペストフ先生の教え子ということを教えていただいきました。益々エヴァンをみてみたいです。マラーホフの自伝本によると、なかなか職人肌の素敵な先生のようです。きっと、エヴァンは基礎がしっかりしていてバレエに対する情熱のあるダンサーなんだろうと思った次第です。

ハミーさん、こんばんは。
先週ご覧になったのですね!「春の祭典」の初演が登場するとは聞いていたのですが、ここまでたくさんバレエシーンと大騒動の一部始終を見せてくれるとは思わなかったので、嬉しかったです。バレエファンだったらすごく楽しめる映画ですよね。ニジンスキー役は多分そんなに似ていないと思うんですけど、ディアギレフとマシーンはかなり似ていました。ちょっと下世話方面も楽しませてもらいましたね!

確かにシャネルは、ストラヴィンスキーの妻が言うように、あの時代にあってモラルの概念が他の人と違っていると思うのですが、既成概念にとらわれず本当に強い女性だったんだな~って思います。あれだけの人はなかなか出てこないと思いますが、やっぱりあこがれますよね。

ショコラさん、こんばんは。

すみません、書きかたが悪くて、DVDがこの映画のように思わせてしまいましたが、そうではなくて、この映画に登場した「春の祭典」ニジンスキー版の映像(その白夜祭の映像)が出ているってことで参考までに出しました。どうも最近記事を書くときに疲れていて細かい詰めが甘くて申し訳ありません。現在も、Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、109シネマズ川崎などで上映中ですので、お時間があればご覧になると良いと思います。フランスでは、バレエリュス100年を記念して2009年の大晦日から公開されているそうです。

ピョートル・ペストフは現在、ジョン・クランコ・スクールの教師をしているのですね。シュツットガルト・バレエの男性ダンサーのレベルが上がったのは、そのことが大きかったようです。昨年はNYでペストフ・ガラも行なわれましたよね。私もマラーホフの伝記を持っているので、もう一度読んでみないと。今でもエヴァンは時々教えを仰ぎに行っているようです。

naomiさん、いつもありがとうございます。おかげさまで、この映画をのがさずにすみます。来週見て来ようと思います。
それに、あの白夜祭りの映像もあるなんて知らなかったです。これはもちろん買います^^

ペストフ先生がドイツでもバレエを育てているんですね。マラーホフいわく、「一生をバレエに捧げた人」だそうですから。

ルグリさんの公演がはじまりましたね。レポは楽しみにしていますが、お時間のあるときにリラックスして書いてくださいませ。

ショコラさん、こんばんは。

ル・シネマでは当分上映があるようですが、シネコンなどではそろそろ上映が終わっちゃうみたいですね。
それから、書きわすれたのですが、エンドクレジットのあとにおまけがあるので、ぜひ最後まで見てくださいね。

お気遣いありがとうございます!

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« ローザンヌ国際コンクールの入賞者 | トップページ | 《マニュエル・ルグリの新しき世界》Aプロ 超短評 New Universe of Manuel Legris Program A »