12/11 マリインスキー・バレエ「オールスター・ガラ」(まだ途中)
2009年12月11日(金) 19:00~21:55
オールスター・ガラ
もう公演から1ヶ月近く経過してしまって、いまさらという感じなのだけど、一応覚書として。
≪シェエラザード≫
ヴィシニョーワのゾベイダは淫蕩なのだけど、自己完結したエロスという印象が強く、エロスの対象は自分自身であって他者ではないように思えた。このヴィシニョーワ&-ルプの組み合わせの「シェヘラザード」は2008年の春にNYで観ていて、その時も、意外なほどこのヴィシニョーワ=コールプのペアがクールというか体温が低いように感じられた。「白鳥の湖」の時の二人の方が、運命の恋人同士という感じで濃厚な情念が漂っていたかのように思える。それは、ヴィシニョーワが白鳥という人間ではない存在であり、魔物のように見えたからだ。
今回のヴィシニョーワは、王の愛妾であり、明らかに王から見ると愛玩物でありなおかつハーレムにいる女たちの中でもお気に入りという程度の存在なのだけど、黄金の奴隷に対しては、あくまでも女王様であり主人であるという主従の関係が見える。だけど、もちろんコールプが演じているのだから、黄金の奴隷もただの奴隷であるはずはない。一見女主人の足元にかしづいているかのように見えながらも、実は油断も隙もない。ジゴロのように妖しい魅力を持ちながらも、もう一方ではイヴに禁断の林檎を食べさせるように仕向けた蛇の姿をした悪魔のようでもある。細身でしなる肢体のコールプは、あるときはパンサーのようであるが、ヴィシニョーワの身体にからみつくと、それはアナコンダのようだ。
この二人の間に愛はなく、刹那の快楽だけが存在している。お互いをむさぼりつくすかのように全てを焼け尽くすがごとくの激しい官能表現が火花を散らせているが、魔獣の交わりのようでもあり、どこか空虚さが漂う。
狂乱の宴が絶頂を迎えた頃、シャリアール王が帰ってきて一転殺戮が繰り広げられる。黄金の奴隷も倒され、一人残されたゾベイダ。急に弱気になって許しを乞う豹変した彼女の姿を見るにつけ、彼女は天然の小悪魔だと感じた。さっきまでの女王様ぶりとは打って変わり、可哀想な女の子のようで、なんという女優ぶりなのだろうと恐れ入った。躊躇することなくゾベイダが自害したのを見て思ったのは、快楽の果てを知り尽くして、彼女はもう思い残すことも無かったのだろうということ。
それにしても、ヴィシニョーワとはなんという強力な磁力を持つバレリーナだろう。彼女と似たものを持っている人はどこにも見当たらない、唯一無二の存在。そして彼女に対抗できるのは、いまやコールプしかいないのかもしれない。
(続く)
≪シェエラザード≫ [45分]
音楽:ニコライ・リムスキー=コルサコフ
振付:ミハイル・フォーキン
振付復元:イザベル・フォーキン,アンドリス・リエパ
装置・衣裳:アンナ・ネジナヤ,アナートリー・ネジニー
シャリヤール王 : ウラジーミル・ポノマリョーフ
王の弟 : カレン・ヨアンニシアン
宦官長 : ロマン・スクリプキン
ゾベイダ : ディアナ・ヴィシニョーワ
黄金の奴隷 : イーゴリ・コールプ
オダリスク : アナスタシア・ペトゥシコーワ
: エフゲーニヤ・ドルマトーワ
: リュー・チヨン
≪シンデレラ≫ 第2幕のパ・ド・ドゥ [8分]
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ/振付:アレクセイ・ラトマンスキー
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ ミハイル・ロブーヒン
≪ロミオとジュリエット≫ バルコニーの場面 [8分]
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ/振付:レオニード・ラヴロフスキー
ヴィクトリア・テリョーシキナ エフゲニー・イワンチェンコ
≪チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ≫ [10分]
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:ジョージ・バランシン
アリーナ・ソーモワ レオニード・サラファーノフ
≪瀕死の白鳥≫ [4分]
音楽:カミーユ・サン=サーンス/振付:ミハイル・フォーキン
ディアナ・ヴィシニョーワ
≪ザ・グラン・パ・ド・ドゥ≫ [9分]
音楽:ジョアッキーノ・ロッシーニ/振付:クリスティアン・シュプック
ウリヤーナ・ロパートキナ イーゴリ・コールプ
≪海賊≫ 組曲 [35分]
華やぎの国~メドーラのヴァリエーション~オダリスク~パ・ダクション~コーダ
音楽:アドルフ・アダン,ほか/振付:ピョートル・グーセフ
装置:テイムラス・ムルヴァニーゼ (補佐:ミハイル・シシリヤンニコフ)
衣裳:ガリーナ・ソロヴィヨーワ
メドーラ : ヴィクトリア・テリョーシキナ
コンラッド : ダニーラ・コルスンツェフ
アリ : ウラジーミル・シクリャローフ
ギュリナーラ : エフゲーニヤ・オブラスツォーワ
オダリスク : マリーヤ・シリンキナ
: ヤナ・セーリナ
: エリザヴェータ・チェプラソワ
指揮 : パーヴェル・ブベリニコフ 管弦楽 : 東京ニューシティ管弦楽団
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