12/20 シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー「聖なる怪物たち」Sacred Monsters Sylvie Guillem & Akram Khan
シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー
「聖なる怪物たち」
芸術監督・振付:アクラム・カーン
ダンサー:シルヴィ・ギエム、アクラム・カーン
振付(ギエムのソロ):林懐民
振付(カーンのソロ):ガウリ・シャルマ・トリパティ
音楽:フィリップ・シェパード
およびイヴァ・ビトヴァー、ナンド・アクアヴィヴァ、トニー・カサロンガの歌より
照明:ミッキ・クントゥ
装置:針生康
衣裳:伊藤景
構成:ギィ・クールズ
演奏:アリーズ・スルイター(ヴァイオリン)
ラウラ・アンスティ(チェロ)
コールド・リンケ(パーカッション)
ファヘーム・マザール(ヴォーカル)
ジュリエット・ファン・ペテゲム(ヴォーカル)
Direction artistique, chorégraphie, interprétation: Akram Khan
Interprétation: Sylvie Guillem
Chorégraphie du solo de Sylvie Guillem: Lin Hwai-Min
Chorégraphie du solo d'Akram Khan: Gauri Sharma Tripathi
Lumieres: Mikki Kunttu
Décors: Shizuka Hariu
Costumes: Kei Ito
Dramaturgie: Guy Cools
「聖なる怪物」というのは、19世紀フランスで使われ始めた大スターに対するニックネームだそうな。
クラシックバレエのダンサーとしてのシルヴィ・ギエムは、凄いとは思うものの実際のところは私の好みとはちょっと外れていた。マリファントの作品を踊るギエムを見ても、凄い、究極のダンサーだとは思うのだけど、琴線に触れる部分が無かった。ところが、この「聖なる怪物たち」のギエムは、もう~ものすごく魅力的で、チャーミングで、リラックスしながらもやっぱり凄くって。「大好き!」と言ってもいいくらい、素敵だった。
日本人の舞台芸術家、針生康さんによる、白く、シンプルでセンスの良い舞台芸術。和紙をしわくちゃにしたような、カーブした白壁が美しい。上手に、ヴァイオリン、チェロ、パーカッション奏者と、二人の歌手。まず、舞台上で演奏される音楽が素晴らしくて。東洋的な音楽と西洋音楽を融合させたような現代音楽なのだけど、スリリングで旋律がエキゾチックで美しい。シルヴィは長い鎖を持っているかのように見えたけど、実際にはそれは鈴を鎖状につなげたもの。
シルヴィのソロは、クラウド・ゲイト・ダンスシアターの林懐民(リン・ファンミン)が振付けたもので、シャープでスタイリッシュで強靭なのにしなやか、彼女の驚異的なエクステンションが盛り込まれている。天を突き刺すばかりのつま先、完璧なアティチュードターン、細長いのに雄弁で力強い腕。そしてアクラム・カーンが、シルヴィがバレエダンサーとなるまで、そしてなってからの彼女の足跡について語り始める。クリシュナになりたかったけど、髪が薄くなって、さてどうする?という独白も。この台詞の応酬については、予めダイアローグをNBSのサイトで予習しておいたのが役に立ったけど、シルヴィもアクラムも聞き取りやすい英語で話してくれたので、字幕を見る必要はほとんどなかった。
http://www.nbs.or.jp/stages/0912_sacredmonsters/movie.html
ダンスの中に会話があるのは、不思議な感じもしたけれども、とても親密な空気を創り上げることに成功していた。天才少女として出発し、異端児としてある種「怪物」扱いされてきたシルヴィ。自分の持っていたクリシュナ像との乖離を感じて、新しい世界を切り開いていったアクラム。異なるバックグラウンドを持つ二人が、お互いの持つ世界を尊重しつつ、さらに新しい地平を切り開いていく、それも肩肘張らず、伸びやかに、様々なくびきから解放された自由な姿で。やり取りにはユーモアがこめられていて、イタリア語を話すシルヴィに、「イタリア語はわからないよ」ってアクラムが返すところも可笑しいし、チャーリーブラウンに出てくるサリーの話をするシルヴィが、とてもキュートで生き生きしている表情を見せてくれた。「エマーヴェイユ」(驚嘆)の話を一生懸命するところの、まさにクリスマスツリーを目の前にした子供のようにキラキラした瞳をしたシルヴィを見て、なんて魅力的な人だろう、ってこちらも自然に笑顔になった。(そして、イスラム教徒として育てられたからクリスマスツリーのことを言われても、という絶妙なアクラムの返し技!)
二人がパ・ド・ドゥを踊る時、動きはシンクロしているしタイミングは見事に合っている。明らかにダンススタイルが違うのだけど、その異なったダンススタイルが融合はしていないけど共存していて、1+1が100になったような感じで、魂が共鳴しているように見えた。背が高くて細く、色が白くて赤い髪のシルヴィ。褐色の肌に小柄でがっしりしているアクラム。この二人の外見の組み合わせの妙。
アクラムのカタック(インド古典舞踊)に基づいた動きがまた凄い。足に無数の鈴をつけて、鈴の音をさせながら足を踏み鳴らす。目にも留まらぬ速さのステップ。重心を低くし、強靭で疾走感あふれるアクラムの回転。呼応するように、高速でアティチュードターンやシェネをするシルヴィ。異文化が交錯しながら、まだ見ぬ新しい地平を切り開いていく様子に、こちらが「エマーヴェイユ」する思いでワクワクした。
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naomiさん こんばんは。
私も12/18のギエムとカーンの公演を見てきました!ル・リッシュとのマルグリットとアルマンを見てえらく感動し、マリファントのTwoを見て超ツボにはまったギエムが、さて今度はカーンと競演と聞いて、う~んどうなんだろう、神が舞台に降臨?へえ?と正直事前のコピーからはそんなに期待してなかったのですが、テーマは面白そうだしまあ行ってみよう、と行ってみて結果的に大変楽しみました。舞台装置が美しくて、歌と音楽が素敵で、これだけでもいいと思ったところ、進行するほど予想外に面白く美しくて充実感にあふれた舞台でしたね。途中で演劇を見ているような感覚になり、これは踊りというより完全に二人芝居だなと思い、俳優ギエムの能力にも驚嘆してました。一人大ホールの真ん中で台詞を話しているギエムは、踊っていなくても易々とあの大きな空間を支配しており。文化会館の大ホールとは思えませんでした。観客と二人のダンサーの親密な空間、素晴らしい音楽のライブ感。ダンスの境界を軽々と超え、異文化も自然に抱き合わされて、本当にひたすら楽しかった!またダンスがものすごいのですから!
カタックを初めて見ましたが、カーンの身体に驚き、大地を踏むリズムにわくわくしました。それにからむことができるバレエダンサーが他にいるのだろうか、と思うくらいのギエムの柔軟な感性。お互い全力で踊り、お互い認め合って二人で舞台を作っているのですもの。二人とも脅威の枠のなさです!まさに「固定観念」などつきやぶり、ひたすらエマーヴェイユを目指す世界を見せてくれた素晴らしい舞台でした。自分の固定観念だらけの小さな世界を見直したくなる美しさでした。苦しみもまた美しいのですね。縄跳びや影ふみのように最後ひたすら二人で戯れている踊りは無邪気な楽しさであふれていて、ギエムのきらきらと楽しそうな表情が心に焼きついています。
投稿: Key | 2009/12/22 00:02
Keyさん、こんばんは。
以前シアターテレビジョンで放映されたアクラム・カーンのドキュメンタリーは観ていて、彼のカタックは凄いなあ、とは思っていたんですけど、この公演がこんなに面白いものとは予想していませんでした。ホント、舞台装置と歌と音楽も非常にセンスが良かったし、二人の掛け合いも親密な中へお互いの敬意が感じられて、すごく刺激的だった上に、楽しかったですよね!この作品、すごく好きだと言い切れるし、ギエムも、カーンも、本当に素晴らしい素敵なアーティストだなって実感しました。もっと自由に物事を感じて、自分の世界を開いていければいいなって思いますよね。様々なインスピレーションが刺激された舞台でした。
投稿: naomi | 2009/12/22 02:28