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2009/11/26

11/22 シュツットガルト・バレエ「オネーギン」 Onegin Stuttgart Ballet (まだ途中)

Onegin
Ballett in drei Akten nach Alexander Puschkin

Onegin Filip Barankiewicz
Lenski Marijn Rademaker
Tatjana Maria Eichwald
Olga Anna Osadcenko
Fürst Gremin Damiano Pettenella

P1040902s

シュツットガルトでの「オネーギン」2回目は、今年の夏に世界バレエフェスティバルのBプロでこの作品の3幕「手紙のパ・ド・ドゥ」を踊ったマリア・アイシュヴァルトとフィリップ・バランキエヴィッチ。日本での知名度はこの二人が圧倒的に高い。ところが、20日に観たイリ・イェリネクとスージン・カンの舞台が、言葉を失うほどのあまりの素晴らしさだったため、相対的に観てしまうと、20日ほどの感動は得られなかった。

本を手に寝そべって登場するタチヤーナ。1幕のマリア・アイシュヴァルトのタチヤーナは、いかにも聡明でしっかりとした女の子。タチヤーナ役にはちょっと美人過ぎで華やかだけど、真面目そうな雰囲気。ただ、晩熟で想像力が豊かで夢見がちな少女の繊細さがあまりなくて、最初から大人っぽくて成熟している。将来結ばれる人を映すと言われる鏡に現れたオネーギンの姿を見て、一瞬で恋に落ちる様子がやや予定調和的。

鏡のシーンでは、オネーギンに対する想いで気持ちが火照り、ときめきで眠れないタチヤーナは無邪気で初々しく愛らしい。ところが、踊りの方が本調子ではないのがわかってしまう。ラインはとても綺麗だし、脚も高く上がって美しいのだけど、緩急の差がなくて一本調子。歌うように音楽に乗ることができていないようだった。実際、マリアは怪我をしていたようだったのだけど。

「オネーギン」のタチヤーナって、1幕と2幕の垢抜けない少女が、初恋に破れ、大人の男性との穏やかな結婚生活で美しく磨かれていく変化を見せなくちゃいけないのに、最初からちょっと分別ありげなところが残念だった。

2幕でタチヤーナがオネーギンに手紙を突き返され、「これは差し上げたものですから」と戻そうとするも、何度もやり取りをしているうちに彼に激しく拒絶されて泣くところ、身を震わせて涙を流していたスージンが可哀相で仕方なかったのに、ここではそんなに見えなかった。その後にタチヤーナがオネーギンに対する想いをぶつけるように見せるソロの切れ味は鋭くてとても素晴らしかったのだけど(そこでオネーギンがついにキレてバンとテーブルを叩く)。さすがにマリアはタチヤーナ役は踊り慣れているだけに、目を釘付けにされるような素晴らしい瞬間が時々はやってくるのだけど、それが続かないのが惜しい。


バランキエヴィッチのオネーギンは、登場シーンでは都会的なクールな男で、唸るほどのカッコよさ。他の出演者が淡いグリーン~ベージュ色の衣装を身に着けている中、一人黒い服を着て、長身でほっそりとした影が登場すると、目が自然と吸い寄せられる。タチヤーナがころりと参ってしまうのも納得のスマートさ。ただ、オネーギンっていわば高等遊民で、虚勢を張っているところももちろんあるし、ナルシストでもいいと思うんだけどフィリップはちょっとかっこつけ過ぎ。タチヤーナが読んでいる本を手に取る時、イリ・イェリネクはニヤっと笑って、努めて感じよく返すんだけど、フィリップは眉毛を片方上げて、かなりバカにした感じでふん、と返す。この辺はちょっとやりすぎ。

鏡のパ・ド・ドゥでは、前にフィリップを観たときはもっと踊りに切れ味があって鮮やかだったんじゃなかったっけ?と思ってしまった。マリアの怪我のこともあって、今ひとつサポートに流麗さが欠けていたし、音楽に乗っていない。腕や脚が長いので上半身の動きはとても綺麗だし、トゥールザンレールも鮮やかに5番に着地しているし、回転も軸がぶれなくてテクニック的には申し分がない。でも、イリのほうがジュッテ・アントルラッセのときに脚が綺麗に伸びてつま先が美しかったししなやかだったな、とないものねだりをしてしまった。鏡の中に消えていくところも、イリのほうがドラマティックでタメが効いていて、悪魔的な魅力があったな、と思わず見比べてしまう。二人のダンサーの持ち味が全然違うから、比べるのは意味がないと思うのだけど、つい。

そして2幕。フィリップのオネーギンはとてもニヒルでクールな雰囲気で、所在なげに下手のテーブルで一人カード遊び。以前オペラ座でジョゼ・マルティネスがオネーギンを演じたのを観たとき、タチヤーナのことをうざったい小娘だと思っているのが露骨に顔に出ていて、神経質そうにイライラとしているのが病的で怖いと思った。フィリップも苛ついているのはわかったけど、それよりも、頼むから自分を放っておいてくれよ、と言いたげな感じだった。2幕の晩餐会は、なぜか老人が多く、都会的でスマートなオネーギンは明らかに場違いで、「なんで俺様がこんな加齢臭漂う田舎町で、小娘にまとわりつかれなくてはならないんだろう」と不機嫌さが徐々に募っているのがわかる。タチヤーナが鬱陶しいというよりは、この場所が嫌でやってられない。そんなときに、タチヤーナに手紙を返したら、泣かれちゃって、表情には出さないけど彼はもうすっかり全てが嫌になってしまった。そして、そのことがきっかけとなって、悲劇へとなだれ込んでしまうのだ。戯れにオルガにちょっかいを出したところ、オネーギンの予想に反してレンスキーが激高、決闘となってしまう。オネーギンは、なんでこんな事態になってしまったのか、理解できていない。レンスキーがなぜあんなに怒っているのかもわからない。そんな男なのだ、ここでのオネーギンは。

オネーギンは、どうしてこんなことになってしまったんだろうと銃を見ながら暗い顔で決闘の場面へ。怒りで白く燃えているレンスキー、彼らを止めようと必死になっているタチヤーナとオルガの姉妹を見ても、なぜこんなことになったのか、彼にはわからない。ギリシャ悲劇の主人公のように運命の糸に操られるように決闘の場面へと踏み込んでいったイリのオネーギンとは全然違っている。決闘の末に、レンスキーが倒れてもオネーギンは呆然として、うつむくばかり。なんということをしてしまったのだ、と苦悶の表情を浮かべて顔を手で覆ったイリのほうが、オネーギンの弱さ、苦悩と悲劇性が強調されていたように思えた。

(続く)

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バレエ公演感想2009」カテゴリの記事

コメント

naomiさん、お帰りなさい。
最強ペア、スージン&イリの「オネーギン」は素晴らしかったんですね。感想を読んでいたら、自分自身がその場に居合わせたかのような幸せな気持ちになってきました♪12/21がシュツットガルトの最後の舞台ということで更に盛上がるのでしょうね。
マリアとフィリップはあまり調子良くなかったのですか。フィリップはシリアスな役柄よりも明るい役柄のほうが似合うのでしょうね。来日公演を観たとき、1幕の彼のオネーギンは格好良いけどかなり嫌な奴だと思いました。でも、また見たいですけど。

yunyuさん、こんばんは。

yunyuさんの大好きなフィリップなのに、こんなに辛口に書いてすみません。きっと、イリを見ていなかったら、ここまで書かなかったと思うんですけど。でも、フィリップのオネーギン、カッコよかったですよ。というかカッコよすぎなのかもしれないんですけどね。少なくとも、ジョゼ・マルティネスのオネーギンよりはずーっと良かったです。(某王子いわく、オネーギンは最後まで素敵じゃないといけない、ヨハン・コボーのオネーギンなんか85歳に見えて全然ダメだったそうです)
でも、なんだかかんだいって、こんな長い感想になったので、色々と思うところはあったのだと思います。イリが移籍して、フィリップがカンパニーのファーストオネーギンになったと思います。yunyuさんもぜひ今度は本場シュツットガルトでフィリップをご覧になってくださいね。(ペトルーチオは、やっぱりフィリップが一番カッコよくて似合っていたと思うし)

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