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« SWAN MAGAZINE Vol.17 2009 秋号 | トップページ | 上野水香&フリーデマン・フォーゲル 東京バレエ団「ジゼル」全幕(DVD)発売 Giselle by Mizuka Ueno & Friedemann Vogel »

2009/10/26

10/25 翻案劇 「サロメ」 東京グローブ座

原作:オスカー・ワイルド
上演台本・演出:鈴木勝秀
詞章:橋本治
音楽:池上眞吾

Leaflet


【出演】
姫   :篠井英介
修験者:森山開次
妃   :江波杏子
王   :上條恒彦

【演奏】
筝・三絃・胡弓:池上眞吾
筝・三絃    :利根英法
十七絃     :吉澤延隆
尺八      :小林 幹
打楽器・鳴り物:佐藤秀嗣

森山開次さんのオフィシャルサイトの先行で良席を確保して臨んだ公演。4人の出演者の強烈な個性が屹立し、鮮やかな深紅で舞台を染めた美術が鮮烈だった。

舞台奥に大きくぽっかりと浮かんだ禍々しい満月。その前の踊り場には二つの玉座。玉座を取り巻く幕を作り上げるように太い蔓が絡みついているが、そのうちの一本が深紅の色。前方中央には大きな井戸があり、修験者=ヨカナーンが閉じ込められている。下手には、和楽器の奏者たちが配置されている。時代や国などは明確な設定はないが、戦国時代を思わせるようであり、シェイクスピア劇のようでもある。透かし彫りのような繊細でゴージャスな王と妃の銀色のマント。クライマックスでぽとりぽとりと、やがては滝のように降って来る椿の不吉な紅色。姫の真っ赤な着物のようなドレス。墨色と深紅、シンプルながらも耽美的で一つの小宇宙を作り上げている美術が見事だ。

4人の出演者は、それぞれが怪物的な存在である。兄である前王から妃と王位を奪ったヘロデ王は、妃の連れ子である姫に邪な思いを抱いている。妃は、井戸の中から繰り返される修験者による非難の言葉によれば、敵将とも寝る売女である。無垢で清らかなはずの姫は、修験者に恋焦がれるあまり、狂おしいまでに彼の首を欲する。神と対話していると滔々と語る修験者は、井戸の中から指先だけが覗いている時ですら、圧倒的な魔力を感じさせる。だが、4人の怪物は、怪物でありながらもそれぞれ弱さを抱えている。ぽとりと落ちてくる椿の花や、床に落ちている血といった凶兆に怯える王。修験者の首を欲する姫に対し、彼を殺したらどんな禍がやってくるかと恐れ戦き、ありとあらゆる富と権力を与えて必死に彼女を懐柔しようとする。。

修験者の非難に激しく逆上し、マクベス夫人さながらに彼を殺せと言い張りながらも、娘や夫に頼ってしまう妃。どんなに美しい言葉を並び立てて彼を讃えようとも、修験者に一瞥もされてもらえず、一方的な想いに苦悩する姫。そして姫に愛されたがゆえに理不尽にも命を落とさなければならない修験者・・

王の上條恒彦さん、妃の江波杏子さんは、その場にいるだけでものすごい威厳があって、後ずさりしてしまうほど。それぞれの役割に相応しい迫力、重みのある台詞回し、別世界へと連れて行ってくれるようなパワーがある。柔と剛を自在に使い分け、それぞれのキャラクターの強さの中にある弱さ、人間くささが滲み出ている。

篠井英介さんの姫は、女方ではあるものの、様式美の世界に逃げず、作りこみすぎず、篠井さんの持つ素の魅力をそのまま「姫=サロメ」に転換していた。鮮烈なまでの艶やかさで視線の使い方にも思わずぞくぞくしてしまう篠井さん、きちんと姫に見えるところが凄い。繰り返しや反語を使って、滔々と修験者の美しさを讃える姫の情熱は疾走し、やがては暴走する。修験者の肌、髪、唇、瞳を讃える比喩の数々、その豊かな語彙には酔い痴れてしまう。「私は彼の首が欲しいの」と幾多の王からの贈り物の申し出をはねつけ、父に対して甘えるように彼の首を欲するときの凶暴なまでの愛らしさ。女性の役者では、ここまでの甘い毒と倒錯感を表現することは不可能だろう。

その欲望と、それがもたらす禍を象徴するように、椿の花が雨のように降り注ぎ舞台の上を真っ赤に染める。

だがこの舞台の成功の最大の功労者は、修験者を森山さんに演じさせたことだろう。白く輝く大理石のようなしなやかな肉体には一片の贅肉もなく、禁欲的で尋常ならざるものを感じさせる。修験者にふさわしいたてがみのような長い髪、そしてブラックホールのような深い瞳。森山さんのダンス作品で見るときの姿そのままなのに、ヨカナーン役にあまりにもぴったりとはまっている。その瞳が自分を見てくれないことに姫は傷つき、想いを焦がし、そして我が物にすべくその首を欲するのだった。

森山さんの空間を支配する力は恐ろしいほどだ。井戸の中から、手先だけが現れて蠢いているだけで魔力を感じさせる。修験者という存在は神と対話しているというのだが、本当に神と対話しているのかは疑わしい。預言者なのか、狂人なのか。彼は目に見えているもの、耳に聞こえるものは信じない。だからこそ、美しい姫がどれほど彼に甘い言葉を投げかけても、一顧だにしないのだ。自分と神との世界に引きこもって他には何も見えず、、狂気に憑依されたストイックな姿は、姫と預言者の愛が成就することの不可能を象徴するものである。

森山さんが台詞を話すのを聞いたのは初めてであった。低くて太くてよく通る声、堂々とした台詞回し。彼が音楽座ミュージカルの世界からダンスへと飛び込んだことを思い出した。台詞がなくとも修験者のこの世のものと思えない独特の存在感は出せると思ったが、森山さんらしい声の重みが、さらに凄惨さをこのキャラクターに加えていたと思う。

森山さんの切れ味鋭い動きによる踊りと、篠井さんのたおやかで気品の中に仄かに香り立つ色香が漂う日本舞踊がシンクロするダンスシーンも、異種格闘技戦なれど、めくるめく陶酔感をかんじさせてくれるものだった。

修験者の首をはねるところになり、井戸の縁の周りを森山さんの頭部がぐるりと周回して動くところは、まるで彼の生首がまだ生気があって動いているかのようだった。もちろん、姫に贈り物として捧げられた修験者の生首は人工物であるのだが森山さんにすごく似せてある。その首をいとおしそうにかき抱き、くちづける姫だが、あれほど彼女を魅了した彼の柘榴のような唇には生気がなく、苦い味がした。目は閉じられており、あれほど彼女は彼に見てもらうことを欲したのに、それもまた不可能に。どんなに欲したとて、決して手に入らない愛が、この世の中には存在しているのだ。

そんな愛の不条理、理不尽さ、欲望、禁欲と官能が交錯した舞台は、むせ返るような美と退廃に胸を満たした80分であった。

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バレエ公演感想2009」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
この舞台、私も観に行きました。私のボキャ貧を補ってくださりありがとうございますm(_ _)mと御礼申し上げたくなるほど素晴らしいレポをありがとうございます。
禁じられた世界を覗いてしまったような、禁欲美・官能美・・・様々な美にむせ返り、ただいま呼吸困難を起こしております。頭の中はサロメ色です。みなさんそれぞれに凄みがあったのですが、特に開次さんの修験者は素晴らしいキャスティングでしたね。

きゃー、naomiさんもいらしたのですね♪
私は22日でした。
森山さん、音楽座の出身だったのですね、知らなかったです。
声が予想外に佳くて、びっくりしました。
実は彼のダンスはタイプではないのですが、彼は天才だと思ってます。
これからますます活躍して欲しいです。

Elieさん、こんばんは。

Elieさんの感想もざっと拝読して、楽しみにしていたのですよ。観に行ったのが千秋楽だったので。Elieさんのも素敵でした!森山さんが台詞を言うのを見たのも初めてだったし、美術も素晴らしかったし篠井さんも綺麗で何もかも新鮮でしたね~。頭の中はサロメ色ってとってもよくわかります~。また機会があれば観たいです。

ogawamaさん、こんばんは。
Twitterでのogawamaさんとsdtさんのやり取りを読んで、楽しみにしていました!私も昔音楽座は観に行ったことがあるのですが、森山さんがそこにいたのって意外ですよね!ああ見えて意外とスタートが遅かったんですよね。
彼の創る作品の独特の世界は、とっつきにくいところがあるとは思いますが、でも特別の才能に恵まれた、稀有な存在ですよね。

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