「バレエ・リュス その魅力のすべて」芳賀直子
バレエ・リュス研究家である芳賀直子さんによる力作。本文409ページに加えて膨大な参考文献のリストがあり、加えて豊富な図版も。これ一冊で、バレエ・リュスの全貌がつかめるようになっている。何しろ、ディアギレフ時代のバレエ・リュスの映像というのはほとんど残っていないのだから、私たちは、写真やデザイン画、そして文字の記録によって、バレエ・リュスのことを知るしかないのであり、このような本が出版されたことはまことにありがたい。
第一章 バレエ・リュス 奇跡のバレエ団
第二章 天才を集める天才 セルジュ・ディアギレフ
第三章 スターたち・振付家たち
第四章 全作品紹介
第五章 美術家たち・音楽家たち
第六章 ディアギレフ死後 アフター・バレエ・リュス
実のところ、恥ずかしながら私もバレエ・リュスについては、いくつかの展覧会に行ったり、芳賀さんの「ICON 伝説のバレエ・ダンサー、ニジンスキー妖像」と ニジンスキーの伝記を読んだくらいでそれほど詳しいわけではない。だから、ディアギレフがバレエ・リュスを作るまでのエピソードの中には、初めて知るものもあってとても面白かった。彼の芸術を支えたパトロネスたち、中でも当時の社交界の華ミシアのエピソードは興味深い。ミシアを通じて、ディアギレフはココ・シャネルと知り合い、彼の死を看取った4人のうちの二人が、ミシアとシャネルだったという。そして、ディアギレフはヴェニスにて亡くなったのだった。(ノイマイヤーの「ヴェニスに死す」のアッシェンバッハが振付家だったのは、なるほど、ディアギレフを投影しているわけだ)
この本が何よりも凄いのが、第四章の「全作品紹介」で、バレエ・リュス作品のうちでも、数回しか上演されなくて忘れ去られてしまった作品群の紹介もある。「レ・オリエンタル」という1910年の作品の、「シャムの踊り」のニジンスキーの写真を見ると、これがまさに先日の「アルミードの館」のティアゴ・ボアディンそっくりなのだ。この作品、ロシアの初演の際には、男性プリンシパルが女性パートナーを伴わずに出演したのは初めてのことだと新聞に書いてあったとのこと。作品紹介の中には、失われてしまった作品もたくさんあるのだが、写真や当時の記録を読むだけで想像力を掻き立てられ、わくわくする。
大勢の主要な振付家・ダンサーだけでなく、デザイナーや作曲家がどのようにバレエ・リュスに関わったのかということについて詳しく説明してあるのも面白い。ピカソ、ミロ、マティス、ルオー、ローランサン、サティ、ストラヴィンスキー、シャネル・・今なら絶対ありえない、考えられないくらいの著名な芸術家たちが、バレエ・リュスに関わり、花開いていったことがわかる。
ディアギレフが亡くなった後の、分裂してしまったバレエ・リュス(映画「バレエ・リュス」にも登場したバレエ・リュス・ド・モンテカルロなど)については、それほど詳しいわけではない。が、バレエ・リュスが米国、英国、オーストラリア、そして日本のバレエ界と世界中に与えた影響についても書いてあったのが興味深かった。
どれほど筆者がバレエ・リュスを愛しているのかということも真摯に伝わってくる一冊。現代のバレエを知る上でも決して欠かせないバレエ史の知識を得るためにも、お勧めできる。
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