『鴻池朋子展~インタートラベラー 神話と遊ぶ人』
友達数人が観に行ってすごく面白かったと言い、ちょうど新国立劇場で「兵士の物語」を観に行ったので、ついでに立ち寄ってみた。
東京オペラシティ アートギャラリー 『鴻池朋子展~インタートラベラー 神話と遊ぶ人』
KONOIKE Tomoko: Inter-Traveller
http://www.operacity.jp/ag/exh108
切符を買うところで、動物の毛にアレルギーがないかどうか確認されたのでちょっとだけびびる。こんな彫刻がお出迎え(これだけ撮影OKで、一緒に並んで記念撮影もできる)
「地球の中心への旅」をコンセプトとし、人間の心を地球というひとつの惑星にたとえてその中へと探検していくという展覧会。入り口には、旅へようこそとばかりに、目がついた山の絵が描いてある大きく開いた襖《隠れマウンテン ─ 襖絵》が、門のようにお出迎え。
とぐろを巻くように展示してあるのは絵本『みみお』の原画。この「みみお」は、鉛筆で描かれた白いふわふわとした生き物で、顔がない。そのみみおが、誕生して消えていくまでを描いた、寂寥感あふれる絵には惹きつけられた。頭から耳のように両腕が垂れ下がっている1・5頭身のみみお、顔がないのにすごく可愛い。『mimio-Last day of the winter』『mimio odyssey』の2つの手描きアニメ作品が上演されていて、後者は本を模したスクリーンに投影されている。両方とも哀しく怖く美しい作品なのだけど、特に前者『mimio-Last day of the winter』は、オペラのアリア「ベルリーニ/歌劇「夢遊病の女」第1幕アリアより]音楽に合わせて、みみおがくるくる回転したり、森の中を駆けていったり、目のない顔から涙を一粒流したり。鉛筆による線の濃淡が、独特の視覚的な効果を与えていて、それが柔らかかったり、疾走感を伝えていたり、繊細さを加えていたり。雪のふんわりとした感じ、澄み渡る空気。この『mimio-Last day of the winter』を見るためだけにも、もう一回来たいと思ったほど。(ミュージアム・ショップでみみおのぬいぐるみが売っていたんだけど、さすがに12600円は高くて買えず、ポストカードとピンバッチで我慢)
部屋から部屋を移動するのに、低い入り口を潜り抜けて行ったり、巨大な作品に圧倒されたり、天井から吊るされた狼の毛皮にぎょっとしたりと、五感を刺激する展示で、「体験型アート」と言えるもの。本の上に立体的に鉛筆画で地球に起きてきた物事が浮かび上がってくる《焚書 World of Wonder》なども、ボディブローのようなインパクトがある。人生とは何だろう、私たちはどこから現れ、どこへ消えていくのだろう、心の中に浮かび上がるさまざまな考えや感情ってなんだろう、それらの疑問に対する一つの答えを視覚化したのが、彼女の作品なのだ。
鴻池朋子の作品に繰り返し登場するモチーフ-スニーカーと靴下を履いた子供の脚、犬や狼、子供の顔、内臓、くるくると回転する手裏剣のようなナイフ、立体的な本がとても印象的で、深層意識にじわじわと働きかけてくる。中でもまず強烈なのが、幅が6mを超える巨大な絵画4点からなる「物語シリーズ」の全4章。部屋の四つの壁に一枚ずつ展示してあって、真ん中には百合の生花が活けてある。上手く言葉では表現できないけど、すごい迫力で圧倒される。理解できないんだけど、不思議な快感と興奮がある。ところどころ脚が人間の脚になっている狼と髑髏の襖絵「シラ ― 野の者谷の者」の16面の襖が作り上げる空間も、不気味ながらクラクラとさせられて快感がある。
圧巻なのが、地球の中心に配置された《Earth Baby》「赤ん坊」というインスタレーションで、ガラスのモザイクで飾られ、光が乱反射する赤ん坊の巨大な頭部が回転するというもの。夢に出てきそうなキモ怖さがあって、おもわずよろけてしまいそうになった。しかも、その後の「後の部屋」で暗闇の中に狼の毛皮がぶら下がっているのだから、ほとんど見世物小屋のようなものだ。
アートって、本で見るより、実際に体験するほうが何十倍も鮮烈なものなのだなあ、と今更ながらしみじみと感じた。
※追記
「mimio last day of winter冬の最後の日」はクリエイティブコモンズで公開されているので、ダウンロードして観ることができます!
http://commonsphere.jp/feature/content/kounoike/mimio.php
「みみお」の本が買えることがわかり、早速ポチッとしてしまった。届くのが楽しみ!
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コメント
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多分、はじめましてだと思います。
この展覧会を取り上げてくださりありがとうございます!
この5月から7月に上野で「ネオテニージャパン」という
現代アート展に参加されており、気になっていた作家さんです。
展覧会自体はただいま秋田にいっておりますが、
上野でのブログが残っています(上にリンクしました
ちなみに狼のぬいぐるみは予約販売価格未定でした。
みみおで10000円超えならあれはいくらになったんだ・・・)
とても面白かったのにこの展覧会をバレエフェスなどに
かまけて忘れていました。
週末にすぐそばの「兵士の物語」も見に行ったのに;
まだ間に合う時期で良かった。一方的ですが
お礼申し上げます。
投稿: tokiwa | 2009/09/16 01:07
tokiwaさん、こんばんは。
ネオテニー・ジャパンを観て、今回の展覧会を観に行こうと思った方が多かったようですね。ネオテニー・ジャパン、教えていただいたブログなどを拝見しても、めっちゃ面白そうだったのに見逃してしまいました。アート関係ももう少しアンテナを張り巡らせなければって思いました。
六本脚の狼も独特の目が素敵ですよね。ぬいぐるみも素晴らしいけど、きっとものすごく高いでしょうね。一緒に行った友達は、狼のピンバッチを買っていました。そしてこの展覧会、本当にお勧めです。面白いです!観に行ってよかったと思いましたよ。
投稿: naomi | 2009/09/16 01:55
あの狼バッチ気に入ってます♪
財布につけたので毎回目が合うの。つり目がかわいい。
誘っていただいてよかったわ。
会場で売っていたけど、澁澤龍彦ホラードラコニア少女小説集成(澁澤の文章に現在作家5人のコラボ)鴻池朋子絵の号『狐媚記』を読みかえしました。(実は持っていた)
あの半分少女半分獣(狐)の絵というのは、この物語のために書き下ろされたようです。
時は平安か?左少将の北の方が狐の子を産みおとしてしまったという冒頭から始まる物語…。なかなか面白かったです!
ベンチに腰掛けていた女の子は姫君だったのかも(笑)
投稿: jade | 2009/09/17 20:47
jadeさん、こんばんは。
楽しい展覧会でしたね。あの狼バッジ、あの目で毎日見つめられたら若干びびってしまいますよね(笑)
澁澤龍彦好きなので、「狐媚記」読みたいです!かなりコワイ感じはしますが、惹かれますねえ。あの下半身だけの女の子!お姫様だったのか
投稿: naomi | 2009/09/18 01:29