9/26 東京バレエ団 マカロワ版「ラ・バヤデール」 The Tokyo Ballet La Bayadere
東京バレエ団創立45周年記念公演VII
東京バレエ団初演
マカロワ版「ラ・バヤデール」(全3幕)
http://www.nbs.or.jp/stages/0909_labayadere/index.html
少し前にロイヤル・バレエの「ラ・バヤデール」のDVDを見直してみて、改めて「ラ・バヤデール」って面白い作品だわ、果たして東京バレエ団ではどのように演じてくれるのかしらと楽しみにしていた。キャストは東京バレエ団では一番のお気に入りの木村さんと、吉岡さん。
全体的にはとても良い上演だったと思う。ミラノ・スカラ座の衣装と舞台装置に重厚さがあってとても美しく、舞台の格をぐっと引き上げていた。東洋を舞台にしている作品だから、日本人キャストでも違和感がないし、スカラ座の衣装に着られているということも感じさせなくて堂々とした公演だった。影の王国の揃いっぷりと吉岡さんの好演が、今日の舞台では特に良かったと思う。綺麗に揃った群舞、繊細なニキヤと、日本のバレエ団ならではの美点が発揮されていた。
吉岡さんは、儚げで繊細なニキヤを好演していた。華奢な彼女は、神に仕える舞姫という神聖で気高い役柄も、精霊も良く似合う。アラベスクのラインが長く美しく、触れたらばらばらに壊れてしまいそうなくらい細い。細すぎて、お腹を出したニキヤの衣装だとあばら骨が浮き出て痛々しい。影の王国での浮遊感がとても素敵で、この世の者ではない存在感があってニキヤらしいニキヤだったと思う。ヴェールを持っての難しいパ・ド・ドゥでもきれいに回転していた。ポワントがちょっと弱いみたいで、回転の途中で早めにアテールになってしまうところはあったけれど、うまく処理していて全体的に破綻なく踊っていた。何より、ニキヤ役をきちんと自分のものにしていて演じられていたことに好感が持てた。ガムザッティとの対決シーンで追い詰められて、手負いの虎のようにナイフを持って歯向かっていく演技には説得力があった。一見弱弱しく見えても、芯の強さと誇り高さがあるのがニキヤというキャラクターなのだ。マカロワ版は花篭のヴァリエーションがないのが一番残念な点。ニキヤの前半最大の見せ場で、彼女の悲劇の象徴とも言えるような踊りなのに。
木村さん、キャラクター的には勇ましいながらもへたれなソロルはとても合っていたし、演技は良かったと思うのだけど、踊りについては不調でファンとしてはちょっとつらかった。まず、1幕の最初のパ・ド・ドゥでリフトを失敗。つま先は綺麗だし、苦悩する姿は素敵なんだけど、膝がいつものように綺麗に伸びていなかったし、特に2幕の婚約式のヴァリエーションがいただけなかった。影の王国でのヴァリエーションはちょっと盛り返したけど着地が5番に入らない。踊りの面では精彩を欠いていて、いつもの木村さんだったらこう踊るに違いない!と思っていたところがそうならなかった。ぜひ木村さんにはまたこの役を踊ってリベンジして欲しいと思う。その時にはまた必ず観に行くから。
木村さんのソロルは真面目でいい人で、だからこそこの悲劇になったんだなって最後の結婚式のシーンでしみじみと思った。一瞬ガムザッティにグラリとしてしまったけど、途中からそのことをひどく後悔していて、結婚することを心底嫌がっている感じが出ていた。
ソロルという役はとても体力的にハード。木村さんですらきつそうに見えたところがあるくらいだし、高岸さんはそろそろ年齢的に厳しくなりつつあるので、主役を張れる若い男性ダンサーの養成を行う必要があると再認識。
ガムザッティ役の田中さんは、テクニックに関しては危なげなく、婚約式でのイタリアン・フェッテからグランフェッテでフィニッシュする時の回転がとても良かった。最初に婚約者としてソロルに紹介されたときには華やかさや気品があったのだけど、ニキヤとの対決シーンでは完全にニキヤに押されていたような。田中さんのガムザッティもきちんと育てられたいい人なんだろうなと感じてしまった。ガムザッティはもっと高慢で自信満々、意地悪そうなところを出した方が、説得力も出てくると思う。目を覚ましたソロルに、結婚式の準備をしなさいとにじり寄るところはすごく迫力があって怖かったが。この「ラ・バヤデール」はこれからも上演されると思われるから、経験を重ねていけばガムザッティらしい華と強さも出てくるはず。田中さんは技術はしっかりしているのだから。
後藤晴雄さんの大僧正が、なかなかの濃い熱演で良かった。この役はやっぱりこれくらいくどく演じてくれないと盛り上がらない。スキンヘッドが似合っていたし、ニキヤに対する横恋慕ぶりもしつこいくらいで良かった。高岸さんは、ラジャのゴージャスな衣装と髭が似合いすぎで胡散臭くて笑ってしまうほど。顔立ちが濃いから、インド人っぽく見えるのが素敵。高岸ラジャの娘だったら、ガムザッティももっと癖のあるキャラクターになっていいはずなのに、おかしいなあ(笑)
松下さんのブロンズ・アイドル(今まで観たブロンズアイドルの中でも、塗りがすごくて金ピカ、皮膚呼吸できるのかと心配になるくらい)は、シャープに跳ぶし、回転も速くて正確でとても良かったのだけど、良かっただけに、時々つま先が緩んだりするのがすごくもったいない。仏像っぷりも良いし、動きは本当に良いから、後もう少し詰めの甘いところを直せば、完璧なのだけど。その点、高橋竜太さんのマクダヴェーヤは素晴らしかった。身体能力を生かした高い跳躍の中でも、しっかりと古典らしい美しさがあった。
影の王国のコール・ドは、スロープを下っていくところから、24人が6人×4列で整列してデヴロッぺ、それからアラベスクするところまでがとても綺麗に揃っていた。3階席正面から観ていたので、ここはたっぷり楽しむことができた。ぐらつく人もあまりいなくて、素晴らしい出来だったと思う。ただ、ヴァリエーションの3人が出てきてからはちょっと乱れているところがあった。ヴァリエーションについては、乾さんが断然良くて、他の二人はちょっと微妙な出来。群舞といえば、パ・ダクシオンは音に余りあっていなくてあまり良くなかった。
初演ということで、影の王国スロープ以外の群舞、そして男性ダンサーに課題を残している面はあるけれども、満足度の高い公演だった。ゲストなしということもあり、上層階には空席が目立っていたのが残念だった。バレエ団のカラーには合っている作品だと思うので、遠くない将来に再演を行い、できれば上演回数も増やして1キャスト2回ずつくらい踊れるようになると良いと思うのだけど。それから、バレエ作品、特に古典では衣装や舞台装置がとても重要であるということを再認識させられた。今回の衣装は本当に美しく、また適度に使い込まれた感じが重みを与えていて良かった。経済情勢が厳しい中、難しいとは思うけど他の古典作品の衣装や舞台装置もぜひリニューアルして欲しい。
振付・演出:ナタリア・マカロワ(マリウス・プティパ版による)
振付指導:オルガ・エヴレイノフ
装置:ピエール・ルイジ・サマリターニ
衣裳:ヨランダ・ソナベント
◆主な配役◆
ニキヤ(神殿の舞姫):吉岡美佳
ソロル(戦士):木村和夫
ガムザッティ(ラジャの娘): 田中結子
ハイ・ブラーミン(大僧正): 後藤晴雄
ラジャ(国王):高岸直樹
マグダヴェーヤ(苦行僧の長):高橋竜太
アヤ(ガムザッティの召使):松浦真理絵
ソロルの友人:柄本弾
ブロンズ像: 松下裕次
【第1幕】
侍女たちの踊り(ジャンベの踊り):西村真由美、乾友子
パ・ダクシオン:
佐伯知香、森志織、福田ゆかり、村上美香
吉川留衣、矢島まい、川島麻実子、小川ふみ
平野玲、横内国広
【第2幕】
影の王国(ヴァリエーション1):岸本夏未
影の王国(ヴァリエーション2):奈良春夏
影の王国(ヴァリエーション3):乾友子
指揮: ベンジャミン・ポープ
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
« シュツットガルト・バレエの「ジゼル」と北京・蘇州「じゃじゃ馬ならし」のキャスト Stuttgart Ballet Giselle and Taming of the Shrew | トップページ | DANZA 24号/DANCE MAGAZINE 11月号 »
「バレエ公演感想2009」カテゴリの記事
- 1/23 新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」短評(2010.01.24)
- 12/11 マリインスキー・バレエ「オールスター・ガラ」(まだ途中)(2010.01.06)
- 12/26 新国立劇場バレエ 「くるみ割り人形」 (2009.12.27)
- 12/22 YAGPガラ/シュツットガルト・バレエ「オネーギン」のキャスト変更 YAGP 2010 Japan Gala(2009.12.23)
- 12/20 シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー「聖なる怪物たち」Sacred Monsters Sylvie Guillem & Akram Khan(2009.12.21)
コメント
« シュツットガルト・バレエの「ジゼル」と北京・蘇州「じゃじゃ馬ならし」のキャスト Stuttgart Ballet Giselle and Taming of the Shrew | トップページ | DANZA 24号/DANCE MAGAZINE 11月号 »
naomi さん、こんばんは。
見に行きたかったけれど、行けなかった吉岡さんのニキヤ。良く伝わってきました。いつもながら、わかりやすいレポートに感謝です。
コールドはやはり揃っていたのですね。東バのコールドは私は本当に素敵だと思うんです。見られなくて残念でした。
投稿: ショコラ | 2009/09/27 21:56
naomiさん、こんばんは。
応援している乾さんの第3ヴァリエーション、見に行けなかったので、レポートで触れて頂いて安心しました(心配していた訳ではないのですが)。
乾さんについては、「こんな先生にバレエを習ってみたいな〜」と勝手に思いながらいつも見ています
とても興味深い公演だったようですね!
遠くない時期に再演をして、東バのレパートリーとして定着して欲しいです。
投稿: クロード | 2009/09/28 22:44
ショコラさん、こんばんは。
お返事が遅くなりすみません(ここしばらく体調不良で)
吉岡さんのニキヤは素敵でしたよ。また観られる機会があるといいんですけどね。せっかくマカロワさんやオルガさんを呼んでみっちりリハーサルしたというからには、再演の機会は設けて欲しいです。
佐々木忠次氏が日本のバレエの売り物は一糸乱れぬコール・ドだと「怒っている人、集まれ!」に書かれていましたが、その成果が出ていましたね。
投稿: naomi | 2009/09/29 00:45
クロードさん、こんばんは。
バヤデールは行かれなかったのですね。乾さんは、ソリストの中では踊りが正確できれいで実力派ですよね。3人の影の中で圧倒的に良かったです。乾さん、西村さん、高村さん、佐伯さんが今の東京バレエ団では良いと思うのですが(一番のごひいきはもちろん西村さんなのですが)、ガムザッティ3人娘を東京バレエ団は売り出そうとしていますよね。もちろん、この3人も上手だと思うんですが。
投稿: naomi | 2009/09/29 01:10
naomi さん、お大事にしてください。
いつも見事な情報とレポに感謝しているので、応答のことは気にしないでくださいね。
投稿: ショコラ | 2009/09/29 12:34
ショコラさん、こんばんは。
お気遣い、恐縮です!本当にいつも来ていただいて感謝です~。たまには早めに寝ることにしますね。
投稿: naomi | 2009/09/30 00:49
私も吉岡さんの日、見ました。期待通り、ピュアで儚げでよかったです。木村さんは、休憩までは、リフトの失敗のせいか暗い印象をうけましたが、休憩後はらしさが出ていてよかったです。
ラストはこのペアならではのピュアな美しさでちょっとうるうるきました。
後藤さんとゆかりさんのペアも見たかったのですが、いけませんでした。
投稿: bumineko | 2009/09/30 21:24
buminekoさん、こんにちは。
同じ日にご覧になったんですね。本当に吉岡さんのニキヤは素敵でしたね。彼女のように透明感のあるバレリーナは他にはなかなかいませんよね。木村さんも、3幕からは復調していて良かったです。ホント、1回だけのキャストだなんてもったいないなって思いました。きっとあの素晴らしいセットを運んでくるだけでも相当お金がかかっただろうに。私も西村真由美さんの影のヴァリエーションが見たかったので、日曜日ちょっと行きたいと思いましたが、結局行けませんでした。
投稿: naomi | 2009/10/01 02:13