9/24 ダンストリエンナーレ トーキョー 2009 ヤスミン・ゴデールYasmeen Godder「Singular Sensation」
オハッド・ナハリンのバットシェバ舞踊団、インパル・ピント・カンパニーとイスラエルのダンスはユニークな作品が多いので、乗越たかおさんの著書に紹介されていたヤスミン・ゴデールも観てみようと、あまり予備知識なしで行った。
http://www.yasmeengodder.com/
ダンストリエンナーレ トーキョーの一環として行われたこの上演は、青山円形劇場にて全席自由というので、ちょっと早めに行ったら席があまり埋まっていなかったけど、上演時間にはいつのまにか超満員に。
強烈で鮮烈な舞台だった!途中から、これはものすごい作品だなあって、アドレナリンが分泌しまくりながら見入ってしまった。
真っ白な、左右がちょっとまくれあがった床とグレーの壁だけの舞台。Tシャツを着た背の高い、あごひげのある男性が登場したかと思うと、突然ガクっと背中を反らせる。観客に流し目を送りながら舌をエロティックに突き出してみせる。そして床の上にごろごろと転がったり、ちょっと痙攣したような動きを見せたり。次に、紫色のベロアのミニドレスをまとった美女が登場。二人はお互いの存在に気がついているのか、気がついていないのか、それぞれいろいろな動きを見せている。銀色のキラキラしたトップスとミニスカートを着た、長身でほっそりとしていてスーパーモデルのように綺麗な金髪の女性ダンサーが登場。長く真っ赤な付け爪を片手の指につけていて、その付け爪をむしゃむしゃと食べちゃったり、激しい動きを見せたり、長い脚の間から顔を覗かせたり。
それから赤いショートヘアで色の白い、ジェーン・バーキンとティルダ・スウィントンを足して2で割ったようなカッコいい美女も。この作品に登場する3人の女性ダンサーはみんな超美女ぞろい。最後に登場するのは、若そうな男性。5人のダンサーたちは、バラバラに動いたかと思ったら、お互いを持ち上げてみたり、よじ登ったりぶつかったり。孤独な魂たちが、恐る恐るそばにいる人間と触れ合おうとしているようだ。
Tシャツの男性の動きはすごくシャープで、まるで銃を構えて戦場で戦っているかのように見えてくる。無機質な音楽が銃声のように聞こえて、不穏な感じ。
そのうち、床が真っ白なことには意味があることがわかる。真っ白な床を見るだけで、観客はとても緊張感を強いられて舞台の上で起きていることに集中してするし、ひりひりするような感情が伝わってくる。若い男性の顔に、蛍光グリーンのペンキがかけられたり、金髪美女が腰にペンキのチューブみたいなのをいくつもぶら下げ、鋏でそれを破裂させて、さまざまなグリーンのペンキが撒き散らされたり。彼女の鋏の使い方がとってもエロくて。その上、彼女の胸にはオレンジが仕込まれていて、それにも鋏を刺すのだけど、一瞬胸を刺したのではないかとびびってしまう。いろんな色鮮やかな液体がぐしゃっと白い床の上に飛び散る。さらにパスタの乾麺まで登場!踊りの小道具としてパスタを使った人なんて、今までいただろうか?
若い男性は、ショートヘアの女性が穿いていたストッキングを頭にかぶせられ、耳にはパスタが刺さり、顔にサランラップをぐるぐる巻きにされ、目にはピカピカ光る赤いゴーグルをつけられ、袖の先にはオレンジがあって一瞬、手を切断されたかのように見える。そして残りの4人に、赤いゼリーの上に突っ込まされ、あんなこと、こんなことをされていて、考えてみればすごく残酷な光景なのだけど、どこかユーモラスだし、この男性も嫌がっているようには見えない。そのうち女性の一人と腰を密着させて、一緒に腰を振って性行為を連想させるような動きまで見せちゃう。
ここまでは、ダンスと言うよりは、ピナ・バウシュ作品に見られるようなタンツシアター的な舞台だった。動きそのものには共通点はほとんどないけど、「カフェ・ミュラー」を観た時の印象と少し重なる。「カフェ・ミュラー」も、この作品も、どこか壊れた人たちの孤独感、他者と触れ合いたいけど触れ合うのが怖い、という感情を伝えているものだからか。
やがてクライマックスで、、激しくなる音楽に合わせて、ダンサーたちが奔放に跳躍したり回転したりと、即興のように踊り始める。彼らが身体能力に優れている素晴らしいダンサーたちであることが、ここで改めて印象付けられる。激しさを増していく踊りは、荒々しく、本能を剥き出しにして、トランス状態になっているのが伝わってくる。だけど、その露悪的なまでの踊りに嫌悪感は感じず、自分の分身が舞台の上で踊り狂っている感覚。痛々しいのだけど、生きていくうえでのさまざまな苦悩から解放されたような、カタルシスが身を貫いていく様子をつぶさに見た。
青山円形劇場は小さな劇場なので、すごく近いところで臨場感たっぷりに観ることができて、まさにダンスを体験させられた。最前列に座っていたら、きっとペンキやらゼリーやら汗やらをたっぷり浴びたことだろう!イスラエル・ダンス界からは、今後も目が離せない。
Yasmeen Godder - Singular Sensation
こんなすごいステージを、わずか3500円で観られたとは!恐るべしヤスミン・ゴデール。その割りに観客の反応がいまいち戸惑っているというかクールだったのが残念。しかも、なぜか私の周囲の観客数人は舞台が目の前で行われているのに熱心にメモを取っているのが視界に飛び込んできてしまい、それがとても興ざめだった。学生なのか評論家なのか知らないけど、こんなにも凄かった舞台に集中しないでペンを走らせるなんて、なんてもったいないことをしているのだろう。
今ちょうど、乗越たかおさんの「どうせダンスなんか観ないんだろ!?―激録コンテンポラリー・ダンス」を読んでいる途中なのだけど、ヤスミン・ゴデールのこの作品についてもたっぷり触れられている。本の感想はまた改めて書くけど、コンテンポラリー・ダンスに興味がないバレエや演劇好きの人にもぜひ読んで欲しいって思う、超~面白い一冊。私もコンテンポラリーは全然詳しくないけど、この本を読んで、ヤスミン・ゴデールを観に行くことになって、感謝。乗越さんの熱い魂に煽動されて、新しい世界への扉を開くことができたのだと思う。やっぱり舞台は、生で観て体験するに限るって乗越さんは力説されているけれども、本当にその通りだと思う。
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