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« SWAN MAGAZINE Vol.16 2009年夏号 | トップページ | フレデリック・フランクリン、95歳の誕生日 Frederick Franklin's 95th Birthday »

2009/07/06

レスラー The Wrestler

The Wrestler
http://www.foxsearchlight.com/thewrestler/

http://www.wrestler.jp/

監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:ロバート・シーゲル
出演:ランディ(ミッキー・ローク)
    キャシディ(マリサ・トメイ)
    ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)

私は熱心なプロレスファンではないけれども、中学生の頃、少年サンデーの「プロレススーパースター列伝」を毎週読んでいた。実際のプロレスも2回だけだけど観に行っているし、プロレス界を舞台にしたドキュメンタリー映画「ビヨンド・ザ・マット」もトークショーつきの回を観に行った。WWEの放送も時々観ている。プロレスには、筋書きがあるというけれども、たとえそんなものがあっても、自らを痛めつけ、血だらけ、傷だらけになって闘う男たちの姿には、ぐっと魂を掴むものがある。

その闘い方を観ると、バレエを想像してしまうときがある。生身の肉体が作り上げる、パフォーミングアーツという点で、共通項があるからだ。

今はすっかり落ちぶれてしまっているものの、80年代にはマディソン・スクエア・ガーデンを満杯にするほどの人気を博したプロレスラーのランディ。

冒頭、彼の過去の栄光は、彼が飾った新聞や雑誌の記事で綴られ、バックに流れるのはクワイエット・ライオットの「メタル・ヘルス」。ランディが年増シングルマザーのストリッパー、キャシディと初めてビールを飲むところで流れるのは、ラットの「ラウンド・アンド・ラウンド」(80年代は最高だったのに、ニルヴァーナがすべてをぶち壊した、というキャシディの台詞にはウケた。私はニルヴァーナも好きだけど)。ランディが最後の戦いへと向かうところでは、アクセプトの「Balls to the Wall」。そして彼が入場する時のテーマ曲は、GUNS N' ROSESの「Sweet Child O'Mine」。この80年代ヘヴィ・メタルを中心とした選曲が実にはまっている。

ランディは80年代の栄光を引きずってプロレスラー稼業を続けているものの、小さな会場で細々と試合を行い、トレーラーハウスの家賃も満足に払えず、スーパーでアルバイトをし、ダウンジャケットの穴をガムテープでふさいでいるような始末。それでも、老いつつある肉体にステロイド注射を打ち、日焼けサロンに通い、自慢の長髪を安い美容院で金髪に染めて、戦い続けている。若くないのに、ホッチキスを打たれたり、有刺鉄線で血だらけになったり、椅子で殴られたりと、あまりにも壮絶な生き様。

しかしランディを取り囲むプロレス関係の人々は優しい。「大丈夫か」と優しく声をかけたと思ったら次の瞬間には不意をついて襲い掛かるレスラーも、試合後には控え室でハグし合い、お互いの健闘をたたえる。試合開始前の打ち合わせでは、若いレスラーを励まし、アドバイスを与えるランディ。ファンたちもとても優しくて、往年のファンたちがランディにサインをせがんだり、寂れたサイン会場にやってきては、すっかり衰えたり身体が不自由になった元レスラーたちと一緒に写真を撮ったり、その姿を見ているだけで泣けてくる。

ランディは、ダメな男だ。過去にはあれほどの栄華を誇ったというのに、今の体たらく、それでも過去の栄光にすがりついてレスラーを細々と続けている。実の娘ステファニーを捨ててしまい父親らしいことは何もしなかった。いざ心臓発作を起こしてステファニーを訪ねて行っても、相手にされない。唯一彼女と和解するチャンスがあったというのに、酒とクスリと女に溺れてふいにしてしまう。でも、彼は愛すべき男だし、男気があるし、なんとか真っ当な人間として再生しようと一生懸命だ。そんな彼の魂にそっと寄り添うように、アロノフスキーは、時には容赦ないほどのクールさを保ちながらも、あたたかく彼の戦いを描く。

そんなランディのことが気になっているけれども、どうしても一歩深入りすることができないキャシディ。そろそろストリッパー稼業を続けるのも限界と感じていて、息子のためにも新しい生活を始めなければならない、その時にそばにいるべき男は、ランディではないと感じている。自分の母親と同じくらいの年なのか、と若い客にからかわれている彼女を「こんなに色っぽい女はいない」と助け出してくれた彼の男気には打たれながらも。優しいけど生活力のない男を、きっと彼女はたくさん見てきたのだろう。年齢の割には美しくプロポーションもいいのだけど、生活の疲れが見えてきた彼女は、安穏を求めていて、命を削ってでも戦いをやめないランディとは別のベクトルを向いていたのだ。

心臓発作を起こし、死にかけたことでレスラー生活に終止符を打とうと、ランディはスーパーの惣菜売り場でフルタイムで働くことを決意する。長髪を帽子で覆い、まるで満員のプロレスの試合会場へ入場する時のような演出で、売り場へと歩んでいくランディ。キャシディに息子がいると聞いて、「ちょっと待って、プレゼントしたいものがある」と自分のフィギュアを差し出した時のキャシディの表情。ステファニーに(派手なグリーンの)服をプレゼントして、二人で寂れた海岸を歩き、立ち入り禁止の扉を開けると広がる、ダンスホールの廃墟。美しい瞬間、美しい台詞がこの映画の中にはたくさんある。幕切れの見事さ。一瞬の闇と無音の後、ブルース・スプリングスティーンの胸を締め付けるようなテーマ曲が始まる。

(この映画のためにスプリングスティーンがノーギャラで書いたテーマ曲は、この作品を見事に捉えたものだ。歌詞はここで見ることができる)

負けると判っていても、傷だらけになって闘う男は美しい。

「引退するかどうか、決めるのはお前ら観客だけだ」。その言葉に、観客たちは熱いエールを送る。残酷さと温かさの両方を、ファンたちは持ち合わせている。

プロレスは、スポーツとパフォーミングアーツの過酷な部分を合わせた、芸術なのだと思った。ランディの役を、スタジオの反対にあってもミッキー・ロークが演じることにアロノフスキーはこだわったという。ランディの姿はそのまま、どん底から這い上がってきたロークに重なり、この世界で生き抜いていくことのタフさと、その中で勝利のない戦いを闘う姿の美しさを教えてくれる。

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映画」カテゴリの記事

コメント

良い映画でしたね。
わたしはマリサ・トメイが大好きなので、彼女が出ているのも嬉しかったです。ミニシアターで観たので周りのお客様がかなり泣いているのがわかりました。80年代、やっぱりわたしにとってはとても思い入れのある時代です。

おロシア人さん、こんばんは。

この映画のマリサ・トメイ、すごくいいですよね!私は彼女だったら「いとこのビニー」もすごく面白くて素敵だったという記憶があります。今でも可愛らしさがあって、心の揺れ動きを伝えるのがうまくて、しかもその年齢とは思えないナイスバディ!
80年代、私ももちろん思い出深いです。10代だった年代ですからね。あの時代の音楽は、本当に良く覚えています。毎週ベストヒットUSAを観ていたし。懐かしいなあ~。

ベストヒットUSA、懐かしいですね。シンディ・ローパー可愛かったなー。こういうおばちゃんになりたいって思いましたもん。
「いとこのビニー」はとっても面白いですよね!
わたし、だれかに「(DVD借りに行くけど)オススメの映画ない?」ときかれたら、「いとこのビニー」「不思議惑星キンザザ」「処刑人」を必ずすすめます。いとこのビニーはだいたい皆さんに喜んでもらえますね~。

おロシア人さん、こんばんは。

ひょっとして同年代かしら?シンディ・ローパー、本当に可愛かったですよね。デビュー当時も確か30代半ばだったと思いますが、今でもあのキュートさを保っているところが凄いです!
おロシア人さんが挙げられた3本の映画、全部観ています(笑)しかも全部好きです。ロシア映画だと「妖婆 死棺の呪い」も好きで、DVDも持っています!話、合いそうですね

レスラー人生もピークを過ぎ、娘とは絶縁状態、ステロイドの影響で心臓は弱っているありさまの中年レスラー ランディー。

娘さんとの約束すっぽかすのは さすがにマズイよ~(´Ц`)

自分には「この場所しかない」不器用な生き方しかできないランディーは やはり 悲しい男です。

zebraさん、こんにちは。

古い記事へのコメント、ありがとうございます。アロノフスキーの最新作「ブラック・スワン」がバレエファンに賛否両論を引き起こしたように、この映画もプロレスファンにはどう見られたのか興味があります。それにしてもミッキー・ロークの熱演ぶりはすごかったですね。

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