6/13 東京バレエ団&フリーデマン・フォーゲル「ジゼル」The Tokyo Ballet "Giselle"with Friedemann Vogel
東京バレエ団「ジゼル」
◆主な配役◆
ジゼル:吉岡美佳 Mika Yoshioka
アルブレヒト:フリーデマン・フォーゲル Friedemann Vogel
ヒラリオン:木村和夫 Kazuo Kimura
【第1幕】
バチルド姫:坂井直子
公爵:後藤晴雄
ウィルフリード:野辺誠治
ジゼルの母:橘静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
高村順子-宮本祐宜、乾友子-長瀬直義
佐伯知香-松下裕次、吉川留衣-横内国弘
ジゼルの友人(パ・ド・シス):
西村真由美、高木綾、奈良春夏、田中結子、矢島まい、渡辺理恵
【第2幕】
ミルタ:田中結子
ドゥ・ウィリ:西村真由美、吉川留衣
指揮:井田勝大
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
一昨年だったか、マラーホフの代役としてアルブレヒトを踊ったフリーデマン・フォーゲルが良かったのと、その時にもジゼルを踊った吉岡美佳さんの儚げな透明感が素敵だった。そして、今回もちろん楽しみだったのが、名人芸ともいえる木村さんのヒラリオン。金欠で悩ましいところだったけど、やっぱりこのキャストは魅力的で誘惑に勝てなかった。
フリーデマンは今回のゲスト出演のために10日前から来日してリハーサルに臨んでいたとのことで、ゲストで、しかも身長が非常に高いにもかかわらず、カンパニーに自然に溶け込んでいた。吉岡さんとの息もぴったりで愛が感じられ、良いパートナーシップが築けていたと思う。
彼のアルブレヒトは、とても甘く優しく、育ちの良さを感じさせた。体の弱いジゼルを気にかけていて、いたわるように接している。この優しすぎたことが仇となり、彼の罪となってしまったというわけだ。フリーデマンのアルブレヒトは、バチルドという婚約者がいるのに、ジゼルに恋愛感情を持っているということに後ろめたさの欠片もなく、無邪気に、だけど真摯に恋愛を楽しんでいるように見えた。花占いで落ち込んだジゼルに、ほらほら、ちゃんと愛しているになっているよって花を見せると、勢いよくその花を投げ捨てちゃって、元気いっぱいに踊る。このアルブレヒトの甘く優しく育ちの良い部分は、フリーデマン・フォーゲル本人が生まれ持った気質そのままのようにも思えた。すごくピュアで自然な演技だったのだ。
ヒラリオンの鳴らした角笛の音でバチルド一行がやってきた時の、実はかくかくしかじかこういう理由でこんな姿をしていて、というアルブレヒトの言い訳するの空々しさ、ひざまづいて恭しくバチルドの手にキスをするところの、気持ちのこもっていない加減。アルブレヒトは、親が決めた婚約者だから仕方なく結婚するのであって、本当に好きなのはジゼルなんだよ、それのどこが悪い、と本気で思っているようだった。だから、ジゼルがショックを受けて狂ってしまっても、何が起きたのか理解できなくておろおろするばかり。自分の何がいけなかったのかもわかっていないようだった。ジゼルが死んでしまってようやく、自分が犯した罪の重さに気がついて彼女の亡骸にすがりつく。いや、この時点でも、まだ自分の罪を十分認識していなかったのかもしれない。ただただ、突然愛する人を失ってしまったことに混乱していたかのようだった。
そんな風に、無邪気さの罪によってジゼルを死に追いやってしまったアルブレヒトは、2幕では悲しみに沈み、重々しい足取りでジゼルの墓まで歩み寄る。罪悪感を感じてはいるのだろうけれども、それよりも、ジゼルがこの世にはもういないということに打ちのめされている様子だ。ジゼルのお墓を、まるでジゼル本人であるかのように大切に扱っている。そこへ、ウィリとなったジゼルがふっと通り過ぎる気配。アルブレヒトは、なかなかジゼルの実体が見えていないようだった。それが少しずつ、少しずつ彼女を感じ始める。やがて、二人の想いは生死を超えてハーモニーを奏で始めて、2幕のパ・ド・ドゥとなる。
アルブレヒトがウィリたちに無理やり踊らされるところでは、フリーデマンはブリゼでの斜め移動を2回行っていた。トゥール・ザン・レールの着地が毎回きれいな5番だし、高々と跳んでいるジュッテ・アントルラッセの時の脚の開きかたも美しい。背中を大きく反らしてのヴァリエーションでは、ちょっとだけマラーホフを思い出させた。2幕でのアルブレヒトも真摯で誠実で、最後までジゼルを壊れ物のように大切に扱っていた。サポートもふんわりと柔らかく、優しかった。ジゼルがお墓へと消えていくところ、アルブレヒトは墓の上に身を横たえてジゼルの指へと手を伸ばしていたけれども、気がついたときにはジゼルの姿はなくなっていた。百合の花束を抱えたアルブレヒト、まるでジゼルの命が少しずつ消えていくかのように花々は落ちていく。最後に残った花を、ジゼルそのものと思って大事に抱えていたかと思うと、土へと還ったジゼルを抱きしめるかのように彼は地面に身を横たえた。少しだけ微笑み、再び立ち上がるであろうことを感じさせながら。フリーデマンは、純粋でありながらドラマティックで、パートナーリングも良い、優れたダンサーになった。
吉岡さんのジゼルは繊細で、1幕の時から透けて見えそうなほどの透明感があった。折れそうなほどの華奢な身体は見るからに病弱そうで、実年齢を忘れさせるほどの少女的なキャラクター造形。母親に踊ることを止められても、私は踊るのが好きなの!とヴァリエーションを踊る。本当に純真で、アルブレヒトの愛を信じて疑っていない。だから、ジゼルが彼の正体を知ってしまい、彼の背信を知った時に、ガラスで作られていた彼女の繊細な世界は崩れ去ってしまって、正気を失ってしまう。それも、ジゼルの信じていた世界が少しずつひび割れて、ゆっくりと静かに、最後は一気に壊れていくようであった。途中から、もうジゼルには何も見えなくなっていて、ウィリたちが彼方から呼んでいるのだけが見えていたようだった。ジゼルの命はあまりにも儚く、あっけなく散ってしまった。
1幕でもそこまでの透明感があった吉岡さんのジゼルだから、2幕の、この世のものではないかのようなふわふわとした浮遊感は驚異的だった。とはいっても、ウィリになりきっていなくて、人間らしい温もりは残っている。死してなお、アルブレヒトへと向けられた想いが、彼女を他のウィリとは違う存在にしている。だからこそ、彼女の存在はアルブレヒトには感じられるし、彼にその姿が見えてくる。1幕の無邪気な少女っぽさとは打って変わって、ここでのジゼルは、なんとしてでも彼を守り抜くのだという強い意志が見えて、その意志の力が、姿は変われども、魂だけの存在になっても、彼女をアルブレヒトからは見える存在にしているのだ。吉岡さんの目には強い光が宿っていて、甘いお坊ちゃまであるアルブレヒトと好対照をなしており、二人の演技は絶妙なケミストリーとなっていた。ヴァリエーションの時に、吉岡さんのポアントがちょっと弱いかな、と思ったけど、ドラマを作るうえではそれは大きな瑕にはなっていなかった。
さらにドラマを盛り上げたのが、火傷しそうなほど熱い演技を見せた木村さんのヒラリオン。ヒラリオンがジゼルに捧げる報われない愛、アルブレヒトなんかよりずっと真剣にジゼルを愛していたヒラリオンがウィリたちにいたぶられ、とり殺されてしまうという理不尽さ。この理不尽さが、「ジゼル」という作品に厚みを加えているのだと思う。ヒラリオンは、貴族の正体を隠してジゼルと付き合うアルブレヒトが許せなくて、アルブレヒトの正体を示す剣を持って二人の間に割って入る時にも、迷いの欠片もなく自分こそが正義だと思っている。ジゼルが死んだ時には、アルブレヒトなんかよりずっと激しく嘆き悲しみ、そして死に追いやる一因を作ってしまった自分を責める。大きく後ろへと反らして慟哭する彼の姿に心を打たれない観客はいないはず。このシーンでは、木村さんは主役二人以上の視線を集めていたのではないだろうか。
ミルタに命乞いをするときの必死さもすごくて、あんなに迫力のある表情で迫られたら、ミルタだって、こいつを許してやろうかと一瞬思ったんじゃないかと思うほど。あれだけ髪を振り乱して必死なのに、ウィリたちに小突き回されながら跳躍する時の木村さんの脚が美しくて。木村さんの情熱的で愛に溢れたヒラリオンは、世界一だと思うし、これからもずっと踊り続けて欲しい!
ドゥ・ウィリは西村さんと吉川さん。吉川さんはウィリ姿になっても美しい~。今までは彼女はその美しさばかりが目だって踊りは少し頼りないところがあったけれども、しっかりと迫力が出てきて、怖いほど美しいウィリになっていた。西村さんは、柔らかくおおらかな踊り、美しいポール・ド・ブラとしっかりした上半身、完璧なアラベスクで、惚れ惚れしてしまう。本当に遠くない将来、彼女の主役が観たいものだ。田中さんのミルタも健闘していたと思う。ちょっと怖さが足りないところがあったとは思うけど、場数を踏めばきっと迫力は増していくだろう。コール・ドについても、以前のものすごい足音が小さくなってきたし、よく揃っていた。
パ・ド・ユイットは長瀬さんの王子様な雰囲気と端正な踊りが目を惹いた。女性では、安定している高村さんと、可憐で小気味よい佐伯さんが良かった。ひところちょっと弱体化していた東京バレエ団だったけれども、この日の「ジゼル」を観る限りでは、立派な上演ができていて、若手も育ちつつあるのではないかと思えた。本当に良い公演だったと思う。観客の反応も良くて、カーテンコールは何回もあったし、主役二人も本当に満足げだった。
写真は、ロビーで飾られていたマカロワ版「ラ・バヤデール」の衣装。クリックすると拡大します。ソロルのマネキンの面差しが、ロベルト・ボッレに似ていると思うのは気のせい?
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大変楽しく、興味深く拝読いたしました。
私もボーナス減額で厳しい懐事情とマラーホフシックにかかる恐れから、見に行けなかった舞台でした。でも、いろいろと目に浮かぶようなレポに感謝です。そうです、あの2幕の背をそらすところがマラーホフの踊り方とかぶって、涙が出そうになります(´;ω;`)ウウ・・・
吉川さんのウィリ、見たかったです。私も彼女の顔ばかりみていたクチでした。表現力がアップしてきたのですね。やっぱりどんどん大きな役をできるだけ早くから踊ってもらった方がファンにしたら嬉しいことなのかな、と思います。
投稿: ショコラ | 2009/06/14 21:38
ショコラさん、こんばんは。
私はボーナスが果たして出るのかどうかも謎って感じなのに、来月はABTを見にNYに飛んでしまうので(航空券はマイレージですが、サーチャージはしっかり5万円も徴収された)、本当になんで生活できているのか謎です(貯金を切り崩しているわけですが)。
フォーゲルくんのアルブレヒトは、全体的には甘くて元気いっぱいで、マラーホフとはかぶらないのですが、あのヴァリエーションと、純愛アルブレヒトというところが、マラーホフ的なんですよね。
私は見にいけなかったんですが、マラーホフの公開リハーサルの「ラ・シルフィード」の生徒の一人が吉川さんだったのですよね。やっぱりダンサーは舞台に立って、役を貰って成長するんだと思いました。彼女は本当にきれいな人なので、将来がすごく楽しみです!
投稿: naomi | 2009/06/15 00:45