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2009/05/19

映画「MILK ミルク」ガス・ヴァン・サント監督 Gus Van Zant film「Milk」

MILK
監督:ガス・ヴァン・サント
製作:ダン・ジンクス、ブルース・コーエン
脚本・製作総指揮:ダスティン・ランス・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ショーン・ペン/エミール・ハーシュ/ジョシュ・ブローリン/ジェームズ・フランコ/ディエゴ・ルナ/アリソン・ピル/他

■2008年・米/128分
http://milk-movie.jp/main.html
http://www.imdb.com/title/tt1013753/

同性愛者であることを告白した米国初めての公職者であり、1978年に暗殺されたハーヴィー・ミルクの最後の8年間を、ガス・ヴァン・サント監督が描いた作品。ショーン・ペンがアカデミー賞主演男優賞に輝いた。

暗殺される予感がしたのか、市政執行委員に当選したハーヴィーは40歳から今までの軌跡をテープに吹き込む。自分が死んだ時には、これを聞いて欲しいと。

40歳の誕生日の夜、彼はスコットという若者に出会う。40歳になるというのに、今まで何もしてこなかったと言うハーヴィーに、新しいことを始めようとスコットは言う。彼らはサンフランシスコに移り住み、カストロ通りにカメラショップを開く。やがて彼らの店はゲイ・ピープルが集まるようになり、ゲイに差別的な商工会に対抗して、新しい商工会を作る。それが、政治家ハーヴィ・ミルクの第一歩だった。幾度もの落選、スコットとの別れを乗り越えて、78年に市政執行委員に当選。その頃、同性愛者の教師を解雇できるというプロポジション(提案)6号が嵐のように全米を襲っていた…。

ハーヴィー・ミルクの政治運動が大きな流れを作ったのは、彼が同性愛者のための権利獲得のみを目的として戦っていたからではない。希望を持つことが一番大切であり、希望を持てない世界は生きていく価値が無い、という普遍的なメッセージを訴えたからだ。

同性愛者であることが親に知れてしまった少年が、自殺予告の電話をハーヴィーにかける。同性愛嗜好を矯正するために精神病院に入れられるというのだ。「君は間違っていない、すぐに家を出て都会に行くんだ」とハーヴィーは言う。だが少年は、足が不自由なので逃げることもできないのだ。このエピソードの結末は、観る者の心に小さな明かりを灯してくれる。少年は友達の手で逃げることができ、プロポジション6号否決運動に携わるようになるのだ。

同性愛という個人の嗜好のために、未来や職、人生を奪われるような世の中には、希望が無い。希望を持てるような世の中になるように、一緒に戦おう、というのが彼のメッセージだった。それは同性愛者だけでなく、有色人種、老人、障害者、女性とあらゆるマイノリティの心を打った。いうまでもなく、オバマ現大統領の当選時のスピーチと、ハーヴィーのメッセージに強い共通点があるのが感じられる。オバマが当選したのは、希望を持てる世の中にしたいという強い意志が感じられたからだ。

(ひるがえって、今の日本の社会を包む閉塞感、希望の無さを考えると、本当に絶望してしまう)

「ミスティック・リバー」での演技が印象に残っているせいか、ショーン・ペンに対してちょっとマッチョなイメージを持っていた。だがここでの彼は、温厚で寛容、時には子供っぽくなるけど、目的のためには策士となる賢く優しい男性を立体的に演じている。ハーヴィーが歴史に残る政治家となったのは、単に同性愛者の権利を訴えて凶弾に倒れたからではない、というのがよくわかる。彼は、本当に人々に愛されていたのだ。彼を追悼するために3万人もの人々が蝋燭を手に集まったラストシーンには、思わず涙がこらえきれなくなっていた。

ハーヴィーは、ルックスがいいだけで他に何もないジャンキーの若者ジャックを拾って恋人にする。そのことを元恋人スコットになじられたハーヴィは、僕のような美しくもない年寄りが、あんな可愛い子と付き合えるかい、って答える。彼のなんとも人間臭いところが現れる。

同時に、ハーヴィーは計算が働く男だった。プロポジション(提案)6号を否決させるために、同じ市政執行委員に立候補していた保守派のダン・ホワイトと取引をする。その取引が、結局彼の命取りとなるのだが…。また、市民の支持を得るためにリサーチを行い、犬の糞を片付けない者には罰金を科すという条例を推進する。犬の糞を踏んでアピールするハーヴィのキュートなこと!

ハーヴィーがオペラを愛したということが、この映画にとても劇的な効果として生きている。政治に足を踏み入れた頃、彼は「トスカ」の「星は光りぬ」に聴き入って、「人のスケールを超える生」があると語る。晴れて市政執行委員に当選した彼が、庁舎の階段を上る時、まるで劇場の階段を上っていくような劇的な空間が演出され、若いスタッフクリーヴに、エレベーターではなくこの階段を使え、ぴっちりしたジーンズを穿けと言う。提案6号が否決されるという勝利を収めるものの、ジャックが自らの命を絶ってしまい、ハーヴィーは夜中にスコットに電話をかけ、昼間に観た「トスカ」の話をする。初めて二人がオペラに一緒に行ったときの思い出を。彼がダン・ホワイトの凶弾に斃れた時、最後に目にしたのは、サンフランシスコのオペラハウスの「トスカ」の看板だった。彼は「カミングアウト」=自分たちがここに存在するということを訴えるために、同性愛者たちを集めて大規模なデモ行進を行った。そうすることでマスメディアの耳目を集めさせるという、いわば「劇場型政治」(今の日本ではこの言い方はネガティブなイメージが強すぎるけど)で世界を変えた彼の、人生はオペラのようだったことを、ドラマティックに伝えている。トスカ役の音源が、ゲイに人気の高いマリア・カラスというところまで、配慮が行き届いている(劇中に登場する歌手の名前はもちろん別人だけど)。

ガス・ヴァン・サント監督が「エレファント」で見せた映像魔術、乱射事件の犯人の視線で長廻しで見せていって凶行を再現する技法は、この作品にも登場する。一つは、プロポジション6号が否決されたことが決まって部屋に戻るハーヴィが、ジャックが残した恨み言のメモを一つ一つ目で追い、最後に彼の死体を発見するまで。それから、まず市長を暗殺したダン・ホワイトが、次にハーヴィーを殺しに行く時の、市庁舎内のデスクの間や廊下を歩いていく時の、背中越しの目線。大いなる悲劇を盛り上げてくれて、伝記映画にありがちな単調さや、空々しい仰々しさとは無縁のドラマを感じさせる。加えて、アメリカン・ニューシネマを思わせるような、やや色あせて70年代的な映像のルックにもクラクラさせられた。

そのダン・ホワイトを演じたジョッシュ・ブローリンの演技も見事だった。厳格な家庭に育ち、古い価値観に抑圧を感じながらもそこから抜け切れない男の悲劇が感じられる。ハーヴィーは彼の保守的な考え方の裏には、人間の弱さが隠されており、そこをうまく突けば味方になると感じて、息子の洗礼式にまで出席した。(そして、同僚で洗礼式に出席したのは彼一人というところが泣ける) ハーヴィーは一度は彼の心を掴んだかに見えたのだけど、裏切られたと思うなり、ダンの憎しみは百倍にも膨れ上がり、そして凶行に結びついてしまった。

この映画に登場する、同性愛者の教師を解雇すべきだと訴えるキリスト教保守派の人々の物言いを見ると、それが30年もの前のこととは思えない。同じ言葉は、21世紀の今となっても、アメリカでさんざん言われていることなのだから。いみじくも、オバマ大統領の当選が決まった日に、同性愛婚を禁止する条例が可決になったのだから。この映画の中で曰く、同性愛者の教師から子供達を守らなくてはならない、同性愛者の教師に教えられた子供も同性愛者になり、子供が生まれなくなる、と。

どこぞの国での、子供を産むことは義務だとか女は子供を産む機械だとかの政治家の発言も同じ意味なのではないかと思う。ダン・ホワイトに、同性愛者だと子供ができないと言われたハーヴィーは、生まれるように努力するさ、と言う。子供を持つことは義務だという政治家や識者の発言を聞くと、彼らは同性愛者のカップルの存在なんて考えもしていないんでしょうね、って思うわけだけど。子供を持つかどうか、ということは個人の自由意志であり、国に強制されることではないのだ。そして、日本での未来に希望が持てないから、子供が生まれなくなるのだ。

難しいことを書いてしまったかもしれない。この作品は権利獲得のために戦った一人の政治家を描いている。けれども、政治的なことだけでなく、彼の一人の人間としての魅力、周りの人々の温かさ、人間の善意と希望について描いている。ハーヴィーは死んでしまった。だけども、愛すべき彼の記憶はいつまでも残るということが、エンディングでの登場人物たちの実際の姿とその後の生き方を見せていくという手法で心に刻み付けられた。そして、40歳からすべてを始めて、48歳で死ぬまでの8年間で、こんなにも大きな功績を残すことができたという、希望の光も。

それに、出てくる俳優たちの魅力的なこと!ジェームズ・フランコ、エミール・ハーシュ、ディエゴ・ルナ。70年代ルックもキュートに填まった若手俳優たち、このキャスティングの見事さに、思わずニコニコしてしまったよ。ガス・ヴァン・サントと私の男性の好みは似ているかも、と思ってしまった!

シネマライズでの上演は6月5日までなので、まだの方はぜひ!

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コメント

こんばんは。なかなか面白そうな映画を紹介していただいて、興味津々です。なんか、素敵だと思うとゲイの方々だということが昔から続いていて、その魅力の秘密を知りたいと思っていました。見てみたいです。

なんとも惹きつけられる映画のご紹介をありがとうございます。随分長い間、映画から遠ざかっていましたが、久しぶりに劇場に足を運んでみたくなりました。マリア・カラスの大ファンなので、その部分も興味があって。ゲイに人気だということは初耳なので驚いています。

ショコラさん、こんばんは。

この映画、大好きなガス・ヴァン・サント監督の作品なので楽しみだったのですが、実際観てみて、とても素敵な作品だったので本当に観て良かったって思います。同性愛を扱った映画にはいい作品がたくさんありますよね。多分傷つくことも多いから、彼らは人にやさしいんだと思います。(もちろん、実体験からも、ゲイにも色々な方がいると思ったので一概には言えないものの…)

ななぞうさん、こんばんは。

私も、実は映画館で映画を観るのは「ベンジャミン・バトン」以来で、こんなにも映画館に行かなかった期間が長いのは何年ぶりかって感じです。でも、やっぱりたまには映画館に行かなくちゃいけないって、こういう映画を観ると、思います。

マリア・カラス好きの男性は、なぜかゲイの方が多いんですよね。理由はわからないのですが、美意識の高さと結びついているのかもしれません。この映画の中に、ジュディ・ガーランドの「オーバー・ザ・レインボー」も出てきますが、ジュディ・ガーランドのファンも、ゲイが多いということになっているんですよね。また、この映画の中で、雑誌のオーナーのお金持ちのゲイの男性が登場しますが、男性と一緒にオペラのボックス席にいるのを同僚に見つかってしまって会社を解雇されてしまったので自分で会社を始めた、というエピソードがあるんですよね。

一昨年の年末にミラノ・スカラ座に行ったときに、マリア・カラスの衣装展をやっていましたが、本当に豪華で素晴らしい衣装の数々でした。そして去年の年末は、マリア・カラスが舞台で着用したスワロフスキーのジュエリー展をガルニエでやっていたんです。そういうわけで、ちょっとマリア・カラスづいているのでした。「トスカ」は素晴らしいですよね~。

naomiさんはきっとこの映画、観られると思いましたよ~何しろテーマもテーマですが、共演者がおいしすぎ

そういう私も観る予定なのですが、タイミング悪く長男が定期テストやら振替休日やらでお昼家にいるのでまだいけてません。もうすぐ夜1回だけになってしまう・・・。

うるるさん、こんばんは。

この映画、私が観るだろうって予測されていましたか(笑)当たりましたね~。そう、何しろ共演の俳優がみんな好みの人ばかりですからね♪同性愛を扱った映画っていい作品が多いんですよね。「トーチソング・トリロジー」とか「ブロークバック・マウンテン」とか。
映画は、たしかにまとまった時間がないとなかなか観に行けないし、私も、もう5月だというのに今年はほとんど映画館には行っていないんですよ。でも、ホントに素晴らしい作品だし感動できると思うので、ぜひ観に行ってくださいね。うるるさんの感想が読みたいです。

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