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2009/04/12

国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア

本当は今日は映画を観に行くつもりだったのだけど、新宿ピカデリーに行ったら、見られる時間帯の映画が全部満席だった。株主優待で新宿ピカデリーで上映される映画は、上映1週目以外は全部無料で観られるのだけど、2回に一回は満席で何も観られなくて引き返す羽目になっている。

新宿はほかに映画館が大したものがないし(そもそも新宿という街が嫌いだし)、渋谷に行って、「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」を観に行く。この展覧会の目玉である、クラムスコイ「忘れえぬ女」のポスターが、あざやかなインパクトを残していたからだ。

ロシア美術を、紡績業で富をなした創始者トレチャコフが収集。彼の没後自宅が国立トレチャコフ美術館となり、約10万点の作品を所蔵しているとのこと。今回の展覧会では、その中でもコレクションの中心となっている19世紀後半から20世紀初頭にかけての作品を75点展示。

http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/09_tretyakov/index.html

「忘れえぬ女」くらいしか知っている作品もなければ、その時代のロシア美術について何も知らないので、果たしてどうなんだろうと思っていたけど、観に行って良かった。75点の作品は、傑作ぞろいだった。

この展覧会は、以下の4つのテーマを主題として展示されている。

1:抒情的リアリズムから社会的リアリズムへ
2:日常の情景
3:リアリズムにおけるロマン主義
4:肖像画
5:外光派から印象主義へ

このテーマから浮かび上がってくるのが、リアリズムだ。庶民の生活の哀歓を描いた作品群。画家の家族や親しい人を描いた作品といった人物画、肖像画も魅力的だ。結婚式への準備を行う花嫁と親戚や友人たちの姿を描いたワシーリー・マクシモフの「嫁入り道具の仕立て」を見ると、全然雰囲気は違うのだけど、ニジンスカのバレエ「結婚」を思い起こす。

今回の展覧会で特に深く印象に残ったのは、3.のリアリズムにおけるロマン主義。23歳で夭折したフョードル・ワシーリエフの「白樺林の道」や「雨が降る前」「猟師」における繊細でドラマティックな自然描写。アルヒープ・クインジの「エルブルース山-月光」では、月光を浴びた白い山頂が、蒼く輝いて鮮烈な印象を残す。同じクインジの「ヴァラーム島にて」では、グリーンの使い方、そして冷たい光の表現が独特で、写実的なのにも関わらず、いまだかつて見たことがないような幻想的な世界を見せてくれる。イサーク・レヴィタンの「静かな修道院」は、神聖さと静けさのなかに、美しい光景を見た者の高揚感までもが伝わってくる。鏡のように修道院を映す水面にかかった古くて小さな橋が、象徴的だ。同じくレヴィタンの「たそがれ、干し草」は、夕景の中に積み藁を描いているだけなのに、神秘的で哲学性すら感じさせる。

風景画はどれも目を吸い付けて離さないようなドラマ性がある。ロシアの厳しくも美しい自然と広大な大地。特にふわりとした雪の表現や、玉虫色のような色彩さえ帯びている空の色は心に残る。今回のコレクションを構成している画家の多くは、ヨーロッパへと旅をして、同時代の印象派の影響を受けている。5.の外光派から印象主義へ、ではその印象派の影響も感じされる。しかし光の表現などに印象派の影響を受けながらも、ロシアらしいオリジナリティ、リアリズムやロマン主義、リリシズムが脈々と息づいているのが感じられた。

肖像画家として若くして名声を得たイリヤ・レーピン。文豪ツルゲーネフのもっとも有名な肖像画をはじめ、自信と才能に溢れる美しいピアニストを描いた「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」、そして堂々とした美丈夫の軍人/劇作家/俳優「コンスタンチン・コンスターノヴィチ大公の肖像」、若く輝かしい美青年「劇作家レオニード・アンドレーエフの肖像」などを描いているが、同時に、自身の娘ヴェーラ20歳当時の生き生きとした若さを刻み付けた「秋の花束」のみずみずしさ、息子ユーリーの5歳の愛らしい姿を描いた「画家レーピンの息子 ユーリーの肖像」などの身近な人々を描いた作品には、印象派の影響が感じられると共に、温かさがある。

そしてクラムスコイの「忘れえぬ女」。原題はUnknown Ladyとなっているので、正確には「見知らぬ女」とすべきか。黒い衣装に、黒髪、エキゾチックで大きな黒い瞳の若い女性。ちょっとニーナ・アナニアシヴィリに似ている感じ。高価そうな服を着ているが、無蓋の馬車に乗っているので決して高い身分ではないようだ。長い睫毛を少し伏せて憂いを含みつつも挑発的なまなざしと、きりっと結ばれた口。この作品につけられた解説によると、ある者は彼女の中にチェーホフの「アンナ・カレーニナ」を見出し、また別の者は、トルストイの「白痴」のナターシャを重ね合わせたという。社会に対して挑むように見える彼女は、ロシア版の「椿姫」だと解説は書いている。実物を見ると、絵の具がキラキラ輝いているように見える。明度の高い背景に対して、黒をベースにした彼女の姿が浮かび上がり、きらめきを放っているのだ。

もう一枚のクラムスコイの作品「髪をほどいた少女」も、光を乱反射する少女の金髪と、思い悩むようなまなざし、繊細な空気が伝わってくる。

ツルゲーネフのほか、チェーホフやトルストイの肖像画もあるが、ここに展示されている肖像画は、画家が描く対象に対して感じている思いが良く伝わってきている。ただの肖像画に終わっていなくて、その人物の持つ精神性までもが感じられていて、深い。

ロシア文学などに関心を持っている方にもぜひ観て欲しいと思う。素晴らしい展覧会だった。

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文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

この展覧会のポスターを見るたびにニーナ・アナニアシヴィリに似てる~と、思っていたんです!
でも、今一つ足を運ぶにはなあと思ってたのですよ。naomiさんが感想あげてくれて良かったわ。とても興味がわきました~いってきます♪

素晴らしいレビューです!!
時々バレエの話題が出てくるのがnaomiさんらしいし。
私も「果たしてどうなんだろう」と思っていたのですが、これを読んで一気に期待が高まりました。
BUNKAMURAは金・土は9時まで開館してくれるので、とても行き易いです。
ただ毎度すごく混むので、会期早めに行くのが吉ですね。

とってもお久しぶりです。naomiさん、お元気ですか?

ロシア絵画大好きです。一昨年も上野でロシア美術展があったので見に行きました。「見知らぬ女」は20年前に札幌に来た時見に行きましたが、本当に美しい女性ですよね。あれは20年前に聞いた話ではクラムスコイの息子をモデルにして女性風に描いた絵だそうです。
私は普段風景画はそれほど興味ないのですが、この時代のロシアの風景画は素晴らしいものばかりです。写真みたいで、特に雪の描き方(雪が枝にフワっとのって枝がしなってる様子など)はとってもリアルです。
私も会期が終わるまでにはぜーったい行く予定です♪

jadeさん、こんにちは。

私も、今回の展覧会の画家の名前は全然知らなかったので、実際に観てみて、その内容の充実振りは嬉しい驚きでした。リアリズム志向なので、とてもアカデミックで、繊細で、画家が、自分自身が感じた美を、絵画を通して伝えなければ、という思いが伝わってくるんですよね。
「忘れえぬ女」の女性は、確かにグルジアあたりにいそうな顔立ちです。

ogawamaさん、こんばんは。

後で読み返してみて、あ、このことを書くのを忘れた、これについても書けばよかった、ってことがポロポロ出てきます(苦笑)
直接バレエに関係するものはないんですが、後半に登場する画家の中で一人、バレエ・リュスの美術を手がけた人が出てきました。サンクトペテルブルグの冬宮の絵などもあるので、やっぱりバレエに結びつけちゃいます。
ちなみに、日曜日の午後に行ったのですが、空いていましたよ。会期も後半になれば混んで来るのかも知れませんが、Bunkamuraのギャラリーで混んでいたことがあった記憶がないです。私は家から上野が遠いのと、いつも混んでいるというイメージがあって、滅多に上野で開催される展覧会には行かないのですよね。ホント、Bunkamuraは金曜日と土曜日が遅くまでやっているから、仕事帰りに行けて便利です。

プリマローズさん、こんばんは。

元気です!ちょっと仕事が大変で精神的にちょっとプレッシャーなのと、そのせいか?慢性胃炎になってしまっていますが、それ以外は元気です♪

「見知らぬ女」は札幌にも来たことがあるんですね。ケルンの美術館に行った時にも、ミュージアムショップにこの作品が表紙になっている本が売っていました。実際は男の子がモデルだったという話、聞いたことがあります。図録や解説には載っていませんでしたが。
》私は普段風景画はそれほど興味ないのですが、この時代のロシアの風景画は素晴らしいものばかりです。写真みたいで、特に雪の描き方(雪が枝にフワっとのって枝がしなってる様子など)はとってもリアルです。

まさに、その通りの作品を観ることができますよ!ぜひお勧めです♪そう、雪のふんわりとして、でも重みもある感じとか。

Bunkamura、空いているんですね。
じゃあ、早めに行くことにします。
ミレイ展の時(2回行った)チケット売り場の行列が蛇行するほど混んでいたので、その印象が強かったのでしょう。
上野は、企画展は平日でも混んでます〜。
なんとかゆったり見られるのは夜間開館の時ですね。

ogawamaさん、こんばんは。

同僚でかなり美術館通いをしている人がいるのですが(彼女も早速これを観に行って絶賛)、大体の展覧会は会期の最初の方に行くようにしているそうです。私が行った時はミレイ展は混んでいなかったんですよね。やはり土曜日の夜に行ったからかしら。
ルーヴルやオルセーも、週に一日だけ10時まで空いている日があって、それがねらい目ですね。昼間はこの二つはいつも混んでいるので。

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