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2009/04/14

ファッションから名画を読む 深井晃子

人物画を観るというときに、私たちは何を観ているのだろうか。もちろん、その人が何を着ているのか、意識はするけれども、どれほど注意深く観ているのか。ときどき、ちゃんと観なくてはならないものを見落としている、と感じることがある。

裸体画でない限り、人物は何かしらの服を身に着けている。そして、それらの服装こそが、その人物がどのような社会的な地位を持った人間で、どの時代にどのように生きていて、その時代とはどんなものだったのかというのを語るものだ。

というわけで、服飾史の専門家である筆者が、ファッションを通して、ルネッサンスから19世紀初頭までの美術史について語ったのが、この本だ。ファッションと言うと軽く聞こえるけど、服装には、その時代の社会情勢や政治までもが見えてくるところがある、とこの本の前書にはある。

もっとも有名な絵画の一つであるレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」が、黒いドレスを着て、ヴェールをかぶっているのはなぜか。そして、モナリザ・スマイルを浮かべているのはなぜか。そんな永遠の疑問から始まる。

フィレンツェのウフィッツィ美術館にある、ブロンズィーノの「エレオノーラ・ディ・トレドと子息ジョヴァンニ」では、コジモ一世の美しい妻エレオノーラが、大胆で凝った唐草文様のビロード織りのドレスをまとっている。この精緻で華やかな絵画は、メディチ家の権勢を誇示すると共に、フィレンツェの優れた繊維・織物産業と芸術文化を内外にアピールするために描かれたものだという。

マリー・アントワネットが好んだという木綿の白いドレス。イギリスで綿モスリンが流行したのがフランスに入ってきたのだ。しかし、モスリン・ドレスは寒いフランスの冬には薄すぎて、スペイン風邪を引いて死ぬ婦人が続出。すると、今度は高価なカシミアのショールが流行する。カシミアのショールを流行させたのは、ナポレオンの妻ジョセフィーヌ。彼女がカシミアショールを肩にかけたり、膝にかけたりドレスのように着ている肖像画がいくつも残されている。

面白いのが、色と染料の話。ティツィアーノの「改悛するマグダラのマリア」のマリアは、なぜ縞模様の服を着ているのか。それは、彼女が娼婦であるということを示しているから。中世ヨーロッパにおいては、2色以上を使った縞柄は、社会からのはみ出し者のしるしだった。囚人服が縞模様なのも、そのような意味があったわけだ。

かつて、染料というのは高価なもので、フェルメールの「ターバンを巻いた少女(真珠の耳飾りの少女)のターバンに使われているブルーは、高価なウルトラマリンだった。アフガニスタンで採れるラピスラズリを砕いて作ったという。ブルーの染料は、大航海時代を経て、もう少し安いインディゴが入ってくる。だが、色を手に入れるためにその時代、人々は命すらも賭けた。そこまでして、色というのは魅惑的な存在だったのだ。そして、19世紀に合成染料が誕生したことで、服装史も美術史も大きく変わっていく。19世紀後半から、黒がファッショナブルな色としてもてはやされるようになるのも、合成染料の発達で、美しい黒を作り出すことができるようになったからということだ。

19世紀半ばには、パリの都市計画の発達に伴い、モードが出現する。ルノワールが描いたその名も「パリジェンヌ」という作品があるが、街を闊歩し劇場や舞踏会に現れるファッショナブルなパリジェンヌたちの姿を、ドガやマネ、モネ、モリゾらが描いた。そして、社交界とは別の、裏社交界=ドミ・モンドの女性たち=高級娼婦も登場する。美貌と才知で社交界を渡り歩いた彼女たちは、流行の先端を走っていた。まさに、「椿姫」の世界だ。印象派の時代の絵画は、女性たちの華やかな服装に目を奪われる。庶民の女性たちも、生き生きとしていて精一杯のおしゃれをしているのが感じられる。

この本の中でひときわ目を奪われたのが、ジョルジュ・クレランによる、伝説的な女優、サラ・ベルナールの肖像。ほっそりとした長身を優雅にくねらせてソファに腰掛けている彼女のなんとゴージャスなこと。細身を際立たせる白い絹のドレスがまた美しい。19世紀には、拷問器具のようなコルセットも登場し、細いウェストがもてはやされる。コルセットや下着姿の女性の絵画も見られるようになるが、これらのモデルの多くは高級娼婦であった。

20世紀初頭は、バレエ・リュスが一世を風靡する。もちろん、バレエ・リュスのことは知っているわけだし、ピカソやシャネル、ローランサン、ルオー、コクトーといった名だたる芸術家やデザイナーが関わっていることも知っている。だけど、バレエ・リュスがこれほどまでの一大センセーションをモードにもたらしたとまでは思っていなかった。レオン・バクストの独創的な舞台装置と衣装、そしてニジンスキーの超人的な踊り。

「バクストは、バレエ・リュスという舞台を絵筆だけでなく、色彩をまとわせた素晴らしい踊り手たちの躍動する身体という絵筆も使って立体的に描き出した。彼は、いわば動く絵とでもいうパフォーマンスとして、より現代的な作品を作り上げた」

バレエ・リュスが現代美術のアートでパフォーマンスと呼ばれるものの先駆けであった、それはもしかして常識なのかもしれないのだけど、個人的にはちょっと新しい視点で、面白かった。

写真が登場し、服が大量生産のものになってきて、モードを描いた美術作品は激減する。だけど、過去の美術作品に描かれた服装が、今も様々な芸術のインスピレーションの源になっているのはいうまでもない。服装は今も、時代や社会を映す鏡だ。絵画だけでなく、舞台芸術を観る際にも、もっと衣装に注目しようと思った次第である。豊富な図版はすべてカラーで、数々の名画に登場する女性たちの服装を見ているだけでも楽しい。

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コメント

ハンブルクバレエ団のブログに、カール・ラガーフェルドとのコラボのことが書いてありますね。バレエ・リュスにインスピレーションを得て、カール・ラガーフェルドがデザインした服のモデルをエレーヌとシルヴィアが務め、撮影用にバレエ学校の生徒が参加して撮影したそうで、「ブリジット」もしくは「ブリギッテ」というモード雑誌のグラヴィアを飾るとか。そんな名前の雑誌があるんだろうか。わたしはファッション弱いのでわかりませんが、でも、この撮影のモデルにハンブルクバレエ団のダンサーが起用されて、モードを通してハンブルクバレエとバレエ・リュスの魅力が全ドイツに広まるのは嬉しいことだみたいなことが書いてある。エレーヌがいかにもモードな服を着てるきれいな写真、見ました? あれがバレエ・リュスのイメージなら、やっぱり、すごく斬新ですね。

asukoさん、こんばんは。

そういえば、ハンブルク・バレエのブログにありましたね、ラガーフェルドとのコラボの記事。ドイツ語だったのでちゃんと読んでいませんでした。(ドイツ語もまた勉強しなおした方がいいかしら)写真は記憶にあります!エレーヌは背が高くてスタイルがいいから、モデルにうってつけですよね。ちゃんと読まなくちゃ…。

バレエ・リュスもあんなふうにちょっと斬新でファッショナブルだったそうですね。「シェヘラザード」のハーレムパンツとか流行ったらしいですよ。

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