4/24 「エスプリ」2日目雑感
無事に部の引越しも終わり、なんとかGWにお休みを頂いてシュツットガルト&パリに行けそうで、今日も「エスプリ」を観ることができたのですが…。
ここしばらくの多忙な生活と睡眠不足、栄養不足、それに今日急に寒くなったことが原因で、風邪を引いてしまいました。観ている間は大丈夫だったのですが、終わったら喉が痛い…。というわけで、23日の感想も3演目しか書いていないのですが、かなり時間がかかりそうなので今日中のアップは無理です。すみません。明日も、小林紀子バレエシアターの「眠れる森の美女」を観る予定だし。
今日の「エスプリ」もとても楽しかったです。2回観ると、作品のことが少しは理解できて、より楽しめるし。
マッシモ・ムッルとイーゴリ・コールプの「プルースト」より「モレルとサン・ルー侯爵」が凄絶で、息も絶え絶えになるほどした。パリ・オペラ座の「プルースト」のDVDのマチュー・ガニオとステファン・ビュヨンも、美青年二人で耽美的で鮮烈なのですが、この二人はまったく違った味わいがありました。身長も同じくらいで、同じように細身だけど筋肉がしっかりついた身体で、見た目のバランスが非常に良いのです。二人ともしなやかな身体を持っているのに、キャラクターはまったく違う。腕の上げた角度の違いで、性格の違いを表現できるのが凄い。この二人を組ませてモレルとサン・ルーを踊らせた草刈さんのセンスは素晴らしいと思いました。肌色のユニタードって、私は好きな衣装ではないのに、この二人は身体のラインがほっそりとしていて、衣装によってラインの美しさが強調されていて、やがては滅び行く肉体の儚さを感じさせました。実際、サン・ルーはこの後戦争に行き、戦死を遂げます。
このシーンは、天使たち(黒天使と白天使)の闘争、というテーマがついていたと思います。
蛇のようにくねる腕や背中で誘う、コールプの不良っぽい魔性が鮮烈でした。「切り裂きジャック」でもそうなのですが、コールプには、突然目の色が変わる瞬間があるのです。ひとたびモレルが関係性のイニシアチブを握るや、真っ白の、穢れなき魂を持つマッシモのサン・ルーが悪魔に魅入られ、抗おうとしながらも、やがて為すすべもなく絡め取られていく痛ましさ。優しさ、とろけるような甘さと、傲慢さ、強引さが波のように不定期に代わる代わる現れると、サンルーは翻弄されます。コールプの、あの誘惑者の目がぎらっと輝いたとき、客席でも多くの人が、その目に殺されたのではないかと思います。コールプの肌も、赤みを帯びてきて。(マッシモは、「アルルの女」の途中から、やはり肌の色が赤く染まっていったのが見えました)この二人の「モレルとサン・ルー」だったら、何回観ても飽きないどころか、傍観者であるはずの自分も悪魔に魅入られ、絡め取られていってしまうのではないか、というぞくぞくする怖さがありました。マッシモのイノセンスそのものの瞳が痛ましくて、その楽園の喪失の過程が、胸にえぐるような痛みを残すのでした。
マッシモ・ムッルの「白鳥の湖」の白鳥は、群から外れた誇り高い孤独な存在。自己主張が感じられない透明さがあって、観る側の気持ちまでも研ぎ澄まされていく。野原にひっそりと咲いている美しい白い百合のよう。この白鳥が浮かぶ湖はきっと人里からも離れている黒い森にあって、どこまでも澄み渡るような透明な水を湛えていて、そこにただ一羽だけでひそやかに生きているようなイメージ。来るかどうかも判らない誰かを待っているような。孤高といっても禁欲的というわけではなく、動物としての本能は持っていて、仄かな官能が立ち上っています。腕を後ろに翼のように掲げた白鳥のポーズで、月明かりを浴びて白く輝くマッシモの白鳥、セットも何もないのに、満月から降り注ぐ光、深い森の中の湖、湖水に反射する光が見えてきて、夢幻の世界へといつのまにか連れて行かれます。しなやかな筋肉をまとっている白鳥は間違いなく男性なのだけど、でも決してマッチョではなく、性別を超越したような存在に思えてきます。草刈さんの方は、間違いなく人間の女性であったけど、白鳥は、その人間の中に、自分と同じ何かを見つけて、本能の命ずるままに恋をします。草刈さんが相手だと、男性の動きの柔らかさやしなやかさが強調されるというのが逆説的なのですが、この演目の場合、はっきりと白鳥と人間というのがわかるからいいのかもしれません。マッシモの表現が控えめだからこそ、限りある生の輝きと透明感を伝えることができて、胸を震わせてくれるのではないでしょうか。
「オットー・ディクスより~切り裂きジャック」でコールプが見せた狂気。歪んだ欲望。人間は弱いからこそ、暴力に走るのだというのがはっきりわかる役作りでした。見るからに危ない人物像の中に見える弱さ。醜さ、ヴァイオレンス、情欲といったあらゆる悪徳、汚濁の中にも、ほんの少しの美しさが存在しているということを見せてくれました。草刈さんは赤毛のショートボブのカツラがとてもよく似合っていて綺麗なのですが、色気が全然なくてお人形のようでした。彼女のお人形のような娼婦というのに萌える人もいるというのは良くわかるのですが。その娼婦に魅入られてしまった切り裂きジャックは、愛情を表そうとして愛を交わそうとしますが、彼にとっての愛はナイフに形を変え、ついには彼女を刺し殺してしまいます。愛した女を殺してしまったことに気がついた彼はしばらく呆然として震えるものの、スイッチを入れたかのように、何もなかったかのように元のエキセントリックな狂人へと戻って歩き去ります。このスイッチの切り替え方が、なんとも強烈で、コールプという人の持つ無限の宇宙を感じさせてくれたのでした。
タマラ・ロホとリエンツ・チャンの「エスメラルダ」がまた、とても良かったです。タマラのエスメラルダのキュートなことといったら、もう!こんな無邪気な彼女を見るのは初めてでした。リエンツのカジモドが、またすごく切ないのです。そしてサポートの上手さや腕の使い方の巧みさといったら。この二人がユニゾンで踊るところが、タイミングも動き方もピタリと合っていて、二人の心が触れ合ってハーモニーを奏でているんだな、と思ったら涙が出てきそうになりました。この二人の「タイスの瞑想曲(「マ・パブロヴァ」より)」も素晴らしかったです。タマラの女優バレリーナの本領が発揮されていたし、リエンツが、美しい彼女のことを心から崇拝しているのがすごく感じられました。リエンツ・チャンはテクニックも表現力も完成されていて、魅力的なダンサーだと思いました。
結局何だかんだ言って長く書いてしまいました。まだ書きたいことはいっぱいあるんですが、風邪を引いているんだし、来週火曜日には出発だし、寝なくちゃ。気が向いたら、残りも書きます。
最後に、草刈民代さんとマッシモ・ムッルの美しい「白鳥の湖」の写真を紹介します。
http://sankei.jp.msn.com/photos/entertainments/entertainers/090424/tnr0904241730010-p2.htm
マッシモ・ムッルとイーゴリ・コールプが踊った「プルースト」より「モレルとサン・ルー侯爵」が収録されているパリ・オペラ座の「プルースト」です。リージョンオール、モレルにステファン・ビュヨン、サン・ルーにマチュー・ガミオ。
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naomiさん、無事2日とも見られてよかったですね。普段バレエをあまり観ない私が地元で観て、きゃあ、きゃあ!と騒ぎ立ててnaomiさんに期待をさせてしまい(もちろんそうしたのは私だけではないのですが)、実際見られてがっかりだったらどうしましょとちょっと不安だったのですが、そんな心配は杞憂だったようですね(*゚▽゚)ノ
モレルとサン=ルーや白鳥のレポート、全く同感すぎてびっくりです。
草刈さんがあえてこの2人にこれを躍らせたことが何と言っても素晴らしい(ちょっと冒険ですよね!)。肌色レオタードがキライなのも同感(苦笑)ですが、彼らが着ると不思議と素敵でしたし、コルプの目つきの変わる瞬間!! どうやら普段は全くフツーっぽい青年のようですが、舞台であんなに豹変できるって、すごい人ですよねえ、本当に。
naomiさんの表現力豊かな詳しいレポートで、この素敵な公演をひしひしと思い出すことができました。ありがとうございました(&お疲れ様でした・・・まだまだ続くのですね、でも) あとは、NHKでノーカットで放映してくれるのを祈りつつ・・・。
投稿: うるる | 2009/04/25 10:09
わたしはけっこう気楽に見にいったのですが、
行って大正解というか、実に楽しい公演で良かったと思いました。
普通のバレエ公演としても草刈さんの引退公演としても良かったと思います。静岡では生粋のバレエファンというよりも、民代さんの引退公演だから、、、という観客が大多数だったし、普段バレエを観る人は少なかったのかもしれませんが、とても盛り上がりましたし、逆にあまりよくわかっていなさそうな予備知識の無い観客の正直な盛り上がりに、ダンサーも嬉しそうでしたよ。
総じて好意的なブログ記事も多いですが、やはり関東のバレエファンの方々の目は厳しいな~、という記事もあり、人の意見はそれぞれだなあと思いますが、今思い返しても、なかなか良いステージだったと満足しています。
投稿: おロシア人 | 2009/04/26 16:33
うるるさん、こんばんは。
うるるさんの感想を読んで、思いっきり期待に胸を膨らませていったのですが、その期待をさらに上回る楽しさでしたよ~。事前に見るポイントを教えていただいていたので、本当に助かりました!
サン=ルーとモレルについてご同意頂き嬉しい~。うるるさんと私のツボとか感覚は結構似ているのかなって思いますよん。草刈さんの組み合わせを思いつくセンスは凄いですよね。
東京でも毎日NHKのHDカメラが何台も(7台くらい?)入っていたので、本編の放映も期待できるんじゃないかと思います♪ぜひ白鳥とモレル&サン=ルー、アルルはお願い、ですよね。他の演目も良かったですが。(リエンツ・チャンも気に入りました)
投稿: naomi | 2009/04/27 02:20
おロシア人さん、こんにちは。
そうなんですよ、最初のうちはどうしたものかと思いつつ、地方公演で始まっていたので、おロシア人さんはじめ、地方公演を観た方の評判が凄く高くて、期待が高まり、実際観たらやっぱり楽しかったんですよね~!
確かに、バレエ好きの方だけが集まっていたわけではなかったようですが、最終日は最後は総立ち状態で、草刈さんも、涙、涙でした。観に来た人は、みんなすごく楽しんだように思えましたよ!こういうきっかけでこれからもバレエを観に来てくれるようになったら、本当に嬉しいですよね。
投稿: naomi | 2009/04/27 02:56