ニーナ・アナニアシヴィリ、「白鳥の湖」を語る/デヴィッド・ホールバーグの「ラ・シルフィード」
ニーナ・アナニアシヴィリは、2月21日にワシントンのケネディ・センターにて、ABTのバレリーナとしてはワシントンでの最後の「白鳥の湖」を踊ります。彼女のABTでの「白鳥の湖」は、6月のABTフェアウェル公演を残すのみです。
A Swan Song for Ballerina Nina Ananiashvili dances Swan Lake in Last Kennedy Center Show
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/02/12/AR2009021200906.html
「もちろん、ABTにさよならを言うのは悲しいわ。このカンパニーが大好きだし…寂しいと思うでしょう」「ワシントンD.Cについては、とても良い思い出があるし、ケネディセンターでまた踊ることができて嬉しいです。短い訪問ではあるけれども、ここに来られることは大切なことです」と母国グルジアで、ニーナは電話インタビューに答えました。
現在45歳のニーナ・アナニアシヴィリが、初めてボリショイ・バレエで「白鳥の湖」のオデットとオディールを踊ったのは1983年。そのとき、まだ彼女はコール・ド・バレエのダンサーでした。「私は偶然にこの役を踊ることになったのです。ドイツでのツアーで、この役を踊る予定だったバレリーナが病気になったからです。芸術監督のユーリ・グリゴローヴィチが、まだこの役を踊ったことがない私を抜擢したのでした」 ニーナは、わずか2日間でこの大変な役を覚え、そして2日間かけて電車でハンブルクまで移動したのです。「それは私の初めての大きな成功でした。もちろん、この役を踊ったことはありませんでした。私のボリショイでの一年目の年で、まだ18か19歳と、とても若かったのです」
「この役は本当にとても難しく、そして技術的に難しいと言うことだけではありません。オデットとオディールという二つの役を演じて、二つの物語を演じなければならないのです。そして同時に技術的にも完璧でなくてはなりません。多くのダンサーがこの役を踊りましたが、記憶に残るような白鳥を踊った人はとても少ないのです」
「まずオデットがいて、この役はとても悲しい役として踊らなくてはならず、悲しい白鳥の物語、そして愛をどれほど彼女が恐れているかを表情で見せなければなりません。もしこの愛が真実でなければ、オデットは死ぬか、死ぬまで白鳥でいなければならないからです。オディールを踊るときには別人として踊る必要があります。美しく悪い女で、王子をどうすれば魅了できるかを判っているのがオディールです」
ニーナが語るには、この役を踊り続けた長い年月の間、白鳥の純粋な美しさと、黒鳥の情熱的な魔術を同時に表現し、自分のものとすることが最も難しいと感じてきたとのこと。「他の誰かの『白鳥の湖』と同じようには見えない何かを見つけなければなりません。今、私はこの役をずいぶんたくさん踊って来て、どうにかして私は自分自身の、他の誰とも違う『白鳥の湖』を見つけることができたと信じることができるようになりました。私は、それが何であり、そして私の『白鳥の湖』が誰よりも素晴らしいと言い切ることはできませんが、私の『白鳥の湖』は、他の人のとは違うのです」
初めての「白鳥の湖」が人生の中での最大の挑戦だったと、ABTでのキャリアを振り返って彼女は語りました。
「『白鳥の湖』を初めて踊って、ようやく誰もが私のことをバレリーナと呼んでくれ、私自身が『白鳥の湖』となったのです」
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このインタビューのタイトルの「Swan Song」とは、白鳥が臨終に歌うとされる歌、転じて辞世の句という意味があります。「白鳥の湖」という作品は、バレリーナにとってそれだけ重要で、思い入れの大きな役というわけです。ニーナは、ABTでの最後の舞台を「白鳥の湖」としました。
ただ私たち日本のファンにとって嬉しいのは、ニーナはグルジア国立バレエではまた来日して踊ってくれる予定があることです。来年の来日は、「ロミオとジュリエット」が予定されていますね。
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ワシントンと言えば、同じABTのデヴィッド・ホールバーグが、2月11日から15日までのワシントン・バレエの「ラ・シルフィード」に客演しました。ブルノンヴィル版の上演で、振付指導には、デンマーク・ロイヤル・バレエからトーマス・ルンドが派遣されました。トーマル・ルンドと、デンマーク・ロイヤルの元バレリーナで現教師のSorella Englundは、数週間にわたってワシントン・バレエに振付指導を行いました。
デヴィッド・ホールバーグはまだABTでは「ラ・シルフィード」のジェームズを踊ったことがありません。昨年小林紀子バレエシアターでヨハン・コボー版の「ラ・シルフィード」を踊ったのが初ジェームズだったようですね。今年のABTのMETシーズンでは、ブルノンヴィル版の「ラ・シルフィード」が上演されることになっており、デヴィッドのパートナーは、ボリショイのナタリア・オシポワが予定されています。
トーマス・ルンドは、他のデンマーク・ロイヤル・バレエのダンサーたちに教えてきたのと同じように、デヴィッドにこの役を教えました。彼は、ジェームズ役について、このように語りました。「物語ることを抜きにしたテクニックには意味がありません。ダンサーは、観客が自分が信じているのと同じことを信じるようにさせる方法を見つけなければなりません。クラシック・バレエを伝え、生きながらえさせるためには、常にやり続けなければならないことなのです」 「デンマークのダンサーにとってジェームズ役を踊ることは、俳優がハムレットを演じるのと同じ意味なのです。ジェームズ役のパを一つ踏み込んだ瞬間に、同じ役を踊ってきた、偉大なダンサーたちの列に加わることになるのです。この感情は、とても特別なものです」
デヴィッドは、トーマスから「より多くの肌触り、ディテール、音楽的なタイミング、フレージング、そして起こっていることへの反応」を学んだとのこと。キルト・スカートを着用して踊ることによって、開放感も感じたとのことです(!)。
WashingtonPostの「ラ・シルフィード」のリハーサルについての記事(デヴィッド・ホールバーグのリハーサル写真や、過去の名ジェームズ役のスライドショー写真つき。スライドショーでのデヴィッドの美しさは凄い)
The Leading Men Of Ballet Have Long Looked Back Before Leaping Into 'La Sylphide'
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/story/2009/01/30/ST2009013003083.html
「ラ・シルフィード」のジェームズ役の役作りについて、とても興味深い記事となっています。ワシントン・バレエでの客演を終えたデヴィッドは、そのままABTのワシントン公演(ミックスプロ、「白鳥の湖」)に出演する予定です。
New York Timesのレビュー
http://www.nytimes.com/2009/02/13/arts/dance/13sylp.html?_r=1&ref=dance
トーマス・ルンドは今年5月のデンマーク・ロイヤル・バレエの来日公演で、「ナポリ」に主演します。
http://www.nbs.or.jp/stages/0905_danish/index.html
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コメント
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こんばんわ(*^-^)
ニーナの最後のABTの舞台は白鳥なのですね!
来年のロミオとジュリエットが楽しみです♪
ラシルフィードはラコット版しか観たことないんですが、ブルノンヴィル版と見比べてみようかと思います(o^-^o)
マチューのジェームスも素敵ですが、ホールバーグのジェームスの是非観てみたいですね!
投稿: kumi | 2009/02/14 23:33
kumiさん、こんにちは。
私は去年の来日公演で、ニーナの日本での最後のABT「白鳥の湖」を観そびれてしまったのですが、会社を休んでも観るべきだったと後悔しています。以前、ABTでニーナとフリオ・ボッカが共演しての「白鳥の湖」を観たのですが、台詞が聞こえてくるような濃密な「白鳥の湖」で、こんなにこの演目は面白かったのかと思ったほどでした。
「ラ・シルフィード」はブルノンヴィル版はしばらく日本では上演されていないかもしれませんね。去年、小林紀子シアターが上演して、デヴィッド・ホールバーグが客演したヨハン・コボー振付の「ラ・シルフィード」はブルノンヴィル版をベースにしていたようではあります。デヴィッドは今伸び盛りで、26歳とまだ若いので期待できますよね。王子様も悪役もできて、脚がとてもきれいで素敵なダンサーだと思います。
投稿: naomi | 2009/02/15 02:46
naomiさんこんばんわ!
私はニーナの白鳥は生ではグルジア国立バレエでしか観たことないんですが、ポッカとの白鳥は素晴らしかったんですね(o^-^o)
私も時間とお金が許せば(^-^; ニーナのABTの最後の舞台を観に行きたかったです~
ホールバーグは次の来日機会には絶対観に行きます!
早く来日してくれないかな(*^m^)
投稿: kumi | 2009/02/15 22:14
kumiさん、こんばんは。
グルジア国立バレエの「白鳥の湖」って設定がちょっとヘンで、ドラマがない感じでいまいち好きになれないんですよね~。私も観ましたが。もうニーナの全幕白鳥は観られないかと思うと残念です。キトリももう踊らないと言っていたようだし。
デヴィッドはきっとABTだけでなく、ガラやゲストで観る機会がいっぱいあるんじゃないかと思いますよ~。
投稿: naomi | 2009/02/17 02:33