2/15マチネ「人魚姫」Die kleine Meerjungfrau(まだ途中)
「人魚姫」Die kleine Meerjungfrau
2009年2月15日(マチネ) 東京・NHKホール
演出・振付・舞台装置・照明・衣裳:ジョン・ノイマイヤー
音楽:レーラ・アウエルバッハ
指揮:サイモン・ヒューウェット
ヴァイオリン:アントン・バラコフスキー
テルミン:カロリーナ・エイク
演奏:東京シティフィルハーモニック管弦楽団
キャスト
人魚姫:エレーヌ・ブーシェ
詩人:イヴァン・ウルバン
王子:カーステン・ユング
王女:カロリーナ・アギュエロ
海の魔法使い:アミリカー・モレット・ゴンザレス
このように重たい作品を昼・夜と2回も観るのはぐったり疲れます…。家に帰って来てからも、ぼーっとしてしまいました。繰り返し見ることで、内容は頭に入ってくるけれども、それでもまだ見落としたところがあると思います。今回、3回観て、1階5列、7列、3列のそれぞれセンター席というかなり前方で観たのだけど、前過ぎて目にはいらないところがあったのです。次の日曜日に愛知で観る時には、予算の都合もあり(笑)5階席で1回みるので、そうすることで、全体が見えればいいのですが。(かかった金額を考えるだに恐ろしい)
というわけで、今日は大した感想は書けないので、とりあえずは覚書だけにとどめておきます。
オフィシャルブログのエントリでは、マチネでは王子役はハンサムなダリオ・フランコーニが予定されていたようだけど、ふたを開けてみたらカーステンが3連投。ダリオ・フランコーニは結婚式の招待客や船の乗客役で出演していたので、怪我ということではないようだ。カーステンの王子は、確かに王子様的な容姿ではない(何しろ「椿姫」ではアルマンの父役の予定)んだけど、笑うとできる目尻の皺が、いかにも人が良さそうな感じに見えて、個人的にはけっこう好きなのだ。それと、ゴルフクラブが異常によく似合う(笑)。もちろん、他のダンサーでも観たかったけど(愛知2回残っているし)。人魚姫にナイフを向けられて、それと奪い取り、振り回した挙句に狂言自殺をするのだけど、その狂言自殺の仕方が、「ドン・キホーテ」のバジルとほぼ同じで、すごく可笑しくて哀しい。それを見て、人魚姫はおろおろしてしまう。自分が刺そうと思っていた相手なのに。人魚姫が心臓マッサージを再現してみるところ。王子は海の中で本当は彼女に助けられたことを思い出したのかな、と思わせて、目を閉じて、キスをするのかな、と思ったら、なんちゃって~と例の拳で相手の顔を上げるしぐさをするところの茶目っ気。あれも、いかにも王子です~って感じの人が演じるより、カーステンだと、余計「このバカたれが」と思わせてくれるのだ。
手脚が長くプロポーション良し、華もあるエレーヌの人魚姫はどんな感じなのか、ちょっと不安を持ちつつ観てみた。シルヴィアと同じアプローチで演じたら彼女に敵わないのは言うまでもないことなので、まったく違う人魚姫像を作り上げていた。海にいる間の人魚姫は、まるで海の女王様のようで、とても美しくて堂々としている。海の中には人魚姫の姉妹たちがいるのだけど、人魚姫は際立った存在なのがよくわかる。シルヴィアは少女っぽく、そして妖精的というか物の怪的不思議ちゃんなところが持ち味だけど、こっちはもう少し大人の女という感じ。海の中にいるときの、海の重力を感じているようなシルヴィアの恐ろしく柔らかくて生き物っぽい腕使いはなかったけど、長く動きのきれいな腕、さらに長い脚、大きな黒い瞳に黒髪のエレーヌは、美しいファンタジーのヒロインに相応しい感じ。
大きく目を見開きキラキラさせている演技は共通しているのだけど、エレーヌの人魚姫にはちょっと色気がある。人間に変身する時に、まず青くひらひらした袴=ひれを奪われ、次に、うろこの描いてあるユニタードを脱がされる。そのときのエレーヌの脚の長さにどきりとした。最初は初めて見る脚を見て喜ぶけれども、すぐに激痛に顔を歪める。陸の上に上がってもまっすぐに歩くことができない。脚が長くてきれいなだけに、「ペトルーシュカ」のように内股で歩いているのが目立つ。今までは海の女王様だったのに、地上ではただの不恰好な生き物で、恋愛の対象にはされない存在。しかもなぜか車椅子とか持ってこられて、なんか頭のおかしな人みたいな扱いまでされてしまうなんて!そんな屈辱感のようなものが感じられた。ブライズメイドとして結婚式に参列している時には、比較的小柄な花嫁の友人たちの中で、一人大きいので余計に目立って浮いてしまうし。
2幕の冒頭、女学生のグレーの服を着て、狭い小部屋に閉じ込められている人魚姫。天井を叩いたりするとき、背が高いためかすぐに天井につきそうになったり、暴れまわって背中を大きくそらしたり、ありえないような向きに股関節を回して蹴り上げるところも、部屋が狭くてやや動きにくそう。とはいっても、動きも演技も激しく、エレーヌの身体が大きいだけに狭い部屋では、より強い閉塞感、息の詰まりそうな感じが伝わってきた。シルヴィアの異様で、一歩間違えたら宇宙人のようですらある凄まじい人魚姫像があまりにも強烈だったので、そこまでのインパクトはない。だけれども、エレーヌの人魚姫もとても素敵だったし、美しく哀しい物語として見事に成立させていたと思う。それにしても、エレーヌはマチネで人魚姫を踊り、ソワレではまた王女を踊っていたのだけど、その間の2時間くらいでよく気持ちの切り替えができるものだと思う。特に、人魚姫のような全身全霊を注ぎ込まなくてはならないような、精神的にもハードな役なのに。
ところで、人魚姫が尾ひれを奪われるシーンで、袴を外されるところでは、彼女は袴の紐を持った海の魔法使いと魔法の影たちにくるくる転がされる。海の魔法使いがまるで時代劇の悪代官のようだ。エレーヌで観たとき、この袴を外されるところと、うろこのついたユニタードを脱がされるところは、女性に対する性暴力的なイメージが感じられてしまった。シルヴィアの時には、シルヴィアの人魚姫があまりにもかわいそうな感じで、しかもものすごく人間になりたがっているのでそういうふうには思わなかったけれども、エレーヌは女らしいので。脚を得た時の痛みの表現は、シルヴィアの方が痛く苦しそうで、哀れさを感じたのだけど、エレーヌの時には別の残酷性、まるでレイプされているようだ、というのを感じた。このシーンは、男性たちが脚の代償として人魚姫に痛みを与えるということで、ものすごくむごくて、正視することも苦しく思われてしまう場面だ。
休憩時間にオーケストラ・ピットを覗き込んで、テルミンを初めて生で見てみた。思ったより小さい。「人魚姫」の音楽は、最初聴いたときには耳慣れないけれども、テルミンの音は耳に残るし、何回か聴いているうちにやみつきになる。2幕の音楽は、ショスタコーヴィチからの引用があり。というか、全体的にショスタコーヴィチ的な感じがした。編成は70人とのことで、バレエにしては比較的大きいのだけど、デンマークロイヤルバレエでの初演の時には、100人以上の編成だったようで、ハンブルクでの上演に際しかなり音楽を改訂したようだ。テルミン奏者のカロリーナ・エイクが大変美しい方で、しかもテルミン奏者としては世界随一の存在だという。指揮者とヴァイオリン奏者はカーテンコールの時に舞台に上がるのに、テルミン奏者はなんで上がらないのかな、とちょっと不思議に思った。
(続く)
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コメント
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美しいエレーヌでも見てみたかったです。
やはり違うアプローチですよね。
レポありがとうございました〜♪
投稿: ずず | 2009/02/16 10:45
ちょっと質問いいですか?
王子さまが人魚姫を元気づけようとするとき、拳骨ともう一つ綱をよじ登るジェスチャーするじゃないですか?
あれは一幕海底シーンからの名残ですか?
ちょっと忘れてしまったので教えて下さい。
投稿: ずず | 2009/02/16 10:52
しつこくてすみませんm(_ _)m
王子さまが鈍感なのは人魚姫を人間として、ましてや女性とは認識していないからじゃないのかとふと思いました。
エレーヌは美しいのでそういう解釈は成り立たないかもしれないけれど、シルヴィアの人魚姫は「小猿」のようでペットとしてはかわいがるけどどう角度を変えてみても「女性」には見えていないんじゃないのかなと。
投稿: ずず | 2009/02/16 11:07
ずずさん、こんばんは。
うん、エレーヌだとよりファンタジーっぽいというか美しい御伽噺に近い感じだと思います。でも、ほんとチケットが許せないほど高いですよね…「人魚姫」はまだオーケストラがついて、指揮者、ヴァイオリニスト、テルミン奏者を連れてきているからまだ高いのはわかるけど、「椿姫」のテープであのお値段には絶句です…そうおいそれと何回も観られませんよね。(といいつつ観るけど)
ところで、「綱をよじ登るジェスチャー」は私はちょっと気がついていません。どんだけ、ぼけーっと観ていたかが判るでしょ(笑)
でも、そういうしぐさがあったら、それは多分海のところからだと思います。この作品って、けっこういろいろ深読みしたくなったり、発見したりがあるのですよね。大体私なんか、詩人が抱えていた熊ちゃんに気がついていないくらいだもの(汗)
で、
》王子さまが鈍感なのは人魚姫を人間として、ましてや女性とは認識していないからじゃないのかとふと思いました
はその通り、だと思いますよん。言われて見れば、確かにシルヴィアの人魚姫は娘というよりは小猿に似ていたかもしれませんね!王子様は、明らかに人魚姫は可愛いと思って可愛がってはいるけど、たしかに愛玩動物みたいな扱いよね~。シルヴィアがすごく小柄だから、ハンブルクのでかいダンサーに混じると、大人というよりは子供みたいで、子供だから恋愛対象外というのもあったのかもね。
投稿: naomi | 2009/02/17 02:14