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2009/02/19

2/19 ハンブルク・バレエ『椿姫』Die Kameliendame

ジョン・ノイマイヤー/ハンブルク・バレエ『椿姫』Die Kameliendame

音楽:フレデリック・ショパン
演出・振付:ジョン・ノイマイヤー
舞台美術・衣装:ユルゲン・ローゼ

マルグリット・ゴーチェ:シルヴィア・アッツォーニ
アルマン・デュヴァール:チャゴ・ボアディン
老紳士デュヴァール:カーステン・ユング
ガストン:アミリカー・モレット・ゴンザレス
プリュダンス:カトリーヌ・デュモン
オリンピア:マリアナ・ザノット
マノン・レスコー:カロリーナ・アギュエロ
デ・グリュー:オットー・ブベニチェク
ナニーナ:ミヤナ・フラチャリッチ
公爵:ヨロスラフ・イヴァネンコ
N伯爵:ヨハン・ステグリ

(2009年2月19日 神奈川県民ホール)

今日は何とか最初から観ることができた。でも席がちょっと遠かった。行けるかどうか判らなかったので安い席にしちゃったのだ。「椿姫」はもう少し近いところで観たほうが良かったな。とはいっても、昨日のようにすごい前方は、演技を楽しむには良いのだけど、間口の広い神奈川県民ホールだと、舞台の右端で進行するアルマンの演技と、舞台の中央の踊りや、左側のマルグリットを同時に観るのが困難で、痛し痒しなのだ。神奈川県民ホール、今回のようにオーケストラなしでピットにも席がある場合には、前方はフラットでポアントの足先も見えないので、おそらくは12,3列目あたりがベストなのかしら。そう考えると、一見観づらいように思えたガルニエが、実はとても観やすかったことが思い出された。このような心理描写の多い作品だと、横にだだっ広い神奈川県民ホールなんかではなく、ガルニエの華やかでどこか親密な空間が相応しかったと思う。ハンブルク州立劇場も、思えばそれほど大きな劇場ではなかった。

今回全幕では初めてマルグリットを踊るシルヴィア・アッツオーニと、ティアゴ(チャゴ)・ボアディン。ハンブルク・バレエはいつも固定したペアでキャスティングするとのことで、DDDのジョエル・ブーローニュのインタビューでも、ジョエルの『椿姫』でのパートナーはいつもアレクサンドル・リアブコだと話していた。

やはり主役二人が違うと、全然違った作品であるように見える。マルグリットのシルヴィアは、これが初役とは思えないほど役を作りこんでいた。『人魚姫』ではまるで小猿のような、小さな女の子のようだったシルヴィアが、1幕では大変美しく、色香漂う社交界の花形になっていた。つややかな金髪と青い瞳に、紫色のドレスがとても映えて、たくさんの崇拝者に囲まれているのも納得ができる華やかな大物感が漂う。でも、シルヴィアはどちらかといえば童顔なので、可愛く甘えるのもとても上手。手練手管に長け、男の手の内を知り尽くしている。そんな彼女が純粋で初心な青年アルマンに出会い、今までの男性たちとはまったく違った彼と恋に落ちる、というのが今日の物語だ。シルヴィアのマルグリットは、昨日の落ち着きはらって成熟したジョエルとは全然違う。とても感情表現が豊かで柔らかくまろやか。一つ一つの動きや目線が計算尽くされている。そのクルティザンとしての仮面の下に、初心な少女の姿と母性が同時に隠れている。シルヴィアはやっぱり女優だ。そういう意味では、少しだけフェリのマルグリットに似ているような感じがした。そしてシルヴィアは、ジョエルのように手足が長いわけではないから、身体のラインの美しさはさすがに負けてしまうけど、リフトされている時の姿勢がとてもしなやかで女らしく、美しい。

1幕の紫のパ・ド・ドゥで、咳き込みながら長いすに腰掛けているところへ、アルマンが駆け込んでくる。キスを仕様として、彼をからかうようにはぐらかした時の艶やかな微笑みは、さっきまで病に苦しんでいたとは思えない。わざと転んで見せた彼を笑う時の笑顔も大人の余裕で色っぽいんだけど、可愛くて。

2幕の白のパ・ド・ドゥのとき、シルヴィアが、1幕では縦ロールにしていた髪をほどいていた姿がとても美しかった。ゆるくウェーブした金髪が顔にかかっている姿が、彼女を天使のように見せていた。でも、パ・ド・ドゥではちゃんと、ティアゴの顔に髪がかからないように気を使っているのだった。アルマンの父が訪れた時に、髪を後ろでまとめると、急にマルグリットの年齢が上がったように見えた。そして、幸福感溢れるつかの間の時間。その後の、シルヴィアがアルマン父役に見せた演技がとてもよかった(このシーンは、ジョエル・ブーローニュも素晴らしかったけど)。娼婦である自分の身を恥じ、非常に丁寧に品良く応対しているのだけど、やがて感情を抑えられなくなって彼の足元に身を投げ出してすがって行く過程を見ると、彼女の心境が痛いほど伝わってくる。最初は非常に厳めしく、威圧感のあったカーステン・ユング演じる父が、別れ際には彼女をレディとして扱っているのを見ると、胸が痛かった。

華やかさがあるシルヴィアのマルグリットだったけど、それだけに病み衰えていくところの変化はより多く感じられた。3幕ではかなり演技を抑え気味にしていて、札束の入った封筒をアルマンから渡されて開けていくときも、衝撃を受けた演技は決して大げさではなく、静かに心を壊され、深手を負ったように見えたから痛ましかった。その前に寄ってきたオリンピアに対して、このくそビッチあっちに行け、とばかりに彼女の頬を張るところが激しかっただけに、心の衝撃が深いものに感じられた。(また、オリンピア役のマリアナ・ザノットが、ものすごく生意気で嫌な女として演じていたのだ)

病にやつれきって、一幕での可愛らしさは微塵も残されていないマルグリット。それでも最後にひとめアルマンに逢いたいと「マノン・レスコー」を観に向かう。やつれた顔に真っ赤な頬紅を塗りたくった不気味な化粧。真っ赤なドレスを着て、黒レースのヴェールをかぶって。もはや目も虚ろで。そんな彼女に、N伯爵はとても優しい。彼女の横に腰掛け、小さな花束のようなドラジェをプレゼントする。それを膝に乗せるものの、マルグリットには物を握り締める力すら残されていなかったようで、落としてしまう。黒髪の青年を見て一瞬、アルマンかとよろよろと追いかけるけど、違う人だと知り、彼はここにはいないと知り、落胆。部屋に帰ってドレスを脱いで頬紅を落とし、ベッドに横たわる。ここでのシルヴィアの演技がもう、ものすごい。本当にもう何も現実世界のことは見えていないようで、アルマンがそこにいないのを知ってからは、すでに生きる力を完全に失い抜け殻になってしまっていた。瀕死のマノンを抱きかかえたデ・グリューの幻影と踊る、亡霊のようなマルグリット。せめて物語の恋人たちに連れて行って欲しいと手を伸ばすけど、振りほどかれ、死んでしまったマノンを抱きかかえたデ・グリューは行ってしまう。一人残され、手を前に伸ばしたまま、ばたんと倒れて絶命するマルグリット。彼女の視線の先には、アルマンの姿が見えていたに違いない。シルヴィアにもまた、マルグリットが憑依していた。彼女の死をテレパシーで感じて呼応したかのように、アルマンは遺品である日記を読み終えて、閉じる。

実年齢もまだ25歳のティアゴ・ボーディンのアルマンは、すごく初々しい。昨日のサーシャのアルマンも若々しかったけど、ナイフのように尖っていて、自分の激情をどう放出していいのかもわかっていなかったようだった。華奢な身体に甘いマスク、くりくりにカールした黒髪と大きな黒い瞳のティアゴは、とてもイノセント、そしてすごく甘い。本当に世間知らずで、高級娼婦を愛することがどういうことなのか理解しておらず、少年少女の恋愛のように一途なのだ。マルグリットの手管に見事に引っかかって、でも彼がいとも簡単に恋に落ちる様子を見て、マルグリットも自分の立場を忘れて彼を愛する。だからこそ、マルグリットから手紙で別れを告げられた時からの一転しての、白い炎が立ち上るような怒りと悲しみの演技が真に迫っていた。勢いでオリンピアを抱いてしまってからの激しい自己嫌悪、それがマルグリットを地獄の底に突き落とすような、ひどい屈辱を与えてしまう行為につながって行ったのがよくわかった。完璧憑依型のサーシャほどではないのだけど、一つ一つの感情をかみ締めて踊っていたと思う。身体がとても柔らかくしなやかで、つま先もきれい。さらに、サポートがとても上手いのに驚いた。初めての役、シルヴィアとの初めてのコンビネーションだというのにこれだけスムーズに高難度のリフトができるって、凄い。

でも、前の日にあまりにも凄すぎる、アルマンという人間が憑依していたサーシャ(アレクサンドル・リアブコ)を見てしまったから、若いティアゴに分が悪いのは仕方ない。さらに、ベテランの域に達しつつあって演技力に定評のあるシルヴィアがパートナーなので、どうしても彼女の方に目が行ってしまう。時々余裕がなくて、いっぱいいっぱいになっているところが見受けられる。踊りやリフトは上手なのだけど、そのテクニックの方で精一杯になって顔に"必死”って書いてあるように見えることがある。アルマンというキャラクターは、マルグリットとの恋に盲目的に突っ走るキャラクターなので、一途で直情型、時に荒々しいまでにストレートに感情を放出する演技は合っていると思うんだけど、後半で突然マルグリットに別れを告げられてからの心の揺らぎからは、まっすぐなあまり一本調子になっているようだった。踊っていなくて演技をしている時には、悩み苦しみ、傷つき、そして怒りに震えるという感情を多面的に見せているのだけど、さすがにパ・ド・ドゥの時はそうもいかなかったみたい。これから築かれ深化していくだろうシルヴィアとのパートナーシップを通して、ティアゴのアルマンがこれからどう変容していくのか、とても楽しみだ。

白塗りにつけぼくろが色っぽいオットーのデ・グリューがものすごい存在感で、彼が舞台に上がっている時には、彼の姿に釘付けになってしまう。マノンの死に際しての彼の優しさに胸をえぐられる。優しいと言えば、まったく報われない愛を最後まで貫き通すN伯爵。本当に心優しくて、マルグリットがどんなに衰え美貌を失っていっても彼女を喜ばせようと心を砕く。ちょっとだけウザいヨハン・ステグリの演技が切なくて。ヨハンって、「ニジンスキー」では薔薇の精を、「眠れる森の美女」ではカタラビュットと青い鳥を踊ったりして、ほっそりとしていてすごく素敵なダンサーなのに、なんでマルグリットにはひどい扱いをされてしまうN伯爵がこんなに嵌ってしまうんだろう。メガネのふちを持つしぐさも可愛くて。

「椿姫」はまごうことなき傑作であり、主人公以外のキャラクターの描写もきめ細かく、様々な繊細な表現が出てくる。たとえば冒頭、沈痛な表情でマルグリットの部屋に入っていき、遺品の日記にキスをするナニーナの姿に、まず心を掴まれる。主人に対する忠誠心だけでは言い尽くせない、特別な感情の存在を暗示しているようだった。ハンブルク・バレエのダンサーたちは、本当にこの作品をよく理解して、脇に至るまですごい演技を見せてくれる。

でも、「椿姫」、美しいし、すごいし、素晴らしいし、音楽の使い方も見事だし、大好きなんだけど、泣くとか、感動するという性質の作品ではない。「人魚姫」でもそうなのだけど、この作品についても、泣いたら負けだと思う。素晴らしい表現に涙が滲むことがあっても、そして打ちのめされることはあっても、マルグリットやアルマンの物語には涙は出ない。マルグリットの凛とした死には、涙は相応しくない気がしてしまう。アルマンに一途な愛を捧げられた彼女の物語は、決して不幸な話ではないと思うのだ。(そういえば原作では、アルマンはマルグリットの墓を暴くという行動にまで出てしまっていた)

そして、この「椿姫」、じつは恐ろしく残酷な描写もある。残酷と言えば「人魚姫」もそうだ。そのむごさがあり、それと同時に優しさもあるからこそ、これらの作品は凄いのである。感動するというより、震えるというほうが合っている気がする。
私は本筋のマルグリットやアルマンの話よりも、マノンとデ・グリュー、そしてN伯爵の方に感情移入をして、胸がふさがれる思いがして、泣くとしたら彼らのために泣くのではないかと思う。

*****
本筋には関係ないけど、残念だったのはテープの音質が非常に悪かったこと。無音の導入部から、最初の曲が流れた時にめちゃめちゃ萎えた。1幕ではピアニストが出演者として舞台に上がるところがあって、そこは生ピアノだった。演奏自体はミスもかなりあってほめられたものではなかったけど、やっぱり生の音は、たとえ上手ではなくてもいいなと思った。「人魚姫」で指揮者や素晴らしいヴァイオリニスト、テルミン奏者を連れてきたのだから、ピアニストも連れてきて欲しかった。オーケストラつきの「人魚姫」と1000円しか値段が変わらなかったのだから…。


さて、次は福岡での「椿姫」だ。サーシャのアルマンがまた見られると考えると、幸せ。その前に愛知での「人魚姫」も!両方とも日帰りだから結構大変だけど頑張る。

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バレエ公演感想2009」カテゴリの記事

コメント

次は福岡ですか…とっても羨ましいです。楽しんで来て下さい!!

おおやま雅ひこさん、こんばんは。

福岡は日帰りです。一泊しても良かったのですが、一応主婦なので(笑)。本当は一泊した方が安いんですよね。飛行機代って何でこんなに高いんでしょう。でも、もう一度サーシャが観られると思うと本当に幸せです。
おおやまさんも、ハンブルクで楽しまれてくださいね。

はじめまして!
3/4、人生初のバレエ観劇です!
ずっと見たかったので、とても楽しみです。

初心者な質問で申し訳ありません、
今回は椿姫を見に行くのですが、
上演時間はどのくらいなのでしょうか?

よければ、教えていただきたいです。
よろしくお願いします。

Orcaさん、はじめまして。3月4日ですと、広島公演でしょうか?楽しんでくださいね。
「椿姫」の上演時間ですが、当日配られたキャスト表によると、1幕45分、休憩20分、2幕40分、休憩15分、3幕45分で2時間50分くらい。たしかに、6時半開演の日で、終わったのが9時半くらいだったかと思います。それから、場内でアナウンスがあると思いますが、この作品は最初から幕が開いてセットが置いてあり、開演の合図がなしで、無音の状態でいきなり始まります(マルグリットの侍女ナニーヌが下手からいつのまにか入場しています)。したがって、早めに席につかれることをおすすめします。

naomiさん、情報 ありがとうございました!
(返信が遅くなり大変申し訳なく思います・・・)

そうです、広島公演です!
本当に楽しみで、もうずっとワクワクしています!


公演を見て、また感想などをここで聞いていただけたら・・
と思っております!

Orcaさん、こんばんは。
広島公演、いいですね~。広島はノイマイヤーさんも特別の思い入れがある場所なのだそうだから、きっと特別な感動的な公演になるんじゃないかと思います。感想、楽しみにしています!

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