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2009/02/13

2/12 ハンブルク・バレエ『人魚姫』Die kleine Meerjungfrau

ジョン・ノイマイヤー芸術監督就任35周年記念
ジョン・ノイマイヤー/ハンブルク・バレエHamburg Ballett『人魚姫』Die kleine Meerjungfrau (全2幕)
2009年2月12日 NHKホール

演出・振付・舞台装置・照明・衣装:ジョン・ノイマイヤー
音楽:レーラ・アウエルバッハ
指揮:サイモン・ヒューウェット 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
ヴァイオリン:アントン・バラコフスキー
テルミン:カロリーナ・エイク

詩人:イヴァン・ウルバン
人魚姫/詩人の創造物:シルヴィア・アッツオーニ
エドヴァート/王子:カーステン:ユング
ヘンリエッテ/王女:エレーヌ・ブシェ
海の魔法使い:オットー・ブべニチェク


実は数日前から風邪を引いており(大した風邪ではないのだけど)、体調万全ではなかったということもあり、1幕が終わったところではテンションが低かった。相変わらずセンスの良いシンプルでスタイリッシュな美術、そしてシルヴィア・アッツオーニの渾身の熱演。冒頭の船上での、まるで映画の一シーンを切り取ったようなクラシカルな場面で描かれる、詩人の静かで美しく、そして細い針で心臓を深く突き刺されてしまうような痛ましい内なる悲劇。装置のあまりの端正な美しさと魔法のような舞台転換の上手さには息を呑んだ。ノイマイヤーブルーと呼びたい、深く澄んだ青の世界。

だが1幕が75分と非常に長く、そして非常につらい苦しい内容の物語なので、正直なことを言うと、途中まではあまり乗れなかった。周りが熱狂すればするほど、感動しろ、泣け、と周囲の観客に言われるてるみたいで泣けないへそ曲がりな自分の性質もあり、醒めていくような気がしてしまった。その気持ちは、作品のせいではないのだと思う。(だから、本当は舞台は一人で観るのが好き)

人魚姫や海の魔法使いなどの袴風の衣装やメイクが、日本の文化を取り入れており、特に隈取をした海の魔法使いは、入道そのもの。また、人魚姫を浮遊させるようにリフトする黒子たち、彼らが人魚姫が人間に変身するために服を脱がせる早変わりプロセスなども、歌舞伎や文楽にインスピレーションを得ているのだろうけど、実のところ、「外国から見た日本」というのを日本人である自分が観ると、こっ恥ずかしくてちょっと苦手なのである。毎回衣装や美術の素晴らしさに定評のあるハンブルク・バレエのプロダクションなので、当然のことながら十分美しく仕上げられてはいるんだけど。

その上、音楽が完全に現代音楽で、美しい旋律ながら耳慣れないというのもあった。テルミンの使い方が、海鳴りのような印象を与えて幻想的でとても耳に残って良かったのだけど。また1幕の海底のシーンが非常に長く、青くさし込む照明が美しいものの暗く、そして海の底のたゆたう世界での抽象的な振付であり、やや退屈さを感じてしまった。

だが2幕の冒頭、人間になったものの、報われない愛に激しく苦悶するアッツオーニの人魚姫を見て、あ、これは「ニジンスキー」の女性版なんだと思った。精神病院の閉鎖病棟を思わせる閉鎖空間。拘束着を一瞬思わせる、女学生の服。人体としてはありえない方向にみっともなく歪んだり、ぶつかったり捻じ曲がっていく肉体。筆舌に尽くしがたい、狂気にも近い苦悩とはこのことであり、ダンサーであるから、それは顔の表情ではなく身体の動きで表現されている。尾ひれを奪われ、自由に泳ぎ回れた海を奪われ、ひとりぼっちの人魚姫には地上の世界の不自由さ、そして届かぬ想いは、人間の脚を手に入れるために文字通り身を切り裂かれたことよりも苦しいこと。

すると、すっと作品の内容が自分の中に入っていく気がした。そこから、やっと作品の深さに触れられるようになったと思う。

****

人気のある作品「椿姫」ではなく、新作である「人魚姫」を東京で3回、しかもキャパシティの大きいNHKホールで上演するというのは冒険である。他の招聘元だったらリスクが大きすぎて絶対やらないことだ。ノイマイヤーのファンだったら熱狂的に支持するような作品だと思うけど、普通のバレエファンにとっては、容易には受け入れがたい作品なのではないか。

宣伝写真のシルヴィアの人魚姫は、白塗りメイクもあまり違和感がなく愛らしいが、実際に舞台の上で目にすると異様である。シルヴィアは本来とても可憐で、演技力だけでなくテクニックも素晴らしいバレリーナ。だけど、バレエならではの美しさは、ここでは封印されている。人魚である間は当然足はなく尾ひれであるため、足先は一切見えなくてリフトされ浮遊している。その上、人間になった時も1幕では裸足で、背中をすぼめ、クラシックバレエの基本である背筋を伸ばしたアプロンとは対極で、ぎこちなく内股になったみっともない動き方をしている。恋愛をしている人間というのは、実際のところは美しい王子様やお姫様ではなくて、滑稽で情けない姿をしているのが真実だと突きつけられても、なかなかそれを受け入れられるものではない。

シルヴィアが、この役を心から演じている、人魚姫になりきっていることが感じられるだけに、あまりにもつらく報われない恋の痛みに、身を切り刻まれる思いがした。

痛ましい、辛い作品だ。安易に「感動した」なんて言いたくない。

****

いろいろと書いているけど、2幕の展開は1幕とは打って変わっていた。より人間の世界の中での話となり、華やかな群舞もある一方で、シルヴィア、そして彼女の想いに影のように寄り添う詩人=アンデルセンに踊りで多くを語らせるようになっていった。一人対一人、一人対二人の話に収束して行くと、物語としての軸もはっきりと見えてくる。

ノイマイヤー独特の舞踊言語を駆使しての、3人や4人のダンサーが絡み合うパ・ド・トロワやパ・ド・カトルが出てきて、ますます、「これはやっぱりニジンスキーだ」と思った。

他のダンサーたちがみな大きいので、小柄なシルヴィアがますます憐れに見えて、胸を締め付けられた。しかも、人間に変身した時には、美しい衣装を剥ぎ取られ裸に近いような肌色のレオタード一枚で、ますます小さく見えて、その寄る辺なさが際立つ。人魚姫は、人間の脚を手に入れたけど、その脚はひどく痛む。その痛みをポアントと、ぎこちない動きに象徴させたのは上手い設定だ。そしてまったく人魚姫の想いを理解できない王子。彼が純真で善良であるだけに、その鈍感さにますます胸が痛む。(そもそも、「幻想 白鳥の湖のように」の影の男などを踊っている悪役顔のカーステンが王子役ということ自体、非常に皮肉なキャスティングだ)

人魚姫の、そして詩人の叶わない想いは、海の泡となり、星屑となり、二つの想いが寄り添って永遠に語り継がれていく物語として昇華されていく…。星空と海の泡が溶け合ったようなラストが美しく、心に余韻を残す作品となった。シルヴィア・アッツオーニというダンサーの、稀有な演技力、そしてありえないほどの柔軟な肉体と技術による、文字通り渾身のパフォーマンスが奇跡を生んだと言っていい。(でも、涙はこういうときには絶対に出ない、本当に舞台に心を動かされた時には、涙というのは出ないものだと私は思っている)

この作品によって呼び覚まされる感情は、きわめてパーソナルなものであり、人によって受け止め方はそれぞれなのではないかと思う。恋愛に限らず、苦しんだり辛い思いをしたことがある人ほど、その痛みを己に再び甦らせることになってしまい、簡単な言葉では感想を語ることができなくなるのではないだろうか。

****
日曜日には、今回王女役を演じたエレーヌ・ブシェが人魚姫を演じるのだけど、能天気な王女とは本当に対極と言っていい役なので、一体どうなるのか、怖いような楽しみなような。シルヴィアは小柄な分、より人魚姫の押しつぶされそうな心を表現しているのに適しているように思えたけど、綺麗だが決して小さくはないエレーヌはどうなんだろう。

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バレエ公演感想2009」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

昨日はどうも♪

同じものの感想をnaomiさんが書くとこうなるのだ〜〜と改めて感心しました。
いつもありがとう☆


別キャストの人魚姫も楽しみに感想待ってます!

ずずさん、こんばんは。
昨日はお疲れ様でした!そして明日はザハリンですね♪

私も1幕ではちょっとつらくてどうしようかと思ったけど、最後まで観られて良かったです。うまく言葉にまとめるのが難しいのですが、泣いた、感動したといった言葉では片付けたくない、って感じです。そして私はこういう作品を観たからこそ、「ライモンダ」のような華やかなバレエも観たい、って思ってしまいます(笑)

naomiさん、こんばんは。素敵な感想があがっていたので、コメントしています。
あ、カラヴァッジオの時に、色々コメントした、raraといいます。

私は、ノイマイヤーのファンですが、「人魚姫」は特殊な作品だと思います。
一般的な、悲劇のヒロインとは姿の違う「人魚」を見つめること自体、観客の試練だと思います。
「バレエ」のほとんどは、悲劇である時も、一定の「美」が残されている。期待通りの、悲劇ですよね。
「椿姫」も、辛い場面でも、ショパンに、華やかな衣装に、踊りにも、「美」によって、守られていますよね。

昨日は、バレエの視覚的要素と、美の基準について考えされました。
気付くと、こういう作品に辿り着いた、ノイマイヤーに拍手していました。が、
人魚と、自分自身が、向き合わされた気がして、人魚姫を観ること自体、それは試練でした。ほんとうに辛かったです。

これは、ノイマイヤーにとって、褒め言葉になるんだろうと思うのですが。

こんばんは!
naomi さま初日はお疲れさまでした。なおみさまも体調が万全ではなかったのこと、いっしょでした~それに第1幕長かったですもんね~
2幕からおもしろくなったという部分もまったく同感です。シルヴィアすごかった~ あしたはどうなるんでしょう? あした(マチネ)のキャストははっきり言ってコワいです(笑)。

raraさん、こんばんは。「カラヴァッジオ」についてはその節には色々とありがとうございました!

この作品は、観終わった時にはなんと表現していいのか判らなくて、色々と帰り道や家に帰ってからも考えて、上手くまとまらなかったけどそのときに感じたことを書いてみました。あと何回か観ると、また感想も変わってくるかも知れません。

》一般的な、悲劇のヒロインとは姿の違う「人魚」を見つめること自体、観客の試練だと思います。
》人魚と、自分自身が、向き合わされた気がして

本当にその通りだと私も思います。そして、辛い作品であるというのも本当に同感です。自分の中の感情、今までの人生の中での辛い記憶を引きずり出されるところもあれば、他人を無意識に見る自分の目に付いても問いただされている気がします。ある意味非常に残酷な作品です。そこまでの作品を作ってしまったノイマイヤーはやっぱり桁外れに凄い人だと思います。そして、raraさんのような感想を持った人がいると知れば、ノイマイヤーはとても嬉しいのではないかしら。

Shevaさん、こんばんは。

Shevaさんのサイトでの感想を拝読した時に、私が感じたことにかなり近い上、風邪薬でちょっと朦朧としていたということまで一緒だったので、すごい偶然と思いましたよ。シルヴィアが素晴らしいダンサーであることはもちろんわかっていたのですが、あんなにも凄いとは思いませんでした。彼女の引き出しの多さに驚いてしまいます。サーシャとシルヴィアって本当に天才夫婦なんですね。明日(もう今日ですが)のマチネ、コワいですね、ホントに。

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