2/11 東京バレエ団<ベジャール・ガラ>
モーリス・ベジャール追悼公演V / 東京バレエ団創立45周年記念公演II
東京バレエ団<ベジャール・ガラ>
「ギリシャの踊り」「中国の不思議な役人」「ボレロ」
振付:モーリス・ベジャール 振付指導:ジル・ロマン、小林十市
◆主な配役◆
「ギリシャの踊り」 音楽:ミキス・テオドラキス
I.イントロダクション
II.パ・ド・ドゥ(二人の若者):高橋竜太-小笠原亮
III.娘たちの踊り
IV.若者の踊り
V.パ・ド・ドゥ:吉岡美佳-松下裕次
VI.ハサピコ:井脇幸江-木村和夫
VII.テーマとヴァリエーション
ソロ:長瀬直義
パ・ド・セット:西村真由美、高木綾、奈良春夏、福田ゆかり、岸本夏未、阪井麻美、川島麻実子
VIII.フィナーレ: 全員
「中国の不思議な役人」 音楽:ベラ・バルトーク
無頼漢の首領:平野玲
第二の無頼漢―娘:首藤康之
ジークフリート: 柄本武尊
若い男:西村真由美
中国の役人:中島周
「ボレロ」 音楽:モーリス・ラヴェル
後藤晴雄
平野玲、松下裕次、長瀬直義、横内国弘
*******
東京バレエ団の公演を観るのは、去年9月の「ジゼル」以来。久しぶりなので、知らないダンサーばっかりだったらどうしよう、と思ったけど半年振りくらいだと、それほど入れ替わっていない感じ。
「ギリシャの踊り」
この作品を観るのはずいぶん久しぶりという気がする。このブログをお読みの方ならお気づきの通り、私はベジャール作品はできるだけ観ないように避けて来た、というのがあって(笑)。でも、この作品は小難しさとか哲学的な部分とか、ユニタードとか(苦笑)私の苦手なベジャール的な要素がないので観やすく楽しめる。青空と燦々と降り注ぐ太陽と、海や空の青さに映える白い建物を思い起こさせる。でも太陽の部分はちょっと少なかったかな。
ソロを踊るのは、昨年「春の祭典」の生贄に抜擢されたりと活躍が増えてきた長瀬直義さん。華奢で、若者らしい甘い雰囲気があって、なおかつとても清潔感がある。初々しさを感じさせると共に、清清しくクリアな踊りで、爽やかな作品にすごく合っていると思ったけど、あまりの眩しい若さが痛々しくすら思えてくる。二人の若者の高橋竜太さん、小笠原さんはともに小柄だけど、身体能力に優れていていい組み合わせ。この二人を見ると、なぜかホッとする。群舞の中に入っても、木村さんはそのプロポーションとラインの美しさでひときわ目立つ。井脇さんとのハサピコは短いのだけど、身体のラインの美しい二人なのでうっとりと見ていられた。やっぱり木村さんは素敵~。井脇さんはベジャール・ガラの後しばらく休みを取られるということで、見られなさそうなのが残念。
白いロングパンツ姿の男性ダンサーたちが並ぶと、そこはまるで押し寄せる波のよう。かなり前の方の席だったので、細部は見られる一方、全体が把握しづらい。全体的に男性は小柄で細い人が多いけど、それでもこれだけの人数を揃えられているのはやっぱり素晴らしいこと。
「中国の不思議な役人」
難解だ、何を表現しようとしているのか伝わりづらいと言われている作品なのだけど、私はベジャールの中でこれが一番好き。この作品が観たいために、今日のチケットを取った。フリッツ・ラングの映画に出てきそうな、混沌としていて退廃的で不条理な雰囲気が大好きなのだ。首領は後藤晴雄さんの当たり役なのだけど、後藤さんは今日は「ボレロ」なので平野さん。平野さんは、いつもはとても端正で王子様なのだけど、今日は頑張ってあくどい首領をシャープに演じていた。後藤さんなどは、いるだけで悪の香りが漂ってくるのに対して、平野さんは迫力はちょっと足りないところがあるのだけど、ダブルのスーツ姿、帽子を目深にかぶって佇む姿は凄みがあって美しく絵になる。役人がロープで首を絞め上げられているときの、嬉々としてアコーディオンを弾いている姿も、ちょっといっちゃっていて素敵だった。
娘役は、首藤康之さん。首藤さんの娘は、男性が女装して化粧してセクシーな衣装を身に着けている(それも、首領に強制されて)という倒錯した感じはなくて、普通に綺麗な女の人という感じだった。倒錯感が強くて素敵だと思ったのは、以前観た小笠原さんの娘。異形という感じが強いのに、なぜかとても被虐美があった娘だった。首藤さんは、ウェーブした髪が顔にかかり、見開いた大きな瞳が美しい。登場して最初のうちは、白塗りの顔が無表情で、動きもいかにも首領に操られている感じで、操り人形のよう。黒いランジェリーのような衣装から伸びた白い脚に、筋肉がほどよく浮かび上がっていて、とても美しい脚なのだけど、そのキレイさが逆に不気味なほど。ジークフリート、若い男と餌食にしていくのも、とても機械的で、首領の命じるまま行っていますという感じだ。そしてしぐさの一つ一つが、ホント、男ではなくて女なんだよな。首藤さんって、没入型の人なんだなと改めて思う。自分の作り上げたキャラクターに完全に没入していて、妖艶な女になりきっている。それでいて、首藤さんらしさというか、彼独特の繊細でエキセントリックなキャラクターもブレンドされている。
そして中島周さんの役人。「中国の不思議な役人」の役人役は、首藤さんでも観たことがあるけど、木村さんの印象がすごく強い。木村さんの役人は得体の知れない不気味さがあって、殺しても殺しても死なないゾンビのようで、強烈な印象だった。中島さんには、その不気味さは全然ないのだ。踊りはきれいだし、長めの髪がどんどん乱れていくのが耽美的で素敵なのだけど。ただ普通の美しい青年が娘に異常な執着を持ってしまい、殺されても殺されても死なないというコンセプトで見ると、ちょっと面白くなる。
西村さんの若い男はとても可愛らしくて、可笑しさの中の哀しさがあり、見ていて和む。柄本武尊さんのジークフリートは、雷様パンツも金髪の頭も似合っていたと思う。身長があるし。ランジェリー美女軍団は、華奢で胸のないバレリーナたちが演じると逆にエロい。
首領の手下の無頼漢たちにぼこぼこにされても、娘に刺されても、首をロープで絞められても死ななかった、いや死ぬんだけど執着心から甦ってしまう役人は、娘が投げた金髪のカツラに身体を触れさせれると、ニジンスキー版「牧神の午後」の牧神のように、大きく身を反らせて息絶える。ロープで絞められている時に背中を反らせるのはもっと大きくやっていいと思うのだけど、この果てるシーンはすごく大胆な表現でよかった。
娘の方も、なかなか役人が死なないのだから、どんどんやることが大胆になっていって、首領のコントロールを外れて自分の意思で動いて、役人に死の接吻を浴びせ、誘惑していくようになっていくところが肝。その辺りは流石に演劇活動を経た首藤さんは抜群に上手い。役人に対してシンパシーが生まれていって、この残酷で混沌に溢れた世界から彼を出してあげること=死をもって救済しようとする思いが見られた。
この作品は、東京バレエ団のレパートリーとして大事にして欲しいなと思う。こういうデカタントな世界を描ける日本のバレエ団は他にないと思うから。ほかには、バレエではないけど、Hアール・カオスだけだ。
「ボレロ」
晴雄さんのボレロ、最初の手だけがライトアップされて動いていくところの動きがややぎこちなかった。それから前半は、足音が時折すごく大きくなったり、音とずれているような気がしたり。バットマンするときに腰が引けていたり、バットマンしたほうの膝が曲がっているように見えたり、細かいところが気になってしまう。後藤さん、最初のうちはずいぶんナーバスになっていたのではないか。ただ途中からはどんどん乗ってきて、そういうところが気にならなくなっていった。リズムの参加者が増えていくに連れてテンションが上がっていき、大量の汗の飛沫を飛び散らせながら踊ると、リズムとの一体感、連帯感、仲間意識が見えてくる。最後には後藤さんが大きな雄たけびを上げているのが聞こえてきた。リズムの中では、高橋竜太さんがとても印象的だった。先ほどまで首領を演じていた平野さんはきれいだな~とか、やはり長瀬さんは華奢だな、横内さんも良いなと思いながら見ていると、同時に、このリズムのメンバーもずいぶん替わってしまったという感慨も出てくる。同じバレエ団のメンバーで、しかも男性がメロディを踊ると、仲間を率いるリーダーという風に見えてくる。メロディを誰が踊るかによって、作品の性質がまるで変わってしまうのが、「ボレロ」という作品の面白いところなんだな、というのが今回一番残った印象。
今日の3演目を観る限りでは、ベジャールの作品の中でも、観ていて楽しめる作品はけっこうあると思った。苦手意識で避けてばかりいるのも良くないなとちょっと反省。もちろん、今日の作品はみな観たことがあるんだけど、この組み合わせでは観たことがなかったので、改めて今日そのように感じた次第。
会場には、ジョン・ノイマイヤーが見に来ていた。そして、ロビーでは東京バレエ団やNBS主催の公演と一緒に、ハンブルク・バレエの公演のチケットも販売されていた。NBSがこんな感じでチケットを取り扱うんだったら、次回の来日公演はNBSが招聘して欲しいと心から思う。NBSだったら、あんなひどい日程や、「椿姫」のオーケストラもピアノもなしでテープ演奏、東京では「椿姫」は上演しないで関東では横浜だけ、なんてことにはならなかったと思う。しかも「ノイマイヤー・フェスティバル」と称して、デンマーク・ロイヤルやパリ・オペラ座学校、東京バレエ団の公演と、ハンブルク・バレエの公演をまとめた立派なチラシまで作っているんだから。
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コメント
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naomiさんのベジャール観を知り、こういう方もおられるんだと面白かったです。ギエム以外の公演日を選んだことも…(?_?)。ありがとうございました!
投稿: おおやま | 2009/02/12 20:11
こんばんは~
同じ公演を、私も前の方で観ていました。
個人的にベジャール作品は好きなのですが、「中国の不思議な役人」は中でも特に気に入っています。でもものを考えながら深く突っ込んで観ることができないので、ただあの独特の雰囲気に浸って幸せ♪と言う感じです^^;
首藤さんの娘、美しかったですね。ただ以前観た古川さんが強烈過ぎて、“綺麗”止まりなところがあって…。
晴雄さんの首領は観た事がないので、その匂い立つ悪徳を感じてみたいです(笑)
投稿: Elie | 2009/02/13 20:59
おおやまさん、こんばんは。
日本人はベジャール好きな方が多いですから、このように好きではないと言うのも勇気が要ります(肩身が狭いです)。私は、ユニタード系の衣装が好きではない、音楽のセンスが好きではない、台詞や歌のある作品が好きではない、今現在形の作品という感じではないという理由から、苦手なんですよね。といっても、全部が全部だめというわけではなくて、好きなのもあって、その代表が「中国の不思議な役人」です。
投稿: naomi | 2009/02/13 22:45
Elieさん、こんにちは。
Elieさんもいらしていたんですね~感想を読むのを楽しみにします!「中国の不思議な役人」ってすごく不条理な世界なので、おっしゃるとおりあまり色々考えずに、妖しい世界にどっぷり浸かるのが一番!だと思います。
古川さんや大嶋さんの娘も観ているけど、それぞれ魅力的でしたよね。たしかに、綺麗さでは首藤さんが一番だったけど、他の人のほうが倒錯的だったと思います。晴雄さんの首領、悪くて素敵ですよ~。異常に彼にハマっている役なんです。きっと観る機会、これからもあると思います。
投稿: naomi | 2009/02/13 23:15