1/8 レニングラード国立バレエ『ジゼル』
レニングラード国立バレエ―ムソルグスキー記念/ミハイロフスキー劇場―
「ジゼル」
―全2幕―
2009年1月8日(木)18:30開演 Bunkamuraオーチャードホール
<キャスト>
ジゼル オクサーナ・シェスタコワ
アルベルト イーゴリ・コルプ
ミルタ イリーナ・コシェレワ
森番ハンス アレクサンドル・オマール
ぺザント・パ・ド・ドゥ タチアナ・ミリツェワ、アントン・プローム
ベルタ(ジゼルの母) アンナ・ノヴォショーロワ
バチルド(アルベルトの婚約者)オリガ・セミョーノワ
公爵 アンドレイ・ブレグバーゼ
アルベルトの従者 ロマン・ぺトゥホフ
ドゥ・ウィリ マリア・グルホワ、ユリア・カミロワ
指揮:カレン・ドゥルガリヤン
管弦楽:レニングラード国立歌劇場管弦楽団
新年最初のバレエだったのですが、どうも体調が悪くて1幕の最初の方はつらかったです。毎日寒いのと疲れがたまっているようで。
振付が改訂されていたようで、違和感を感じるところが特に2幕で色々とありました。曲の順番が変わっていたり、ウィリたちやミルタのソロなどであれ?と思うところが。もう少しオーソドックスな方が好みです。
コールプは昨日の草刈さんとの『ジゼル』に続いてだったのだけど、彼も調子は絶好調とは言いがたいようでした。というか、コールプだったらここはもっと綺麗に踊れるんじゃないかしら、と思うところが多々ありました。前の日に草刈さんのお相手をして疲れてしまったのでしょうか?ピルエットも跳躍も、今ひとつというか、彼に対しての期待値は高いので、本来の彼だったらこんなもんじゃないのでは、と思いました。
その分、コールプの演技については非常に濃くて、ドラマを堪能することができました。やっぱり顔はいつもの目の周り真っ黒で怪しいわけなのですが、プレイボーイ的なところは少しもなくて、純愛路線でした。もうジゼルに夢中で大切に大切にしている感じが出ていました。1幕でも優しく抱きしめていたり、ホラ、嫌いじゃなくて好きだよ!と花占いをして見せたり。ハンスが、「お前は本当は貴族だろう」とその証拠である剣とマントを持ってきたときには、剣を奪い取ってハンスを本当に殺しかねないほど激しく振り回します。
ジゼルがバチルドのことを知って狂乱するところでは、途方に暮れたとともに、顔を両手で覆い、自分の愚かさを激しく悔やみます。死の直前に跳んだジゼルを抱きとめ、彼女が亡くなったことを知ったときの激情が凄かった。舞台の上を駆け回り、ハンスに飛び掛る勢いで追いかけ、責める。ジゼルの亡骸に取りすがり、従者に邪魔されても、ベルタにもあっちに行って、と押しのけられても抱きしめようとして、最後にはいたたまれなくなって猛スピードで走り去りました。そう、この過剰なまでの激しい愛の表現が、コールプらしさなのです。
2幕の百合の花を抱えて登場するコールプは、しっかり貴族らしいエレガントさを持っていました。彼はお顔はアレですけど、プロポーションは素晴らしいし、しなやかな身のこなし、美しいつま先の持ち主なので、普通にしていれば端正なのですよね。ジゼルの墓の前でしばし立ち尽くし、マントを外して温めてあげるかのように墓のところに置き、そして百合の花を抱えたまま佇んで一本一本置いていき、後ずさるとそこにはジゼルの気配が…。この一連の流れが、ドラマを見ているようでとても感動的でした。ジゼルとのパ・ド・ドゥは、時々パートナーシップに関してひやりとするところがなかったわけではないのですが、それを上回る、ジゼルとの強い絆を感じさせるものがありました。死を経てようやく二人の魂が結ばれたかのように見えたのです。
2幕のアルベルトのヴァリエーションがちょっと変わっていて、足をルティレの位置でピルエットした後にアンドゥオール回転するという難しそうなもので、こんな難しそうな振付をすることで美しさを損なわなくてもいいのでは、と思ってしまいました。でもその後から少し調子を取り戻してきて、持ち前の高く後ろ脚が上がるアントルラッセを見せてくれました。そして、ミルタに踊らされるところでは、ブリゼがすごく美しかったです。前回のバレエフェスティバルでの特別プロでの、ルグリがコジョカルと踊ったときのヴァリエーションを思い出しました。足先がとにかくきれいなのです。
力尽きかけて倒れたアルベルトは、死んだように横たわっています。そこへ朝を告げる鐘の音が。少しずつジゼルの表情が驚きから安堵へと変わっていっても、コールプはなかなか意識を取り返しません。ようやく立ち上がり、最後にジゼルをいとおしむように抱きしめるけれども、ジゼルは、いつの間にかお墓の向こうへと去っていってしまいます。ジゼルが消えていったことにしばらく、コールプは気がつきません。気がついた時には、もうジゼルはいません。彼女との別れの瞬間を感じることも彼はできなかったのです。お墓のところに駆けて行ったコールプは、激しく嘆き悲しみ、それがジゼルであるかのように百合の花々を抱きかかえ、そして撒き散らしながら大きく背中をそらし、これ以上の悲しみはないというほどの激しすぎる慟哭を見せ、床を叩きながら倒れこみます。幕。カーテンコールでは、ウィリたちの足元にまだ、コールプが撒き散らした百合の花が散っていました。
こんなアルブレヒトは初めて観た気がします。素晴らしかった、これぞコールプ・ワールドでした。踊りの方がもう少し調子がよければもっと良かったのですが、濃厚でじわじわと感動的なドラマでした。
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コールプ中心の記述になってしまいましたが、シェスタコワのジゼルも素晴らしかったです。一昨年、ルジマトフがアルベルトを踊った「ジゼル」を観たのですが、そのときと演技が少し変わっていました。1幕では、控えめでおっとりとした、品がよくて落ち着いた少女というところは共通しています。が、前回は、狂乱のシーンでも、静かに壊れていくように狂って行ったジゼルでした。今年も、シェスタコワは激しく狂乱することはありませんでしたし、少しずつ静かに壊れていくのですが、壊れ方が、まるで少女に還っていくかのようで怖かったです。あからさまな狂気の表現より、こういう表現が怖いのです。彼女には死後の世界がすでに見えていて、そちらのほうへと魅入られているようでした。それまでの幸せで愛にあふれた世界から、地獄へと突き落とされていった、その落差によって音もなく壊れ、死に魅入られたのが伝わって胸が苦しくなりました。
そしてコールプとの並びが、身長といい、雰囲気といい、すごくよく合っているのです。コールプの(ちょっとだけ怪しげな)アルベルトに惹かれているという理由が、見ているとなんとなくわかってくるのです。特に2幕のほうではシェスタコワは本領を発揮していました。まるで引き裂かれて失われていた自分の半身を見つけたかのようにすら思えてきたのです。生気はまだほんのり残っていて、アルベルトへの想いによって、彼にもその姿が見えるようになっているというのが理解できるのです。一見淡々としているようで、深い愛が根底に流れるのが感じられます。だけど、彼が助かったことが判ると、ジゼルは長いこと地上にとどまることはしなくて、ふっといつのまにか空気のように消えてしまう。そうしたことで、二人の別れの切なさを感じることができました。魂が触れ合って結びついて、しかし本当の死によってそれがまた引き離されていくという人の生と死の本質を感じさせてくれたのです。演技をしています、というのではなくて、踊りを通じてごく自然に感情を引き起こさせてくれるというのが、シェスタコワの美点です。
カーテンコールでも、二人はいつまでも地上に還ってこないで、2幕のままの状態に入り込んでいました。
いつもは可愛らしいコシェレワが、虚空を見つめているような恐ろしいミルタを見事に演じていたのが素晴らしいと思いました。腕がとても長くてプロポーションが良いので、ミルタ役が似合います。ハンス役のオマールって、今まであまり意識して見たことがなかったけど、ストーカーチックなしつこさの中に純情さを感じさせたし、踊りもキレがあって良かったと思います。ペザントのプロームも着地の五番やアントルシャの足先がきれいで、ずいぶんよくなったと思います。反面、ミリツェワはちょっと不調?
コール・ドは最近レベルが低くなってしまったと聞いていたので不安を感じていましたが、予想していたほど悪くはなかったです。オーケストラも、ちょっと落ちたかな。でも、メーンのキャストがとても良かったので、とても良い公演になったと思います。コールプのアルベルト、シェスタコワのジゼルは機会があればまた観たいです。
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コメント
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naomiさん、
今までのレニングラードバレエのイメージとはちょっと変わった雰囲気になってましたね。
私も前の方がマールイらしくって好きかもしれない。
女優バレリーナと呼ばれる人は結構いますけどシェスタコワはほんとにすばらしい。
踊りだけだったらもっと踊れる人っているのかもしれないどあの表現力は群を抜いていますよね。
しかも大げさな表現は一切しないでさりげなく深くやるとこが大好きです。
naomiさんの解釈はいつもマトを得ていて不明だった点とかが納得できます。
コルプさま、お化粧あれがよっぽどお気に入りなんでしょうか(笑)
確かにあれ見ただけでコルプワールド直入ですけど!
ラストよかったですね。あれぞコルプさまならではと私も思います。
投稿: ずず | 2009/01/09 12:37
naomiさんこんばんわ(*^-^)
コルプさんは残念ながら生で観たことありませんが、映像で観ても
独特の雰囲気のあるダンサーですね!
シェスタコワさんは白鳥とドンキで観たことありますが、踊りも演技も素晴らしいです♪
ボリショイやマリインスキーからオファーがあったのも納得!
可憐な感じがまた好きです(o^-^o)
投稿: kumi | 2009/01/09 21:13
ずずさん、こんばんは。
そうそう、新しい演出はちょっと?なところがありました。特にジゼルがウィリデビューした後の流れとかが。耳慣れない曲も入っていたし。コール・ドも前よりちょっと落ちた感じだし、アニハーノフさんの指揮は懐かしいですよね。
でも、シェスタコワは本当に素晴らしいですね。派手さが微塵もないから目立たないけど、それゆえ良い仕事をしているというか、ジゼルという役を本当によく考えて踊っていると思います。大げさなところがなくてさりげなく深くって、その通りだと思います!
コルプの目の周り真っ黒メイクは彼のこだわりなんでしょうかね~。メイクしない素顔の方が素敵って思っちゃいますけど。目がすごく青くてきれいだし。
でもこの二人の組み合わせは本当に良いですね。明日(もう今日だけど)の白鳥も楽しみ!
投稿: naomi | 2009/01/11 01:49
kumiさん、こんにちは。
コルプはぜひ一度生で観る機会があると良いですね~。すごいインパクトがありますから。DVD映像は、「バラの精」(キーロフ・バレエ・イン・パリ)くらいしかないけど、新国立劇場での「パキータ」が放映されましたね。まだ毒気が薄い頃かもしれないけど(笑)
そうそう、シェスタコワのような、派手さはないけど深い演技ができるバレリーナは少ないので、すごく貴重な存在です。ボリショイにもマリインスキーにもいないタイプかな?ちょっとオブラスツォーワが近いかもしれないですが。
投稿: naomi | 2009/01/11 01:53