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2008/11/11

芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング

芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング (単行本)
ジョアン シェフ バーンスタイン (著), 山本章子 (翻訳)

芸術・文化事業を成功に導くマーケティングを明快に語る クラシック音楽、演劇、オペラといった芸術ビジネスの市場は縮小する一方だと言う人がいる。余暇の過ごし方の多様化や競争の激化、若者の芸術離れを嘆く人もいる。だが、本当にそうだろうか? 今日、多くの芸術団体が苦境にさらされている元凶は、作品の問題ではなく、マーケティングの不足ではないだろうか。世界には、効果的なマーケティング戦略によって観客数の劇的増加を実現した団体がいくつもあるのだ。 本書は、基本的・現代的なマーケティング戦略を活用し、芸術ビジネスを成功に導く効果的な方法を提示する。

最近、バレエやクラシック音楽の公演のチケットが売れていないという話を耳にします。もっと深刻なのが米国であって、いうまでもなく、サブプライム危機に端を発した米国の金融危機により、オペラやバレエへの大口寄付を行っていた金融系のスポンサーや、大金持ちの皆様が、そんなところに寄付を行うような余裕がなくなったということもあるでしょう。

これとそれが関係するのかはわかりませんが、2009年シーズンからニューヨーク・シティ・オペラのジェネラル・マネージャーとアーティスティック・ディレクターに就任する予定だった、現パリ・オペラ座総裁のジェラール・モルティエ氏が突如辞退を発表するということもありました。モルティエ曰く、「契約に合っただけの予算がない。現在の予算では固定費だけでなくなってしまう。フランスの地方カンパニー程度の予算でまともなことはやれっこない」ということで、詳しくは以下のニューヨークタイムズの記事を読んでいただければと思います。当初の予算は6,000万ドルだったはずなのに、3,600万ドルに減らされてしまったということのようです。

http://www.nytimes.com/2008/11/08/arts/music/08oper.html?_r=2&ref=music&oref=slogin&oref=slogin

もちろん、予算上の問題だけではないということは聞こえてくるわけですが、せっかく「ブロークバック・マウンテン」のオペラ版など大胆な構想があっただけに残念です。

***************
おっと、大幅に話がずれました。

この本の趣旨は、どうやったらより多くの観客が劇場に足を運んでくれるのか、お金を落としてくれるかということについて考察するというものです。実際に劇場や芸術団体がマーケティング上の工夫を行うことによって、いかに成功したかという実例(欧米、特に米国が大部分を占めています)がたくさんあげられていて、それらの実例を読んでいるだけでも面白いのです。サンフランシスコ・バレエやジョフリー・バレエなど、バレエ団の実例もあります。

劇場のマーケティング戦略について、色々な角度から考察をしています。まずは現状の分析と可能性。観客の特性。芸術を鑑賞することで、観客にはどのようなメリットがもたらされるのか。プロモーションの方法。チケットの値段のつけ方。そしてインターネットの活用方法。ブランドの確立。観客ロイヤリティの築き方。そして観客に芸術鑑賞の経験をいかに豊かにするのかという顧客サービスの観点。
これらについて、もちろん多くの劇場や団体は考察しているでしょう。しかしながら、実践に移されているところは少ないのではないかと思いました。

すでにあるマーケティングのモデルを頭の中で整理できるし、それを芸術分野にあてはめると実際どうなるのか、という事例の話をうまく結び付けているので、わかりやすいと思います。

面白いな、と思った点を以下に挙げていきます。特に、その公演に関心のない人でも友達に誘われれば足を運ぶことがある、値段を下げたからチケットが売れるとは限らない、チケットが交換できることや、途中で退会できることでかえって定期会員が増えた、といった実例はとても興味深いです。

芸術鑑賞のトレンドについて
・定期会員からシングルチケットへ。特に若い人は、何ヶ月も先のチケットを買うことには躊躇してしまっており、定期会員はどこの劇場でも減っている。
・チケット価格の問題 調査によれば、価格の優先順位というのは実際には低い。関心を持たない公演いついては、半額になっても関心を持たない。最高の経験を味わえるのなら大半の人は喜んでチケット代を払う。
・ITの発達により時間がお金になるようになった。しかしほとんどの芸術は、ある決まった時間に特定の場所で上演されるし、何ヶ月も前からチケットを買わなければならない。 

新しい観客層を開拓するための試み
・出会いを求めている独身者向けの公演。ペア優待がよくあるが、かえって独身者を遠ざけてしまっている。芸術鑑賞には社交の要素が高い。
・高学歴で所得の高い人が多いゲイ&レズビアン、高齢者などをターゲットにする。外出するのが億劫と考えているお年寄り向けに、送迎用のタクシーの割引を用意するイギリス文化振興会の「お出かけプログラム」など。また、幼児と祖父母というのに目を向け、幼児向けのプログラムを開催しているのがニューヨークフィル。

芸術鑑賞のメリット
文化活動に熱心でない人の場合には、誰に招待されたかによって参加するかどうかを決めていることが多い。音楽や舞台そのものより、個人的な関係維持、強化のために利用する人が多い。チケットをWebで購入する時に、招待したい友達のメールアドレスを入力するORBITというシステムが成功している。ボストン交響楽団などが利用している。

会場や作品、コミュニケーションについて
面白い企画としては、ピッツバーグ交響楽団の「大騒ぎ交響楽」というのがある。音楽にユーモアと刺激的な外見をプラスした短いコンサート。社交生活を活発にする機会を与えながら作品を紹介する。
マンチェスター交響楽団の「スーパーマーケット交響楽」では、スーパーの買い物客が「スーパーマーケット交響曲」という曲の演奏で歓待された。鍋のふたや木のスプーン、ショッピングカートやスーパーの商品と楽器の両方を使っての演奏を行った。スーパーだけでなく、病院やパブ、オフィスなどにも突然交響楽団が現れた、

観客を説得するとは
宣伝に使われる形容詞が正確でないために、作品を不満に思う観客が出てきてしまう。コンサートに行こうと思わせるような宣伝は少ない。そのコンサートが他とどう違うか、その音楽を聴けばどんな風に感じるかといったことには触れられていないで、単に素晴らしいと言うばかり。
宣伝文句の好例として、映画「シャーロットのおくりもの」に出てくる、クモのシャーロットが、売られてしまう運命のブタ、ウィルバーに書いたコピーがある。「たいしたブタだ!」の一言。この言葉が大評判となって、ウィルバーは助かる。

顧客ロイヤリティを築く
定期会員制が多くの団体で揺らいでいる。誰もが購入をぎりぎりまで待つようになったし、定期会員の比率は年々低下している。若い人が芸術に関心を持たなくなったためだといわれるが、そんなことはなく、ライフスタイルに合ったものなら熱心に鑑賞する。
定期会員に向けてのメリットを提供することがひとつ。チケット交換にも融通が利くようにしている団体は増えている。同じ公演の別の日に交換するだけでなく、別の作品にも交換できるようにしている。また、一旦定期会員になっても、不満があれば気軽に退会して残りのお金を返してもらうことができるようにしているところも。そのような制度を導入しても実際にキャンセルする人は少なく、定期会員は増えたという実例がある。観客自身の記念日と結び付けることなども効果的。

さらに、シングルチケットの購入者に対しても、都合が悪くなった場合にはチケットを取り替えられるというシステムを取り入れている劇場もある。サンフランシスコの調査では、公演の鑑賞頻度が下がった理由として、回答者の40%が、予定を立てるのが難しいからだと回答している。予定にあわせてチケットを取り替えれれば、もっと買いやすくなる。

芸術鑑賞の経験をより豊かに
劇場のミスによりダブルブッキングが起きてしまい、せっかくの記念日を台無しにされた家族がいた。しかも、長年の定期会員である。不愉快な経験に怒った観客は定期会員の継続をやめるという手紙を送り、地元の新聞にも投稿をした。それに対して劇場は誠意ある対応を行い、別の日のチケットを用意してスタッフが一家を入り口で出迎えた。落胆を喜びに変えることによって、その定期会員は多額の寄付をしたという実例がある。
顧客が、チケット売り場のスタッフや案内係をはじめとする人間と接触し、さらにウェブサイトやeメール、ダイレクトメールといったコミュニケーションと接触するたびに、その人の満足度は影響を受ける。
芝居、交響曲、ダンスあるいはオペラの公演についての顧客の経験は、幕が上がった時に始まるのではなく、最後の拍手と共に終わるのでもない。潜在的な顧客が組織の提供する公演を初めて意識した時に始まるものである。

*********

その劇場なり、芸術団体(楽団、バレエカンパニー等)の公演を観客が知り、芸術を身近なものだと感じてもらい、そしてその公演に彼らが定期的に足を運ぶようになり、彼らから長い間愛されるためには何をすべきか、ということを考え、実践することがマーケティングなのだと思う。チケットを買いやすくすることは、その中でも大きな要素のひとつ。

芸術に足を運ぶのは、芸術を楽しみ(時には学び)、そしていい気持ちになりたいから。だから、どにようにすることが観客にとって快適なことであり、末永くつきあってもらえるかを、芸術主催者やスタッフは考えなくてはならないというのが大きな感想です。

バレエに関しては、定期会員制を敷いているところは実際には少なくて、NBSのバレエの祭典会員と、新国立劇場のシーズンチケット&クラブ・ジ・アトレくらいでしょう(他にもあるかもしれませんが)。一シーズン分をシーズン開始前に日程まで決めて買わなければならない新国立劇場のシーズンチケットは、割引率は大きいですが、実際にはかなり不便です。チケットの交換は一切できないからです。バレエの祭典会員は、公演数が多いということもあって、金額は張りますが、公演の数ヶ月前に日程の都合を聞いてもらえるので、こちらの方が観客の利便性に配慮した会員制だと思います。

ただ、この本にも書かれている通り、特に社会人は自分の予定を立てづらいということがありますので、定期会員にはなりにくいです。バレエの公演に男性が少ないというのも、バレエは上演時間の関係もあり、平日でも6時半スタートが多くて、会社勤めの人、特に男性は行きづらいということがあるでしょう。シングルチケットの購入者にも今後はある程度便宜を図ることが必要になってくると思われます。

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山本章子

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コメント

こんにちは。とても興味深い本ですね。内容を分かりやすく説明していただいたて半分読んだ気になっています。今年あったパリオペのル・パルクですが、会場のお客の入りが悪くてとても残念でした。せっかくパリオペならではの珠玉のコンテンポラリーを持ってきてくれて、かつルグリ/ニコラのキャスティング。次回からまた白鳥の湖に戻ってしまったらどうしようと思いました。チケットの販売元や企画者に是非この本を読んでもらいたいです。また、NBSもチケットがソールドアウトしてもオペラなどは赤字だと聞いています。会員制にしてまとまった資金を確保することが存続に必要なのかと思うと、あのセットの売り方も仕方ないのかなあと、渋々受け入れていまいます。実際のところはどうなのかはわかりませんが、芸術がすたれないようにしてほしいです。今回のルグリのディナーショーは、バレエに縁の薄かった富裕層を取り入れられる機会かもしれないですね。フジテレビのプロモーション力に期待です。

ショコラさん、こんばんは。
もっと簡潔にまとめればよかったと思いつつ、けっこうたくさん紹介してしました。でも、もし余裕があれば、一読をお勧めします。紹介しているのはほんの一例なので。

「ル・パルク」はよい公演でしたね~。私も3回観に行きましたが、満足でした。最初はちょっとチケット代が高いなと思いましたが、新日本フィルの演奏も素晴らしく、ルグリやニコラが観られたのは良かったですよね。確かに、ルグリの公演でこの入りはちょっと少ないなと思いました。コンテンポラリーは売りにくいんでしょうかね。

バレエの祭典の会費は高いですよね。私も一括ではなくて毎年3回に分けて払っています。

》バレエに縁の薄かった富裕層を取り入れられる機会
それはあるかもしれませんね。海外でバレエを観ると、日本より観客の年齢層が全体的に高く、男性が多く、そしてカップルで来ている人が多いなって思います。日本でも、引退した年齢の方で比較的に余裕がある人が多いようなので、そういう方をターゲットにするとよいかもしれませんね。私も、ディナーショーでバレエを観るのは老後の楽しみにしようかと思っています(笑)

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