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« シュツットガルトの来日公演「オネーギン」キャスト変更? | トップページ | キューバ国立バレエの現在 »

2008/11/08

宮廷画家ゴヤは見た GOYA'S GHOSTS

宮廷画家ゴヤは見た GOYA'S GHOSTS
http://goya-mita.com/
監督:ミロス・フォアマン
脚本:ミロス・フォアマン、ジャン=クロード・カリエール
製作:ソウル・ゼインツ
製作総指揮:ポール・ゼインツ

ロレンソ神父:ハビエル・バルデム
イネス・ビルバトゥア/アリシア:ナタリー・ポートマン
フランシスコ・デ・ゴヤ:ステラン・スカルスガルド
国王カルロス4世:ランディ・クエイド

本当は「ブーリン家の姉妹」を観るつもりで友達と日比谷シャンテの前で待ち合わせることになっていたら、先に来ていた友達から、ものすごい混雑だという報告。なんでだろう、と考えたらその日は11月1日で1000円の日なのだった。二人とも前売り券を持っていたので、せっかくなので1000円で観られる作品を、ということで同じナタリー・ポートマン主演の「宮廷画家ゴヤは見た」を観ることに。

冒頭、すでにカルロス4世の宮廷画家として名声を手に入れているゴヤの作品を、聖職者たちが糾弾する。聖職者をまるで悪魔の化身のように描いているのではないかと。ところが、ただ一人ロレンソ神父は、ゴヤの作品を擁護する。そして、異教徒への異端審問を強化すべきだと主張する。弁舌の巧みな彼は、それまでもその口八丁ぶりでのし上がってきたのではないかと思わせる。

その異端審問の犠牲となったのが、ゴヤのモデルを務めたことのある15歳の少女、イネス。教会の天使の絵のモデルにまで使われた美少女の彼女が、兄弟と出かけた居酒屋で豚肉を食べなかったというだけでユダヤ教徒との疑いをかけられ、捕らえられて拷問され、無理やり異教徒の告白をさせられて投獄される。ロレンソの肖像画をちょうど描いていたゴヤと交流があることを知っていた、イネスの裕福な家族は、何とか彼女を救ってほしいとゴヤの元を訪ねるが…。

ゴヤといえば、「黒い絵」シリーズでもよく知られていて、子供のときに家族でマドリッドのプラド美術館で初めてそれらを観た時には、あまりの不気味さに泣き出しそうになった。これらは、フランス軍がスペインに侵入していった後に描かれた作品群で、ゴヤが聴覚を失ってしまった後のものである。フランス革命の余波による半島戦争などのスペイン国内の混乱を描いた。ゴヤの描いた作品の中には、批判精神が息づいており、この映画のエンディングにも使われている「カルロス4世の家族」では、国王一家の知性の欠如が風刺的に描かれている。だけど、ゴヤはあくまでも一人の画家であって、時代を動かす人ではなかった。

そしてこの映画の中でも、ゴヤは激動の時代を語り部のように語っていく狂言回しにすぎない。彼の、傍観者でしかない、少女一人救えなかった悲しみがじわじわと伝わってくるのだ。

なんといっても強烈なのがロレンソ神父を演じたハビエル・バルデム。ゴヤの芸術には理解を示す一方、異端審問を進め、さらに牢に捕らえられたイネスに子を産ませてしまう罰当たりな神父。教会を追放されてからはフランスに逃れ、今度はフランス革命側の高官に就任して、聖職者たちを異端審問の罪で断罪する。時代をたくみに渡り歩き、権力を手にしてきた俗物の彼は、長い囚われの生活から壊れてしまったイネスを精神病院に放り込んでしまうような人でなしの男だった。そんな彼でも、最後の最後には…というオチがあるのがこの映画の凄いところだと思う。そんなロクでもない人物にどこか人間的な魅力を与えてしまうのが、ハビエル・バルデムの演技力だ。

ゴヤもまた、過激な作風で知られながらも宮廷画家として召抱えられ、さらにフランス革命を支持していたが、スペイン人民の独立戦争を支持するという矛盾した立場に立っていた人物。そのような内的な葛藤があったからこそ、傑作を数多く生み出すことができたのではないかと思わせる。後半、フランス革命軍の将校となったロレンソと、ゴヤが「お前が売春婦だ」「いやお前が売春婦だろ」と言い合う。巧みに時代を渡っていこうとした二人は、ある意味似たもの同士だったのかもしれない。そしてスペインを王政から解放するとしつつ、結局は弟をスペイン国王に据えてしまったナポレオン。人間というのは、権力に弱いものなのだ。

笑えるエピソードがある。馬にまたがってモデルになるためのポーズを取った王妃に「綺麗に描いてね」って頼まれて描いた絵で、実際以上に王妃を醜く描いてしまう。得意げに完成させた絵を国王夫妻に見せるゴヤ。不満げに立ち去る夫妻。そして国王フェリペ4世は、ゴヤに下手なヴァイオリンを得々と聴かせる。心にもない「感動しました、素晴らしい」とお世辞を言うゴヤ。ここに彼の本質が現れている。

イネスを救ってやることができなかったゴヤは、革命軍によって解放された後のやつれきって壊れてしまった彼女に、魅入られるように惹きつけられるのだった。正気を失い、まだ若いはずなのに老婆のように成り果ててしまったイネスだが、聖女のようにも見えてくる。ナタリー・ポートマンの熱演は、強烈な女優魂を感じさせる。彼女の腕に抱かれた誰の子かもわからない赤ん坊、荷車に引かれていくロレンソの死体、そしてその後を追うゴヤ。イギリス軍の将校の横に佇み艶然と微笑みながら死刑執行を見守るイネスの娘アリシア。なんとも凄まじい、地獄のようなラストシーンが、大団円のようにも思えてくる。それだけ狂気のみなぎる時代だったのだ。ヘビーな内容の作品だが、映画を観た!という満足感を与えてくれる力作。「アマデウス」のミロシュ・フォアマンらしい作品。台詞はほとんど英語だが、スペインでロケが行われ、セットは一切使わなかったことで、混沌の時代の闇を重厚に感じさせてくれる。

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映画」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。
私もこの映画観ました。映画を観た!という満足感、確かにありましたね~。
>地獄のようなラストシーンが、大団円のようにも思えてくる
 と仰るのに納得です!ずっしりと心に残る作品でした。

馬にまたがった女王陛下の絵に関する一連のエピソードには、思わず吹き出してしまいました。重たいシーンとの緩急の付け方が巧みだと思います。

映画の日の混雑振りには驚きますよね。私も1日には別の映画を観るために銀座に居たのですが、凄い行列でした。

Elieさん、こんばんは。
先ほどElieさんの感想も拝読してきましたが、目の付け所というか視点に共通点がありますよね。イネスのお父さんの行動も凄く衝撃的でインパクトがありましたが、心を打たれるものがありました。
決して明るい話ではありませんが、ずっしり心に残るというのは同感です。

1日はどこも混んでいたみたいですが、幸か不幸か、この映画はすいていたんですよね。面白かったのにもったいないです。

naomiさんも見られたんですね。小さいころに黒い絵を生で見られていたとは、さぞかし強烈だったでしょうねえ。

ゴヤの絵は2年ぐらい前だったかプラド美術館展でいくつか観た程度だったので、この映画を観たあとでゴヤの本や作品集を図書館で借りてみました。あの馬上の王妃をはじめ、いろんな人が絵とそっくりのキャスト(メイク?)だったのにも驚きました。しかし、なんといってもハビエルとナタリーの演技力はすさまじかったですよね。

ナタリーは「ブーリン~」の演技もすごいそうですから楽しみにしていたのですが、いまだ観られてないんですよ・・・。

うるるさん、こんばんは。

私も作品集でゴヤをちゃんと観たことはないんですよ~5年位前にプラドには行きましたが…王妃、やっぱりそっくりなんですね。興味が出てきました。

ブーリン家の姉妹も観てきましたよ。これはまた別の意味で強烈な映画でしたね。ある意味後味はこっちの方が悪いかも。でもエリック・バナのヘンリー8世はハンサムでした。

ヘンリー8世ものといえば、アメリカで「テューダーズ」というドラマを放映していて、ジョナサン・リース・マイヤーズがヘンリー8世を演じているんですが、面白いって評判です。日本でもテレビでやらないものでしょうかね。

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