11/23 スペイン国立ダンスカンパニー「ロミオとジュリエット」(まだ途中)
プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」は、聴くたびに特別な感情を呼び覚まされる音楽。特にこの曲に何か思い出というものが付随しているわけでもない。それなのに、胸の奥が疼き甘くて苦いビターチョコレートのような感情が胸を満たす。たった数日の間に一生分の恋をして、大人になって、死まで駆け抜けていった運命の恋人たち。プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」の何が好きって、その疾走感と高揚感によってもたらされる胸の高鳴りなのだ。そんなに多くの「ロミオとジュリエット」の振付を観たわけではないけれども、美しい3つのパ・ド・ドゥがあり、そして2幕の、街の喧騒と熱気を含んだ空気を運んでくる群舞が魅力的なマクミラン版は一つのスタンダードだと思っていた。
ナチョ・ドゥアトの作品はほとんどがアブストラクト(抽象的)であり、古典のテクニックも使っているけれども、マクミランの(上昇、飛翔→落下)というクラシック・バレエの、重力に反発し引き上げる感覚とは真逆。大地に根を下ろした力強さ、スペイン的な土着性を洗練されたアプローチでの表現が中心となっている。だから、果たして物語バレエとの相性はどうなのか、少しだけ不安を持ちながら会場に足を踏み入れた。
果たして、この「ロミオとジュリエット」はマクミランやクランコ、ラヴロフスキーらの作品とは、物語そのものはほとんど同じでありながら違う印象を与えるものだった。マクミラン版でのジュリエットは、堅苦しい貴族社会の中で暮らしながらも、恋を知るまではそんな世界に生きていることすら気がついていない、幼く無邪気な少女。ロミオを知ったことで、少女期を一気に飛び越えて、キャピュレット家の抑圧に押しつぶされそうになり、悲しみも苦しみも知って、最後の出口として死を選ぶイメージがある。
ところが、ドゥアト版のジュリエットは、もともと自由で束縛されない、奔放な女の子。男の子たちと一緒にやんちゃに遊んでいたり喧嘩だってするいたずらっ子。「嵐が丘」のキャサリンに近い印象すらある。長く垂らした金髪、裸足が似合いそうで、背中から天使の翼が生えているかのようだ。恋においても主導権を握っていて、とても積極的。運命もすべて自分の手で選び取ったように見えるから、この物語が悲劇のように見えなくて、むしろ爽やかなまでの後味を残している。マクミラン版が、終盤、仮死状態でだらんとしたジュリエットとロミオが踊るパ・ド・ドゥがあり、死の匂いに満たされているのに、ドゥアト版は最後まで「生」なのだ。
群舞を構成する両家の人々の踊りも、とても生き生きしていて、ひとりひとりに顔があって感情がある。ハンカチを持ったり、タンバリンを持っての群舞も、どこか庶民的な分、自由で無国籍で、普遍的な印象を与える。
「ロミオとジュリエット」でももっとも有名なバルコニーのシーン。ジュリエットの手が現れて、ロミオを挑発する。ジュリエットはロミオにリフトされながらも、一方的に支えられているのではなく、自分の力でしっかりと跳んだり動いている。とても好きなのが、二人で1枚のマントをヴェールのように、天幕のように持ち上げて走るところ(同じようなこ構図の絵画をメトロポリタン美術館で観たと思うのだけどタイトルが思い出せない)。そして二人並んでのユニゾンでのムーヴメント。二人の気持ちが一つになったことを象徴させていたし、対等な二人の関係を見せている。キスシーンはなくて、二人は扉の向こうへと美しく消えていって、ここでも手だけが見えている。扉の向こうで何が行われているのか、想像力を掻き立てる。そして一人残されるロミオ。
(つづく)
【音楽】セルゲイ・プロコフィエフ
【振付】ナチョ・ドゥアト
【衣装デザイン】ロルデス・フリアス
【舞台美術】カルレス・ブヨル、パウ・ルエダ(サン・クガット・カルチュラル・センター)
【照明デザイン】ニコラス・フィシュテル(A.A.I)オリジナル・プラン:ミゲル・アンヘル・カマーチョ
【舞台美術製作】サン・クガット・カルチュラル・センター
【衣装製作】スペイン国立ダンスカンパニー
【初演】1998年1月8日 カンタブリア・フェスティバル・パレス(サンタンデル/スペイン)
スペイン国立ダンスカンパニー
【音楽録音】ボヘミアン・シンフォニック・オーケストラ/ペドロ・アルカルデ指揮
【キャスト】ジュリエット:ルイサ・マリア・アリアス
ロミオ:ゲンティアン・ドダ
キュピレット夫人(ジュリエットの母):アナ・テレザ・ゴンザガ
キュピレット(ジュリエットの父):ディモ・キリロフ
マキューシオ:フランシスコ・ロレンツォ
ティボルト:クライド・アーチャー
乳母:ステファニー・ダルファン
パリス:アモリー・ルブラン
ベンヴォーリオ:マテュー・ルヴィエール
キュピレット家:秋山珠子、リウヴァ・オルタ、イネス・ペレイラ、クリステル・オルナ、スジ・ワットマン、ルシア・バルバディリョ、カヨコ・エヴァハート、マイケル・カーター、クリフォード・ウィリアムズ、ホエル・トレド、ステイン・フリュイト
モンタギュー家:アナ・マリア・ロペス、マリナ・ヒメネス、スジ・ワットマン、ルシア・バルバディリョ、アフリカ・グスマン、ヨランダ・マルティン、ランディ・カスティリョ、ホアキン・クレスポ、フランチェスコ・ヴェッキオーネ、ホセ・カルロス・ブランコ
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コメント
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待望のナチョ、2日間見に行きました。
すごく波長が合って、心からダンスを楽しめました。
私にとってはじめてのロミジュリ全幕だったのですが、それがナチョで良かったなあと思ってます。
23日、帰りは急いでいたので休憩の間naomiさんのこと探したのですが、見つけられませんでした。
ご挨拶できなくて残念です〜。
投稿: ogawama | 2008/11/28 23:48
ogawamaさん、こんばんは。
今までシュツットガルト祭りですっかりこっちの感想の続きは遅れてしまっています。ホント、この時期にぶつけるなんてヒドイ(涙)ですよね。根性でハシゴしたogawamaさんは立派ですね!
ロミオとジュリエットも、マクミランのもクランコのも名作ですが、ナチョのは、斬新過ぎず音楽性が素晴らしく、セットも洗練されていて、すごく良かったと思います♪機会があればぜひ他の版も、と言いたいところですがマクミラン版もクランコ版も版権が厳しく、ロイヤルやABT(マクミラン版)、シュツットガルト(クランコ)の来日公演でないと全幕が観られないので、日本にいる限りはなかなか難しいのですよね。私は来年の7月にABTで上演されるマクミラン版を観ようとたくらんでいるのですが…。
なかなか会場でお会いできませんね…ボリショイはほぼ毎日行く予定なので、もし行かれるようでしたらお知らせくださいね。
投稿: naomi | 2008/12/01 00:24
ボリショイは3、7ソワレ、10日に行きます。
休憩時はウロウロして、naomiさん探してみます♪
しかし毎日とは、さすがですね〜。
投稿: ogawama | 2008/12/03 01:00