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2008/10/04

「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」In the Realms of the Unreal

先週末に実家に帰ってテレビを見ていたら、NHKの「迷宮美術館」で、ヘンリー・ダーガーの「非現実の王国で」を取り上げていた。彼についてのドキュメンタリーが映画化されたのは知っていたし、とても興味があったけど映画館で観に行きそびれてしまった。その独特の色彩感覚、「ヴィヴィアン・ガールズ」という7人の少女たちの愛らしい造形、独創性と残酷さはものすごいインパクトがあり、思わず引き込まれてしまった。ちょうど、映画「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」がDVD化されたというタイミングだったので、早速購入して観てみた。

http://henry-darger.com/

孤独な人生を送った一人の貧しい老人。50年以上病院の雑役夫として働いていた彼が老人ホームに引っ越す際にアパートに残された荷物の中から、家主が見つけたのは、自分ひとりのために綴った「非現実の王国で」という15,000ページを超える大長編小説の原稿と、数百枚に及ぶ挿絵。家主夫妻が芸術家だったことこともあり、彼らは、この作品の独創性に驚愕する。そして、彼らは、ヘンリーの作品を世に出すために奔走する。死後、彼の作品は急速に評価を得るようになって、多くのアーティストのインスピレーションを刺激し続けている。

この映画では、ダーガーが19歳から81歳で亡くなるまでの60年以上をかけて、仕事を終えてアパートに帰ると、彼の頭の中で繰り広げられていた物語を綴った結果作られた「非現実の王国で」の美しくも残酷な世界を、アニメーション化した映像で表現しながら、生前の彼を知る大家のキヨコ・ラーナー(名前や容貌からしても日本人もしくは日系人?)ら近隣の人々の証言を交え、そして彼の生涯を振り返って、なぜこのような作品が生まれたのかを追っている。

ヘンリー・ターガーという人は、貧しい生まれから孤児院で育ち、しかも実際にはとても賢かったのに知的障害児と間違った診断をされて施設に入れられ、虐待を受ける。孤児院の農場で働かされた後、脱走。もちろんまともな教育を受ける機会もなかった彼は、病院の雑役夫として働きながら、一度は徴兵される。が、軍隊が耐えがたかった彼は、目が悪いふりをして除隊。以降、74歳で仕事を引退させられるまで引き続き病院の雑役夫として働き、退職した後までも、ほとんど誰とも交流することなく、アパートの部屋に引きこもって、誰にも知られることなく壮大な大叙事詩を創り上げていた。

この作品の正式な題名は、『非現実の王国として知られている国の、ヴィヴィアンの少女たちの物語。あるいは子供奴隷の反乱が引き起こしたグランデーコ=アンジェリニアン戦争の嵐の物語』という長い題名の戦争記。平和国家「アビエニア」を率いるのは、ヴィヴィアン・ガールズと言われる7人の幼い姉妹達。彼女たちは乗馬と射撃、変装の名人で、子供を奴隷にして虐待の限りを尽くす極悪国家「グランデリニア」と勇敢に戦う。

かくのごとく、日の当たらない生活をしていたダーガーが創り上げた世界は、カラフルでポップで美しく、ヴィヴィアン・ガールズという女の子たちもとても愛らしい。ダーガーは女性のイラストや写真が載っている新聞広告、ちらしなどを集めて切り取り、少女の絵の輪郭をトレースして着色するという独特なコラージュ方法を取って作品を描いた。同じモデルを使ってトレースするため、同じ顔をした少女たちが何人も登場して、独特の効果を上げている。

女の子たちは、時には翼が生えたりしているし、可愛い服を着ているけど、裸でいることもある。胸がなくて、ペニスが生えている女の子たち。ダーガーは生涯女性を知ることがなかったので、女の子にもペニスがあるものだと思い込んでいたらしい(別の説もあり)。ヴィヴィアン・ガールズが画面の上で動いている!その姿を見られただけでも、このDVDを購入してよかったと思う。ヴィヴィアン・ガールズによく似ているダコタ・ファニングがナレーションをしているというのも素晴らしい。

極彩色の花が咲いている美しい田園風景の中で、戦争が繰り広げられる。子供たちは裸で縛られ、吊り下げられ、磔にされ、拷問され、首を絞められる。時には、女の子たちが腹を切り裂かれて内臓まで撒き散らしている地獄絵図が展開する。美しく残酷な物語は、孤児院で虐待された彼の心の傷を反映したものだという。否応なく現実の残酷さが現れてしまっているのだ。また、徴兵された彼の戦争体験の影響もあったという。 子供たちを虐待する者は許さないという彼の強い思いが反映されている。ヘンリー・ダーガー自身が、アビエニア軍の将軍などとして登場しているのだ。

彼は意図的に自分のためだけの別世界「非現実の王国」を作り上げたのだった。人は想像の力だけで生きていくことができるのだろうか?心の中に作り出した虚構の人間関係やコミュニティーを、現実世界のそれと置き換えてしまえるのだろうか?ということがテーマになったと監督は言う。

しかし映画を観て感じたのは、このような貧しく一人ぼっちで過ごしている変わった老人(彼の部屋からは毎晩のように二つ以上の話し声が聞こえてきていたと言う)を気にかけている地域の人々がいたということ。人間関係が不得手でほとんど誰とも交流を持たなかったという彼だけど、家主のキヨコ・ラーナーも、周囲の人々も少しではあるけれど接点を持ち、ダーガーは彼女の犬を可愛がっていたそうだ。彼が老人ホームに引っ越す時には手伝った。が、隣人であるアーティストが、発見された彼の作品を観て「素晴らしかった」という感想を彼に述べた時に、「もう遅すぎる」と彼は答えた。老人ホームに引越しし、彼自身の「非現実の王国」を奪われた彼は、急速に衰弱してすぐに亡くなってしまった。

キヨコ・ラーナーの言葉が印象的だ。「彼は貧しかったけれども、心の中は本当に豊かだったのよ」。現実の人間関係が薄くても、豊かな人生を送ることができるということだ。彼女の、ダーガー、そしてその作品に寄せる深い愛情も伝わってきた。

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」でクリスが言った、「人間関係だけが人生ではない」「幸せは、誰かと分かち合うことで本物となる」と併せて、いろいろと考えさせられた作品だった。ダーガーは、あの凄まじい内的世界を創り上げたことに満足した人生を送ったのだろうか?それとも、本当はもっと早く世間に認められたかったのか?人とのかかわりを求めていたのか?ラーナー夫妻が彼を発見することがなければ、彼の作品は埋もれたままであっただろう。人と人がかかわることについての問いを投げかけている作品だ。

彼の墓銘碑には「子供達を守り続けた芸術家」という言葉が刻まれているそうだ。

ワタリウムでの回顧展

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