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« シュツットガルト・バレエ「オネーギン」ハイライト映像 | トップページ | 小林紀子バレエシアター4月「眠り」ゲストはABTのD・ホールバーグ »

2008/10/17

「荒野へ」ジョン・クラカワー著

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」の原作本。映画を観終わった後、すぐに同じラゾーナ川崎内にある書店で買い求めた。

アラスカの荒野に打ち捨てられたバスの中で餓死した青年、クリス・マカンドレスについて、ジョン・クラカワーが<アウトサイド>という雑誌から依頼され青年の死について取材し記事を書いた。その時の記事と、その後の話がこの本となり、そしてベストセラーとなった。多くの反響が雑誌に寄せられたけど、クリス青年への賞賛と非難の両方があったそうだ。「向こう見ずな愚か者、変り者、傲慢と愚行によって命を落としたナルシスト」との批判も多く、またクラカワー自身もそんなクリスを美化していると非難されたそうだ。

その反響の中に、一人の老人からの手紙があった。その老人こそ、映画の中でも印象的なエピソードのひとつを構成した、ロナルド・フランツである。映画の中でも、彼を演じたハル・ホルブルックの素晴らしい演技もあって、思わず涙を流さずにいられなかった。しかし、映画の中では語られていない、後日談がとても心を打った。フランツのもとをクリスが去ってしばらく後に、この生意気な青年から手紙が届いた。できるだけ早く今住んでいるところを出て、外の世界を見てみなさいと。そして、実際に、80歳を超えていたフランツは、家財道具のほとんどを倉庫に預け、アパートを出て、クリスがキャンプしていた砂地にテントを張ってそこで暮らし、来る日も来る日もクリスの帰りを待っていたというのだ。

このノンフィクションは、できるだけ中立的な立場を取り、クリスを突き放して公平に描こうとしている。彼のことを愚かだった、傲慢で未熟で、自然を見くびっていた、甘えていたと言う人は多い。そして、それは事実なのだと思う。そして、クリスがこの世の人ではなくなってしまった今、本当に彼が何を思い考えて、荒野へと分け入って行ったのかを知る由はない。
それでもなお、クラカワーは限りないシンパシーと愛を持って、この青年の生と死を見つめ、そしてその心情に寄り添った。なぜならば、クラカワー自身、父親に反発新があり、若い頃にはクリスのような無謀な冒険をした経験があったからだ。

クラカワー自身の、クリスと同じ年齢の頃にデビルズ・サムというアラスカの未踏の岩壁に挑戦した時のエピソード。「うまくいっていない私の人生を根底から変えてくれるものと思いこんでいた」けれども、命がけの冒険、多くの失敗を経て成功した後も、彼の人生は何一つ変わらなかった。それから、クリスと同じような冒険に出かけて、二度と帰らなかった多くの若者たちの生の軌跡もたどる。彼らのことを批判するのはたやすいことだ。彼らがいなくなったことで、どれほど多くの家族や友人たちが苦しみ、悲しんだことか。

あまりにも軽装備で、食料も武器も地図すらもろくに持たずに、アラスカの荒野へと旅立って行ったクリス。彼は、自ら死を選んだのではないかという説もあったほどだ。だが、彼は自分が生きている実感というものを得るために、あえて、大地が与えてくれる物のみで生きていこうと決心し、最果ての地まで出かけていったのだと思う。そして、限りなく透明で澄んだ、孤独で自由な存在になりたかったのだろう。

この本の最後に、クラカワーは、クリスの両親、ビリーとウォルトとともに、彼の終焉の地であるアラスカのバスまで出かけていく。このときのエピソードを読んで、両親の様子を思い浮かべると胸がつぶれる思いがする。また、クリスはほんの2,3の些細なミスで命を落としてしまったことも判る。気温が上がるにつれて川が増水し、渡れなくなったために彼は荒野の罠に落ちて、動けなくなったのだ。しかしながら、もう少し上流まで歩いていけば、ワイヤー伝いに川を渡ることだってできたのだ。

それでもなお、彼の冒険には意味があったのだと思いたい。平穏に日々をやり過ごしていくだけでは得られない宝物をその短い生涯の間に手に入れることができたのだと。そして、私たち自身も、新しいことに踏み出す勇気を持つべきであることを、彼は教えてくれた。何しろ、80歳の老人フランツでさえも、彼との出会いを通して、新しい人生に踏み出すことができたのだから。

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コメント

はじめまして。
バレエを中心とした豊富なレポを、いつも楽しく読ませてもらっています。
「荒野へ」のクラカワーのスタンスが好きならば、もう一つの名著「空へ」もおすすめです。
エベレスト登山での大量遭難事件での、日本人を含む当事者たちの行動、心の葛藤をわかりやすく描きこんでおり、ひきこまれます。最後にはクラカワー自身が事件を検証するために、エベレストにチャレンジします。
Amazonでは、文春文庫の新刊は現在、品切れみたいですが(中古もすごい高値に)、原著の英語も読みやすくかかれているので、英語がある程度読めるのならばペーパーバックでも。

ハチローさん、はじめまして。ようこそいらっしゃいました!
稚拙な文章でお目汚ししていますcoldsweats01

「空へ」という本があるのは知っていたのですが、やはり入手しづらいのですね。こういう極地での話にはとても興味があるので(高校の時に山岳部に入ろうとして親に反対されて断念しました)、ぜひ読みたいです。英語で読もうかしら、どうしましょうか(英語の本は時々買うのですが、なかなか読み通せる根性がなくて)
いずれにしても、絶対に読んでみたいです。お知らせくださってありがとうございます!

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