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2008/10/04

ロンドン旅行記 3日目 フランシス・ベーコン展

滞在3日目は、実質的には最終日。地下鉄の広告で見つけた、フランシス・ベーコン展を観に、テート・ブリテンまで行く。

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この週末は、地下鉄のヴィクトリア線が丸ごと運休。ホテル最寄のラッセル・スクエア駅も、テート・ブリテン最寄のピムリコ駅も閉鎖。そういうわけで、ビッグベンのふもとにあるエンバンクメント駅で降りて、テムズ川の湖畔をてくてく歩いてテート・ギャラリーまで。お天気も良くて暖かく、ビッグベンの写真なんか撮りながら向かう。

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フランシス・ベーコン展は9月11日に始まったばかりで、最初の週末ということでかなり混雑していた。多分に漏れずテート・ブリテンは入場無料なのだけど、その分特別展の入場料が高くて、12ポンド(およそ2400円)もする。しかし、大変充実した展覧会で、この代金を払って観に行って良かったと思った。

http://www.tate.org.uk/britain/exhibitions/francisbacon/default.shtm

このテイト・ブリテンによる展覧会サイトの完成度も素晴らしく、代表的な作品を観ることができるだけでなく、関連性のある作品同士を連動させたり、テーマごとに再構築して見ることができたりするのが良い。

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フランシス・ベーコンといえば映画「愛の悪魔 フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」の印象が強いのだけど、ベーコン役を演じたデレク・ジャコビが、本人そっくりに演じていたことがよくわかった。そして、この映画で彼の恋人ジョージ・ダイアーを演じたのが、いまやジェームズ・ボンド俳優のダニエル・クレイグ。ダニエル・クレイグ自身はダイアーには似ていないのだけど、この展覧会に展示してあった本人の写真は、ハンサムな男性であった。と同時に、ベーコンが描いたおびただしい数のダイアーをモデルにした絵画が、彼の特徴を的確に捉えていたことにも驚かされる。

ベーコンという人は、なるほど映画になるほどのエキセントリックな人生を歩んだ。哲学者フランシス・ベーコンの子孫にあたる彼は、裕福な軍人の家庭に育つものの、17歳の時に母親の服を着ているのを見つかって勘当される。正規の絵画の教育を受けず、インテリア・デザイナーとして出発。裕福な政治家の恋人となり、そしてアーティストとして次第に名を成していく。だが第二次世界大戦の惨禍、同性愛者としての苦悩が彼に影を落とす。54歳ですでに著名なアーティストとなっていた彼の家に窃盗に入ったのが、若いジョージ・ダイアーだったという出会い方が凄い。美しい肉体を持つ彼をモデルにした作品をたくさん描くものの、著名な芸術家と貧しく教養のない青年という違った世界の二人の関係は、サディスティックなベイコンによって支配され、そしてダイアーは心を病み、パリのグラン・パレでベーコンの展覧会が開かれる2日前に、パリのホテルで自らの命を絶った。それまでも何度も自殺を試みたという。

展覧会は、ほぼ年代順に10の部屋に分けられているが、「MEMORIAL」と題された、ダイアーを追悼した作品を展示している部屋が非常に印象的である。彼の死後すぐに着手され、完成された作品群である。ベーコンはひとつのモチーフを3つの絵画に分割しているトリプティクスと呼ばれる作品を好んで描いているが、ダイアーに捧げられた作品の中には、たしかに、彼の肉体から生命が漏れ出している様子が伺え、そしてダイアーに対する贖罪の感情が感じられる。ダイアーの死の前に描かれた作品の中にも、たくましい肉体の中にある苦悩や孤独がにじみ出ていて、なんともいえない寂寥感と悲痛さがある。立派で美しい裸体の男が、ぽつんと便器の上に腰掛けている無防備な後姿を見せていたり、ソファに腰掛けていたり鏡に映っていたり、というダイアーの姿は静謐で、たとえようのない悲劇性をまとっている。

ベーコンの作品でやはり印象的なのは、人間の中の獣性を動物の中に表現した初期の作品、そしてヴェラスケスが描いた作品をモチーフにした『「インノケンティウス10世像」による習作』という、叫ぶ男の顔の作品群。彼は、このヴェラスケスの教皇像に執着して何枚もの作品を描いている。「Figure with Meat」といって、ぶら下げられた肉の前で叫ぶ男も、『「インノケンティウス10世像」による習作』のバリエーションだ。檻の中に入れられた人間や動物、マッチョな肉体が絡みあうホモセクシャル的な作品、磔をモチーフにした作品。対峙するのにもものすごいエネルギーが必要だが、歪み、よじれ、血を流し、叫ぶ肉体の数々を見ていると、逆に浄化される気分になるから不思議だ。彼がモデルを目の前にして作品を描くのではなく、それを写した写真を元に製作を行うという創作過程ゆえ、同じモチーフの変奏曲が多く作られ、より強靭な表現としてなっており、また静物画を目にしているような、純化された静謐さを帯び、悲劇性を感じさせるのではないかと思う。

ギリシャ悲劇「オレステレス」、親しい友人や恋人までを肉の塊として描いた作品群、映画「戦艦ポチョムキン」で殺される看護婦の叫ぶ顔や「ヒロシマ私の恋人」などの映画、暴力、戦争の惨禍や恐怖の絵画化(決して戦争そのものや暴力そのものを描いているわけではないのに、世界に存在する戦争や暴力を見事に映し取っている)、どれも決して明るくも美しくもなく、人間の暗黒面を描いているが、まさにギリシャ悲劇を目のあたりにしているかのようで、心に突き刺さっていくようだ。

これほどまでにオリジナルで、人間の存在を抉り出し、まっすぐに人の心に刺さる画家というのは他に存在し得なかったのではないかと思う。来年1月9日まで開催されているので、ロンドンに行く人にはぜひ立ち寄って欲しい。

*****

もちろん、テート・ブリテンはターナーの素晴らしいコレクション、そしてラファエル前派の傑作も揃っている。時間が足りなくて、本当に主要な作品しか見ることができなかったけど、それでもターナーを浴びるように観て、大好きなバーン=ジョーンズの大作「アーサー王の眠り」も観られて、ウォータハウスの「レディ・シャーロット」も観られて、行くたびに幸せになれる場所だ。ミレイの「オフィーリア」はもちろん、現在はBunkamuraのミュージアムでのミレイ展に出展されているので、不在だったわけだけど。2008年のターナー賞作品も展示されていたけど、時間がなくて観られず残念。

これらの傑作群を無料で観られるロンドンは素晴らしい!コドモの時にウィンブルドンに住んでいた時に、ナショナルギャラリーやナショナル・ポートレート・ギャラリー、そしてテイト・ギャラリーにはよく通ったものだと懐かしく思う。

タクシーでウォータールー駅まで行く。ユーロスターは、ドーバー海峡のトンネルが火事になってしまって不通になっているのは知っていたけど、地下鉄の路線でヴィクトリア線以外も運休になっていたのにはちょっと参った。サドラーズまで何回も乗り換えて、必死に走ってようやく間に合う。「ドリアン・グレイ」のマチネを観た後、さすがにベーコンと併せておなかいっぱいで(しかも、「ドリアン・グレイ」のドリアンの部屋には、フランシス・ベーコンの作品が2点飾られているのだ!)、ソワレまでは近くのパブで一休みして、お茶をして、ソワレを観る。

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千秋楽は本当に凄い舞台だった。リチャードの入魂の演技には、ぞくぞくした。客席に、元ロイヤル・バレエのマーティン・ハーヴェイを見かける。男性率の高い客席の中でも、ひときわ素敵だった。終演後はホテルに戻って荷造り。朝4時半に起きて帰国するために。朝が早すぎて地下鉄が走っていないため、パディントン駅までタクシーで行って、そこから特急でヒースローへ。CDG行きの飛行機が30分遅れて、乗り継ぎが大変だったけどなんとか間に合い、また飛行機の中でぐっすりと寝て成田へ。そしてそのままリムジンバスに乗って出勤。なんともハードなロンドン行きだったけど、行ってよかった。今度はもう少しゆっくりしたいし、ロイヤル・バレエも観たい。

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コメント

お疲れ&お忙しい中、素晴らしい旅行記をupしてくださって、ありがとうございます。
私は去年はじめてロンドンに行ったのですが、英語できないし旅慣れていないので、主要美術館をまわるのがやっとでした。
でも懐かしい〜。
フランシス・ベーコンは、国内の展覧会で断片的に見たことしかなかったので、naomiさんの考察にうーんと唸り、これからよくお勉強しようと思いました。

ogawamaさん、こんばんは。
ロンドンは、まあ基本的にはやはり美術館中心というか、美術館に通っているだけでいっぱいいっぱいになるくらい、美術館の宝庫だしその上ほとんどが無料ですものね。前回(6年前)行った時も、バレエのシーズンが始まっていなかったので、夜はミュージカルを見ていました。次行く時には、バレエのシーズンに行きたいし、もっともっと美術館通いをしたいなって思いました。

フランシス・ベーコン、私もオルセーなどで断片的にしか観た事がなかったので、このような大規模な回顧展を観られてすごく面白かったです。また「愛の悪魔」のDVDを見直しました。本当にデレク・ジャコビがベーコンにそっくりで。

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