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« サシャ・ラデツキー、ABTを退団、オランダ国立バレエに移籍 | トップページ | エジンバラ国際フェスティバルでのグルジア国立バレエとニーナ・アナニアシヴィリ »

2008/08/10

8/7 エトワール・ガラAプロ(あと少し)

平日マチネということで、客入りはそれほどよくなかったようだけど、代わりに芸能人の方や日本のバレエダンサー数人が招待客で来ていたみたい。数日前に買い足したチケットで、足が切れてしまう前方端の席。確かに足首から下は見えないので、バレエを観るにはまったく適していないけど、ダンサーの息遣いはよく聞こえてくる。それから、見切れ席なので、袖で待機しているダンサーが見えてしまったりするのが面白い。ペッシュが出ている2演目の次の出演者がマチューだったので、ペッシュの姿をニコニコしながら見ているマチューが見えて、ちょっと楽しかった。


1)「ハムレット」第2幕より パ・ド・ドゥ
(振付:J.ノイマイヤー 音楽:M.ティペット)
シルヴィア・アッツォーニ、イリ・ブベニチェク

去年のフェリのガラ「エトワールたちの花束」で、シルヴィアとリアブコが踊ったパ・ド・ドゥ。シルヴィアはいつまでたっても少女のような愛らしさを持ち続けている人だなって思う。そのあたり、まさにフェリに通じる部分があるなと。リアブコは憑依型のダンサーで、役が文字通り彼に取り憑いてしまい、役柄そのものの人に変身するのだけど、イリは独特の繊細さとあやうい狂気を持っている人だ。いつ壊れちゃうのかと見ていてどきどきしてしまう。シャツの前の部分が半分だけ出ていたり、花冠をかぶっていたり。ハムレットとオフィーリアが戯れるシーンにも、不幸の予兆が漂っている。イリはやっぱりノイマイヤー作品が似合うなあ。とにかく、イリにしてもシルヴィアにしても(そしてもちろんリアブコもだけど)、表現者としてただならぬものを持っているのがよくわかる。

2)「ジゼル」第2幕より
(振付:M.プティパ、J.コラリ、J.ペロー 音楽:A.アダン)
スヴェトラーナ・ルンキナ、マチアス・エイマン

「ジゼル」はルンキナの真骨頂。ジゼルを踊るために生まれてきたような、儚く透明でひんやりとした、浮遊する魂だけの存在のよう。ロシアのダンサーというのは、やはり上半身や腕が美しい。この中でただ一人のロシア人バレリーナだから、特にその繊細な美しさが際立っている。しばらくロシアバレエばかり観た後に、オペラ座やそのほかの国のバレエ団を見ると、やっぱりロシアバレエは特別な、純粋な美があるって思うのだ。でももちろん、オペラ座にはオペラ座の良さがあるわけで、その良さを表現しているのが、このエトワール・ガラのコンセプトなのだと思う。とにかく、ルンキナのジゼルは、もはや至芸の領域に達していて、冷たい空気を会場の中にまで満たすことができるほどの、場の支配力を持っていた。

マチアス・エイマンはアルブレヒトは全幕で踊ったことがないはずなので、演技にぎこちないところがあったし、サポートもちょっと心もとないところも。とはいっても、二日目の方がサポートは安定していた。しかし彼の良さは、テクニックが凄い人でありながらも、そしてルックスも少々エキゾチックでファニーフェイスでありながらも、甘くノーブルな雰囲気が出せるところにある。テクニックが際立っている人はどうしてもドゥミキャラクテールになってしまいがちだけど、彼だったら、貴公子もいける!それは、彼がエレガンスを持ち合わせているからだ。顔のつけ方や腕の使い方に品があり、背が高いわけではないけど、脚のラインが美しい。そして待ってました!のアルブレヒトのヴァリエーション。オーチャードホールの舞台が狭いと思ってしまうほどの高くて大きな跳躍。若干足音はするものの、あれほど高く跳んでいたら無理もないだろう。それでいて、足先がきれいなので、これ見よがしな感じもしない。最後に倒れこむときには、一度ひざまづいてポーズを取ってから、徐々に倒れていくというふうに演技をしている。オペラ座が「ジゼル」を今度いつ上演するのかはわからないけど、ぜひマチアスにはアルブレヒトを踊って、表現に磨きをかけて欲しいって思う。


3)「椿姫」第1幕より
(振付:J.ノイマイヤー 音楽:F.ショパン)
エレオノラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュ/ピアノ:上田晴子

この二人の「椿姫」は6月末にガルニエで全幕を観て、非常に好感を持った。中でもペッシュのすべてを焼き尽くさんばかりの情熱には圧倒された。課題とされていたリフトもとてもスムーズだったし、エレオノーラの、リフトされている時のポーズもとても美しかった。今回は、「青のパ・ド・ドゥ」と呼ばれる、まだ出会ったばかりの二人のシーン。そしてペッシュのまっすぐで熱い(でもちょっと世慣れた感じ)のアルブレヒトに対峙するエレオノーラのマルグリット像が素晴らしかった。私がガルニエで観た時には、まだ今シーズン一回目ということで、必要以上に気負ったところが少し感じられたのだけど、役柄を踊りこんですっかり自分のものにした彼女の自信が伺えた。マルグリットという役は複雑で、クルチザンヌ(=高級娼婦)でありながらも、知性があって、誇り高くて、でも同時にこんな仕事に身をやつしている自分を憐れんでいる。常に矛盾と戦っているような存在。だから、咳き込んで苦しむ自分の姿を鏡に映して青ざめながらも、アルマンが情熱のまま駆け寄ってきた時には、ちょっとからかってみたりして、大人の女の余裕を見せようとする。真摯な愛に慣れていないから、足元に身を投げ出さんばかりに迫られた時には、思わず動揺してしまう。至福の瞬間と、死の予感に怯える気持ちが交錯する様子を見事に演じていたと思う。全幕を観たような満足感が、ここで再び得られてとても満足。


4)「メリー・ウィドウ」 ※世界初演
(振付:P.ラコット 音楽:F.レハール 衣裳:P.ラコット)
マリ=アニエス・ジロ、マチュー・ガニオ

最初に見たときには、マリ=アニエスの悪趣味一歩手前の迫力ある衣装に仰天した。未亡人であることを示すヴェールをかぶった上にマント。羽を使った髪飾り。黒を基調にストライプをウェストのところで絞ったようなチュチュからは白い脚が覗いているのだけど、決して太くないのに、脚だけ白タイツで露出しているので筋肉質の立派さが目立ってしまう。ヴェールを外され、マントを取ると、お尻のところにはでっかいピンクのリボン。でも、このキッチュな、ちょっとだけクリスチャン・ラクロワ風(でも、ラコット自身のデザインによるものだそう)の派手でゴージャスな衣装、結構洒落が効いていて面白いじゃない、と思えるようになってきた。ただ、マリ=アニエスのゴージャスさに対して、シンプルなタキシードのマチューは、華奢で小僧っ子のように見えちゃう。ちょっとだけバランスが悪かったかも。

でも、作品自体は、とっても楽しくて、ユーモラスで、華やかでガラに相応しいものだった。レビューショーのような小粋な要素もあるところはプティっぽいんだけど、マチューは、ラコット特有の鬼のような脚捌きバットゥリー系のステップを軽やかにこなし、最初は地を這うような軽いマネージュがどんどんダイナミックになっていて、最後はピルエット・ア・ラ・スコンドを見事に決める。マチューは脚のライン、つま先の美しさ、きれいに入る五番が絶品で、あんなにきれいなお顔をしているのに、思わず脚ばっかり観る羽目になっちゃう。

マリ=アニエスの方は、ピケをしながらのマネージュから始まり、軸足をかわるがわる変えながら前に進んでいくフェッテで32回転。あれだけ軸足を変えながらのフェッテはさぞかし難しいだろうに、軽々とこなしているところがさすが。途中で上手の椅子に腰掛け、ギャルソンにシャンパンをついでもらって乾杯すること2回。最初のうちは、マリ=アニエスだけが観客に視線を送っていたけど、そのうちマチューも追随していてウィンクし、思わず客席から笑いが漏れる。しかも二人とも本当にシャンパンを飲んでいるし!ラストは、マチューが白いブーケをマリ=アニエスに捧げ、白いヴェールをかぶせ、めでたくゴールインと思わせて走り去っていくところは「卒業」風で、おっしゃれ~。ラコットの作品で初めて良いと思ったかも!マリ=アニエスに依頼され、このガラのために創ったと言うけど、本当に彼女の個性にぴったりだった。

------------ 休憩 ------------------
5)「ラ・バヤデール」第1幕より
(振付:M.プティパ  音楽:L.ミンクス)
スヴェトラーナ・ルンキナ、バンジャマン・ペッシュ

イリがソロルを踊ると思っていたら、バンジャマンのソロルだった。ガラには珍しく、1幕冒頭のソロルとニキヤが密会する場面。このシーンは、カーテンの向こうから覗いて嫉妬に狂う大僧正がいないとちょっと盛り上がらない。ルンキナはとても美しいのだけど、あまりソロルに恋しているような雰囲気がなかったし、バンジャマンは、オペラ座の白いパジャマと鉢巻のようなソロルの衣装があまり似合わなくて。悪くはないんだけど印象には残りにくい演目になっちゃった。(しかも、幕の陰からマチューが熱心にこのシーンを見ているし)


6)「ロミオとジュリエット」第1幕より“マドリガル”
(振付:R.ヌレエフ 音楽:S.プロコフィエフ)
メラニー・ユレル、マチュー・ガニオ

これまたガラで踊られるのが珍しい、1幕でロミオとジュリエットが愛の芽生えを感じるシーン。ヌレエフ版特有の、一つ一つの音にパを入れていく非常に難しい振付を、メラニーは軽やかに、音に正確にうまく踊っていたと思う。ポール・ド・ブラもきれいだし、古典の技術については非常に高いものを持っているな、って思った。一生懸命ジュリエットの可愛らしく無邪気な表情を作っているのも好感度が高い。あれだけたくさん動く振り付けなので、どうしても、ちょっとやんちゃで中性的なジュリエットになってしまうのは致し方ない。ラストの、抱きしめられてちょっとびっくりした表情もキュートだった。マチューはいうまでもなく、とっても甘く麗しいロミオだったけど、途中で上着がはだけて、モンタビュー家の一員であることが判ってしまった時のあわて方が、一瞬とても真剣な顔になっていたのが素敵だった。いつか彼がロミオを踊る全幕を観たいなって思った。


7)「思いがけない結末 Unintended Consequence」 ※世界初演
(振付:J.ブベニチェク、マリ=アニエス・ジロ 音楽:E.クーパー)
マリ=アニエス・ジロ、イリ・ブベニチェク

丈の長い、白いビスチェドレスをまとったマリ=アニエスが美しい!「メリーウィドウ」のキッチュな衣装も、彼女のゴージャスな魅力を伝えてはいたけど、やっぱりこっちの方が彼女らしいと思う。イリとマリ=アニエスの共作で、男女の愛の行方が「思いがけない結末」というわけなのだけど、この二人がとても対等な関係、同じ強さや弱さを持った人間として存在しているのがよくわかる。ユニゾンで踊る動きもあればリフトもあり、上半身を大きく動かした流麗な振付で、スタイリッシュなのに人間味もある。同じ動きをしていても、マリ=アニエスは凛々しくも女らしい優しさが感じられる。イリはどうすればマリ=アニエスが一番美しく見えるのかがよくわかっているのではないかと思う。完全にリラックスした関係ではなく、強い信頼はあるけれども緊張感も漂っているのだ。エリザベス・クーパーによる音楽も素敵。イリの動きは独特の柔らかさと生命感があって、彼からも目が離せなくなってしまう。


8)「ベラ・フィギュラ Bella Figura」
(振付:J.キリアン 音楽:G.B.ペルゴレージ、A.ヴィヴァルディ)
シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ

ハンブルクからの二人がキリアンを踊るというのがまず新鮮。そして、あらためて二人のダンサーとしての無限の引き出しを感じられた演目だった。シルヴィアが愛らしくて演技力があるだけのダンサーではない、身体のコントロール能力も凄いというのがよくわかった。「ベラ・フィギュラ」のこのパートは、客席に背中を向けて踊ることが多いので、背中や四肢の表現力がないとつまらなくなってしまうのだけど、そんな心配はこの二人には無用。「ベラ・フィギュラ」というタイトルの通り、とても美しいフォルムを次々と、時にはシャープに、時には滑らかに作り出し、息もぴったり。天性のダンサーであるこの二人の化学作用で、新しい表現が生まれているなと思うほどだった。(「ベラ・フィギュラ」はNDTが踊った全編は観たことがあるのだけど、印象が全然違う)


------------ 休憩 ------------------

9))「カンツォーニ Canzoni」 ※日本初演
(振付:M.ビゴンゼッティ 音楽:N.ケイヴ)
エレオノラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュ

振付の一つ一つを見ていけば、フォーサイスのようなオフバランスを使っていたりするのに、どこか温かくて親密な空気が流れているのは、歌に合わせて、ゆっくりとしたムーヴメントだからか。その歌が、ニック・ケイヴの深い声による味わいの濃いものだというのがまた意外。エレオノーラは、やはりコンテンポラリーだと一段と輝きが増しているようで、強くしなやかで、リフトされている姿勢が美しい。バンジャマンの腕によって作り出された環の中に入って踊るという振付が一種独特。バンジャマンはとてもパッショネイトなダンサーだと思うけど、こうやって淡々とモダンな作品を踊る彼というのも素敵だし、彼の魅力が生きていると思う。それと、エレオノーラの、緑色のミニワンピースのような衣装が可愛かった。


10)「バーンスタイン・ダンス」より“Part1 Wrong Note Rag”
(振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.バーンスタイン)
アレクサンドル・リアブコ

この公演の白眉と言ってもいいかも!こんなアメリカ~ンな演目をノイマイヤーが振付けていたことを知らなかったけど、ノイマイヤーってアメリカ人だものね。これも歌モノで、軽快でジャジーな音楽に乗って、軽やかにサーシャが舞う。衣装はアルマーニだそうだけど、なんてことのないTシャツとパンツのよう。時々シャツがめくれておへそが出るのがご愛嬌。いつもは真面目そうなサーシャが、お茶目な表情で、ピチピチと奔放に飛び跳ねるのだけど、その中に高度な技術が盛りだくさん。細かくすばやいブリゼ・ボレやカブリオール、脚を180度開いての横へのジュッテなどの古典の技術を音にぴったり合わせて踊る。打ち付けるつま先の美しいこと!上体のしなやかなこと!大変そうには見せずに、サーシャはキュートな笑顔を保ち続ける。ラストのウィンクしながら指ぱっちんも、かわいいのなんのって。ホントにサーシャには、まだ知られざる引き出しがたくさんあるんだなあ、と。爽快な一作、何回でも何回でも観たい!


11)「ダンス組曲」
(振付:J.ロビンス 音楽:J.S.バッハ)
マニュエル・ルグリ/チェロ:宇野陽子

バッハの無伴奏チェロの生演奏に合わせて、ルグリが踊る。パジャマのような赤いジャージの上下(よく観ると、上はヴェルヴェットのような布地みたい)。以前ルグリガラのレッスン見学をしたときにも、赤いジャージを着ていたなあ、なんて思ったりして。この衣装は若干おっさんっぽいのだけど、ミーシャに振付けられたというオリジナルがこの衣装だから仕方ない。初日はチェロの宇野陽子さん(若くて可愛らしい女性)が非常に緊張しているようで、なかなかルグリと視線を交わすことができなくて、彼女ばかりが気になってしまったけど、舞台を繰り返すうちにほぐれてきたようである。幕が上がると、チェロを持つ彼女を見つめる、床にラフに座るルグリ。ちょっと崩した座り方が非常にセクシーで、たしかにこんな風に見られたら、ちょっと緊張して頬を赤らめてしまうかもなんて思ったりして。グランピルエット、ジュッテ、シェネ、バットゥリーなど、いろいろな踊りを見せていく。それにしても、ルグリという人は、彼自身が音楽というか、まるで彼の身体が音楽を奏で、音符になっているかのようだ。つま先の美しさには惚れ惚れ。大体4つのパートに分かれていて、曲と曲の間で、チェリストと視線を交わす。最初のパートでの美しい動きに思わず見入ってしまう。3曲目あたりで、ちょっと長くて単調だと思ってしまうのだけど、4曲目でまたのびのびとした動きにうっとり。その中に、でんぐり返しや側転などもあって、大人の男性が少年に帰ったような無邪気さを見せているのが、なんとも微笑ましい。ラストは、ピルエット・ア・ラ・スゴンドをずっと続けているのだけど、これだけ一人で踊りまくっていて、最後にこんなに体力が残っているのか、と思ってしまうほど。身体的にも、まだ少年のようなのだ。どこまでも正確でエレガント。さすがは生ける舞踊の神様、ルグリ様。

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