8/8,9 エトワール・ガラBプロ
すっかり時間が経ってしまって今更って感じなのですが、最近記憶力も怪しくなってきたので、少しでも覚えているうちに書いておこうと思います。2日分まとめて。
眠れる森の美女より「青い鳥」(振付:R. ヌレエフ)
メラニー・ユレル/アレクサンドル・リアブコ
2006年のハンブルク・バレエの来日公演で観た「眠れる森の美女」でのサーシャ(リアブコ)の青い鳥が、未だに鮮烈な印象がある。こんなに高く、鳥のように跳ぶ青い鳥を見たことがない、どこまでも飛んでいきそうな感じだった。だから、このガラでサーシャの参加が決まり、「青い鳥」を踊ってくれると聞いて本当に嬉しかった!一演目目だったので、絶対に遅刻しちゃいけないと思ったし。
で、やっぱりサーシャの青い鳥は素晴らしかった!高いブリゼ・ヴォレやアントルシャ・シスにはテクニックだけでなくエレガンスも備わっている。そして腕の動きはまさに鳥そのもの!自由で伸びやかでしなやか、まさに翼が生えているかのよう。ヌレエフ特有の細かく詰め込んだ振付なのにそれを感じさせず、指先や足先まで気配りが行き届いていて、軽やかなこと。2日目は、ちょっと疲れが出たのか、着地で手をついてしまったり、やや不調気味だったようだけど、初日はほとんど完璧。メラニー・ユレルも二日目は調子が悪かったようで、サポートつきピルエットが2回ほどぐらついてしまったけど、チュチュがよく似合っていて、典雅な感じではあった。
「モーメンツ・シェアード」(振付:R.V. ダンツィヒ)
エレオノーラ・アバニャート/マニュエル・ルグリ ピアノ:上田晴子
ちょっと短くて強い印象が残らないで終わった演目だけど、流れるように美しい。ちょっと茄子紺のような色の衣装も素敵。そしてエレはやっぱりコンテンポラリーだと素敵。リフトされている姿がきれいにきまっているし、大人っぽいクールな表情も、猫系の顔によく合っている。ルグリのいつもながらによどみない、ロールスロイスの用途形容されるサポートにもブラボー。
「白鳥の湖」第2幕より
スヴェトラーナ・ルンキナ/マチュー・ガニオ
ルンキナの白鳥は、も~ロシアの白鳥!!!って感じ。身長が高いわけではないのに、小さな愛らしい顔、華奢で長い腕と脚、柔らかい上半身。今回出演のどの女性ダンサーよりも、クラシックな身体の持ち主で飛びぬけて美しい。観客までもが凍てついた湖畔に連れて行かれるような、冷たいマイナスイオンの空気で会場が満たされる。ルンキナの白鳥はとても悲しく儚い白鳥。一方の王子は、これまた美しい、絵に描いたような王子のマチュー・ガニオ。王子は一生懸命白鳥に愛を伝えようとするのだけど、ついぞ白鳥は、王子に心を開いてくれませんでした。アダージオの間、二人の距離は縮まらなかった。王子に白鳥は癒されなかったのだ。
「ロミオとジュリエット」第3幕より“寝室のパ・ド・ドゥ”(振付:J.ノイマイヤー)
シルヴィア・アッツォーニ/バンジャマン・ペッシュ
いきなり寝乱れたベッドから始まるというちょっとアダルトなシーン。とても可憐で少女そのもの、妖精のようなシルヴィアと、ちょい悪系のバンジャマンなので、悪い男が何も知らない少女をたぶらかしたかのよう。金髪を垂らして眠っているジュリエットの頬にキスをするバンジャマン、うーんセクシー。悪い男なんだけどけっこう純情で、情熱的で…ってそれはロミオと違うじゃん、というのは置いておいて、バンジーは役者だと思う。目覚めたジュリエットに背中から抱きつかれ、マントを前方に飛ばす。初夜が明けて、永遠の別れが待っているというのに、シルヴィアのジュリエットはどこまでもピュア。ロミオと無邪気に手を合わせて戯れる。ジュリエットはまだ14歳なんだなって、でもこれからの数時間で、何年分も成長しちゃうんだなって。そんなジュリエットを置いてきぼりにするように、ロミオは走り去ってしまう。そしてプロコフィエフのドラマティックな音楽が鳴り響き、ジュリエットをわが身に重ねながら、恋人たちを待っている運命に思いをめぐらせ、切なさに胸が切り裂かれそうになる。来年デンマーク・ロイヤル・バレエの来日公演で、このノイマイヤー版を見られるのが楽しみ!
「カノン」(振付:イリ・ブベニチェク)
マチュー・ガニオ/アレクサンドル・リアブコ/イリ・ブベニチェク
昨年の「融」公演でパッヘルベルのカノンに乗せて、ドレスデン・バレエのダンサーによって全編が踊られた作品が、また観られるので嬉しかった。イリ・ブベニチェクが振付けた「カノン」は、音楽的この上なく、至福の時間。3人のダンサーがユニゾンで動いている時の美しさと言ったら!サーシャもマチューも魅力的だったけど、初日マチューが他の二人と並んでしまうと、音に遅れるところがあった。二日目は慣れたのか、遅れなくなった。ダンサーとしてのイリの存在感がすごくて、驚異的な柔らかさと強靭さ、マスキュリンさ、音楽性…。底知れぬ才能を持った人だと改めて実感。生きている、生身の人間がいる!と思わせてくれた。3人のダンサーが背中を向けて舞台の奥へと歩いていくところから始まり、一旦暗転。最初にサーシャ、次にイリ、そしてマチューがまさにカノンのように、一人ずつ踊り、そしてユニゾンのパートへ。マチューの動きが一番クラシカルだし、身体のラインは本当にきれい。サーシャは、踊ることが幸せで仕方ないという風に、のびのびと踊っているし腕がきれい!いつまでも観ていたい、終わって欲しくない、そんな素敵な作品だった。今回のガラで上演された作品の中でも、一番好き!
「瀕死の白鳥」(振付:フォーキン)
マリ=アニエス・ジロ ピアノ:上田晴子
羽のたくさんついた、とてもボリュームのあるチュチュを着たマリ=アニエスがパ・ド・ブレで滑るように滑らかに入ってくる。腕の動きは細かくて、腕そのものが意思を持って動いているかのよう。瀕死の白鳥とはいっても、しに直面した印象は受けない強さ、凛々しさがある。そして彼女の背中の強靭そうな筋肉の蠢き。こんなに強く戦う意思を持った白鳥でも、死んでしまうのかと思うと、生命の無常を感じる。音楽もピアノの演奏だし、一般的に考えられる儚い「瀕死の白鳥」ではまったくないのだけど、自身がそういった瀕死の白鳥が似合わないことを判っていて、あえて自分なりの独自のアプローチでこの作品を踊ったマリ=アニエスの心意気は感じた。
「マーラー交響曲第5番 アダージェット」(振付:ノイマイヤー)
シルヴィア・アッツォーニ/バンジャマン・ペッシュ
シルヴィアとバンジャマンが並ぶと、身長のバランスがちょうど良いのがよくわかる。そして、ちょっと「アポロ」の衣装に似た白い衣装が、彼によく似合っていて、つるりとした彼のストイックな筋肉とあいまって、意外なことに彫刻のような美しさと神聖さを感じた。そしてシルヴィア!物語のない、シンフォニック・バレエ、しかも「アダージェット」を使っているのだけど、この曲に特段の思い入れのない私にとって、シルヴィアはとても純化された、月日を経て磨かれた宝石のような美の化身になっていて、なんともいえない情緒や普遍性を感じさせてくれた。
「ドリーブ組曲」(振付:ジョゼ・マルティネス)
エレオノーラ・アバニャート/マチアス・エイマン
マチアス!!!彼を観ると、なんでこんなにも頬が緩んでしまうんだろう。彼の未だ見えざる、無限の可能性をかいま観る気がした。去年のルグリガラから1年でこんなに成長するとは。まだ荒削りの部分もあるけれども、どこまでも高い、胸のすくような跳躍の中にもあるエレガンス、そして独特の甘さが魅力的で、目が離せない。彼は観客に愛されるダンサーのようで、全体のカーテンコールの時も、ルグリの次くらいに多く拍手をもらっていたと思う。あの逆回転マネージュも難なくクリア。エレオノーラは、アニエス・ルテステュデザインの紺色の衣装が金髪によく映えて美しい。彼女がこのようなクラシック寄りの演目を踊るのは珍しく、飛ぶ鳥を落とす勢いのマチアスと並ぶと、若干古典技術の弱さが見えてきちゃう。軸足を変えてのピルエットなど難しいテクニックが山盛りになっている作品で大変そうだったけど、ノーミスでちゃんと踊れてはいた。
「トリオ」(振付:S.L. シェルカウイ)
マリ=アニエス・ジロ/イリ・ブベニチェク/アレクサンドル・リアブコ
プログラムには「デュオ」となっていたけど、結局サーシャが加わって「トリオ」になった。音楽は「ファド」という民族音楽ジャンルの、哀感ある女性ヴォーカル。まずはサーシャのソロ、続いて、長い赤いドレスをまとったマリ=アニエスとイリの踊り。マリ=アニエスのスカートを頭にかぶせるところが面白い。この二人のパ・ド・ドゥには二人の間の信頼関係みたいなのか感じられて、じーんとした。その次は、スポットライトを真ん中にして、片側にイリ、片側にサーシャが左右対称な感じで踊る。そしてモスグリーンのやはり長いドレスを着たマリ=アニエスのソロ。またスカートを頭にかぶって斃れこむ。最後は、男性二人が加わり、まずマリ=アニエスがゴロゴロと転がり、ついでサーシャ、最後にイリが一緒に、ほとんど横一直線にゴロゴロと前へと転がっていく。この転がり方がスムーズなのに感心した。最初はすごく面白いな~と思っていたけど、途中からちょっと長いかも、と感じるように。が、最後の3人ゴロゴロはちょっとシュールで笑っちゃうほどだけど、独創的。力のある3人のダンサーがこういう作品を踊るのは興味深い。
「マノン」第1幕第2場より“パ・ド・ドゥ”(振付:マクミラン)
スヴェトラーナ・ルンキナ/マニュエル・ルグリ
ルンキナが演じるマノンの、無邪気さの中に小悪魔性を秘めた美しさ。そう、本物の悪魔は、悪魔の姿をしているんじゃなくて、こんな風に黒い巻き毛を白い肌に垂らした純情可憐な美少女の中に住んでいるものなのだってことがよくわかる。手紙なんか書くのやめちゃいなさいよっと、マノンがデ・グリューから羽ペンを奪って放り投げるところなんか、矢印のついた尻尾が覗いちゃって。でもそんなことをされちゃって、デ・グリューは嬉しくて嬉しくて仕方ない。目をキラキラさせちゃってハートにしちゃって。ルンキナを軽々と、ボールを転がすようにリフトするルグリ!しかもこの人は、演技で20歳は若返ることができるから、びっくり。恋する青年そのもの。手をつなぎながら回転したり、お互いに引っ張り合ってバランスを取ったアラベスクするところも軽やかで、もう。最後にマノンをぎゅっと抱きしめる時のルグリ先生の熱さといったら。うっとり。ガラの中でのシーンとしては、十分満足できた。「マノン」の全幕観たいな~。
カーテンコールでは、ルンキナがルグリの腕の中に飛び込んでお姫様抱っこ状態になるというサービスまで見せてくれた!本当にルンキナは天使の姿をした悪魔だわ。
こんな豪華な公演が、こんなお値段で観られていいの、と思うほどの充実振り。素晴らしかった!功労者バンジャマンに大感謝。しかし、プロデューサーなのにその他大勢で普通にカーテンコールされるバンジーって、控え目な性格なのね。事情を知らない人は、彼がそういう立場だって気がつかないだろうに。というわけで、実はここしばらく、バンジャマン・ペッシュ株が私の中で急上昇中なのだ。
単なるパ・ド・ドゥ集ではなく、組み合わせを変えてのペア、男3人で踊る作品、ソロ、男女トリオという変則的な作品の数々。ガラで良く上演されるシーンだけではなく、「ロミオとジュリエット」の3幕PDDやマドリガル、「ラ・バヤデール」1幕から切り取ってみたり、「椿姫」も黒ではなく青のPDDだったり、工夫がふんだんに凝らされているのも良かった。また世界初演作品や日本初演作品もあったし、意欲的なプログラムぞろいだったと思う。
次回も絶対にこの企画は開催して欲しい。その時には、出演者の降板で実現しなかったプレルジョカージュの「Trait d’union(アン トレドュニオン)」 や「受胎告知」を上演して欲しいな、というのが主催者(Bunkamura様様)とバンジーへのお願い。そして今回出られなかった3人も出られるといいな。特にエルヴェとレティシア。(あ、誰か忘れている?)
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コメント
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naomiさん、こんばんは。
本当に余韻の残る素晴らしい公演でしたね。Aプロ、Bプロ合わせてどの演目も非常に興味深いものでしたが、特にカノンとマノン(何か似たような名前ですね)には胸を締め付けられるような切なさと甘美さを感じました。イリ・ブベニチェクを見るのは初めてでしたが、振り付けのセンスも良いし、背中を大きく反らしたときのラインの美しさがたまりません。ルンキナは「こんな可愛いマノンなら騙されても仕方が無い」と思わせてくれたし、ルグリは恋する若者を演じさせたら天下一品ですね。(しかし、ルンキナの白鳥はなぜあんなに冷たいんでしょう?)
私の中でもプロデューサとしてのペッシュの株は赤丸急上昇です。アンケートには今回見れなかった受胎告知やアザー・ダンスが見たいと書いておきました。素晴らしい舞台を見た後は、ダンサーはもちろん、その公演に関わった全ての人にお礼が言いたくなります。そして、自分が恵まれた環境にいることを感謝せずにはいられません。
ところで、私はまだベランガールを見たことが無いんですが、会場でお話した人も「見たくない」と言っていたし、そんなに人気のない人なんですか?
投稿: pelu | 2008/08/19 22:35
peluさん、こんばんは。
そうそう、「カノン」と「マノン」は今回の公演の白眉だったと思います!たしかにルンキナの白鳥はひんやりとしていましたね。ボリショイの来日公演、彼女の出演する回は買っていないんですが(単に経済的な理由から)、いくかどうか迷っています。
ちゃんとアンケートに書かれたんですね!しかも完璧な記入で。本当に、ダンサーのほか、関係者の皆様には深く感謝ですね。ペッシュも、アンケートを書いてねと言っていました。
ベランガールは、前回のエトワールガラで振付けた作品が自己満足以外の何者でもなく、最悪でした。それに、前回の来日公演でルグリとマチューの代役で「パキータ」に出たときも最悪で(エレガンスの欠片もないし脚が美しくない)、友達はみんな、口直しのためにペッシュ&オスタのソワレのチケットを買い足していました。なんでエトワールなのか理解できない一人です。
投稿: naomi | 2008/08/19 23:33
回答ありがとうございます。naomiさんにそこまで言わせるダンサーも珍しい(笑)。しかも「なんでエトワールなのか理解できない一人」と言うことは、他にもそういう人がいるってことですね。注意しなきゃ。
さて、エトワール・ガラではノイマイヤー作品とシルヴィア、サーシャの魅力を堪能させてもらいましたが、ハンブルグ・バレエのチケット代の高さ、会場、日程には気分が萎えてしまいます。いい加減招聘元変えて欲しいけど、そうすると地方公演が成り立たなくなるでしょうね。。。
naomiさんお勧めのDVDにも食指が動きますが、当分後回しになりそうです。
投稿: pelu | 2008/08/20 23:14
peluさん、こんばんは。
私は結構毒舌なので(笑)人の好みもあると思いますし、ベランガールはコンテンポラリーは良いと言っている人もいるので。
ハンブルク・バレエ、本当にチケットも高いし会場も日程もよくないですよね。「椿姫」を東京でやらないなんて何を考えているんだろうと思ってしまいます。「椿姫」は演奏もテープだなんて信じられないですよね。
とはいっても、何回かは見に行くので、本当に金欠になってしまいます。そろそろチケットも発売だし祭典会員向けには先行発売の案内も来ているので…。
投稿: naomi | 2008/08/22 01:37