ABT「オールスターガラ」初日に行って来ました。日本初演のトワイラ・サープ振付「ラビット・アンド・ローグ」はどんな作品なのか、期待と不安を抱えながら行った訳ですが、楽しかったです。
幕開けは「ラ・バヤデール」のパ・ダクシオン。4人ずつの女性ソリストはまずまずだったのですが、コール・ドは見事なまでにばらんばらんでした。ABTに揃ったコール・ドを期待する方が間違っていると思いますが。男性二人のソリストが、私の個人的ひいきのアレクサンドル・ハムーディと、「海賊」でコンラッドを踊る期待の新星コリー・スターンズ。二人とも長身でルックスよく見栄えのするダンサー。跳躍もダイナミックだったし、背中も柔らかくて素敵でした。コリーはちょっとステファン・ビュヨンに似ていますね(黒髪巻き毛で、顔も少し似ている)。
ガムザッティのミシェル・ワイルズは良くなかったです。この人はテクニックを売りにしているはずなのに、なんで膝が下を向いたり下がったりするんでしょう。全体的な踊りも雑だし、ヴァリエーションも思い切りが足りないし。回転だけは得意のようで、フェッテはダブルを入れながらよく回っていました。デヴィッド・ホールバーグは、やっぱり容姿は本当に美しくて長い脚のラインともども惚れ惚れします。派手なタイプではないけど、端正で王子様なソロルでした。白鳥の王子は残念ながら金曜マチネで観られないので、耽美的であるはずのロットバルトを楽しみにします。
「マノン」寝室のパ・ド・ドゥは、とっても素敵でした。ジュリー・ケントはあまり得意なダンサーではないのですが、この1幕のマノンははまり役で、美しくてコケティッシュ。実に魅惑的でした。そして彼女のお気に入りのパートナーであるマルセロ・ゴメスが甘くて端正で温かくて、二人の息はぴったり。甘美な雰囲気に浸ることのできた6分間でした。カーテンコールの反応もとてもよかったです。
「白鳥の湖」2幕グラン・アダージオはコール・ドつきだったのですが、コール・ドはなくても良かったかも。イリーナの白鳥はとてもドラマティック。その女らしい曲線美と、雄弁な表情は、人によってはマニエリズムを感じてしまうかもしれないけど、美しく儚いだけでなく、温もりの感じられるフェミニンでほんの少し妖しさを感じさせていて素敵でした。マキシムは、この場面ではサポートに徹していたけどノーブルな王子様。
「シナトラ組曲」は、アンヘルで観るのを楽しみにしていたけど、彼の降板でマルセロに。マルセロは大好きなんだけど、この演目は彼でしか見たことがないので、違うダンサーで観てみたかった。しかし、シナトラの曲に載せて一見優雅で簡単そうに見えて、ものすごく複雑なリフトやサポート、アクロバティックな振付なので、これをスムーズにザポートできるマルセロはやっぱり凄い。あのズサーっとスライドするところも決まっていて、酔えました。
「ドン・キホーテ」GPDDは、ニーナの本領発揮。明るくて華やかで、すごく可愛い!ニーナはもう「ドン・キホーテ」の全幕を踊らないとのことだったけど、それが信じられないくらい、まったく衰えというのを感じさせませんでした。大輪のひまわりのよう。心配していたフェッテもまったく心配なく、前半は腰に手を当てての回転で、すべてシングルだったけど軸のブレもなく、とても安定していました。やはりアンヘルの降板でホセ・カレーニョのバジルだったけど、全盛期のキレは落ちたものの、こちらも安心してみていられました。ニーナもホセも、まだまだ踊って欲しい。でも、ニーナがABTで来日するのはこれが最後かと思うと、ちょっと涙も出てきちゃいました。
「ラビット・アンド・ローグ」は、45分とけっこう長い作品で、音楽はダニー・エルフマンのオリジナル。ティム・バートンの監督作品の音楽担当として、映画音楽で活躍してきたエルフマンの曲だけあって、ちょっと映画的で面白い音楽でした。「ガムラン・カップル」という役名があるように、ちょっとエキゾチックでガムラン調のメロディも出てきます。ダンスの方はトワイラ・サープの、「イン・ジ・アッパー・ルーム」の流れを汲むような、ノンストップ・アクションもので、女性は銀色のポアントを穿き、バレエのテクニックをメーンにしながらもちょっとカンフーっぽいところがあったり、フィギュア・スケートっぽかったり、ピルエットやリフトがたくさん出てきます。入れ替わり立ち代りダンサーたちが入っては出てきます。
主役のラビット(エルマン・コルネホ)とローグ(イーサン・スティーフェル)以外のダンサーは、2回くらい着替えています。ちょっと遅くなっちゃったし、明日観る人もいると思うので細かいことは書きませんが、主役の二人のテンションが凄く高くて、大変なことになっていました。やっぱりエルマン・コルネホの身体能力は半端じゃなくて、跳ぶ、回る、走る!彼は本当に凄い~!それから、イーサンは、バランシンで鍛えられているものだから音楽性がすばらしく、細かいステップや回転もシャープでお手の物。張り切りすぎているかな、と思うところもあったけど元気いっぱいに楽しそうに踊っているのが、観ていて嬉しかったです。二人の掛け合いも楽しい。準主役の2つのペア、ジリアン・マーフィ&デヴィッド・ホールバーグ、それからパロマ・ヘレーラ&ゲンナディ・サヴェリエフもとてもよかったです。パロマやデヴィッドは、こういう作品の方が本領が発揮できているんじゃないかって思いました。それと、もうひとつ主要な役として男女二人ずつのカルテットがありますが、これが、クレイグ・サルスティンとカルロス・ロペス、加治屋百合子さんとマリア・リチェットでした。クレイグがお茶目でとてもキュートでした。男性二人で女性をリフトしたり、このあたりはかなりアクロバティック。加治屋さんも、カッコよかったです。ユーモラスなところも多い作品で、ラビット(紳士)とローグ(ならず者)が対決しながらも、最後には和解するというもの。メリハリがないというかずっと高いテンションが続きっぱなしで、見ていて疲れる部分もあったけど、ノンストップ・ハイパーテンションで観ていて気持ちよく楽しかったです。いかにもABT向きの作品。明日は、また違ったキャストで観られるのが楽しみ!
指揮:デイヴィッド・ラマーシュ/オームスビー・ウィルキンス (ラビット・アンド・ローグ)
管弦楽:東京ニューシティ管弦楽団
第1部
「ラ・バヤデール」パ・ダクシオン
振付:ナターリア・マカロワ/音楽:ルードヴィヒ・ミンクス/衣裳:セオニー・V・オールドレッジ/照明:小川俊郎
出演:ミシェル・ワイルズ/デイヴィッド・ホールバーグ
イザベラ・ボイルストン、マリアン・バトラー、アン・ミルースキー、レナータ・パヴァム、マリーヤ・ブイストロワ、メラニー・ハムリック、メリッサ・トーマス、リーヤン・アンダーウッド、アレクサンドル・ハムーディ、コリー・スターンズ
ニコラ・カリー、ツォンジン・ファン、ニコール・グラニーロ、エリザベス・マーツ、エリーナ・ミエッティネン、ジェシカ・サーンド、クリスティーン・シェヴチェンコ、サラ・スミス、デヴォン・トイチャー
メアリー・ミルズ・トーマス、カレン・アップホフ、キャサリン・ウィリアムズ、グレイ・デイヴィス、トビン・イーソン、ケネス・イースター、ダニエイル・マンティ、アレハンドロ・ピリス=ニーニョ、アロン・スコット
「マノン」寝室のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ/衣裳:ニコラス・ジョージアディス
出演:ジュリー・ケント/マルセロ・ゴメス
「白鳥の湖」第2幕グラン・アダージオ
振付:ケヴィン・マッケンジー/音楽:P.I.チャイコフスキー/衣裳:ザック・ブラウン
出演:イリーナ・ドヴォロヴェンコ/マキシム・ベロセルコフスキー
カリン・エリス=ウェンツ、レナータ・パヴァム、アン・ミルースキー、ジャクリン・レイエス、ヒー・セオ、クリスティ・ブーン、マリーヤ・ブイストロワ、カレン・アップホフ
ユン・ヨン・アン、ジェマ・ボンド、イザベラ・ボイルストン、ニコラ・カリー、ツォンジン・ファン、ニコール・グラニーロ、イサドラ・ロヨラ、アマンダ・マグウィガン、シモーヌ・メスマー
エリーナ・ミエッティネン、ローレン・ボスト、サラ・スミス、サラワニー・タナタニット、デヴォン・トイチャー、メアリー・ミルズ・トーマス、リーヤン・アンダーウッド、ジェニファー・ウェイレン、キャサリン・ウィリアムズ
「シナトラ組曲」
振付:トワイラ・サープ/舞台指導:エレイン・クドー/音楽:フランク・シナトラ/衣裳:オスカー・デ・ラ・レンタ/照明:ジェニファー・ティプトン/歌:フランク・シナトラ
"夜のストレンジャー" "オール・ザ・ウェイ" "ザッツ・ライフ" "マイ・ウェイ" "ワン・フォー・マイ・ベイビー (アンド・ワン・モア・フォー・ザ・ロード)"
出演:ルチアーナ・パリス/マルセロ・ゴメス
「ドン・キホーテ」グラン・パ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/音楽:ルードヴィヒ・ミンクス/衣裳:サント・ロクァスト
出演:ニーナ・アナニアシヴィリ/ホセ・カレーニョ
第2部
「ラビット・アンド・ローグ」
振付:トワイラ・サープ/音楽:ダニー・エルフマン/衣裳:ノーマ・カマリ/照明:ブラッド・フィールズ/音響デザイン:ダン・モーゼス・シュライヤー/振付補佐:キース・ロバーツ
ローグ(ならず者):イーサン・スティーフェル
ラビット(紳士):エルマン・コルネホ
ラグ・カップル:ジリアン・マーフィー、デイヴィット・ホールバーグ
ガムラン・カップル:パロマ・ヘレーラ、ゲンナジー・サヴェリエフ
カルテット:加治屋百合子、マリア・リチェット、カルロス・ロペス、クレイグ・サルステイン
アンサンブル:クリスティ・ブーン、マリアン・バトラー、ミスティ・コープランド、シモーン・メスマー、ジャクリン・レイエス、サラワニー・タナタニット
トーマス・フォースター、ジェフリー・ガラデイ、アレクサンドル・ハムーディ、ブレイン・ホーヴェン、パトリック・オーグル、アイザック・スタッパス
【序曲】~【1.浮かれ騒ぎ】ローグ、ラビット、アンサンブル、カルテット~
【2.ラグ】ラグ・カップル、カルテット、アンサンブル、ローグ~
【3.リリック】ラビット、カルテット&アンサンブル、女性、ローグ~
【4.ガムラン】ガムラン・カップル、カルテット、アンサンブル、ラビット、ローグ~
【5.フィナーレ】ラビット、ローグ、ラグ・カップル、ガムラン・カップル、カルテット、アンサンブル
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さて、プログラムの方ですが、嬉しいことにプリンシパルやソリストだけでなく、コール・ドまで全員分の写真が載っています。そして、巻末には、2009年11月マリインスキー・バレエ来日公演「白鳥の湖」「眠れる森の美女」の広告がありました。マリインスキーは毎回「白鳥の湖」を上演しますが、たまには別の作品も観たいです。
それと、2010年2月にはニーナ・アナニアシヴィリとグルジア国立バレエ「ロミオとジュリエット」他とありました。ニーナがジュリエット役を踊るということで、こちらも楽しみですね。
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