キューバ国立バレエ「ドン・キホーテ」DVD
パリのシャンゼリゼにあるFNACで、キューバ国立バレエの「ドン・キホーテ」を購入。28ユーロと、定価よりほんの少し割引をしていたけど、ユーロ高なので5000円くらいかな。リージョンALLでNTSC、普通のDVDプレイヤーで観られます。
キューバ国立バレエ Ballet Nacional de Cuba 「ドン・キホーテ」 Don Quijote
振付:アリシア・アロンソ
キトリ:ヴィエングゼイ・ヴァルデス
バジル:ロメル・フロメタ
メルセデス:Sadais Arencibia
エスパーダ:Miguel Angel Blanco
ジプシー:Taras Domitro
ドリアードの女王:Yanela Pinera
発売元:BelAir Classiques
2006年の世界バレフェスティバルで観客を沸かせた、キューバ国立バレエのスーパーテクニック・ペア、ヴィエングゼイ・ヴァルデスとロメル・フロメタが主演した「ドン・キホーテ」。2007年7月にパリのグラン・パレで収録されたもの。グラン・パレは、先日私がパリに行った時にはマリー・アントワネット展を開催していた会場で(最終日に行ったものだから1時間半も炎天下で待つ羽目に)、バレエ専用ではない。セットはほとんどなく、舞台の上のスクリーンにコンピュータで背景を映し出していていささか寂しい。音楽も生演奏ではなく、録音。お国事情を反映してか、衣装もセンスが悪くてちょっと気の毒になるくらいであったけど、ダンサーたち、特に男性ダンサーのクオリティは非常に高い。そして、いかにもラテン的な、生き生きとした熱い息遣いが伝わってくる。
この映像に出演しているMiguel Angel Blanco(エスパーダ)と、Taras Domitro(ジプシー)は昨年末に米国へと亡命した。まだ21歳というTaras Domitroは、この映像の中でも、思わず開いた口がふさがらないほどの凄まじいテクニックを見せてくれているけど、なんとプリンシパルでサンフランシスコ・バレエに入団したとのことだ。
http://www.sfballet.org/newsfeatures/newspress/pressreleases/view.asp?id=10193102
長さはわずか96分というコンパクトなもの。1幕では、いきなり街のシーンから始まるし、通常はキトリの友人たちを含めたパ・ド・トロワになっているところが、バジルのソロになっている。2幕には居酒屋のシーンがなく、3幕では、キトリがガマーシュと無理やり結婚させられそうになっている結婚式に、バジルが乱入して狂言自殺を企てる。そしてグラン・パ・ド・ドゥには、女性ダンサーによる2つのヴァリエーションもなし。3幕の流れはユニークだと思うけど、ヴァリエーションが少ないのがちょっと物足りないかな。
ヴィエングゼイ・ヴァルデス(ちょっとディアナ・ヴィシニョーワ似)とロメル・フロメタがすごいテクニックの持ち主なのは折込済みなのでさほど驚かないけど、まずびっくりしたのが、1幕に登場する闘牛士軍団の踊り。コール・ドなのに、なんでみんな揃いも揃ってあんなに高く跳躍し、空中で静止するがごとく浮かび、足先も綺麗に伸びているんだろう!コール・ドのダンサーがこれほどまでにスーパーテクニックを持っていることにびっくり。エスパーダのMiguel Angel Blancoは背が高く、脚も長くて甘いマスクの持ち主。背中が非常に柔らかい。彼に限らず、ここのダンサーは柔軟性も非常に優れている。難点をいえば、上半身が柔らかすぎて、安定していない人が見受けられることだろうか。プロポーションも様々で、良い人もいれば、筋肉質すぎる人も。女性ダンサーは、コール・ドはとても揃っていて、同じメソッドを学んできた人ばかりなので特にポールドブラはぴたりと合っている。ただ、非常に残念なのが、女性の衣装が致命的といっていいほどダサく、スカートが中途半端な長い丈なので、脚の美しさがわからないこと。
通常キトリの友人たちとのトロワになるところでのバジルのソロ、まずここでのロメル・フロメタがすごい。トゥール・ザン・レールして、片脚ルルベで着地してまたトゥール・ザン・レールを繰り返す。風を切るような回転。それに続くキトリのカスタネットのソロ。ヴィエングゼイ・ヴァルデスの背中が非常に柔らかく、本当に両脚と両手がくっつくんじゃないかと思うほど。とにかくすごい!
2幕は、やはりジプシーのTaras Domitroのテクニックに驚く。こんなことをやってのけるのか!と口をあんぐり。「海賊」のアリのヴァリエーションなどで、両脚を前後に入れ替える技があるけど入れ替えた後にそのまま真横に脚を開いて浮かんでいるのである。凄過ぎ。ピルエットのスピードも凄い。さすが、いきなりサンフランシスコ・バレエにプリンシパルで採用されるだけのことはある。顔もハンサムでプロポーションも良く、これから大いに活躍することだろう。
夢のシーンで残念なのが衣装。アロンソ版では、キトリ=ドルシネアではなく、Kバレエなどと同じで、トウシューズを穿かない女性がドルシネアとして登場。キトリはなんだかジゼルみたいな衣装を着ているし、ドリアードの女王やコール・ドも丈の長い垢抜けない衣装で、せっかく良く揃っているしテクニックも優れているのに、美しく見えない。キューピッドのソロすらないし…全体的にアロンソ版の演出は良くない。
3幕では、無理やりガマーシュと結婚させられそうで厭々している花嫁姿のヴァルデスが可愛い。集まった人たちも、結婚式用の服装をしている。そこへ「ちょっと待った!」と乱入してきたバジル。この狂言自殺のシーンは、スイートな魅力を持っている主役二人が、愛らしいカップル振りを見せてくれて微笑ましい。フロメタのヴァルデスへの胸のタッチの仕方も凝っている。
そしてグラン・パ・ド・ドゥは、世界バレエフェスティバルの再現とばかりに凄いことになっていた。ヴァルデスの長~いバランスは、バレエフェスの時の方が安定していたと思うけど、それにしてもこれほどまで長いバランスをできる人が世界に何人いるんだろうか。アダージョでは、アチチュードからサポートなしでパッセを通りドゥヴァンまで脚を滑らかに移動させる。そしてルティレからまた、サポートなしでポアントでバランスしたまま、アチチュードアラベスクまで移動。やっぱりすごい。アダージオの最後は、ピルエットも途中からサポートなしでのトリプル、バジルもキトリを空中に放り出してキャッチ。バジルのヴァリエーション、フロメタは身体を45度に傾けてのクペ・ジュテ・アン・トゥールナンだけど、これも空中で静止する瞬間が見える。脚も非常にきれいに伸びていて観ていて気持ちよい。そしてキトリの32回転フェッテは、トリプルを織り交ぜているけど、4回転も間違いなく2回は入っていて、本当に凄いとしか言いようがない!一歩間違えれば、たしかにバレエというより体操競技のようではあるんだけど、二人とも心底楽しそうに、踊れる喜びを表現しているので好感が持てて、観ている側も思わずニコニコしちゃう。この凄すぎるパフォーマンスがこうやってDVDに残って良かった。
カーテンコールには、アリシア・アロンソも手を引かれて登場した。
そして、映像特典が30分ほどある。アリシア・アロンソのインタビューを中心に、主演の二人のインタビューも。ヴィエングゼイ・ヴァルデスはバレエを始める前は新体操をやっていたとのこと。黒いドレスを着ていてとても可愛い。それから、アリシア・アロンソとアザーリ・プリセツキーが踊った「ジゼル」の映像、アロンソがウラジミール・ワシリエフと踊った「ドン・キホーテ」の映像も挿入される。さらには、グラン・パレでのリハーサルの模様も。アロンソは80歳をとうに過ぎていて目も見えないというのに、非常にかくしゃくとして、ダンサーを指導しているのですごいなあ、と思った。これはまたとても貴重な記録。
DVDはFNACのサイトで買えます。
http://video.fnac.com/a2260308/Don-Quichotte-DVD-Zone-2?PID=3&Mn=-1&Ra=-3&To=0&Nu=8&Fr=0
追記:フランスのアマゾンで買ったほうが少し安いようです。
http://www.amazon.fr/Don-Quijote-Ballet-National-Cuba/dp/B0018KW3XS
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ヴィエングゼイ・ヴァルデスとロメル・フロメタは2008 International Gala Hikasa Ballet 国際交流公演似出演します。二人の出演演目は以下の二つ。
●ドン・キホーテ グランド・パ・ド・ドゥ
●ディアナとアクティオン
http://www.ancreative.net/
楽しみですね!
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こんにちわ~
前回のバレエフェスで度肝を抜かれてから、来日または映像化を
楽しみにしていました。
naomiさんの解説を読ませていただくと、見たい気持ちが高まります!!
ポチッとしちゃおうかしら。
しかしただでさえラテン系ダンサー大好きな F 嫁が、華麗な闘牛士軍団の
ジャンプを見て「キューバに行きたい」などと言い出さないかが心配です(爆)
投稿: F | 2008/07/12 11:21
Fさん、こんばんは。
ロイヤル祭りお疲れ様でした!Fさんにとってはユフィちゃん祭りだったかな?今日も可愛かったですね~そしてご一緒できて楽しかったです!
このDVD楽しかったですよ~。日本での入手がちょっと難しいのが難ですが、キューバ人ダンサーって凄いんだな、って思います。主役以外も上手いし。でもお金もないんだな、とか考えさせられますが。
華やかなF嫁さんはキューバ、似合いそうです。キューバ観光、実は私も一度行ってみたいです(「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を観て聴いて以来。
投稿: naomi | 2008/07/15 01:50