英国美術の現代史:ターナー賞の歩み展
「芸術都市パリの100年展」に行った後、六本木に移動して、キム・ギドク監督の新作「ブレス」を観ようと思っていたのだけど、一日一回だけの上映になっていた上、1日で映画の日ということもあり、満席で入れてもらえず。どうしようかと迷った挙句、なかなか行かない六本木なので、六本木ヒルズまで歩く。やはり映画を観ようと思ったけどちょうど観たい作品をやっていなかったので、森美術館の「ターナー賞の歩み展」に行くことにした。
六本木ヒルズって、仕事でテレビ朝日に行ったり、映画を観に行くためにしか行ったことがなくて、実は森美術館に行くのは初めて。展覧会に入場すると、自動的に展望台のチケットもついてくるなんて知らなかった。一人で展望台なんか行ったことなかったけど、なかなか楽しいもの。スカイウォークといって外も歩けるし。空が近くて、手を伸ばせば届きそうなところに東京タワーがあった。
さて、ターナー賞というのは、イギリスの現代美術界で最も重要な賞の1つといわれているそうで、同賞の授賞式はテレビ中継され、翌日の新聞で受賞者が大々的に報道されるなど、英国の国民的行事となっているとのこと。ロンドンのテート・ブリテンで1984年から開催されているそうで、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの名前に由来していろそうな。ターナーといえば海や難破船の絵で有名で、現代美術って感じじゃないんだけど。
http://www.mori.art.museum/contents/history/index.html
現代美術といっても、テレビ中継されるような大衆的な賞なので、そんなに難解なものはない。プレゼンターも、マドンナだったりとセレブが行っている。逆にこのわかりやすさがつまらないと思う人もいるかもしれないけど、現代美術をそんなによく知らないような私には、斬新さは少し足りないけどアートって面白いな、と思う作品が多かった。
一番気に入ったのは、2003年受賞 グレイソン・ペリーの作品「敏感な子供の苦境」で、金色にキラキラした壷が4つ並んでいる。これが何で現代美術?と思うような古典的な形で、緻密で絢爛豪華、華麗な絵付けをされた壷。ところが、よく観ると、不穏な表情を浮かべた少女たちの絵が描かれている。フリフリドレスを着た幼女たちの邪悪な姿。いじめ、血と暴力、薬物、小児虐待といった現代の病理を浮かび上がらせているのだ。このグレイソン・ペリーという人は、女装して授賞式に登場したそうで、彼が女装して「NO MORE ART」と書いた看板を掲げた写真も飾ってあった。
「敏感な子供の苦境」は、金沢21世紀美術館の所蔵品なのだそうだ。昨年、ここでグレイソン・ペリーの回顧展「我が文明」を行っていた。
2007受賞 マーク・ウォリンジャーは、ベルリンの美術館のなかを夜通しクマの格好をしてうろつくパフォーマンス映像を上映。ベルリンの象徴である熊の着ぐるみを着た彼が、ガラス張りの美術館の中で通行人に覗かれながら、手を振ったり寝転がったりしている。東欧の監視社会を表現しているものなのだそうだ。
1995年 デミアン・ハースト 「母と子、分断されて」は今回の展示作品の仲でも一番有名な作品だろう。牛の親子が真っ二つに切られてホルマリン漬けにされて並べられている。真っ二つの間を通ると、内臓を見る事ができるという趣向。思ったほどグロくなくて、ユラユラとホルマリンの中で牛の毛がそよいでいた。私にはこういう作品はよくわからないんだけど。
1998年 クリス・オフィリ 「No Woman No Cry」人種差別関連で殺されてしまった少年を悼むための作品で、女性の目から流れる涙の一粒一粒に、少年の写真がコラージュされて入っているというもの。そして、その絵は大きな象の糞二つの上に乗っかっている。悲劇を扱っている作品だけど、キラキラとしたスパンコールで覆われていて、カラフルでポップな印象。
2004年 ジェレミー・デラーの「Memory Bucket」は、ビデオ作品。テキサス州の政治的要所、クローフォードとウェイコを捉えている。ブッシュ大統領の故郷である前者では彼がお気に入りのダイナーの経営者が登場して、ブッシュはとっても気さくでナイスな人よ、なんて能天気に語っている。カルト教団ブランチ・ダビディアンが立て篭もり事件を起した後者では、生き残りの教団員がインタビューに登場。多くの子供を含む81人が集団自殺したといわれている1993年の事件なのだけど、実際には、強行突入した当局が武力攻撃をしたために建物が焼け落ちて多くの犠牲者が出たのではないかと言われている。
電気が点滅するだけの作品なんかもあって、アートというものの概念が覆させられ、さまざまな発見とか、目を開かせてくれたという意味で、貴重な機会だったと思う。既成概念を壊すことこそが、芸術の大きな要素なんだな~って改めて思った。
confidential memorandam of ogawamaさんのエントリーで、素敵な作品紹介と写真画像を見ることができるので、ぜひ見てみて下さい。
http://ogawama.jp/blog/2008/04/post_529.html
ターナー賞の歩み展は、7月13日まで開催中。
« ABT加治屋百合子さん、今度はガムザッティとフロリナ役デビュー | トップページ | アレクサンドル・メルニコフ ピアノ・リサイタル再放送 »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- ブリヂストン美術館「描かれたチャイナドレス」展(2014.07.03)
- クロアチア、ボスニア他旅行記(その2)スロヴェニア、ブレット湖とポストイナ鍾乳洞(2014.05.25)
- 「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」(2014.03.08)
- ロシア旅行の記録 その3(トレチャコフ美術館)(2013.09.23)
- プーシキン美術館展 フランス絵画300年(2013.07.09)
コメント
« ABT加治屋百合子さん、今度はガムザッティとフロリナ役デビュー | トップページ | アレクサンドル・メルニコフ ピアノ・リサイタル再放送 »
きゃー、リンクありがとうございます、光栄です!
グレイソン・ペリーの壷は、本当に美しいですよね。素晴らしい技術です。綺麗〜とついまじまじと見つめてしまうので、彼の毒気にもあてられることになります。うまいですよね。
デミアン・ハーストは、うーん。私は名画というのは永遠に通じる瞬間を切り取ったものだと思っているのですが、彼はそれを確信犯的にやったところがすごいです。
投稿: ogawama | 2008/06/08 21:35
ogawamaさん、こんばんは。
アート関係は、ogawamaさんのところを観ていればたいていの情報は手にはいるので重宝しています!
そうそう、おっしゃるとおり、グレイソン・ペリーの壷は、美しいのでじっと見てしまうと、なんだかすごい世界が展開しているのを発見してしまって、彼の術中には待ってしまうんですよね。
デミアン・ハーストのは、外側から見るとすごく綺麗なのにびっくりしました。永遠に通じる瞬間を切り取ったって、素敵な表現ですね。真の芸術は、そういうものなんでしょうね。瞬間の芸術というのはダンスにも通じるものですが、ダンスを保存するのは、自分の脳内しかないのですよね。
投稿: naomi | 2008/06/09 02:39